月虹の鎮魂曲と光の仲間たち   作:ÆM

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 後編もいよいよクライマックス突入です。そのため、このページ、次のページ、また次のページ…と、しばらく1万字超えが続きます。お時間あるときにお楽しみ頂ければと思います。


開幕、光の祭典

 

「やぁっかましぃ!!静かにおしよ!!」

 

 V‐メイの怒声にビクッとして、大地たちはようやく静かになった。

 

「もうすぐ祭典が始まるっていうのに何を騒いでるんだい!!ガス、アンタまでそんな言い合いをするなんてらしくないじゃないか、もっとしっかりしとくれ。」

「あっ、ハイ…申し訳ありません。」

 V‐メイに頭を下げるガス。

 

『どういう意味だよ?』

 見事に声を揃えてV‐メイをジト目で睨む大地とラビ。

 

「さぁねぇ〜。ところで、シャマンとエヌマはまだ来ないのかい?早く来ないと祭典が始まっちまうよ。」

「えっ?あの2人まだ来てないの?」

「そうなんだよ。大地、悪いんだけど、シャマンに電話してくれないかい?今どこにいるのかとか、後どれくらいで着くのかとか、ちょっと聞いておくれよ。」

「電話って、あれ?」

 大地が電話を指差すとV‐メイが頷く。

「あぁ。あの電話は受話器を外しただけでシャマンのワイバースト内にある電話に繋がるからね。」

 頼んだよ、とV‐メイに言われて、本当かなぁ、と思いながらも大地は電話をかけることにした。

 

 受話器を外すとプルルルル、とプッシュホンも押さずに本当に電話がかかる。魔法ってなんでもありなんだなぁと大地が思っていると4コール目で繋がった。

 

「あの、もしもし………へっ?……あっハイ、僕は、魔動戦士のリーダーの、遥大地と言います………ハイ………それで、あの…………………えっ、じゃあ、シャマン…さんとエヌマ、さんは…………ハイ…………あっ、わかりました……ど、どーも…。」

 

 大地は受話器をガチャリと置いた。大地の会話から、相手がシャマンではないことは明白で、V‐メイが首を傾げていると、大地がズカズカと歩いて来た。若干涙目になっている。

 

「ばーちゃん!!!変な人出たぁーー!!!」

「はぁ?ちょっと何を言ってるんだい?」

「はぁ?じゃないよ!!!妙な喋り方する妙な雰囲気の妙なテンションの妙な感じのオジサンが電話に出たんだけど?!ワイバーストに繋がってないじゃんどうなってんの!!!」

 

 半分パニックになっている大地を、ラビとガスがどうどうと宥める。

 

「でもよ、シャマンとエヌマのことは聞けたんだよな?」

「ということは、邪動族のどなたかが電話に出たということですよね?お二人の故郷に電話が繋がったのは間違いありませんよ。」

「そうだよ、だから落ち着けって!それで、ソイツはなんて言ったんだよ?シャマンとエヌマはどうしたって?」

「こちらに向かってはいるんですよね?」

 

 大地はラビとガスを交互に見て、それから1つ深呼吸をし、先程の電話で相手が話した内容をそっくり真似て話し出す。

 

「ドーモドーモ!!こちら邪動帝国、邪動帝国!!おーや?もしかしなくても魔動戦士さんかい??シャマンとエヌマならお留守よお留守、ちょぉっと電話かけてくるの遅かったんじゃないかなぁ?!小一時間くらい?前に出掛けちゃったよ〜!!でももうすぐそっちに着くと思うから、まぁ気長に待ってなって、んじゃまぁアッシはこの辺で!!」

 

 ジャン!!

 

「……という感じで電話切られた…。」

 

 大地が話し終えると、ラビもガスもV‐メイも皆が変な顔をして大地を見た。どう見てもふざけているようにしか見えず、けれど大地の様子から嘘とも思えない。

 

 どうしたものかと微妙な顔をしていると、レーヴェの道が光り始めた。慌てて振り返ると、ワイバーストとヒドラムがレーヴェの道から降りてきた。

 V‐メイが、こっちだよ、こっちに停めとくれ、とまるで駐車案内をするかのように手を振ると、指定された場所ピッタリにワイバーストとヒドラムが降り立った。中からシャマンとエヌマが降りて来る。

 

「シャマン!!エヌマ!!」

 

 大地は2人の姿を見た途端に駆け出しシャマンに飛びついた。驚いたシャマンが受け止めるも、大地は先程のおかしな電話が頭から離れずパニック状態から抜けきっていないこともあり、シャマンに突っかかる。

 

「なんなんだよあれ!!ワイバーストにかかると思った電話に変なオジサンが出たんだけど電話どうしたの?!っていうか、あの変な人も邪動族なの?!あの喋り方なに?!変だよ不気味だよ鳥肌立ったよ!!」

 

 気持ち悪いよ、はさすがに失礼かなと思い、大地はでかかった言葉をすんでのところで飲み込む。シャマンとエヌマはポカンとしながら顔を見合わせて……。

 

 次の瞬間、吹き出した。

 

「ふっ、くく、それは、悪かった、クククッ…!」

「フッ、ほら、だからっ、やめておけばって、フッ、言ったのに…!」

 

『???』

 

 珍しく必死に笑いを堪えているシャマンとエヌマの様子に、大地もガスもラビも理由がわからず互いに顔を見合わせる。

 ようやく笑いの発作が収まってきたのか、シャマンとエヌマが顔を上げてこちらを見る。

 

「電話だがな、ちゃんとワイバーストの中にあるぞ?」

「は?」

 

 大地が素っ頓狂な声を上げると、エヌマが再び吹き出す。深呼吸を1つしてからエヌマは話し始めた。

 

「電話はV‐メイが魔法でワイバーストの中に設置したのよ?そんな簡単に取り外して置いてくることなんて出来ないわよ。それに電話の内容をよく思い出してごらんなさい?私たちのことを呼び捨てにする連中なんて、今の私たちの故郷にはいないのよ?」

 

「……つまり………。」

 大地が、まさか、という顔でシャマンとエヌマを交互に見る。

 

「そのまさかだ。」

「電話に出たのは、ちょっと声色と話し方を変えた正真正銘のシャマンよ。」

 

「……………はぁぁぁぁあ??!!」

 

 大地が大声を上げてシャマンから距離を取る。

 

「なにそれなんだよそれ、あの変なオジサンボイスシャマンが出してたの?!っていうか、あの喋り方何?!全っ然いつもと違うじゃんかよ!!大体、あんな話し方して電話に出るなんて一体何の真似だよ?!」

 どういうつもりだ!!と激しく憤慨する大地を見て、シャマンはおかしそうに笑う。

 

「あの喋り方は、以前地球に寄った際に見たミュージカルの登場人物、ランプの精霊を真似たものだ。中々に面白いストーリーと興味深い音楽だったので印象に残っていたのだが、こんなところで役に立つとはな。」

 

 シャマンはミュージカルを見たときに買ったパンフレットを大地に見せる。大地はその題名を見て、アニメでなら見たことがあったと思い出した。

 

「…………あぁ、あれ…。ランプの魔人か……。言われてみるとそっくり…。」

「正確にはミュージカルではなく、その後に観た映画の話し方を真似たのだがな。ミュージカルではどうしても歌っているような話し方になってしまうからな。」

 

 話し方や言葉の抑揚だけでなく、声まで似てたと今更ながらに思う大地。2000年代初期のアニメ映画でミュージカルもその頃やっていたものだが、リメイクは何度もされてるためか未だに見ている人は少なくない。登場人物や描写も独特の世界観で人気を博し、特にランプの魔人のキャラは愉快で面白く老若男女問わず好きな人は多い。けれど…。

 

「…………なんでそんなの真似したの…シャマンのキャラじゃないよね…?」

 訝しげに見てくる大地に、当たり前だろうとシャマンは頷く。

 

「だがキャラなどという、くだらんものを気にしているようでは、お前を出し抜くことは出来ないと思ってな。」

「なんだって出し抜こうだなんて考えるんだよ?!」

 シャマンの言葉を聞いたラビが声を荒げると、腕組みをしてシャマンがため息をつく。

 

「こちらとしては、昨日からずっとお前たちに振り回されっぱなしなのだぞ!お前たちの駆け落ち話に付き合わされ、二度と来ないと思っていたラビルーナに強制連行され、その後V‐メイには公衆電話をワイバースト内に勝手に設置され、挙句私たちが征服し損ねた世界で行われる祭りへの参加を許されるなど…。こちらにもプライドというものがある。何かしらやり返さねば気が収まらん!」

 最後は怒り口調で迫られ、大地とラビ、それにV‐メイはうっと言葉に詰まった。

 

「で、でもさ、あんな喋り方することなくない…?ホントに俺、すっごくビックリしたよ…?」

 

 大地がシャマンの機嫌を見ながら言うと、少し気分を良くしたのか先程よりかは幾らか口調が柔らかくなった。

 

「それはそうだろう。それが目的だったのだからな。でなければ、あのような話し方をこの私がするわけがない。」

「フフッ、ホント、シャマンがこの喋り方してるときの顔見てみたかったわ。ワイバーストに乗っていて見れなかったのが残念ね……またやってくれない、シャマン?」

「……二度とやらん!」

 

 うん、二度と止めてね、とシャマンとエヌマの会話に大地も内心突っ込みつつ、シャマンが地球に来ていたという事実にも驚いた。

 

「いつ地球に来たのさ?なんで俺のところに来てくれなかったんだよ?」

「故郷を離れ、ガラスの星へ行く途中に立ち寄っただけだからな。それにお前がどこに住んでいるかなど私は知らんからな。」

 正論で返されたのでそれ以上は何も言えず、大地は話題を変えることにした。

 

「……シャマンってさ、ミュージカルとか見るんだね…音楽好きなの?」

「……嫌いではない。」

「好きよ、かなり。」

 シャマンの言葉を遮るようにエヌマが答えた。

「自前のパイプオルガンをよく弾いていたもの。腕前は中々のものだったわよ?」

「っ、エヌマ!」

 余計なことを、とシャマンが睨んでくるがエヌマはどこ吹く風といった様子で知らん顔だ。

 

 大地とラビ、それにガスは、シャマンがパイプオルガンを弾いている様子を頭に思い浮かべる。

 大きな部屋で立派な椅子に座って、立派なパイプオルガンを1人どこか哀愁を漂わせながら、優雅に奏でるシャマン…。

 

「……カッコいいだろうなぁ、きっと…。」

「……なんていうか、合ってるよな…。」

「……はい、大人という感じですね…。」

 

 なんか憧れるよなぁそういうの、と年頃の少年たちは、羨望の眼差しをシャマンに向ける。

 3人にそんな目で見つめられてさすがにいたたまれなくなり、シャマンは大きく咳払いをして、V‐メイを振り返り見る。

 

「V‐メイ!約束通り来てやったのだから、それなりに楽しませてもらえるのだろうな?!」

「わかってるよ。それじゃあアンタたちも、あっちでランタンを貰っておいで。」

 

 V‐メイが指差した先にエヌマと向かうシャマン。その後ろ姿を見ながら、ラビが大地に小声で耳打ちする。

 

「シャマンが大地のオルゴールを大事に持ってたのも、音楽が好きだからなのかもな!」

「…あぁ、きっとそうだな!」

 

 意外な一面が見られたと2人でクスクス笑っていると、ランタンを貰ったシャマンとエヌマがこちらに戻ってきた。

 

 すると先程までここにいたはずのV‐メイがいなくなっていることにシャマンとエヌマは気付く。

 

「?V‐メイはどこに行った?」

「じーさん呼びに行った。」

 シャマンの質問にラビが答える。

「イマックじーさんがまだなんだって。」

「魔法陣の下見に行ったきり戻って来ないそうです。」

 大地とガスが続けて言うと、何かあったのでは?とシャマンとエヌマが顔を曇らせる。と。

 

「いやぁ、待たせてすまんのう。」

 突然頭上からV‐イマックが目の前に降りてきて、大地たちは驚き仰け反る。

 

「うん?V‐メイはどこだ?昼寝でもしてるのか?」

 

 ズコーーーーッ!!!

 

「じーさん、今までどこほっつき歩いてたんだよ?!」

「途中でばーちゃんに会わなかったの?!」

「イマックさんが中々戻られないので呼びに行かれたんですよ!!」

 

 ズッコケたラビと大地とガスが答えると、ホッホッホとあいも変わらずに高笑いをするV‐イマック。そしてシャマンとエヌマに目を向けた。

 

「ふんふん、お前さんらも元気そうじゃな。」

 メガネの下で底光りする目に見つめられ、シャマンもエヌマも少しばかり肩を強張らせる。

 

「…それなりにだがな。」

「…えぇ、そうね。」

 

 それ以上は言葉が見つからず2人が黙っていると、V‐イマックの後ろにV‐メイが現れた。明らかに怒っている様子で。

 

「イマック!!この剽軽ジジィ!!若いもんに睨みきかせてんじゃないよ!!」

「おや、V‐メイ。この子らに聞いたがワシを迎えに来てくれたそうじゃな。すれ違ってしまったとは悪いことをしたのう。」

「白々しいんだよ!!あたしが迎えに行った途端ここにテレポートしたのはどこの誰だい!!」

「ホッホッホ。いやぁ、すまんすまん。それにしてもよくワシがここにいるとすぐにわかったのう。」

「アンタのその嫌味な高笑いはラビルーナのどこにいたって耳に入ってきちまうんだよ!!」

 

 V‐メイが憤慨しても、飄々とした態度でさらに高笑いをするV‐イマック。全部わかってた上でのことだったのかと大地たちは脱力した。

 ひとしきり文句を言って満足してから、オホン、とV‐メイが咳払いを1つした。

 

「さてと。色々あったけど、これでみんな集まったね。それじゃあ…始めるとしようか!」

 

 V‐メイの掛け声にサユリとV‐イマックが頷き、レーヴェの道を3人で取り囲んだ。その瞬間を見計らったかのように、広場にそれぞれの楽器を持ったV‐メイの4人の弟子たちが入ってきた。

 ハープ、フルート、鉄琴、それにピアノだ。その弟子たちの後からも大勢のランタンを持った耳長族の人たちが入ってきて、あっという間に広場は大勢の人でいっぱいになった。

 

 これから何が始まるのか、大地、ガス、ラビ、シャマンやエヌマも固唾をのんで見守る。するとV‐メイ、V‐イマック、サユリが光の呪文を唱え始めた。

 

『ドーマ・キサ・ラムーン、ドーマ・キサ・ラムーン、ドーマ・キサ・ラムーン、ドーマ・キサ・ラムーン!!!』

 

 呪文に呼応するかのように光の魔法陣が輝き始める。

サユリが大きく両手を広げ空に掲げた。

 

「虹から生まれし大いなる龍よ、我らの呼び掛けに応え給え、月の裏側の世界ラビルーナに降り立ち、闇の狭間で迷い苦しむ魂を救う導き手と成り給え!」

 

 サユリが言い終わるのと同時に、4人の弟子たちが音楽を奏で始めた。曲はもちろん、大地のオルゴールと同じ神様の曲だ。音楽が流れ出すと同時にV‐メイが声を張り上げた。

 

「さぁ、みんな!ランタンを空高く掲げるんだよ!」

 

 V‐メイの声に合わせて皆一斉にランタンを頭上高くに掲げたので、大地たちもそれにならって掲げる。

 

 すると、ロウソクも何も入っていなかったグローブがいきなり虹色の光を放ち出したのだ。全員のランタンが虹色の輝きを灯すと、急にランタンが空に浮き始めて大地たちは驚いて手を離した。ランタンは空高く昇って空中を漂い始める。  

 あっという間に聖地ルナの空は、虹色に輝くランタンでいっぱいになった。遠目で見るとランタンそのものの形はよく見えず、まるで虹色の光だけが空を満たしているようで。

 

 大地たちがその光景に見惚れていると、V‐メイが両手を横に伸ばして目を閉じた。すると、松明に赤く燃える炎が出現する。V‐メイの魔法で、聖地ルナのあちこちに設置された全ての松明に炎が灯されると今度はサユリが声を張り上げた。

 

「フェニックスの羽を松明に入れるのです!」

 

 その掛け声でフェニックスの羽を持っていた人たちが、炎の中に羽を放り込んだ。

 すると突然、赤い炎の色が青色へと変わり、黄金色の光の粒子を撒きながら燃え上がったのだ。

 

 光の粒子は空へと舞い上がり、光の塔を中心に渦を巻きながら天高く昇って行き、天から光の塔まで光の道を作り出した。大地たちは、その光の道がどこまで伸びたのかを見ようと目を凝らすが、果てしなくどこまでもどこまでも続いているようで、その終着点を肉眼で見ることは叶わなかった。

 だがしばらく目を凝らしていると、その光の道の先から何かが体をくねらせながら降りてくるのがわかった。じっと見つめていると段々と近付いてきて、その全貌を捉えることが出来た。

 

「あぁっ!」

「スッゲェ!」

「これは…!」

 思わず大地、ラビ、ガスが声を上げる。

 

 それは、七色の輝きを纏った巨大な龍だった。

 

 体全体は白色だが背中の鱗が虹色に光っており、体をくねらせることでその色彩が様々に変化している。鬣や角は秋晴れの空色で、瞳は太陽のような黄金色、乳白色の5本の爪は鋭いのにどこか温かみがあり…。言葉を失うほど美しい龍だった。

 

 虹龍がレーヴェの道まで降りて来て着地する。近くで見ると本当に巨大で、けれど本当に綺麗で大地たちは息を呑んだ。そのとき虹龍が大地たちの方を見た。

 虹龍と目が合った、と思った次の瞬間、虹龍が顔を大地たちの方に近付けてきたのだ。ビックリし過ぎて、大地は思わず後ろにコケる。ラビとガスが横から大地を助け起こそうと支えるが、目の前には巨大な龍の顔。大地は完全にテンパってしまい、足に力が入らない。

 

 すると虹龍が大地の足に向かって、フゥーと金色に光る息をそおっと吹きかけた。

 黄金色の息が大地の足にかかると、途端に大地は足に力がみなぎって立つことが出来るようになった。大地がゆっくり立つと、虹龍は鼻先で大地のお腹をつついてきた。その目はまるで、大丈夫?と心配しているようで。恐怖心など、どこかに吹き飛んでしまった大地は大丈夫、と頷きながら龍の鼻先をそっと撫でた。

 すると虹龍は嬉しそうに目を細め尻尾を振った。巨大な尻尾がうねるのに、風が巻き起こることも音が鳴ることもないのが不思議だった。

 

「大地、大丈夫なのか?その…。」

「大丈夫だよ、ラビ。ガスも触ってみなよ。」

 ほら、と大地が横に移動して2人に場所を空ける。

 

 ラビとガスは不安そうに顔を見合わせながら、恐る恐る大地がしたように虹龍の鼻先を撫でた。虹龍は変わらず優しい面差しをラビやガスにも向けてくるので、ようやく2人の緊張の糸がほどけてきた……と次の瞬間。

 

「ボクもナデナデしたいグリ〜!!」

 

 突然グリグリがマジカルトランポリンで大ジャンプしてきて、なんと虹龍の頭に跳び乗ったのだ。

 

 これには一同ビックらこいて慌てふためいた(音楽の奏者たちはなんとか演奏を中断せずに続けているが、それでも内心穏やかではいられなかった)。

 

「グリグリ、早く下りるんだよ!!」

 

 V‐メイに急かされてもグリグリは楽しげに虹龍の鬣や角を撫で撫でしている。虹龍はというと、頭に乗っかられても気にした様子もなく、グリグリのことを優しく穏やかに見つめている。

 

「グリグリ!!早くこっちにおいで!!」

 V‐メイが語尾を強くして言うと、ようやくグリグリは虹龍の頭の上から滑り下りて来た。

 

「楽しかったグリ!!龍さん可愛かったグリ!!」

 

 全然反省した様子もなく無邪気に言ってのけるグリグリには、V‐メイもため息しか出てこず怒る気にもなれない。

 龍にこんなことして大丈夫なのかな、とさすがに大地も心配になってきて虹龍を見やると、こちらを見つめていたらしい虹龍と目が合う。虹龍はなんだかとても嬉しそうで楽しそうで、大丈夫だよと言っているようで大地はホッとした。

 

 すると、虹龍は体を起こして音も立てずに空へと浮かび上がった。そのままレーヴェの道を出ると聖地ルナの空を浮遊し始める。虹色に光るランタンが漂う中、空を泳ぐように体をくねらせているのにランタンには決してぶつからないのがまた不思議で。

 

 虹色に光るランタンが浮かぶ中、それ以上に七色に輝く龍が光の塔を中心に空を飛ぶ姿は、まるで舞を舞っているかのようでとても幻想的だった。

 

 暫くの間、虹龍は空を泳いでいたが光の道まで戻って来ると、大きく口を開け天に向かって咆哮した。

 

 声というよりは渦巻く風のような、轟く雷のような不思議な響きの咆哮だった。長い咆哮が終わるのと同時に、聖地ルナのあちこちで地面から丸い光が出現し、やがて浮かび上がってきた。光は第1エリアやその他のエリアからも湧き出てくるようで、かなりの数だった。

 虹龍の周りに集まってくるように飛んでくる光の球たちを見てV‐メイ、サユリ、V‐イマック、それに耳長族の人々は、ほぉと息を吐いた。

 

「成功ですね!」

「成功じゃな。」

「あぁ、みんなよくやったね、祭典は大成功だよ!」

 

 サユリ、V‐イマック、V‐メイの言葉で音楽が終わり、みんながワァッと歓声を上げ手に手を取って喜び合う。

 

「やったグリ、やったグリ〜!!」

 

 とグリグリまでもが飛び跳ねながら喜んでいる。状況把握が出来ずに置いてけぼりをくらっているのは、大地とガスとラビ、それにシャマンとエヌマだった。

 

「ばーちゃん、成功ってどういうことなの?」

 大地が聞くとV‐メイが説明を始める。

 

「いいかい?この祭典は虹龍を呼び出し、その虹龍にラビルーナの光たちを導いてもらうことが主な目的なのさ。」

「光たち?それって、この辺り一帯をフヨフヨしてる光の球体のこと?」

「一体この光ってなんなんだよ?」

「それに導いてもらうとはどういうことなのですか?」

 

 大地に続いてラビやガスが質問すると、今度はサユリが答える。

 

「この光は全て、このラビルーナで亡くなった人々の魂なんですよ。」

 

『魂???!!!』

 

 大地、ガス、ラビが同時に声を震わせる。それってつまり人魂ってことだよね?!とビクつきながら思わず互いに引っつき合った。その様子にV‐メイが笑いを堪えながら、大丈夫だよ、と言う。

 

「この魂たちはね、この世への未練や執念が強すぎてラビルーナの大地から離れられずにあの世へ行くことが出来なくなってしまった哀れな魂たちなのさ。深く暗い闇の狭間でこの世への執着を断ち切れず、永遠の苦しみの中を彷徨わなくてはならなくなった者たちなんだよ。」

 

 最後は悲しげに目を伏せながら言うV‐メイを見て、大地たちは一瞬抱いた恐怖心が薄れていくのを感じた。サユリが続けて言う。

 

「けれど、この祭典で行う儀式によってラビルーナを光のエネルギーで満たし、虹龍を呼び出して苦しみ迷う魂たちをあの世へと導いてもらうのです。もう、苦しみ迷うことがないように。」

「光が地面を離れ虹龍の周りに集まってきたということは、この世への未練や執着を断ち切れたという何よりの証。もう心配はいらん。後は虹龍がちゃんと導いてくれる。」

 

 V‐イマックがそう言うと、虹龍がまるで、そのとおり、任せて、と言うように大きく体をうねらせた。光が虹龍に着いていくのが見て取れる。

 

「それにしても随分長いこと祭典が出来ずにいたけれど、こんなにもたくさんの魂たちが囚われていたとはね…。これだけ多くの光を見るのはあたしも初めてだよ…。」

 

 ようやく解放されたんだね、とV‐メイが呟く。大地は空を見上げながら、ふとサユリの言葉を思い出してシャマンとエヌマに聞いた。 

 

「さっき、ラビルーナを光のエネルギーで満たしたって言ってたけど、シャマンたち大丈夫?その、体とか…?」

 

 邪動族である2人が光のエネルギーを浴び続けて大丈夫なのか、と心配になって大地が聞くと、シャマンもエヌマも自分の体を見ながら、大丈夫だと頷いた。

 

「なんともない。おそらく祭典の参加者として認められているからなのだろうな。」

「もしくは、あの虹龍の不思議な力のおかげかしらね。」

 

 2人も、祭典が始まれば光の魔法の影響で居心地が悪くなるかもしれないと思っていたのだが、思いの外、体に影響は全くと言っていいほどなかった。その理由を自分たちなりに考え口にしたのだが、V‐メイは首を横に振る。

 

「祭典に参加するぐらいで体に影響なんか受けやしないよ。光や闇の魔法陣に入るのとはわけが違うのさ。そもそも邪動族ももとは耳長族だったんだからね。ラビルーナの祭典に参加したくらいで体調を崩したりなんかしやしないよ。」

 

 そう言われてみれば……そうなのか?と大地とシャマンは顔を見合わせた。けれど何も悪影響がないというのなら、それに越したことはないと思い直すことにし、再度空を見上げる。

 

 光たち、もとい魂たちは、虹龍の後を着いて行きながら、その途中で寄り道をするかのように空を自由に飛び回ったり、光の塔の周りをフワフワしたり、1つのランタンの周りに幾つも集まって一緒に浮遊したり、聖地ルナの街に降りて行ったりと好きに行動しているようだった。

 けれど、どの魂もとても楽しげで、活き活きとして身軽に見えて、キラキラとしていて…。あぁ、生きているのだと、本当に救われて自由になれたのだと、それがよくわかり大地たちもとても嬉しい気持ちになった。

 

 すると、1つの光る魂が空から降りて来て大地たちの目の前で制止した。正確にはラビの前で。明らかに他の魂たちとは違うその様子に、これはおかしいと大地もガスもラビも体を固くする。と、途端にその魂はV‐メイ、V‐イマック、サユリの方に飛んで行った。そしてV‐メイたちの周りを何度も行ったり来たりしている。まるで、挨拶でもしているかのように。

 

「まさか、アンタは…!」

 

 V‐メイが驚きに満ちた表情でその魂をガン見する。魂は頷くかのように上下に動いた。サユリとV‐イマックが目を見張る。

 

「メイ様……まさか、その魂は…!」

 

 サユリが声を震わせ魂に近付く。と、魂がいきなり強い光を放った。全員が目を瞑る。光が弱まっていく気配がして閉じていた目をゆっくり開けると、魂がいた場所で光が人の形を成して浮いていた。

 顔や輪郭などがはっきりしないものの、ローブを羽織ったようなその姿は、V‐メイたちだけではなくシャマンやエヌマにも見覚えがあった。

 

「っ、これは…!」

「うっ、嘘でしょ!」

 

 2人が声を上げるのと魂が言葉を発するのは、ほとんど同時だった。

 

〔久しぶりだな…。サユリ、メイ、イマック…。〕

 

「っ、ラーマス!!」

 

 V‐メイが涙を堪えながらその名を呼んだ。かつての同志でありながら敵として対峙し、最後は娘のサユリの命を助けるために自らの命を犠牲にした、ラビルーナの3大魔法使いの1人、V‐ラーマス。

 

 またしても思いも寄らぬ再会だった。

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