「なんだって、アンタがここに…?!サユリさんを助けてもう未練はなかったはずじゃ…?」
V‐メイが問いかけると魂は、V‐ラーマスは静かに答えた。
〔サユリを助けたのは、それがあのときワシに出来た最初で最後のことだったからだ…。あれで全てが許されたなどと、思えるはずもない…。〕
「ラーマス…。」
V‐イマックも声を絞り出すようにして名前を呼ぶが、それ以上言葉など出て来ず、V‐メイとともに、ただただ懐かしいその姿を見つめた。V‐ラーマスはサユリを振り返り見た。
〔サユリ…お前にもマリウスにも、本当に迷惑をかけた…こんな父親で申し訳ない…。すまなかった…。〕
「っ、お父さん…!」
サユリは涙が溢れてくるのを止められなかった。膝をついて両手で顔を覆う。
そんなことない、もういいのよ、最後に私を助けてくれたじゃない……言いたいことはいっぱいあった。けれど実の父親とはいえ、いや実の父親だからこそ、今までのことを全て許すような発言は出来なかった。もういいと言いたくても、今まで父親がしてきたことは簡単に許せるものではなく…。
許したい気持ちと許せない気持ち、父親への愛しさと怒りが心の中で交差して何も言えず、ただ溢れてくる涙を抑えることしか出来なかった。
ことの様子を見守っていたラビは我慢が出来なくなり、サユリの方に駆け出す。大地がラビの後を追おうとするのを、ガスが手で制した。首を横に振るガスを見て、大地は伸ばしかけていた手を静かに降ろして頷いた。
何気に横を見やると、シャマンとエヌマはV‐ラーマスをじっと見つめていた。その横顔には表情がなく何を考えているのか全く読み取れなくて、けれど何かを言う様子もないため、大地は声を掛けるのを止めてラビたちのことを見守ることにした(ラビに着いていこうとしていたグリグリのことはV‐メイが止めていた)。
「母さん。」
ラビがサユリの肩に手を置いた。サユリは未だ溢れてくる涙を懸命に堪えて顔を上げた。
「マリウス…。」
「母さん……もう、いいんじゃねーの?」
「えっ?」
ラビがあまりにもアッサリ言うため、サユリは涙が止まってしまった。
〔マリウス…?〕
V‐ラーマスもラビが何を言おうとしているのかわからず、疑問符を浮かべる。
「だからさ母さん、色々許せないんだろ?じーさんがしたこと。」
「っ、それは……!」
「でも、オレはもういいって思ってる。もう、十分だって。」
「マリウス…?」
何が十分だと言うのか、という顔でサユリはラビを見た。ラビはまっすぐにV‐ラーマスを、自分の祖父を見つめて言う。
「だって、じーさんはオレのために母さんを残してくれたから。」
「…?!」
サユリは目を見開いてラビを見つめた。
「オレ、母さんが死んだって思ったとき、スッゲー悲しかった…やっと会えたのに、どうしてだよって……悲しくて、悔しくて…耐えられなかった……だから…だから、母さんが生き返ってくれて本当に嬉しかったんだ!本当に…。」
そのときのことを思い出したのか。ラビも泣いていた。
「だから……ありがとうな、じーさん…オレに母さんを残してくれて…本当に、ありがとう!」
最後は声が震えてしまった。サユリがラビを抱きしめる。ラビはサユリにもたれかかった。
「マリウス…本当にあなたは…。母さんが言いたくても言えなかったことを、簡単に言ってしまうんだから…。」
「簡単じゃないよ、全然…簡単、なんかじゃ…。」
「マリウス…!」
〔マリウス…サユリ……すまなかった…。〕
サユリは止まっていた涙がまた溢れてきて、V‐ラーマスは2人を抱きしめるかのように光で包み込んだ。
「よかったですね、本当に。」
「…うん。よかったな、ラビ…。」
ガスと大地は顔を見合わせて頷いた。V‐メイもV‐イマックもラビたちを見て目が潤んでいるようだった。
すると、黙って見ていたシャマンとエヌマが突然踵を返してワイバーストやヒドラムの方に向かって歩き出した。
「シャマン?エヌマ?どうしたんだよ?」
大地が声を掛けるが、エヌマは黙ったままでシャマンは大地の呼び掛けには答えず、V‐メイに向かって言う。
「V‐メイ、祭典はこれで終わったのだろう?ならば我らがここにいる必要は最早ないな。我々は帰らせてもらうぞ。」
唐突な言葉に全員が驚いて静まり返った。
「お待ち!シャマン、エヌマ!」
その中でV‐メイだけが2人を呼び止める。
「祭典は成功だけど、まだ終わっちゃいないよ!突然どうしたんだい?」
シャマンはV‐メイを振り返って静かに言う。
「アグラマントが……いや、V‐ラーマスが我らを利用し裏切り、ナブーを暗黒大邪神の生け贄にしたこと、思うところが全くないと言えば嘘になる。だが、今更になってまで恨み言を言うつもりはない。無論、お前たちの再会や会話の内容にケチをつける気もない。私はな…。」
そう言ってシャマンはエヌマを見る。確かにシャマンはアグラマントに忠誠を誓っていたがその反面、内心では邪動族の頂点に立つことも考えていたため、アグラマントがV‐ラーマスだと知ってもある程度は冷静でいられた。けれど、エヌマは違う。
「確かに、あなたたちのことを恨んではいないし、もう戦いたくないというのも本音よ。ナブーを見殺しにした、あたしたちにも責任はあると思ってる。でも…でもっ…!」
それ以上は何も言えずに黙り込む。エヌマは、最後の最後までアグラマントのことを信じていた。シャマンの、アグラマントは耳長族、という言葉を聞いても口から出任せを言っているとしか思えなかった。最後までアグラマントを信じて、そのアグラマントにもう少しで殺されるところだった。
言いたいことは山程あった。恨みつらみの言葉が、溢れて止まらないはずなのに、何一つ言葉にすることは出来なくてエヌマは両手で顔を覆った。もう何を言っても虚しいだけだとわかっていたからだ。シャマンはエヌマの肩に手を置いた。
「……我らからはもう、何も言うことはない…。」
顔を背けて静かに言うシャマンに掛ける言葉が見つからず、かといって、このままお別れするなんて絶対に嫌だと思った大地は、慌ててシャマンの手を掴んだ。
「シャマン…。」
「……。」
振り解きこそしないものの、こちらを見ようとしないシャマンに大地はどうすれば、とV‐メイを振り返り見た。そもそも後悔させないからと、この祭典に2人を呼んだのはV‐メイなのだ。V‐メイも2人の心中を察したのか、何と声を掛ければ良いのか迷っている様子だった。するとV‐ラーマスがシャマンとエヌマの方に近付いて行った。
「ラーマス?!」
V‐メイが今はよしたほうが良いと首を横に振るが、V‐ラーマスは1つ頷いただけで近付くのをやめはしなかった。シャマンは大地の手を優しく解くと、エヌマを庇うようにV‐ラーマスの前に進み出た。
2人の前まで来るとV‐ラーマスは、かつてアグラマントだった頃の配下を見つめて言う。
〔シャマン、エヌマ…。実は、ワシがこの地を離れられなかった理由はもう1つある。それがお前たちだ。〕
「……我らに対して贖罪の気持ちがあるとでも?」
静かに声を落ち着かせてシャマンは言うが、僅かな怒りが声色に混じったことはわかる。V‐ラーマスは首を横に振った。
〔そんな思いを、抱く資格すらないことぐらいはわかる。だが、もとは敵とはいえワシに、アグラマントに忠誠を誓ってくれていた者たちを裏切り、利用した事実は変わらない。V‐ラーマスに戻っても、お前たちに対して何かを思わずにはいられなかった…。謝る資格などないが、どうか言わせてほしい。シャマン、エヌマ……すまなかったな…。〕
「…!」
「っ!」
シャマンは強く拳を握りしめ、エヌマはギュッと目を瞑った。怒鳴り返せれば良かった。そんな言葉、聞きたくないと。今更謝って何になるというのかと。けれどそのどれもが口から出てくることはなく…。
すると俯いて何も言えなくなってしまった2人の前に、1つの光が、魂が降りてきた。V‐ラーマスがその魂に声を掛ける。
〔遅かったではないか。今までどこにいた。シャマンとエヌマが来ていたことは知っていたであろう?〕
〔様子を見させてもらっていた。物事にはタイミングというものがあるからな。〕
その魂から聞こえてきた馴染みがあり過ぎる声に、シャマンとエヌマはバッと顔を上げる。その顔は、これ以上ないくらいに驚きに満ちていて…。もちろん、大地たちもその声に聞き覚えがあったため同じように驚き固まる。V‐メイとサユリ、それにV‐イマックだけは驚いた様子もなく、やはりという顔をしていた。
「やっぱりね…。あんな最期だったんだ、未練も執念も残りまくりだっただろうからね…。きっと会えると思っていたよ。」
「ばーちゃん、どういうこと?」
知っていたかのような口調で話すV‐メイに、大地だけではなくシャマンもエヌマもどういうことなのかと、V‐メイを見つめる。
「アンタたちを祭典に呼んだのは、このためだよ。旅立つ前にお別れくらい言いたいだろうと思ってさ。会いたかったんだろ?……ナブーに。」
『??!!』
シャマンとエヌマはその言葉を聞いて完全に驚き固まってしまった。穴が開くのではないかというほどにその魂を見つめる。
〔久しぶりだな。シャマン、しばらく見ない内に随分と表情が豊かになったものだな。エヌマは香水臭さがなくなっているがもう止めたのか?〕
ナブーの魂はV‐ラーマスと違い、他の魂同様に球体のままだが、その声や喋り方は間違いなくナブーのもので…。
シャマンとエヌマは思わず目が潤みそうになったが、すんでのところで堪えて平静を装う。
「…光の魔動戦士たちと交流を深めたからだろうな。あんな騒がしくコロコロと表情を変えるような連中と付き合っていれば、多少なりとも影響を受けてしまうのは仕方のないことだろう。」
「…今は香水なんてつける気分じゃないだけよ。その気になったらつけるし新作が出たら買うわ。あと、あたしは今も昔も臭くなんてないから!」
〔ふん、どうだかな。〕
2人の言い訳のような返答に対して一言で締めくくるナブーに、懐かしくも憎たらしさを覚えるシャマンとエヌマ。
「魂だけになっても減らず口は相変わらずだな。」
〔余計なお世話だ。人格などそうそう変わるものか。〕
「バカデカい図体が、随分と可愛らしい丸っこい形になったというのに、ふんぞり返ってる姿が目に浮かぶようだわ。」
〔お前に姿形をどうこう言われる筋合いはないな。〕
「ちょっとそれどういう意味かしら?!」
本当はこんな言い合いをしたいわけではない。けれど口から出てくるのは憎まれ口ばかりで、言いたいことの半分も言えなくてもどかしさを感じる。シャマンとエヌマはもちろん、ナブーもそれは同じで。
大地はその場から少し離れて様子を見ていた。言い合いをしているにも関わらず、シャマンたちの表情が先程よりも柔らかくなっているのが傍から見てもわかる。少しは胸のつかえが取れれば良いなと、大地は思った。
なんとなしに空を見上げると、空中を泳いでいた虹龍と目が合った。虹龍は空を舞いながら大地の方をじっと見ていたのだ。大地は虹龍に微笑んだが、ふと、虹龍が見ているのが自分ではなく正確にはポケットの辺りだということに気付いた。
「ん?」
「どうかしたのか?」
「どうかしましたか?」
いつの間にかすぐ隣に来ていたラビとガスが声を掛ける。
「うん、ちょっと…。」
そう言いながら大地はポケットを探った。ポケットに入っていたのはオルゴールと、それから…。
「あっ!!」
大地は手に持ったそれが光を放っているのを見て声を上げた。ラビも大地が目の前に掲げたそれを見て目を見張る。
「おい大地、それって…!」
「…ペンダント、ですか?」
ガスが2人の反応の意味がわからず、見たものをそのまま言葉に出す。
「キラキラきれいグリ〜!」
V‐メイのところからこちらにやって来たグリグリがロケットに見惚れる。大地が答えた。
「ロケットだよ。俺たちが今度の冒険で会った魔法使いの形見なんだ。」
「魔法使い?!……だから光っているのですか?」
「いや、大地が拾ったときは普通のロケットで光ってなんかいなかったぜ。この祭典の光のエネルギーに反応しているのか…?」
ラビが空を見上げながら答える。そのとき虹龍がまた大地たちの前に降りてきた。けれど、その瞳が見ているのは大地たちではなく大地が持っているロケットのようだった。
「なんだい、そのペンダントは?」
V‐メイも何事かとこちらにやって来た。
「ばーちゃん。虹龍がこのロケットをずっと見てるんだ。それに拾ったときは光ってなかったのに、今はこんなに光ってて…俺にもさっぱりわからないんだよ。」
V‐メイはそのロケットを間近で見つめた。
「……随分とまぁ、念の籠もった代物だね…。これを持っていた人は?」
「……もう、この世にはいないよ…。俺たちを、助けてくれたんだ…。」
大地が俯きながら答えると、V‐メイがビックリするようなことを言った。
「それじゃあ、虹龍にお願いしてその魂を呼び出してもらうかい?」
「えっ?!」
「なんだって?!」
あまりにも突飛な発言に大地に続いてラビも驚きの声を上げる。
「そんなこと出来るの?!だってベリタスはこのラビルーナで亡くなったわけじゃないし、それに未練なんて、残ってる様子なかったし…。」
あれほど消えたいと、愛しい人の元へ行きたいと願っていたベリタスが、この世に未練などあるわけがない。
大地たちの想いを聞き届け、シャマンとエヌマをその不思議な力で生き返らせてくれた、そして力を使い果たして消えていった、本当は心根の優しい美しい魔女。
出来ることならもう一度会いたかったが、そんなことが果たして可能なのか…。大地とラビがV‐メイをじっと見つめる。V‐メイはニッコリ笑って頷いた。
「これほどに強い念が籠もった物なら、おそらく上手くいくよ。虹龍が熱心に見つめているのも強い魂の存在を感じるからだろうね。」
V‐メイの言葉を信じたい反面、本当に出来るのか疑問も残っているため素直に喜べず。するとV‐イマックがやって来て説明をしてくれた。
「ラビルーナで魂たちを呼び出すことが出来るのは、その土地もしくは形見などの物に強い念が宿っているからなのだ。そこで亡くなった者はその土地や生前に執着があった物に強い想い、つまり念を残す。その念が憎しみや苦しみといった負の感情であればあるほど、より残りやすくなる。虹龍はそんな念に囚われてしまった魂たちを導いてくれる存在なんだが、残る念には例外もあってのう。負の感情ではなく正の感情であったとしても、想いが強ければその土地や物に魂の念は宿るのじゃ。」
V‐イマックの言葉が終わるのを見計らって、V‐メイが続けて言う。
「要するにね、何もラビルーナで亡くなった者でなくても、死んだときに未練がなくても、強い念の籠もった物があればその物を介して魂を呼び出すことが出来るのさ。」
虹龍と光の力でね、とウインクして言うV‐メイ。大地とラビは顔を見合わせた。わかったか?いやよくわからない、と互いに首を横に振る。はぁ~とV‐メイはため息をつく。
「とにかく、魂を呼び出すことは出来るだろうよ。やるのかやらないのか、どっちなんだい?!」
『やっ、やります!!』
行儀よく声を揃える大地とラビに満足して、V‐メイは大地からロケットを受け取り虹龍に向かって掲げた。虹龍は1つ頷くと再度天空に向かって咆哮した。
すると、ロケットから放たれる光がその勢いを増し、ロケットはクルクルと回りながら空中へと浮かび上がった。
そして、ロケットから発せられる光がロケットを離れて大地たちの前にゆっくりと降りてきた。その光は段々と人の形になっていき…。
気付くと、光に包まれたベリタスの姿がそこにあった。V‐ラーマスやナブーと違い、顔まではっきりと捉えることが出来て大地とラビは嬉しくて声を掛けようとしたが、ベリタスの隣にもう1人いるのに気付いて驚き止める。その人物の顔もはっきり見て取れたため、それが誰なのか大地とラビにはすぐわかったからだ。
それは、ロケットの写真に映っていたもう1人の人物。ベリタスの恋人だった。
〔光の戦士さん、また会えるとは思っていなかったわ。それもこんなに早く…。〕
ベリタスの声を聞いて、ようやく大地とラビは言葉を発することが出来た。
「……ベリタス…。」
「…会えたんだな、恋人に…。」
〔えぇ。あなたたちのおかげよ、本当にありがとう。私の魂は、心は救われたわ。〕
ベリタスは本当に嬉しそうに恋人に寄り添っている。その恋人もまた、ベリタスを抱きしめて幸せそうに微笑んでいる。その様子を見て、大地もラビも本当に良かったとホッとした気持ちになった。
正直、恋人にちゃんと会えたのかどうかとても心配していたのだ。何千年もの間、離れ離れになっていた恋人同士が幸せそうに寄り添っているのを見て、目に熱いものが込み上げてくるのを2人は必死に堪える。幸せそうにしているベリタスを前に涙なんか見せたくないからだ。
「昨日ぶりだな、ガラスの魔女。いや、ベリタス。」
「元気そう、というのもおかしな話だけれど、嬉しそうで何よりね。」
シャマンとエヌマがこちらにやって来て言う。ベリタスは2人を見て頷いた。
〔あなたたちも、仲間に会えて良かったじゃない。憑き物が取れたような顔をしてるわよ。〕
「おかげさまでな。まさか亡くなった者に会えるとは思ってもみなかった。」
「本当に…。世の中何が起こるかわからないものね。」
シャマンとエヌマが静かに微笑みながら言うと、ベリタスは何故かクスクスと笑い出す。
〔あら、これからもっとビックリするようなことがあるというのに。私がここに来たのはね、あなたたちへの謝罪をするためなのよ?〕
「謝罪だと?」
「どういうことよ?」
ベリタスの言葉の意図がわからず、シャマンもエヌマも疑問符を浮かべる。
〔あなたたちを助けたのは、魔動戦士さんやあの星の人たちの願いを聞き届けたに過ぎないの。あなたたちを憎く思って攻撃を仕掛けたことへの謝罪はまだ終わっていないわ。〕
「…そのことはもういい。憎しみも怒りも、全ては終わったことなのだろう?」
「そうよ。それに謝罪なら、あたしたちを助けてくれたことだけで十分よ。」
シャマンとエヌマがそう言っても、ベリタスはいいえ、と首を横に振った。
〔神も言っていたわ。そのときそのときで、自分に出来る最善だと思うことを一生懸命やればいいって。だからこそ、私は私に出来る精一杯のことをやりたいのよ。あなたたちには本当に感謝しているから尚更ね。〕
ベリタスが恋人を見つめると、恋人は頷いてベリタスを抱きしめていた腕を緩めた。ベリタスが前に進み出て来て両腕をいっぱいに広げる。
〔虹龍の力とこの地に溢れる光の力で、私は今一度、祈りを受け取って願いを叶える力を得たわ。けれど…。〕
そこで一度言葉を区切ると、ベリタスはシャマンとエヌマ、それに大地たちの顔を見渡した。
〔けれど使えるのは一度きり、しかも今回可能なのは1人だけよ。どうするの?〕
どうすると言われても…。シャマンとエヌマはもちろん、大地たちも一体何のことやらさっぱりわからないため、互いに顔を見合わせては首を横に振る。すると…。
〔ワシのことはいい。ナブーを頼む。〕
とV‐ラーマスが突然言うので、皆一斉にそちらを向く。
しかし、やはりその言葉の意味がよくわからない。けれどV‐メイ、V‐イマック、それにサユリは何のことだかわかっているようで…。
「っ、ラーマス…!」
「ラーマス…。」
「…お父さん…!」
V‐ラーマスは俯きながら言葉を紡いだ。
〔…こんなことで昔のことが精算出来るなどとは思っていない。だが、ナブーを暗黒大邪神の生け贄にしたのは他でもないこのワシだ…。頼む、ナブーを蘇らせてやってくれ!〕
ここまで言われて、大地たちはやっとV‐ラーマスやベリタスが何の話をしているのか理解した。そして驚くことに、大地たちの誰よりも早く言葉を発したのは、他でもないナブーだった。
〔待ってくれ。ワシは今更生き返りたいなどとは思っていない。確かに殺されたときは、裏切られたことや生け贄にされたことを怒り、憎み恨んだ。だが、そのことについてワシは……私は、今までずっと怨みつらみの言葉や念をあなたに浴びせ続けてきた。魂となりこの地に縫い止められたそのときから、あなたが未練を断ち切れず私のもとに来たそのときからずっとだ……けれど、虹龍の加護を得た今はもう憎しみも怒りも全て消え去った…。贖罪は既に終わっている。だから、そんなことで私を蘇らせようなどとは考えなくていい。〕
その言葉に嘘偽りはないようで、本当に怒りも憎しみも感じられなかった。けれど、V‐ラーマスは首を縦には振らなかった。
〔それでもだ。お前が蘇り故郷に帰ることは、お前たちのためだけではなく、このラビルーナのためにもなると思ってほしい。此度のようなことを二度と起こさないためにも。〕
V‐ラーマスが言っているのは、今回邪動族たちが大勢でラビルーナに侵攻して来た理由についてのことだと、その場にいた皆が理解する。
「じーさん、見ていたのか…。」
ラビが呟くように言った。V‐ラーマスが頷く。
〔ずっと見ていた…。だが、それももう終わりだ…。ワシはこのラビルーナを去り、ずっと行きたいと願っていた地球に向かおうと思う。〕
「えっ、地球に?!」
大地が驚きの声を上げる。虹龍に導かれてあの世に行った後、その魂たちがどうなるのかは誰にもわからなかったことだが、V‐ラーマスの口振りから自分が行きたいと思う場所に行けるのであろうことが推測された。V‐ラーマスが大地の考えを見透かしたかのように頷き言う。
〔お察しの通りだ。実は魂には位、つまりレベルというものがあるのだが、虹龍によって導かれた魂は浄化され、魂の位が格段に上がる。そうするとその魂は自分が生まれ変わりたいと思うものに、生まれたいと思う場所に生まれ変わることが出来るのだ。それは大きく分けて3つある。人間か、仏に仕える者か、神に仕える者かだ。〕
「ちょっとお待ち下さい。今、仏に仕える者と神に仕える者と言いましたが、仏も神も同じ神様ではないのですか?」
ガスが疑問に思ったことを口に出したが、それに関しては大地もラビも同感だった。一体何が違うのか考えているとサユリが説明し始めた。
「仏様はお寺にいる神様で、亡くなった者を救い導くと言われています。そして一般に神様と呼ばれるているのは、神社に祀られている神様で、こちらは生きている人間の願いを聞き届け守ってくれると言われているのですよ。」
「うーん……要するに、お寺に祀られている神様と神社に祀られている神様とで違うってこと?」
大地が首をひねりながら言うと、サユリは概ねその通りと頷いた。
〔何に生まれ変わるかはまだ決めておらんがな。このラビルーナから見ていた地球にずっと行きたいと願っていた…。ようやくその思いが叶うのだ…。それでワシも十分救われる。だからナブーよ…蘇ってくれ…。それを見届けないことには、ワシはどこにも行くわけにはゆかぬ…。〕
V‐ラーマスの言葉に対して、シャマンもエヌマもそんな都合のいい身勝手な理由で自分たちへの罪滅ぼしのつもりかと怒りたい気持ちになったが、当事者であるナブーが憎しみも怒りももうないと言っているのに、自分たちがいつまでも過去に囚われて怨みごとを言うのはなんだか負けたような気がするので、2人とも何も言わないことにした。それに何より、ナブーに蘇ってほしいと思う気持ちは同じだったからだ。
シャマンたちが黙ったのを肯定と受け取ったベリタスは、1つ頷くと両手を空に向かって広げた。祈りを受け取ったという意思表示だ。シャマンたちの方から白い光の帯がベリタスに向かって流れていくと、ベリタスの両手が虹色に輝き始める。そして膨れ上がった光は花火のように打ち上がり、虹色の雨となって降り注いできた。温かい雨に打たれながら、大地とラビはシャマンとエヌマが生き返ったときのことを思い出していた。嬉しかった、本当に良かったと思った、心の底から安堵した、あのときのことを。
シャマンたちの方を見やると、シャマンもエヌマも降り注いでくる虹色の雨を一心に見つめていた。シャマンたちも思い出しているのだろうか。温かい雨に打たれながら、息を吹き返したあのときのことを。大地とラビの取り乱しように約束を守れていなかったのだと悟ったあのときのことを。そんなことを考えながら空を見上げていると…。
「これは…!ワシは、本当に…!」
声が、した。皆が一斉にそちらを振り返ると、光に包まれたナブーの姿がはっきりと浮かび上がってきた。そして徐々に光は収まっていき………気が付くとナブーが、あの頃と全く変わらぬ姿で佇んでいた。自身の手を、体を、夢でも見ているかのように呆然と見つめている。
『ナブー!!』
シャマンとエヌマが駆け寄る。未だ呆然としているナブーの手に、2人して恐る恐る手を伸ばし触れた。ちゃんと、触れることが出来た。ちゃんと、温かい。ちゃんと、生きている人の手だった。ナブーと目が合うとシャマンとエヌマは目頭が熱くなってきたが、泣くまいと唇を噛み締め必死に堪える。ナブーもまた、目が潤んでくるのを目を強く閉じることで必死に堪えた。
〔良かったわね…。〕
ベリタスの声にハッとしてシャマンたちは顔を上げる。ベリタスはとても満足そうに微笑んでいた。
〔願いを聞き届けたとき、人はとても温かい想いで満たされるの。きっと神様は、そんな想いで世界を、宇宙を満たしたかったのね…。今ならなんとなくだけどその気持ちがわかるわ。〕
そう言ったベリタスの肩を恋人が抱く。されるがままにベリタスも恋人に体を預ける。ベリタス自身もきっと温かい想いで満たされているのだろうと大地は思った。ふと地面に落ちているロケットに気付き、拾い上げてベリタスに差し出す。
「これ、落とし物だよ。」
〔…フフッ、わざと落としたのよ。こんなこともあるかと思ってね。〕
花が咲き誇るような笑みを浮かべて、ベリタスは大地からロケットを受け取る。その一瞬、大地の手にベリタスの手が触れた。その手は、亡くなっている人の手とは思えない程に温かくて、優しかった。
そのとき、天空を浮遊していた虹龍が体を大きくうねらせた。自由に飛び交っていた魂たちが一斉に虹龍のもとへ集まっていくのが見て取れる。ベリタスが、V‐ラーマスが虹龍を見上げる。おそらく、時間なのだろう。
「さてと。最後の仕上げだね。」
V‐メイの言葉で、奏者たちがサッと自分たちの楽器を抱え直した。音楽が再スタートする。
音楽が響き始めた途端、虹龍が光の道へと戻って来た。こちらに向かって後は任せて、というように頷くと光の道をゆっくりと体をくねらせながら昇って行き、その後を魂たちが追うように着いていく。
〔ワシももう行かねばな。サユリ、マリウス……達者でな…。メイ、イマック……ラビルーナを頼んだぞ…。〕
V‐ラーマスはそう言うと、また光の球へと戻り虹龍の後を追って行った。
「お父さん!」
「じーさん!」
『ラーマス!!』
サユリ、ラビ、V‐メイとV‐イマックが声を上げる。魂の列に加わったV‐ラーマスの魂は、他の魂たちと合流したためにその姿を最後まで追うことは出来なかったが、こちらの声、そして想いは届いただろう。魂の列に戻る際、V‐ラーマスの魂が一際輝きを放ったのが遠目にもわかったからだ。
〔じゃあ、私たちももう行くわね。〕
ベリタスが言うと、大地とラビ、それにシャマンとエヌマがベリタスの方に向き直る。
「また会えて嬉しかったよ、ベリタス。元気でねっていうのも変だけど、お幸せに。」
「オレたちいつまでも忘れないぜ、ベリタスのこと。色々ありがとな!」
「……感謝する。この恩は、決して忘れない…。」
「…道中、気をつけてね…。」
その言葉にベリタスがニッコリ笑って頷くと、光りに包まれたベリタスと恋人の魂がより一層輝いて、2つの光の球になった。2つの魂は寄り添いながら、虹龍のもとへと昇って行った。
「さようならー!!」
「じゃあなー!!」
「ごきげんようー!!」
「バイバイグリー!!」
大地とラビとガス、それにグリグリが魂たちに、虹龍に手を振った。虹龍と魂たちの姿が遠のいて見えなくなると、光の道がより強い輝きを放った後、すうっーと消えていった。周囲を漂っていたはずのランタンも1つ残らず消えている。そして最後に音楽が終了した。