「本っ当ゴメン!!今度マジでなんか奢るから!!ゆるしてくれ、オセロ、ドミノ!!」
「いや、別に良いってことよ!けどな、もう早とちりのコミュニケーション不足での痴話喧嘩は勘弁しろよな…。」
「そうだぞ、ラビ。今回はオメェも悪いんだからな。」
ラビが手を合わせながらオセロとドミノに頭を下げる。オセロもドミノも困ったことがあればいつでもどんと来いとは思っていたが、さすがに今度のことはかなり参った。正直二度とごめんだと思う。
「大地もだぞ。いくらラビが女の子に囲まれていたからってな、そんな何もかも諦めるなんて男らしくねぇぞ。」
ドミノに言われて大地も返す言葉がなかった。
再度2人にお礼を言って頭を下げる。今後は、何かあればちゃんと2人で話し合うこと、決して決め付けないこと、最後は必ず仲直りすることを条件に許してもらいオセロとドミノと別れた。
「結局、また迷惑かけちまったな…。」
「ホントホント…。それにさ、やっぱり俺たち、変なところで言葉が足りないみたいだよな。」
「オレもそう思う。これからは、もっともっと言いたいことをちゃんと言わねぇとな。」
「だよな〜。」
恋愛に関して以外は、これ以上ないくらいに言いたいことを言い合っているというのに(しかも大抵は喧嘩になる)ほとほと無自覚な2人であった。
レーヴェの道からラビルーナに戻ると、大地はV‐メイに思いっきり抱き着かれて謝られた。
「大地、ホントにごめんよ…!アンタたちがそんな仲になってるだなんて、ちっとも知らなかったもんだからさ……!」
「ばっ、ばーちゃん、苦しいって……えっ?ばーちゃん、なんで俺とラビのこと知ってるの??ラビ、お前なんか言ったのか?!」
「べっ、別にオレは…。ただ、大地を迎えに行くっつっただけで…。」
「アンタたちのことはシャマンとエヌマに聞いたんだよ。あの電話でね。」
ズコーーーーッ
「なっ、なん、電話?!なんでこんなところに公衆電話があるのさ?!」
「しかもアイツらに聞いたって…!アイツらの故郷の星、この月からどんだけ離れてると思ってんだよ!!いくらなんでも電波が届くわけねーだろ!!」
「いいえ、大地くん、ラビくん。おばば様は、ちゃんとお二人と電話が出来ていましたよ。私やお弟子さんたちが近くで見ていましたから間違いありません。」
ガスの言葉に大地とラビは、ウソだろ…と顔を見合わせる。それからV‐メイを見た。
「まぁその辺のことはね、ご都合主義だと思って適当に流しとくれ。」
その一言で片付けられるのならこんな楽なことはない、と大地とラビはため息をついた。
そして大地は、V‐メイに言おうと思っていた話があったことを思い出して切り出した。
「あっ、でもさ、ばーちゃん…いいの?その、俺とラビのこと…。」
「いいのって、何がだい?」
「だって!俺とラビじゃ……その、あの…。」
子孫は残せないよ、とはちょっと言いにくくて言葉を濁す大地。V‐メイはわかっているよ、というように頷く。
「大地。そのことなら心配はいらないよ。優秀な魔法使いたちならあたしが育てるさ。何しろ、ラビが女の子たちの求婚を全て断った代わりに、あたしの門下生に推薦するだなんて勝手に言っちまうもんだから一気に弟子が増えちまったんだよ。」
「ええっ!!ばーちゃんの許可もなしにそんなことしたのラビ?!」
「うるっせぇな!推薦したらみんな素直に喜んでたし、実際ばーさんの弟子になりゃ優秀な魔法使いの育成は問題ねーし、そうなればオレが結婚しなくったってラビルーナの未来は安泰!!何も問題ねぇだろーが!!」
根回しの良さもここまでくると感心を通り越して呆れてしまう。V‐メイがため息を1つついて言う。
「まぁ、そういうことさ。だから大地。そんなに気にしなくてもいいんだよ。アンタはアンタの好きなようにおし。あたしらはみんな、アンタたちが幸せでいることが何よりも嬉しいんだ。それがあたしらの幸せなんだからね。」
「ばーちゃん…!」
お母さんの言った通りだったと、大地は目が潤んだ。
ラビが大地の肩に手を置いて微笑む。大地も微笑み返した。こんなにもみんなに思われて。大地は嬉しさで胸がいっぱいになった。
「マリウス!!」
そんなところへ、鶴の一声よろしくサユリの声が掛かる。ビクッとしてラビが振り返ると、サユリが眉を吊り上げてこちらを見ていた。
「マリウス、母さんの言葉を忘れたのですか!メイ様のお話が済んだら魔法の勉強の残りをやる約束でしたよね?!」
「あっ…!」
大地が聖地ルナを出て行ったと聞いて、大地を連れ戻すことで頭がいっぱいになっていたラビは、もちろん勉強のことなどすっかり忘れていたわけで。
「さぁ、いらっしゃいマリウス!今日中に勉強が終わらなければ、明日が祭典だろうとなんだろうと、終わるまでは勉強から解放しませんからね!!」
「うぅ…わかった、わかったよ母さん…今行くから…。」
すっかり意気消沈して項垂れるラビを見て大地は、そういえば自分もお母さんから渡された夏休みの宿題があったことを思い出す。
「待てよラビ!魔法の勉強って実技?それとも座学?」
「はっ?なんだよそれ…?」
「あっ、えっと……実際に魔法を使う練習をするのか、それとも座って勉強するのか、どっちなのってこと。」
「えっ…あぁ、今日の残りは全部座って勉強だぜ?」
その言葉を聞いて大地の顔に自然と笑みが浮かぶ。
「じゃあ俺も一緒に行っていい?」
「大地も?なんで…?」
「へへっ!実は俺もこれ、母さんに渡されちゃって。夏休みの宿題。月にいる間にこれだけは終わらせないといけないんだ。だから一緒にやろうぜ!」
大地が持っていた宿題の束をポケットから出して広げて掲げると、それまでポカンとしていたラビの顔がパァッと笑顔になる。ラビが勢い良くサユリを振り返った。いいだろ母さん?と、言葉には出さずとも顔と態度が雄弁に語っており、サユリは苦笑する。
「……いいですよ。その代わり2人とも今日中に勉強を終わらせること。いいですね?」
「やったぁ!!ありがと母さん!!」
「ありがとうございます!!」
息子とその友人(恋人)の心からの笑顔に、母として込み上げてくる嬉しさを抑えられず、サユリはそっと笑みを浮かべた。V‐メイとガスはその微笑ましい様子をにこやかに見つめる。
「良かったですね、本当に。」
「まったくだよ。それにしてもラビがあんなに大地に惚れ込むとは思ってもみなかったよ。可愛い女の子を見かければ即座に口説きに行っていたラビがねぇ…。」
「それは本当に驚きましたけど、心が壊れるほど好きになっただなんて、そんな凄い例え方をする辺りよっぽど本気なのでしょうね。」
「ホントだよ。心が壊れるだなんて、よくそんな表現を……ん?」
「?どうかしましたか、おばば様?」
「心が、壊れる………?!ラビ!!ちょっとお待ち!!!」
ビクッ!!!!!!
あまりの大声に、呼び止められたラビだけではなく、大地もガスも、サユリさえも驚いて体を震わせた。
「ば、ばーちゃん…?どうしたの?」
「あのう、メイ様…マリウスが何か…?」
大地やサユリが恐る恐る聞いても、V‐メイはラビを睨みつけたままラビに迫る。
「なっ、なんだよ、ばーさん…急に大声出して…?」
「ラビ、アンタ…!暗示魔法を使ったね…?!」
「暗示魔法?あぁ、使ったぞ……あぁっ!!!」
と、今度はラビが大声を出す。すぐ隣にいた大地は耳が少しばかりキーンとしてしまった。
「っ、なんだよラビ!そんな大声出すなよ!!」
けれど、ラビは大地の言葉など耳に入って来ない様子でV‐メイに突っかかった。
「思い出したぜ!おい、ばーさん!!なんなんだよ、あの魔法!!話と全然違うじゃねぇかよ!!何が心も行動も完璧に操れるんだよ!!ちっとも操れねーし、おまけに記憶も感情も丸残り、おかげでこちとらスッゲー苦労したんだぞ!!」
「おだまり!!あの魔法は難易度も高くて危険も伴うから使っちゃいけないって言っただろ?!」
「使うときは厳重注意って聞いただけで使うなとは言われてねーよ!!」
「おんなじことだよ!!しかも自分にかけるだなんて、アンタがそんなバカな真似をするとは思ってもみなかったよ!!」
「うるっせぇな!!あのときは、大地や周りのヤツらにオレが大地を好きになったことがバレるなんて、冗談じゃねぇって思ったんだ!!バレねぇようにするためには、暗示魔法で大地のことを大っ嫌いになるしか他に方法が思いつかなかったんだからしょうがねーだろ!!」
「アンタって子は…!そんな理由で自分にリスクも危険も伴う暗示魔法を使ったのかい?!第一心が壊れたってことは、アンタは一度心が死んじまったってことじゃないか!!なんだってそうなる前に魔法を解かなかったんだい?!」
「しょうがねーだろ!!解呪の呪文をすっかり忘れちまったんだから!!」
「開き直ってどうするんだい!!!魔法を解く呪文は、かける魔法とセットで覚えろってあれほど言っておいたってのに!!大地が暗示と逆の言葉を言ってアンタの魔法を解いてくれなきゃ、アンタは一生廃人になっちまうところだったんだよ?!魔法をホイホイ使う前に、もっとしっかり考えて行動しな!!!それも一人前の魔法使いに必要な資質なんだからね!!!」
「……チッ、わぁったよ!」
最後は結局、V‐メイに言いくるめられてしまったラビ。けれど大地はこの会話で、あのときラビが何故自分に魔法をかけたのか、何故その魔法が解けたのかを潔く理解した。
「ラビ。」
「ん?なんだよ、だい……。」
パァン!!!
ラビは最後まで言葉が継げなかった。大地がラビの頬を平手打ちしたからだ。その場にいた全員が息を呑んで静まり返る。
「…ってぇ…いきなり何すんだよ、大地!」
「……これで許すよ。」
「はぁ?!」
「ラビが俺に言ったことも、危険な魔法を使って自分の心を死なせてしまったことも、勝手な行動を取ったことも!!」
「っ、大地…。」
「これで全部許す…。でも…。」
「…?」
「でも、俺も悪かったんだ…。自分のことで精一杯で、ラビの様子がおかしいって気付けなかった…。ベリタスに言われてはじめて、ラビが自分に魔法をかけてたことを知ったんだもん。」
「……お前は、悪くねぇよ…。オレが勝手にやったことなんだから…。」
「そうだけどさ…やっぱり俺は、気付くことが出来なかった自分を許せないんだ…。だからラビ。俺を殴れ。」
「っ、何言って…!」
「じゃないと、俺が俺自身を許せそうにないんだ。だから俺がお前をはたいたように、同じくらい強く叩いてくれ。」
「…大地………わかった…。じゃあ、いくぜ。」
大地が目を瞑る。ラビは既視感を覚えていた。あのとき、自分が大地を殴ったときもそうだったと。きっと大地もあのときのようだと感じているのだろう。けれど、自分の中のモヤモヤとした感情を晴らすように、けじめをつけるために力いっぱい殴ったあのときとは、違う。
パァン!!!
自分が叩かれたのと同じくらいの強さで、ラビは大地の頬をはたいた。あのときとは違って大地は倒れずにその場で踏ん張った。ラビは、大地の目をまっすぐに見つめる。
「…これで許せるか?」
「…あぁ。ありがとな、ラビ。」
大地が頷いてラビに手を差し出す。ラビはその手を、しっかりと握り返した。そして互いに微笑んだ。その笑顔は、あのときのようだと2人して思った。
「こうして見るとなんというか…大地くんもラビくんも、そんな変わったようには見えないですね。」
ガスがしみじみと言うと、V‐メイが全くだよと頷く。
「でもまぁ、あの2人の仲に関してはあたしらが口を出すことじゃないさ。それに…。」
大地もラビもあんなに幸せそうに笑い合っているのだから、それで良しとしようじゃないか、とV‐メイは言った。
その後、サユリが大きな咳払いをして大地とラビを呼ぶまでにそう時間はかからなかった。
翌朝。
「大丈夫ですか?大地くん、ラビくん。」
「大丈、夫じゃ、ない…。」
「オレも……眠い…。」
結局あの後2人で夜通し勉強をしたためにほとんど眠れず、大地とラビは完全に寝不足だった。取り敢えずなんとか2人とも勉強も宿題も終わらせることが出来、結果として祭典には間に合ったわけなのだが。
「それにしても、祭典って何をするんでしょうね?」
「ガス、俺たちが勉強してる間ばーちゃんたちと一緒に準備手伝ってたんじゃないのか?何も聞かなかったわけ?」
「はい。それは明日のお楽しみだとしか、おばば様は言ってませんでしたから。」
「ばーさんも何を勿体ぶってんだろうな。」
「ラビは?ばーちゃんたちから何も聞いていないのか?」
「そうですよ。ラビくんは、この祭典の準備を何日も前からお手伝いしていたのでしょう?何も知らないんですか?」
「あぁ。オレが手伝ったのは、ランタンを作ることと魔法陣を光の塔の東西南北に描くことだけだからな。それらがなんに使われるのか、何故必要なのか、当日何をするのかさっぱりなんだ。聞いても適当にはぐらかされちまったしな。」
「ランタン作り?」
「魔法陣を描く?」
大地とガスが聞き返すと、ラビがほらあれと指差した。
聖地ルナに在住している大勢の耳長族の人たちが光の広場を忙しなく出入りしているが、その人たちみんなが手にランタンを持っている。サユリが一人一人にランタンを手渡しているようだった。
ラビがそちらに走って行ってサユリに声を掛けると、サユリがランタンを3つ、ラビに手渡すのが見えた。こちらに戻って来たラビが大地とガスにほらよ、とランタンを渡してくれたので、2人はお礼を言ってランタンを受け取る。
そのランタンは全体が銅製みたいでアンティークな印象を受けるが、傷一つなくキラキラしていてよく手入れされているのがひと目でわかる。けれど…。
「なぁ、ラビ。これ中に火を灯すためのロウソクがないぜ?」
「それだけではありません。ロウソクを差し込む場所もないですし、取り外しも出来そうにないですよ?」
手持ち部分から台の部分まで全てが1つの造りになっているらしく、どこからも取り外しは不可能な様で。真ん中のグローブは透明なガラス製だが、中には照明器具らしい物も火を灯せそうな物も何もなかった。
「まぁ、普通のランタンじゃねぇからな。銅の塊に直接魔力を送り込んで作る特別な魔法のランタンで、灯りもロウソクじゃなくて魔法の力で灯すんだそうだ。」
ラビが説明してくれて、へぇ~と大地とガスはランタンを見つめる。
「でもさ、ラビが手伝ってたのはこれを作るのと、魔法陣を描いただけなんだろ?そんなに何日もかけてやる程のものなの?」
なんとなしに大地が聞くと、当たり前だろ、とラビが答える。
「あのな大地。簡単に言ってくれるが、このランタン1つ作るのに2時間はかかるんだぞ。かなりの数を作らなきゃならねぇってのに、何日も前から手分けしてやんねーと絶対終わんないぜ?魔法陣だってな、大地の魔動銃みたいにプレートが勝手に書いてくれるわけじゃなくて、1つ1つ手作業なんだぜ?決められた場所に決められた大きさで、しかも等間隔に描かないといけねぇからな。上から見て描く場所を正確に伝える人間、地面に魔法陣を描く人間、魔法陣の形や位置を等間隔に微調整する人間、さらにその魔法陣に光のパワーを注ぎ込む人間と、役割を決めて丁寧に描いていかないといけないんだ。だから1つ描くのに3時間はかかるんだぜ?」
「ええっ、マジかよ?!ごめんラビ、そんな大変なことだとは思ってもいなかったよ…。凄い頑張って準備したんだな。」
「へへっ、まぁな〜。お前らを招待する許可を貰ったから頑張ったってのもあるけどよ!」
鼻の下を擦って得意気になるラビに、気にしてなさそうで良かったと大地はホッとする。
「そういえばガス、お前は何を手伝ったんだよ?そんなにやること残ってなかったはずだぜ?」
準備は大地たちが来る前日までにほとんど終わらせていたので、後は開催を待つばかりだったはずだとラビが疑問に思ってガスに聞く。
「それが昨日、邪動族が責めてきたときにいくつか壊れてしまったものがありまして。その材料を調達しに第3エリアの火の柱まで赴いていたんです。」
「えっ?第3エリア?どうやって行ったんだよ?!いちいち柱のある場所まで降りていったわけ?!」
大地がビックリして聞き返すと、いいえとガスは首を横に振る。じゃあどうやって、と大地が聞く前にラビが大地の肩を叩いてこっち、と案内する。
案内されたのはグランゾートの像の裏側。何もないじゃないか、と大地が言おうとしたとき。
「ドーマ・キサ・ラムーン、ドーマ・キサ・ラムーン!」
ラビが光の呪文を唱えるとグランゾートの像の後ろに突然扉が現れた。
「えっ、何この扉?!」
「エレベーターだよ。」
「エレベーターです。」
ラビとガスの声が揃う。
チン、と機械音がして扉が横に開く。中はそこそこ広く3メートル四方はあり、開閉のボタンの上には階数表示が1,2,3,4,5と記されている。確かに見た目はエレベーターだった。
「魔動力を持つ者しか乗ることが出来ないし、呼ぶことも出来ない特殊なエレベーターなんだよ。これに乗れば、わざわざ柱まで行かなくてもすぐにそれぞれのエリアに直通で行けるぜ。」
「メカに弱いおばば様の代わりにラビくんが頑張って作ったんですよ。」
「魔法で作るにしても構造と原理は理解しとく必要があったからな。月面のとある会社にガスと一緒に行って、社会科見学でエレベーターの構造を調べてるから見学したいんだって言ったら2つ返事で見学OKもらってよ。なぁ、ガス!」
「はい!実際エレベーターを作るための知識を身に付けに行ったわけですから、社会科見学というのもあながち嘘ではないですからね!」
「このエレベーター、ラビが作ったの?!すっげぇー!!」
そう簡単にエレベーターなど作れるものなのだろうかと思うが、大地は素直に感心する。
「まぁ基本は母さんが魔法で色々やってくれたし、オレも誰かさんの人力飛行機作り手伝ったおかげで、ちょっとは設計に詳しくなれたし作るのは案外わけなかったぜ?おかげでそれぞれのエリアへの移動がかなり楽になって、異変や問題があればすぐに駆けつけられるようになったんだよ!」
「ホントすげぇ!俺たちのときにもこれがあればなぁ……。そういえばガス、第3エリアで何を調達してきたんだよ?」
「タマラさんとタマラさんのお母さんの羽です。」
「羽?!」
大地が驚いたように言うとラビが説明してくれる。
「フェニックスの羽は希少で魔除けにもなる上に光のエネルギーを多く宿していると言われてる。今まではマジカルゴの光る砂を材料にしていたらしいんだが、以前ならともかく、今はオレたちと一緒に旅していたあのマジカルゴしかいねぇからよ。それじゃあ足りないってことで、フェニックスに協力を仰いだってわけだ。」
「でも羽って、一体何に使うの?」
「松明に入れるそうです。」
ほらあれです、とガスが指差したその先には、篝火を焚くための鉄製の篝が三脚に支えられて立っている。
「フェニックスは別名火の鳥だからな。松明に入れると火力が増すんだってよ。後確か、炎の色が変わるんだっけか。」
「えっ、炎の色が?!スゲェ!!まるで炎色反応だな!!」
「えんしょくはんのう?何だそれ?」
「特定の元素を炎に入れると、特定の色を示す現象のことさ。花火なんかがそうだよ。見たことあるだろ?」
「あぁ花火な………見たことあるも何も、カメカメ島でテメェから貰った目覚まし時計が爆発したときにメッチャ間近で見たっての。」
あのときはよくもお守りだなんて騙してくれたよな、とラビが大地を軽く睨みながら言うと、うっと言葉に詰まる大地。
「で、でもさ、おかげでレースには遅れずに済んだだろ?」
「まぁな。けどよ大地。オレだったから良かったものの、あんな時計が首元で爆発なんかしやがったら普通とっくにあの世行きだぜ?ったく!」
腕組みしながら、フンッと顔を背けるラビ。怒っている、というよりは不機嫌丸出しという感じで。
「そっ、それは……確かに、火薬の量間違ったかなぁとは思ったけど……。」
ゴメン、と改めて謝りながら大地は両手をパンッと合わせて頭を下げるが、ラビの不機嫌顔は中々直らない。
これはまずいと大地はガスに助けを求めることにする。
「どうしようガス、ラビ完全に機嫌損ねちゃったよ!」
「そんな…私に言わないでくださいよ!大地くんとラビくんは恋人同士なんでしょう?だったら大地くんがなんとか機嫌を取ればいいじゃないですか!」
「簡単に言うなよ!ラビの機嫌の取り方なんて俺わかんねぇよ!」
「大地くんにわからないのに、私にわかるはずないじゃないですか!どうにかしてください!あのときの話を蒸し返したのは大地くんなんですよ!」
「それは悪かったって…!だけど炎色反応の説明で一番例えとしてわかりやすいのは花火なんだもん!」
「確かによくわかりましたけど、それでラビくんが拗ねてしまっては意味ないでしょう!」
「そんなこと言ったって…!」
珍しく言い合いをしている大地とガス。その言い合いを聞いていると、ラビはだんだん自分が腹を立てていることが馬鹿らしく思えてきた。
第一、ラビだって昔ほど子どもじゃないし、何よりも大地たちと一緒にいられる時間は限られている。昔の話でいつまでも拗ねて貴重な時間を費やすわけにはいかないのだ。
「もういいよ、別に怒ってねぇし。あんときは居眠りしたオレも悪いんだからよ。」
だから気にすんな、とラビが笑って言うと、それまで言い合いをしていた大地とガスがピタッと止まる。目を見開き、驚きに満ちた顔でラビを見て……2人同時に慌ててラビに駆け寄る。
「ラビ、お前…!怒らないなんて一体どうしたんだよ!熱でもあるんじゃないのか?!」
「そうですよ!そんな大人な発言を、ラビくんがするなんて…!どこか体の具合でも悪いんじゃないですか?!」
嫌味でもなんでもなく、本気で心配している様子の大地とガス。一緒にいられる貴重な時間、という考えは、瞬く間に思考の彼方に吹き飛んでいった。もともと短いラビの堪忍袋の緒が、またしてもブチッと切れる。
「っ、ふっざけんなぁ!!テメーらオレをなんだと思っていやがる!!」
「ラビが怒った!!調子が戻ったんだね、やったぁ!!」
「良かったですね、大地くん!!」
「い、い、加、減、に、しやがれぇ!!!」