月虹の鎮魂曲と光の仲間たち   作:ÆM

28 / 36
ありがとう、好きになってくれて

 

 宇宙戦艦内にて

 

「せっ、船長……俺たち、ホントどうしたら…?」

「みなまで言うなドミノ!……俺だって知りてぇよ…。」

 

 はぁ~〜〜〜と長い長いため息をつくオセロとドミノ。何故かというと…。

 

 

「大地のバカ、大地のバカ、大地のバカ、大地のバカ…。」

 

 まるで呪詛でも唱えているかのように、体育座りをしてブツブツ、ブツブツとおんなじ言葉を繰り返しているラビ。

 

 最初は、ラビがビルの壁に寄りかかってポツンと立っているところを船の修理に使う部品を買いに行っていたドミノが発見したのだ。だが声を掛けても心此処にあらずといった様子のラビ。これはおかしいと思ったドミノが、ラビの手を引いて一緒に船まで戻ったのだ。オセロがどうした?!と大声を出したことで、やっとオセロとドミノの存在に気付いたラビが2人を見た途端、涙腺が壊れたのではないかというくらいの大粒の涙を流して、肩を震わせしゃくり上げ始めたのだ。

 これにはオセロもドミノもビックリ仰天。あたふたしながらも背中を撫でたり、冷蔵庫にあった未開封のオレンジジュースを飲ませたりと甲斐甲斐しく世話を焼いて、ようやく落ち着いてきたと思ったら今度はあれだ。大地と喧嘩でもしたのか、いやそれにしてはさすがに情緒不安定過ぎると、オセロもドミノも完全にお手上げだった。

 ラビがあの状態では事情も聞けないし、肝心要の大地はどこにいるのかもわからない。どうしたものかと何度目になるかわからないため息をついた、まさにそのとき。

 

「おーい!オセロー、ドミノー!いないのかー!」

 

 船の外から聞き覚えがあり過ぎる声。バッと窓の外を見ると、大地がこちらに向かって手を振っていた。あまりにも都合の良すぎる展開に2人は夢でも見ているのかと、お互いのほっぺたを抓る。

 

『いってぇーーーー!!』

 

 うん。ちゃんと痛かった。ということは。

 

「ゆっ、夢じゃねぇ!!おーい、大地ーー!!」

「まっ、待ってくださいよ船長!!」

 

 急いで船から飛び降り大地を抱き締めるオセロと梯子を使って足早に降りてくるドミノ。2人のあまりの慌てようと歓迎っぷりに目を白黒させる大地。

 

「くっ、苦しいよオセロ…!ドミノもそんなに慌てて、一体どうしたの??」

「天の助けだぁ!!大地、頼む!!ラビをなんとかしてくれ!!」

「らっ、ラビ?!ラビ、オセロたちのところにいるの??っていうかなんとかしてくれって、オセロどういうこと?!ラビがどうかしたの??」

 

 心底理由がわからないといった様子の大地に、オセロとドミノは顔を見合わせる。やはり喧嘩ではなさそうだ。

 

「まぁとにかくよ、上がってくれ。話はそれからだ。」

「船長の言う通りだぜ。早く上がって来いや。」

「うっ、うん…。」

 オセロとドミノに催促されて大地は言われるがまま梯子に手をかけた。

 

 

 

「…………オセロ、ドミノ…。一体どういうことなんだよ?」

「いや、だからよ…俺たちにもさっぱりでよ…。」

「船長も俺もお手上げなんだ…なんとかしてくれよ…。」

「なんで、なんで俺がラビにバカとか言われなきゃいけないわけ?!」

 

 ズコーーーーッ!!

 

『ツッコむとこそこかよ??!!』

 

「いやそこでしょ。」

 

 大地は至って大真面目に頷いた。だって大地が聖地ルナを出て来たのは、ラビが女の子たちに囲まれて鼻の下を伸ばしているのを見ていたくなかったからで。どう考えたって大地に非はないはずである。大地がそのことを、オセロとドミノに掻い摘んで説明すると、2人とも呆れ返りつつラビのフォローに回る。

 

「けどよ、アイツのあの性格は一朝一夕で治るもんじゃねぇぞ。」

「ガッテン…いくらお前と付き合ってるっていっても、ラビのナンパ癖がそう簡単になくなるとは思えねぇよ。」

「うーん……まぁ、そうだろうなとは思うけどさ…。」

 

 それにしても、ラビがキノコでも生えそうなくらいジメジメとした態度でうずくまっているなんて本当にらしくない。ヌルヌルしたものが大嫌いなのに、今のラビが纏っている空気は、まさにナメクジやカタツムリが好みそうな空気感である。それに大地やオセロたちが同じ部屋の中で話しているのに、こちらに見向きもしない。いや、そもそも気付いてすらいないようだった。

 このままでは埒が明かない。大地は、よしと気合いを入れて直接ラビに当たることにした。

 

「おい、ラビ!一体どうしたんだよ!!何をそんなところでうずくまってるわけ?!しっかりしろよ、このバカッ!!」

 

 大地がラビの頭を強くはたいた。遥か後方では、オセロとドミノがビクビクしながら大地とラビを見守っている。

 一方ラビは、頭をはたかれたことと大地の声を間近に大音量で聞いたことで、大地が自分のすぐ隣にしゃがんでいることにようやく気が付いた。目を見開いて、驚きのあまり仰け反った。

 

「だっ、大地?!なんっ、なんで、なんでお前が!!」

「さっきからいたよ!何度も呼び掛けたのに、お前全然反応しないんだもん!一体どうしたのさ?」

「………………。」

「…はぁ~。なぁ、ラビ。言ってくれよ。俺たち友達だろ?何をそんなに悩んでるんだ?」

「…っ!……やっぱり、そうなのか…。」

「え?」

「…………クソォ!!オレは、オレはイヤだからな!!絶っ対イヤだからな!!」

「は?嫌って何が…?」

「お前がオレを諦めたって、オレは諦めない!!絶対絶対絶っ対、諦めないからな!!!」

「はぁ?!えっ、いや、どういうこと?!ラビ何言ってんの?!」

「誤魔化すなよ!!オレ聞いたんだからな!!お前とお前の母さんが話してるの、聞いたんだからな!!」

「…あっ!」

 ラビが何を言っているのか潔く理解する。さっきの母親との会話、あれをラビに聞かれていたのだ。

 

「お前、オレとの関係を終わりにして、ただの友達に戻るって、そう言ってただろ…!オレは、優秀で可愛い女の子と結婚して、子孫を残して、ラビルーナを導いて行くんだって、だからオレを諦めるって…そう言ってたじゃねーかよ!!」

「ラビ…。」

「オレ、それ聞いて、頭真っ白になって……それ以上聞いていたくなくて、でも走る気にもなれなくて……もう何も考えられなかった…考えたくなかった…。」

 

 そんな放心状態の中、近くのビルの壁に体を預けて、溢れ出てきそうな涙を堪えることに意識を集中させていたのだ。

 そのときのことを思い出し、また涙が滲んできたラビは乱暴に目元を擦る。

 

「なぁ、大地……オレ、お前のことが好きだって言ったよな?それでお前も…オレのことが好きだって、そう言ってたじゃねぇか……それじゃ、ダメなのか…?オレはそれだけで……後のことはどうとでもなるって…どうにかするって、そう思ってたのに……お前は、違ったのか…?もうオレのことは……ただの友達としか、思ってねぇの…?」

 痛む胸を押さえて、涙をぐっと堪えて、必死に言葉を紡ぐラビ。

 

「オレはお前を好きなままなのに…!お前が、オレを好きじゃなくなったら……オレは、オレは、どうすればいいってんだよ!!なぁ!!答えろよ大地!!」

「っ、ラビ!!」

 大地はもう我慢出来ないとラビの顔を両手で挟み上向かせ、その勢いのまま唇を重ねた。

 

「…っ?!」

 

 咄嗟のことで息継ぎなんか出来ず、今までずっと喋っていたこともあって早々に息が苦しくなってきたラビは、大地の背中をドンドンと叩いた。

 大地は痛みに顔をしかめながら、そっと唇を離した。

 

「っ、はぁ、はぁ、はぁっ……大地…?」

「ラビ…。」

 

 ラビは大地の瞳を見て驚いた。さっき公園で見かけたときと全然違ったからだ。さっきは遠くから見てもわかるほどに辛そうで苦しそうで、何もかもを諦めた暗い色を宿した瞳だったのに。今の大地の瞳は、どんな困難なことだって真正面からどんと来いといったような、絶対に諦めないと闘志を燃やしているかのような強い光を宿していた。

 

「ラビ、お前…。」

「…………。」

「……本っ当に、どうしようもないバカだな。」

「…っ、はぁ?!んだと!!おい大地、もういっぺん言ってみろ!!」

「何度だって言ってやる!!ラビのバカ、ラビのバカ、ラビの大バカ!!」

「テメェ!!喧嘩売ってんなら買うぞ!!」

「喧嘩なんか売るかよ!!俺は事実しか言ってないさ!!」

「やっぱり売ってんじゃねーか!!」

 ラビが大地の胸ぐらを掴んで思いっきり睨みつける。大地も負けじと睨み返す。

 

「だってそうだろ!人の話を断片的にしか聞いてなかった挙句、最後まで聞かずに逃げ出して!勝手に決め付けて勝手に落ち込んで、オセロやドミノにまたしても迷惑かけて!これをバカと言わずになんていうんだよ?!」

「意味わかんねー!!どういうことだよ?!」

「俺はラビを諦める気なんか、これっぽっちもないってことだよ!!俺だってお前のことが好きなんだから!!」

「は?!だってお前、さっき…!」

「だから、お前が聞いたのは途中までなの!!俺はその後、母さんから叱咤激励を受けて、やっぱり諦めることなんか出来ないって、諦めたりなんかしないってそう決めたんだよ!!ばーちゃんたちには悪いけど!!」

「えっ……は?」

 

 ラビがポカンとした表情で大地を見つめる。大地はというと、自分の発言や行動に物凄い恥ずかしさを覚えているが、もうなりふり構ってなどいられるか、とラビの顔を真剣に見つめ返す。

 

「なぁ、ラビ。俺はさ、ラビのことを友達だと思ってる。本当に大切な、かけがえのない仲間だって思ってる。でも……でも、もうそれだけじゃないんだ。それ以上に大好きだって思っちゃったんだよ。もう、この気持ちを変えることは出来ない。友達であることも仲間であることももちろん変わらない。でも、それ以上の関係も築いていきたいって、そう思ってる、から…。」

 

 こんな恥ずかしいセリフを、ラビ相手に言う日が来るなんて誰が想像出来ただろうか。でも大地は、一抹の後悔もなかった。好きになっちゃったんだから仕方ないじゃん、と完全に開き直ることにしたのだ。

 

「だからラビ…。その……友達で、仲間っていうのは変わらないんだけど、それだけじゃなくって……それから……それから……俺と、恋、人に……なってくれませんか?!」

 

 最後はヤケクソ気味にほとんど叫びながら言う。未だポカンと大地を見つめ続けていたラビだが、大地の言葉を聞いて、思いっきり大声で笑った。

 

「ふっ、あっははは、はははっ!!」

「んな?!」

 

 一世一代の大告白だったのに、こんなにも笑われるなんてと大地はかなりショックを受ける。

 

「……そんなに笑わなくったって…。」

 怒る気にもなれず不貞腐れながら言うと、未だ笑いが止まらないラビが大地に謝る。

「ふっ、ワリィワリィ、ほんと…ごめっ、フッ、クク…!」

 

 必死に笑いを堪えている様子がよくわかる。もういい、と大地が立ち上がろうとすると腕を引っ張られた。

 ずっとしゃがみ込んでいたせいで足が痺れてきていたこともあり、簡単によろける。ラビはそのまま大地を床へと押し倒した。

 

「えっ、ラビ…ちょっと…!」

「逃がすわけねーだろ?それにオレ、ハイしか答えるつもりねぇし。」

 

 さっきまであんなに大笑いしていたというのに、今のラビの顔は真剣そのもので大地は息を呑む。ラビは大地の瞳を見つめがら話し出した。

 

「お前はさ、いつだってどんなときだって諦めるってことをしなかっただろ?絶体絶命の状況下だって、絶対に諦めずに活路を見出してた…。」

「……だって諦めるわけにはいかなかっただろ?もし俺たちが諦めたら、ラビルーナは邪動族によって支配され、そこに住む大勢の人たちは一生苦しむことになる。そんなの絶対に許せないって……だから、絶対に諦めないで頑張るぞって思ったから…。」

「うん、そうだよな。お前はそういうヤツだ。オレもガスもばーさんたちもみんな知ってる…。けどよ、そんなお前がオレとのことはそんな簡単に諦められるのかって…どんな状況でも決して諦めなかったお前が、オレのことは諦められるのかよって……そう思ったらもう、耐えられなくて…。」

「っ、ラビ…。」

「オレ、大地のことを友達としてじゃなく好きだって気付いたとき、この気持ちは墓場まで持っていくって決めたんだ……オレの気持ちは、迷惑にしかならねぇって思ってたからな……けど、だから…。」

 

 ラビは一度そこで言葉を区切ると大地の上からどいて、膝をついて座る。大地はゆっくりと起き上がってラビの顔を覗き込んだ。ラビの目が切なげに揺れる。

 

「だから、お前がオレを好きだって言ってくれて本当に嬉しかったんだ……もうどんなことだって、お前となら乗り越えられるって、本気でそう思った…。それなのに……おんなじ気持ちのはずなのに……お前はオレのことを諦めるなんて言うし、もう理由わかんなくて……何も考えられなくなっちまった……。」

「ラビ……ゴメン…。俺、臆病になってたんだ。俺とラビの関係が認めてもらえないかもって、ラビルーナの未来の妨げになるかもって、そう思ったら……怖くなった…。怖くなって、俺本当にもう、ダメだと思ったんだ…。」

「……それでも……ダメだって思っても、やっぱり諦めないって、オレのこと諦めないって……そう思ってくれたのか?」

「うん。だってやっぱり無理だったから…。諦めるなんて、どうしたって出来なかったよ。こんなにも、好きなのに…。」

「っ、大地!」

 ラビは胸がいっぱいになって大地に飛びついた。大地もしっかりとラビを受け止め抱きしめ返す。2人の頬を一筋の涙が伝った。

 

「大地、ありがとな…オレを、好きになってくれて…!」

「っ、そんなの……俺の方こそ…ありがとう、ラビ…!」

 

 片手を互いの後頭部に回して引き寄せ、唇を重ねた。深くなる口付けが気持ち良くて、夢中になって互いに求め合う。折を見て、そっと船内から出て行ったオセロとドミノがそろそろいいかと戻って来るまで、2人は飽くことなく繰り返していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。