ルナ・トーキョーの中心地に向かった大地とラビを見送り、ガスはさてと、と身体を伸ばして……誰もいない後方に向かって言葉を投げかける。
「隠れているのはわかってますよ。そろそろ出てきてはいかがですか。」
すると、誰もいないはずの空間が歪み、4人の魔法使いたちが姿を現した。
そのうちの1人が口を開く。
「いつから、気づいていましたか。」
「私たちがこちらに走ってきて、少ししてからですね。大地くんがラビくんに協力すると言った辺りからでしょうか。」
4人の空気が揺らぐ。が、それは一瞬のこと。
「始めからですか……流石ですね。」
別の1人が唸るように呟く。
「姿や気配は完全に消えてました。流石はおばば様のお弟子さんたちですね。ですが、呼吸を止めることまでは出来ないでしょう?」
説明の意図がわからず、4人は顔を見合わせる。
「私は風の魔動戦士です。風は流れゆき、全ての生き物の呼吸さえも運びます。ここには私たち3人しかいなかったのに、明らかに私たち以外の生き物の息遣いが、新たに増えたのを感じましたから。4人分ほど。」
淡々と答えるガスに、4人の弟子たちは、これがラビルーナを救った魔動戦士の能力かと、顔には一切出さなかったが、内心恐れ慄いていた。
「それでは、私たちがここにいる理由も、おわかりいただけますね。」
また別の一人が言う。声に若干の震えが混じるのを感じることが出来たのは、ガスだけだろう。
「ええ。ラビくんを連れ戻しに来たのでしょう。」
「それもそうですが、それだけではありません。あなた様と大地様にもご同行願いたいのです。」
最初の1人がまた口を開いた。
「私たちもですか?それは、おばば様からそのように言われたからですか?」
4人同時に頷く。ガスは少し考えるように腕組みする。
「今回、ラビルーナに私や大地くんを招いたのは、祭典へのお誘いとのことでしたが、このような状況下でも私たちをお呼びになるということは……。祭典へのお誘いは、もともと建前で本来の目的は別にあった、ということでしょうか。」
4人は黙って、また顔を見合わせた。その様子から、ガスの洞察力と推理力に驚きを隠せないでいるのが見て取れる。
ガスはそれを無言の肯定とみなした。
「わかりました。ラビルーナへの同行ですが、私はいっこうに構いませんよ。ラビくんと大地くんを連れて行くのは至難の業だとは思いますが。」
「承知しております。ですが、V‐メイ様は一刻を争うとのことで私たちを遣わされたのです。たとえ、どんなことをしてでも一緒に来てもらいます。」
2番目の人が言うと、4人は同時にその身を強張らせた。
突然、ガスの纏う空気が変わったのだ。今までは、森の中を吹き抜けて行く優しいそよ風のような空気だったのが、灼熱の砂漠の砂を吹き上げる強い突風のような空気へと変貌した。ガスの目が4人を見据える。
「あなた方にも事情がお有りなのは理解しています。おばば様の命令に忠実であろうとすることもわかります。ですが、そのために、ラビくんや大地くんに手をかけるというのであれば、私は友のため、あなた方と闘います。」
ガスの本気の気迫に、4人はたじろいだ。2番目の人が言い直しをするように言う。
「手をかけるつもりはありません。私たちに闘う意思はないのです。承知してもらった上で共に来ていただけるよう、最善を尽くすという意味です。」
その言葉に、またガスが纏う空気が変わる。
「それなら良いのです。私の早とちりだったようですね、ご気分を害されたのなら申し訳ありません。」
再び、優しいそよ風のような空気に戻ったことで、4人はホッと息をつく。そして、最後の1人が前に進み出て言った。
「では、ガス様。まずは、あなた様が私と共にラビルーナの中心地、聖地ルナまでご同行くださいませ。」
「いいですよ。それで残りの御三方はラビくんたちを?」
「はい。先程も申しました様に、手荒な真似は致しませんのでご安心ください。」
2番目の人が言う。
「その言葉を信じましょう。」
ガスがそう言うと、最後の人が呪文を唱える。次の瞬間には、ガスはその人と一緒に月面から消えていた。
ガスたちが去った月面、残された3人の魔法使いたちは、コソコソと話し始めた。
1人目「それで、どうするんだよ?手荒な真似はしないって言ったって、普通に頼んだって来てくれないぜ?」
2人目「仕方ないだろ。あんな空気纏われて、一戦交えるなんて俺はゴメンだ。それに魔動王を呼ばれたら、いくら俺たちでも勝ち目はない。」
3人目「要するに、傷つけなければいい。魔法は使わないとは言ってないからな。」
1人目「けれど、目立った魔法は使えないぜ?テレポートも気をつけないと人間たちに見られちまう。」
3人目「あぁ。とにかく、普通の人間のフリをして近づくんだ。そこで罠に掛ける。」
2人目「何か妙策がありそうだな。よし、それでいこう。」
その頃、ルナ・トーキョーでは。
「あ~~~やっぱり、こっちの空気は肌に合うぜ!」
「呑気だな、ラビは。ここまで来たはいいけど、これからどうするんだよ。」
「そりゃもちろん、オレたちは駆け落ち中なんだから、それらしく振る舞わないとな。もっとこっちに寄れよ、大地?」
「調子に乗るなっての!」
あいも変わらず小突きあいをしている大地とラビがいた。