「…ほい、これで祭典は終わり。みんなご苦労だったね!」
V‐メイの言葉で会場の緊張が一気に解れる。そして各々が祭典の片付けを始めた。
「母さん…。」
未だに空を見上げ続けているサユリにラビが声を掛ける。
「……マリウス…。」
「……じーさんなら心配ないって!虹龍が導いてくれんだからさ、きっと地球に生まれ変われるよ!」
「……そうね、ありがとうマリウス…。」
「へへへっ!」
鼻の下を擦りながら照れるラビに、もう大丈夫だから向こうを手伝ってきてちょうだい、とサユリは言った。
「わかったよ。行ってくるから、母さんも元気出せよ?」
そう言ってラビが手伝いに向かうのを見送ってから、再度空を見上げるサユリ。サユリが考えていたのは、父のことだけではなかったのだ。
(あの人の気配は感じられなかった……虹龍の力をもってしても、あの人の魂は救われないのかしら……それとも本当は、まだどこかで………。)
「ねぇ、ばーちゃん。あの魂たちはこれからどこへ行くのかな?」
片付けをしながら、なんとなしに大地が聞くと、さぁね、とV‐メイが答える。
「それは誰にもわからないよ。極楽浄土と呼ばれる異世界に行くとも言われているし、生まれ変わりの準備期間に入るとも言われている。こちらの世界の時間軸とも異なるらしいしね。詳しいことは死んでみないとわからないのさ。だけどね、これだけは言えるよ。虹龍に導かれた魂たちは必ず救われる。もう何も心配することはないんだよ。」
そう言って空を見上げるV‐メイは、どうかそうでありますように、と切に願っているような表情をしていた。だから。
「そうだね、ばーちゃん。きっとそうだよ!」
と大地は力強く頷いて言った。
「それにしても、あの魂たちは本当に綺麗でしたね。魂ってあんなに光輝いているものなんですね。」
「そうそう、オレもそう思ってたんだよ。人魂って青白い炎みたいなイメージが強かったからな。」
ガスとラビが話しているのを聞いて、大地もそういえば、とラビルーナの空を埋め尽くさんばかりに漂っていた魂たちのことを思い出す。
「虹龍に導かれたから、あんなに光っていたのかなぁ?それとも光の魔法陣の影響?」
「どっちもハズレだよ。」
大地の言葉にV‐メイが答えるので、ガスとラビも振り返る。
「いいかい?この世に生きとし生ける全てのものが命を、魂を持っている。見た目や性格、産まれた場所や時間、皆それぞれに違いはあれど、その誰もが光輝く魂を持っているんだよ。魂の光は命の灯火、光の強さは想いの強さ。どんな魂でも、一生懸命に生きれば強い光を放つ。虹龍や魔法の力は救い導く力、魂を輝かせるのは己自身の力さ。」
わかったかい?とV‐メイがこちらを見つめてくるが、ガスもラビもわかったような、わからないような、という顔で互いに顔を見合わせる。すると大地がつまり、と声を上げた。
「俺たちは、みんなそれぞれ違うけど、光る魂を持っているのは同じってことなんだよね?」
大地が聞くとV‐メイが頷く。大地の顔がパァッと明るくなった。
「じゃあ俺たち、みんな光の仲間なんだ!」
『光の、仲間…。』
ラビとガスの声が揃う。そして2人の顔も明るくなった。
「小難しいこと言われてもよくわかんねぇけど、なんか今の大地の言葉はしっくりきたな!」
「はい、さすがは大地くんです!」
「へへっ、そう?」
2人に褒められて少々得意気になる大地。そんなところへ、V‐イマックが声を掛けてきた。
「おい、お前さんたち、手が止まっとるぞ!喋っとる暇があったら手を動かさんか!この後は打ち上げをやるつもりじゃが、働かんもんにはご馳走はなしじゃぞ!」
「わーー!!手伝います手伝います手伝います!!」
その言葉を聞いて真っ先に動いたのはガスだった。
「ガスのやつ…!食いもんのことになるとすぐこれだぜ、ったく!」
「そんなこと言ってる場合かよラビ!俺たちも早く手伝わないと、ガスにご馳走全部食べられちゃうぜ!!」
「ちっくしょう!食いもんで釣るなんてきったねぇことしやがって!!」
とは言いつつ2人とも腹ペコなので、ご馳走なしなんて冗談じゃないとそそくさと手伝いに向かう。
「あの子たちったら…もう…。」
やれやれとため息をつくV‐メイと、その様子を見てホッホッホと高笑いするV‐イマックだった。
そんなこんなで準備するのはとても大変だったものの、片付けは全員で手分けをしたらすぐに終わった(シャマンたちも祭典の参加者ということで手伝った)。
終わった後はV‐イマックの言葉通り、打ち上げのための酒やら料理やら、ご馳走が色々出てきた(手伝いが終わったのならとすぐにでも帰ろうとしていたシャマンたちを大地たちが必死に引き止めた)。打ち上げは大盛り上がりで、酒を飲んだV‐メイもV‐イマックも完全に酔っ払っている。グリグリはお腹がいっぱいになったようでハピと一緒にぐっすり眠っている。サユリは最初の一杯だけで終わりにしたらしく、あまり酔っていない様子だった。
大地たちはシャマンやエヌマ、それにナブーと一緒にご馳走が乗ったテーブルを囲んで雑談をしていた。
「ところで、何故私たちは酒を飲んではならんのだ?」
「そうよ。邪動族はね、女は16歳から、男は18歳から酒もタバコも許されてるのよ?」
「ワシも久しぶりに酒を飲みたいのだが…?」
用意された椅子に座りながらシャマンたちが納得いかない様子で酒を止めた大地たちにそれぞれ聞く。けれど……。
「そんなの当たり前じゃん。シャマンたち、明日にはワイバーストとヒドラムに乗って帰るんだよね?お酒飲んだらダメでしょ。」
「ラビルーナでの飲酒運転はこのオレが許さねぇぞ。」
「そうですよ。特にあなたは先程生き返ったばかりじゃないですか。お体のためにもお酒は暫く控えるべきです。」
ご馳走を食べながら大地とラビとガスが順に言う。実のところそれは建前で、自分たちはお酒を飲めないのに一緒のテーブルを囲っているにも関わらず、シャマンたちだけお酒を楽しむなんてズルい、というのが本音である。それを知ってか知らずか、シャマンたちはため息をついた。これはラビルーナの酒を堪能させてもらえそうにないな、と。
けれど、そんなため息など知ったことではないというふうに大地たちはお肉の奪い合いを始める。
「ラビ、さっきからお肉ばっかり食べ過ぎだぞ!」
「そうですよ、それにそのお肉は私が目を付けていたんですよ?!」
「なぁに言ってやがるんだよ、こういうのは早いものがちだぜ!」
そう言いながらラビがお肉を皿ごと奪って逃げ出したので、思わず大地とガスは立ち上がる。
「あぁっ!きったねーぞラビ!」
「ズルいですよラビくん!」
「へへーんだ、悔しかったら取ってみろ!」
そんなことでワーワーギャーギャーやっていると、サユリが飲んでいた物をトン、とテーブルに置いて立ち上がった。
「マリウス、食事中ですよ!意地汚い真似はおよしなさい!」
「……ちぇ、ハーイ。」
サユリに言われてしまっては逆らう理由にもいかず、ラビは素直に席に戻って座り、大地とガスもそれにならって大人しくそれぞれの席に戻る。
「さすが、ラビくんのお母様ですね。」
「ラビもお母さんには敵わないってことだな!」
「……うるっせぇな!」
フンッとそっぽを向いてお肉に齧り付くラビを見て大地は苦笑する。と、一連の様子を見ていたエヌマがラビと大地を交互に見て言う。
「あなたたちって、そうやって見てると本当に好き合ってるとは到底思えないわね…。好きならお肉くらい相手に譲ればいいじゃないの。なんなら、はい、あ~ん、くらいしてみせれば?」
ッブフォーーー!!
「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッゴホッ……!!」
「おっ、おい!大丈夫か、大地?」
「大地くん、しっかりしてください!」
エヌマの言葉を聞いて、大地は口の中のお肉を盛大に吹き出し、思いっきりむせた。ラビは口の中の物を咀嚼し飲み込んだ後だったため事なきを得たが、大地があまりにも苦しそうなので、心配になってガスと一緒に大地の背中を擦る。
「ケホッ、ハァ、ハァッ、ハァ……。ッエヌマ!!急に何言ってんだよ!!」
ようやく咳き込みが落ち着いてきた大地は若干涙目になりながらエヌマに怒鳴る。けれど…。
「アラアラ……フッ、ごめんなさいね、フフフッ…!」
笑われてしまい更に腹を立てるが、エヌマはどうやら自分を見て笑っているようではなく。それに隣を見るとガスもラビも口元を押さえ、ナブーまでもが笑いを堪えるかのような表情をしているので更に大地は疑問符を浮かべる。
すると、ちょいちょい、とラビに指で肩をつつかれた。そちらを向くとラビが前前、と指で差すので前を見ると…。
「えっ、シャマンどうしたの?!そのお肉のカスだらけの顔?!」
「……お前が私の顔に向かって吹き出したんだろうが!!」
「ええっ!!そっ、そうなの?!」
大地が吹き出したとき、たまたま前にいたシャマンの顔に見事にかかり、それを見たエヌマやナブー、それに気付いたラビやガスに笑われてしまっていたのだと、大地はこのときになってはじめて気付く。
「それはっ、その、あの……ごめん、なさい…。」
大地は素直に謝るがシャマンはムッとしたまま大地を睨み付けている。お肉を顔中につけたまま…。ラビとガスが、必死に笑いを堪えながらも一応頭を下げる。
「うちのリーダーがどーも…。」
「申し訳ありませんでした…。」
よろしければ、とガスが持っていたポケットティッシュをシャマンに差し出す。半ばひったくるようにしてシャマンはティッシュを受け取り顔を吹く。エヌマとナブーは今にも大声で笑い出しそうだった。シャマンはエヌマとナブーをひと睨みしてから大地に声をかける。
「……別に構わん。そのかわり、もう肉は食うな。」
「ええーー!!そんなのないよ!!」
「食いたいなら向こうへ行って1人で食え!!」
「ううっ、そんなぁ…。」
大地がしょぼくれた顔をするので、エヌマが笑いながらも助け舟を出した。
「あら、何も向こうに行く必要なんてないじゃない。要するにシャマンの顔に吹きかけないようにすればいいんだから、シャマンの隣にいらっしゃいよ。」
それなら何も問題はないでしょ、とエヌマに言われて大地はそれもそうかと頷き、椅子を持ってシャマンの隣に移動した。
「……私は許可していないぞ。」
「もう、ごめんってば!僕だってわざとじゃないんだよ!」
「わざとだったらゲンコツの1つでもお見舞いしてる。」
そんなに怒られるとは思っていなかった。仲間に笑われたこともあるのだろうが、もうそろそろ機嫌を直してほしいと大地は思う。明日は、今度こそ本当にさよならをしなくてはならないのだから、せめてそれまでは一緒に過ごす時間を大事にしたい。顰めっ面のままなんて嫌だ。そう思った大地は話題を変えようと、シャマンたちに聞こうと思っていたことを聞いた。
「ねぇ、シャマンたちは明日帰ったらどうするの?」
「…?どうするとは?」
シャマンが首を傾げる。
「だからさ、帰ってから多分色々とやることがあるんだよね?ナブーも無事生き返ったことだし、部下の人たちとも話し合いをしないといけないんでしょ?でも、その後は?また旅に出るの?」
「……そうね、それも悪くないわ。」
大地の問いにエヌマが答える。
「じゃあさ、また旅に出たらさ、その途中でもいいから、あの…また、会いに来てくれる?…また会える?」
大地の言葉に、シャマンたちはあっと小さく口を開ける。敵としてではなく、戦士としてではなく、また会いたいと素直に思ってくれている大地に今まで感じたことのない、とても温かな想いが湧き上がってくるのがわかった。
邪動族としてラビルーナを征服しようとしていた頃には、およそ持つことのなかったポカポカとした感情。その感情がなんなのか、生憎シャマンもエヌマも邪動帝国一のインテリと呼ばれていたナブーも知らなかったが、決して悪い気はしなかった。
だからシャマンたちは素直に頷くことにした。首を縦に振ると大地がパァッと光溢れるような、とても嬉しそうな笑みを顔中に浮かべる。
その表情を見たシャマンは、温かくなる心とは裏腹に少しばかり意地悪をしたくなってきた。先程のお返しもしていないしな、とシャマンはラビとガスに声を掛ける。
「そういえばV‐メイから聞いたが、闇の塔にある魔動石の調査、月に一度の割合でお前たちが担当しているそうだな?」
「えっ?あぁ、そうだけど…?」
「私たちだけではなく、知り合いの博士も一緒に調査をしていますが…?」
急に自分たちに話を振られてビックリしながらも答えると、シャマンはニヤリと笑う。
「ならば月に一度のその調査、我らも同行させてはくれないか?」
『ええっ???!!!』
大地とラビとガスが同時に声を上げる。
「ちょっといきなり何よ、どういうこと?!」
「何故我らまで調査などする必要があるのだ?!」
エヌマもナブーも突然何を言い出すのかとシャマンに迫る。
「聞けばその魔動石は、人間の負の感情に反応し闇の力を宿すそうではないか。我らの持つ邪動力に通ずるものがあるように思える。もしその闇の塔が建設されたのが我ら邪動族の祖先が月で暮らしていた頃だと仮定すれば、その闇の魔動石は邪動族の物であった可能性が高い。」
その言葉にエヌマとナブーはハッとする。自分たち邪動族が過去に長い耳を切り落とした耳長族であるということは既に知っている(シャマンたちは故郷に帰ってから過去を調べたため、ナブーは月面とラビルーナで起きた事件を魂の目で見ていたため知っていた)。
自分たちに縁のある物かもしれない、祖先に関係のある物かもしれない。そう考えると、エヌマもナブーも無性にその魔動石を見てみたくなってきた。シャマンが続けて言う。
「我らの邪動力に反応するのであればほぼ間違いないだろう。しかし、たとえそうであったとしても我らにはもう必要のない代物。闇の塔に保管するのが一番だと私も思う。」
「……シャマン、あなた何が言いたいのよ?」
何故調査をしなければならないのかという先程の質問の答えになっていないとエヌマが言うと、シャマンの代わりにナブーが答える。
「……つまり、我らや我らの祖先に縁のある物だとすれば持ち帰りたいというのが本音だが、闇の塔から持ち出すことを合理的とは思えないので、1ヶ月に一度の調査と称して魔動石の様子を逐一見に行きたいと、こういうわけか?」
「フッ、話が早くて助かる。我らの祖先に関連した物ならば我らが行くことで何かしらわかるかもしれないからな。それに、祖先を敬い墓参りするのも悪くはあるまい?」
祖先の墓参り、などという言葉がシャマンの口から出てくるとは……とエヌマもナブーも思わず顔を見合わせた。
どう考えても野心家のシャマンが本気でそんなことを思っているとは到底思えない、何を企んでいるのかと言葉には出さずとも顔には思いっきり出す。だがそんなことは気にも留めないといった様子で、シャマンが再度ラビとガスに声を掛ける。
「どうだろう、我らの同行を許してくれないか?」
「そうですね。ご先祖様を敬うのは子孫として当然のことですものね。私は一向に構わないですよ。」
「ちょっ、待っ、おいガス!!」
ラビがガスの口を慌てて塞ぐも時すでに遅し。
「なんですか、ラビくん?」
ラビの手をどけながらガスが言うと、ラビはあぁ、もう!と額に手を当てた。
「何勝手に許可出してんだよ!!」
「…?別に良いじゃないですか。何か不都合でも?」
「だから、あの、その、なんというか…。」
「…………いいじゃないか、何をそんなに渋ってるんだよ。」
ラビが言い淀んでいると大地が声を掛ける。
ビクッとするラビ。恐る恐る大地を振り返り見る。
……………その声色と顔色は………完全に拗ねたものだった…。
(あぁ~〜やっぱそうだよなぁ〜〜〜!!)
大地が拗ねた理由について、ラビには思い当たる節があり過ぎるぐらいある。が、ガスには大地が突然不機嫌になる理由が全くもってわからない。
「大地くん?どうしたのですか?急にそんな変な顔して?」
「………生まれつきだよ…。」
「ええ?そんなことはないと…。」
「ガス、ストップ!!ちょっとちょっと!!(小声)」
これ以上は不味いと、ラビがガスの肩を掴んで耳打ちする。ラビの真剣な表情にガスも顔が強張る。
「……どうしたのですか、ラビくん?(小声)」
「実は月面を逃げてたときにこの話を大地にしてよ、それからかくかくしかじかかくかくしかじか…。(小声)」
「ええっ?!そういうわけなんですか!!(大声)」
「っ、バカヤロウ、急に耳元で大声出すな!!(大声)」
「あっすみません…。(普通の声)」
それで大地がああも拗ねているのだとガスも納得する。けれど同行を許可してしまった以上、今更大地を仲間外れにしてしまうみたいで嫌だからやっぱりこの話は無しで、とは言い難い。はてさてどうしたものか、とガスはラビの顔を見るがラビも生憎お手上げ状態だ。すると…。
「同行の許可ありがたく思う。これで我らも頻繁に月に来ることになるな。また会いに来るという約束もこれで果たせるというものだ。」
シャマンが淡々と言ってのける。ラビとガスがあぁ~、と頭を抱えた。
「シャマン、お前は…!」
「???」
ナブーがシャマンの意図と魔動戦士たちの心情を悟り声を荒げるが、エヌマは未だ理解が追いつかずみんなの顔を交互に見る。と…。
「っ、さっきの仕返しにしたって酷いよシャマン!!」
大地が立ち上がってシャマンを睨み付けた。
「僕が普段は地球にいて、月には1年に一度の限られた期間しかいられないってこと、知っててそういうふうに言ってるんだったらあんまりだよ!!」
「…!シャマン、あなたって人はホントに…!」
大地の言葉でようやく意味を理解したエヌマもシャマンを睨んだ。
「……別に先程の仕返しだけが目的ではない。闇の魔動石をこの目で見てみたいというのは本音だ。邪動族が、我らの祖先がこの月で暮らしていたという、唯一残っている証拠かもしれんのだからな。」
シャマンは動じる様子もなく静かに答える。それはそうかもしれないけど…と大地は複雑そうな表情を浮かべた。それにしたって、これでは本当に仲間外れみたいではないかと大地は思う。そんなことないのに、と気にしないようにしていた手前、正直さっきの言葉は堪えた。俯いて唇を噛み締める大地になんと声を掛けようか悩んでいたラビが、ハッとして言う。
「そうだ!今から行こうぜ!」
「えっ、行くってどこへです?」
突然のラビの言葉にガスが頓狂な声を上げる。だからさ、と少し興奮気味にラビが答える。
「魔動石の調査だよ!前回の調査からもうすぐ1ヶ月になるってのに、オレたちまだ調査に行ってないじゃん!」
「!!そういえば、そうでしたね!それじゃあ一緒に行きましょうよ大地くん!」
「大地もあの魔動石の様子気になるよな?1年前の事件以来だもんな!だから、一緒に調査しようぜ!」
「ニンジン博士にも久しぶりに会えますよ!博士も大地くんに会いたがっていましたから、きっと喜びます!」
「なぁ、行こうぜ大地!」
「一緒に行きましょう、大地くん!」
「っ、ラビ、ガス!!」
自分のことを心配して一生懸命元気づけようとしてくれる仲間の言葉が、想いが嬉しくて、大地は2人の首に腕を回して抱きついた。
「っ、グスッ…ありがとな、ラビ、ガス…!」
ラビとガスは大地に抱き締められて、ちょっと苦しいと思いながらも元気が出た様子の大地を見てホッと息を吐いた。
「じゃあ早速行くとするか!」
「お待ちなさい、マリウス。」
すると、向こうでV‐メイたちの相手をしていたサユリが声を掛けてきた。
「何、母さん?」
「その調査ですけど、今回は私も一緒に行きます。」
「えっ、母さんも?!なんで??」
「いつもあなたとガスくんに任せてばかりでしたからね。今日は時間も取れそうですし、一度魔動石の様子をこの目で確かめたいと思っていましたから。それに…。」
「?それに?」
「それに、もしも大地くんと2人っきりにして本当に駆け落ちされでもしたら大変ですからね。」
「っ?!だ、大丈夫だよ、そんなことしないって…!」
顔を赤く染めて俯きながら言うラビに、冗談ですよ、とサユリは笑いながら言う。心配ばかりかけさせる息子へのささやかな意趣返しだ。
「さてと、それじゃあ母さんは支度してきますね。さすがにこの格好で月面には行けませんから。あなたたちも月面に行くならその格好はダメですよ。目立ちすぎますからね。」
最後の言葉はシャマン、エヌマ、ナブーに向かって掛けられた。3人は目を点にしてお互いの格好を見る。まさか服のことで指摘を受けるとは思ってもみなかったのだ。サユリの言葉に大地、ガス、ラビがシャマンたちを振り返り見る。
「確かに…。シャマンたち、その格好じゃダメだよ。」
「うーん、コスプレといえばまかり通りそうな気もするのですが…。」
「いや、絶対アウトだろ。通報されっぞ。」
大地たちにまで言われてしまい、仕方ないとシャマンがため息をついて指をパチンと鳴らす。すると青色、白、黒の半袖のコートがそれぞれ現れた。
「これを羽織れば問題あるまい?」
シャマンが持つそのコートに大地は見覚えがあった。
「そのコートって、シャマンと初めて会ったときに着てたやつ?」
「あぁ、そうだ。」
あのときはまさか、お互いが宿命の敵となる存在であるとは知りもしなかった。もちろん、今その相手とこんなふうに過ごせる日が来るなんてことも思いもしなかったけれど。
「…コートはいいけど、サングラスは止めてね。」
ジト目でこちらを見る大地にシャマンは首を傾げる。
「…?何故だ?」
「ヤクザみたいでなんかヤダ。一緒に歩きたくない。」
「……一言余計だがまぁいい。顔を隠す理由もないしな。」
別にしなくても構わない、と取り出そうとしたサングラスを再び仕舞う。そして色違いの白のコートをエヌマに、黒のコートをナブーにそれぞれ渡す。2人とも渋々受け取り羽織るが、前の格好よりかは幾らかマシというレベルで、こんな格好の3人が並んで歩けば間違いなく注目されるだろう。だが3人ともこれ以上変装するのは嫌だと頑なに譲らないため、大地たちはため息をつく。すると…。
「先程の格好よりかは、まともになりましたね。」
サユリが戻ってきたようで全員そちらを向いた。そしてサユリの服装を見て固まる。真っ先に声を上げたのはやはりラビだった。
「かっ、母さん?何その格好??」
「月面に行くならドレスは目立ちますし、黒武者の格好をするわけにもいきませんからね。これならばそんなに目立ちはしませんし妥当なところでしょう?」
サユリの格好は、白のYシャツに水色のベストを前開きにして羽織り、紺の長めのジーンズを履いている。頭の耳はカウボーイハットのような帽子を被り隠している。長い髪は変わらず下ろしたままだった。ラフな格好ではあるが、いつもの格好と全然違うためラビは面食らう。似合わないわけではないけど、これはこれで目立ちそうな気もしないでもない。
ガスが大地に耳打ちする。
「…あのう、大地くん…なんかサユリさんの格好って、第4エリアで会ったスナービさんの格好と似てるように思えるのですが、私の気のせいでしょうか?」
「あっ、確かにそれっぽいかも…ベストの色や帽子とかは全然違うけど…。」
第4エリアの水の柱を目指す途中で、大地たちが大渦に巻き込まれそうになったところを助けてくれた水先案内人のスナービさん。ラビが初めて母親のような温かさを感じた人でもある。その人の格好と、どことなく今のサユリの服装が似ているのだ。既視感を抱いたのはラビも同じようで、なんか複雑そうな表情をしている。
「マリウスどうしたのです、そんな変な顔をして?そんなに似合いませんか?」
「ちっ、違う違う!似合ってるよ、母さん!大丈夫大丈夫!!」
何に大丈夫と言っているのかはわからないが、取り敢えず支度は出来たということで月面に向かうことにした。サユリがV‐メイとV‐イマックに声を掛ける。
「メイ様、イマック様、行ってまいります。」
「あぁ、行っておいで、こっちのことは任せておきよ〜。」
「そうじゃそうじゃ、何も心配せんでええからのう!」
まだ酔いが覚めないのか、気分爽快といった感じで2人が答える。
「あーあ、ばーちゃんたち完全に酔ってるよ…。年も年のくせにあんなにお酒飲んで大丈夫なのかなぁ?」
大地がボソッと言うと、しっかり聞き取ったV‐メイがムッとして呪文を唱える。
「ヤロレパパ!」
どこからともなく箒が飛んできて大地の尻をバシッと叩いた。
「いってぇ!!何すんだよ!!」
「前にも言っただろ?口は災いのもと!一言多いんだよ、アンタは!」
「大地、口は災いのもとだってよ!」
「大地くん、口は災いのもとですよ!」
「だぁーー!!もう、わかったよ!!」
ラビとガスにもニヤニヤと笑われながら言われてしまい、バツが悪くなった大地は話題を逸らす。
「ほら、早く闇の塔に行こうよ!ニンジン博士も待ってるんだろ!」
そう言ってとっととレーヴェの道に走って行くので、ラビとガスがやれやれと肩をすくめて後を追う。サユリは再度V‐メイたちに向かって頭を下げる。そしてシャマンたちもレーヴェの道に入ったことを確認してから自分も入り、呪文を唱える。
「ドーマ・キサ・ラムーン、ドーマ・キサ・ラムーン!!」