月虹の鎮魂曲と光の仲間たち   作:ÆM

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闇の塔にて大騒動

 

「よお、博士、1ヶ月ぶり!!」

「どーも、ご無沙汰してます!!」

「ニンジン博士、久しぶり!!」

 

「おおっ、ラビくん、ガスくん!そっ、それに大地くん!!久しぶりじゃのう、元気にしとったか!!」

 

 闇の塔に着いた途端ニンジン博士の姿が見えたので、大地たちは走って駆け寄ったのだ。ラビとガスは1ヶ月ぶりだったが、大地にとっては1年ぶりの再会だったため余計に懐かしく思えた。

 

「博士も元気そうじゃん!安心したよ!」

「もちろんだとも、まだまだ若いもんには負けんわい!」

「ハハハ、相変わらずだなぁ!」

 

 ふんぞり返りながら言うニンジン博士に大地は満面の笑みを浮かべる。

 

「ところで、後ろの者たちは誰なのかね?」

 ニンジン博士の目がサユリやシャマンたちに向く。

「ふぅむ…お前さんら、人間ではないな?耳長族か?」

 

 いくら格好が普通の人とは違うといっても、大地たちが説明する前に人間ではないと見抜いた博士には大地たちも驚きを隠せない。

 

「あっ、えっとねニンジン博士、この人はラビのお母さんでサユリさん。こっちの人たちはシャマン、エヌマ、ナブーって言うんだ。一応、邪動族なんだよ。」

 と大地がニンジン博士に紹介する。

 

「一応って何よ。あたしたちは立派な邪動士なのよ?」

 エヌマに突っ込まれる。

 

「まあいい。改めて名乗ろう。私は邪動族のシャマン。ゾーラクラウンのとき以来だな、ニンジン博士とやら。」

 

 ゾーラクラウンを巡って襲ってきたときの邪動族ということを思い出し一瞬身構えるが、今の挨拶や大地たちとの関係性を見てニンジン博士は警戒心を解いた。

 

「こりゃ失敬したのう。ワシの名前はニジンスキー・スカラバカヤじゃ。以後よろしく頼む。」

「ニンジン好きのウスラバカですってぇ?」

「ノーノー!!ニジンスキー・スカラバカヤ!!ドゥユーアンダスタァンド??」

 エヌマの間違いに、いつかと同じように言い返すニンジン博士。少しばかり引きつつもエヌマは素直に頷く。

 

「名前を間違えるのは失礼極まりないことだ。以後気をつけるんだなエヌマ?」

「煩いわね、言われなくたってわかってるわよ!」

 ナブーに指摘されてしまい、エヌマはフンッとそっぽを向く。

 

「誰が聞いたって初めはそう聞こえるよな。」

 ラビが頭の後ろで腕を組みながら言う。

「最初に聞き間違えたのはラビくんですものね。」

「あのときは博士もラビにつられて間違えてたもんな。」

 そのときのことを思い出していると、サユリが咳払いをして言った。

「そろそろ魔動石の調査を始めても?」

「おお、こりゃスマンな。それじゃあ、みんな中に入ってくれ。魔動石を保管してある広間までレッツゴーじゃ!」

 

 ニンジン博士に案内されて塔の中に入る。考古学の研究者なのだろうか、博士と同じような格好をした何人かの大人たちとすれ違った際にチラチラと見られたが、博士が案内しているのを見て、皆それぞれの持ち場で仕事を再開し始める。ラビとガスは慣れたもので、博士に案内されるまでもなくどんどんと先へ進んで行く。大地たちはその後をてくてくと着いて行った。

 

「ここが闇の塔の大広間じゃよ。」

 

 ニンジン博士に案内されて辿り着いた広間。その奥の台座の上に魔動石が固定されており、台座の周りには博物館で見かけるような立ち入り禁止用のロープが張り巡らされていた。サユリやシャマンたちが先に前に進み出て、魔動石を見つめる。ラビがサユリを見上げて聞く。

「母さん、何か感じる?」

 サユリはじっと魔動石を見つめていたが、やがてゆっくりと目を閉じ頭を振る。

「……いいえ、何も。この魔動石はあなたたちが見た通り、今は何の力も持っていませんね。」

 

「シャマンたちは?この魔動石ってやっぱり邪動族の物なの?」

 大地がシャマン、エヌマ、ナブーに聞く。

「……現時点では何とも言えぬな。」

「……見ただけでは、わからないわ。」

「……少なくとも今感じられるものは何もない。」

「ふーん、そっか…。」

 

 何か新たなことがわかるかもしれないと思っていた手前、特に何もなかったことに大地は少しばかり肩を落とすが、魔動石が闇のパワーを有していないことに心底ホッとする。戦争の火種になるかもしれない要素がないに越したことはないのだから。それにしても、と大地は思う。

 

(魔動力も邪動力も、正反対だけど両方とも想いの強さでその力を発揮するんだよな…。邪動力は負の感情からパワーを得るって、ばーちゃんが言ってたっけ…。この闇の魔動石も人の負の感情から力を得て、その負の感情を爆発させるんだ。)

 

 そのせいで戦争が起きて人同士が傷つけ合うなんてとんでもない話だと思いつつ、大地は邪動力に対して前ほど怒りを感じることが出来なくなっていた。なぜなら…。

 

(シャマンとエヌマの邪動力のおかげで俺たちは、ガラスの星は救われたんだから…。)

 

「サユリさん。」

「大地くん?なんでしょう?」

「大地?」

 いきなりサユリに声を掛けた大地をラビもみつめる。

「邪動力って、人の負の感情をエネルギーにしているって聞いたんだけど、それ以外からも力を得ることってないんですか?」

「えっ?」

「いや、あの…実は……。」

 

 突飛な質問過ぎたと思い、大地はガラスの星でラビと体験したことをサユリに話した(途中からガスやニンジン博士、ナブーも聞いていた)。

 

「……そうですか、そんなことが…。」

「はい…。俺、光の魔法陣の力が強くなり過ぎたせいで火山が噴火するなんて、人の命や生活を奪うことになるなんて考えもしませんでした…。まして邪動力が星1つ救うための力になるなんてホントビックリで…。負の感情って、人間の悪い部分みたいなイメージがあるから、それが人を救う力になるってホントなのかなって思ったんです。少なくとも、シャマンたちがあの星の人たちを救うために力を使ったときは負の感情なんてなかったはずですから。」

 

 ね、シャマン、エヌマ!と、2人を振り返る大地。シャマンとエヌマはそのときのことを思い出して、ゆっくりと頷く。2人が頷いたのを確認して大地は再び話し出した。

 

「だから邪動力は何も負の感情だけがエネルギーなんじゃなくて、他の感情からも力を得られるんじゃないかなって、そう思ったんです。」

 

 大地の話を聞いてサユリは目を閉じ考え込んでいたが、やがて目を開けると少し顔を上げ魔動石を見つめながら話し出す。

 

「確かに大地くんの言うことも一理あると言えます。正であれ負であれ、魔動力も邪動力も強い感情から力を得ていますし、耳長族と邪動族がもともと同じ種族であったことも踏まえると考えられなくはないですね。」

 サユリが肯定すると大地の顔が明るくなった。

 

「やっぱり、そうなんだ!じゃあさ、いつかこの魔動石も負の感情じゃなくて正の感情を取り込むようになって、闇の魔動石から光の魔動石に変わるかもしれないよね!悪いものが全部なくなって良いものに変われば、人が争うことも戦争が起きることもなくなるんだよ!そうなればいいなぁ!」

「大地くん、それは…。」

 

「そんなわけねぇだろ大地。」

 嬉しそうに言う大地にサユリは声を掛けようとするが、ラビが先に言葉を発したことで遮られる。

 

「えっ、なんでだよラビ?」

「当たり前だろ。悪いもんがこの世からなくなるなんてこと絶対にねぇからな。良いも悪いも全部ひっくるめて全ての世界は成り立ってるんだぜ?どちらかだけになっちまったら、世界は世界でなくなっちまう。どっちも必要で、だけどどっちもいらねぇんだよ。」

「どっちも必要で、どっちもいらない…?」

 真逆の意味で支離滅裂のように聞こえるのに妙に物事の真髄を突いているような気がして、大地はラビを驚きの目で見つめる。

 

「私はラビくんの言うこと、わかるような気がします。」

 ガスが大地の隣まで来て言う。

「ガス…。」

「大地くん。光と闇、善と悪、正と負、生と死、朝と夜、白と黒。みんな表裏一体なんですよ。世界があるのは両方があるからで、逆に世界がなければ両方ともいらないんですよね。」

「表裏一体…。」

「私のおじじ様がよく言っていました。」

「へへっ、オレも実を言うとばーさんの受け売りなんだけどな!」

「なるほど!ラビくんにしては珍しいことを言うなと思ったんですけれど、おばば様の言葉なら納得ですね!」

「おい、ガス…それどういう意味だよ?」

「えっ、いやぁ、特に深い意味はありませんよ…アハハハ…。」

「笑って誤魔化してんじゃねーよ!」

「いえ、決してそんなつもりでは…。」

「じゃあどういうつもりなんだよ?!」

 

 言い合いをするガスとラビを大地は交互に見る。年長者の言葉の受け売りとはいえ、2人がそんなことを考えるようになったことに少なからず驚きを感じていたのだ。そして大地も考える。

 

(良いも悪いもあるからこそ、この世界は成り立っているってことなんだな…。良いことだけ、正義だけを求めているだけじゃダメなんだ……だけど…。)

 

 大地は闇の魔動石を見つめた。闇の魔動石は大地たちの魔動石と違い、紫色を更に濃くしたような真っ暗な色合いで底知れぬ闇を連想させる。

 

「少しでも、ほんの少しでもいいから、悪いものを良いものに変えられたらいいのにな…。」

 

「ボク変える方法知ってるグリ〜!!」

 

 ビックリして全員が声の主を振り返る。大地がボソッと呟いた言葉に答えたのは、なんとグリグリだった。答えながらピョンピョンと忙しなく広間を跳ね回っている(ハピは変わらず頭の上で大人しくしているが)。

 

「グリグリ?!なんでお前がこんなところにいるんだよ!!」

 

 ラビの言葉に、グリグリがピョンピョン跳ねるのを止めて大地たちの前に来る。珍しくムッとした顔をして。

 

「大地たちひどいグリ!!ボクを置いてけぼりにして出掛けたグリ!!ボクガンバって追いかけて来たグリよ!!」

 

 ムッとしつつも顔を歪めて目をウルウルさせるグリグリに大地たちは若干慌てる。女の子に泣かれるのはさすがに不味い。

 

「悪かったよ、置いてきぼりにするつもりはなかったんだけどさ…。」

「お前があんまり気持ちよさそうに寝てたからよ、起こすのワリィと思ったんだよ…。」

「すみません、グリグリちゃん。謝りますから泣かないでくださいね…。」

 

 大地、ラビ、ガスが声を掛けながら、グリグリの肩に手を置いたり頭や背中を撫でたりして、なんとか機嫌を直してもらった。

 

「それで?さっき言ってた悪いものを良いものに変える方法ってなんだよ?」

 

 ラビの問いに機嫌の直ったグリグリが、ホロレチュチュパレロと呪文を唱えた。すると、ボンッと音を立ててスケッチブックとクレヨンらしき物が出現する。

 

「何それ?」

「見ての通り、スケッチブックとクレヨンだよ。」

「グリグリちゃん、最近絵を描くのが趣味みたいですよ。」

 大地が覗き込みながら聞くとラビとガスが答える。

 

「ふぅん…。そんなの出してどうするんだよグリグリ?」

「これで魔動石を描くグリ!」

 

 そう言うとグリグリはスケッチブックを広げて床で絵を描き始めた。あっという間に魔動石を描き終えて一度大地たちに見せる。そこには真っ黒に塗り潰された魔動石だけがデカデカと描いてあった。

 

「まっくろくろグリ!だから白のクレヨンで上書きするグリ!」

 そして宣言した通り、白のクレヨンで黒の魔動石をグルグルと塗って再度顔の前に掲げて見せる。

 

「まっくろがグレーになったグリ!!」

「……そりゃそうだろ…。」

「……これが一体なんになるって…?」

 

「そうですか!わかりましたよグリグリちゃん!」

 大地とラビは今ひとつ理由がわからないが、ガスはわかったと声を上げる。

 

「何がわかったんだよガス?」

「オレたち、ちっともわかんねぇぞ?」

「つまりですね、グリグリちゃんは黒を悪いものに、白を良いものに例えたんですよ。嫌なもの、負の感情、悪の根源、そういったものを全て黒とすると、良いもの、正の感情、善の心が白になるんです。それらをグリグリちゃんがやったように黒を白で塗ると完全に綺麗になるわけではありませんが、少し黒が薄まったでしょう?それこそが、悪いものが少しだけ良いものに変わったということなんですよ。大地くんの質問の答えにちゃんとなってます。凄いですね、グリグリちゃん!」

「きゃわ〜ん!!」

 ガスに褒められて、グリグリは嬉しそうにほっぺを赤くする。

 

「そう言われれば、そうかな?確かに白で黒を塗り潰してグレーに変えるなんて発想はなかったな。」

「悪いものが気に入らねぇんなら、良いもので上塗りして少しだけでも良くすれば、許容範囲のものに変わるってことか。それも良いな、大地?」

「あぁ、そうだな!ありがとうグリグリ、なんかスッキリした!」

 

 素直にお礼を言うと更に嬉しそうにはしゃぐグリグリ。

旅のときもそうだったが、やはりこの少女には笑顔が一番似合うと、大地たちは思いながらグリグリを見つめていた。

 

 すると頭上からニンジン博士の声がした。

 

「お~い、魔動石の調査はそれぐらいにしてそろそろ上にこんかい!!」

 驚いて上を見上げると、ニンジン博士が塔のそこそこ上の方の壁に空いた窓らしき所から身を乗り出して手を振っていた。

 

「ニンジン博士!!どうやってそこまで上ったの?!」

 大地が声を張り上げる。

 

「壁に隠し階段があってのう!そこから上に螺旋状に上がることが出来るんじゃよ!ガスくんとラビくんは知っておるじゃろ?2人に案内してもらうとええ!それとな、途中に隠し部屋が幾つもあるんじゃがそっちも見てみんか?」

「隠し階段に隠し部屋?!そんなものまであるの?!すっごい!!まるで忍者屋敷みたいだ!!ガス、ラビ、早く行こうよ!!」

「きゃわーん、面白そうグリ!!ボクも行くグリ!!」

「おお、上で待っとるからの!!ハリーアップ、ハリーアップじゃ!!」

 3人に急かされて、ガスとラビは顔を見合わせて肩をすくめる。

 

「わかりました。案内しましょう、こちらです。」

 ガスが先導し、ラビがサユリとシャマンたちに声を掛ける。

 

「母さんたちも行く?」

「いえ、母さんはもう少し下を調べようと思います。この部屋の壁に文字が彫られているのですが、どうやら古代魔法文字のようで解読するのに時間がかかりそうなんです。」

「それならばワシが手伝おう。何が書かれているのかワシも気になるのでな。」

 ナブーの申し出を断る理由もなく、サユリはよろしくお願いしますと頷く。

 

「ふぅん、そっか。シャマンとエヌマは?」

「我々は上に行こうと思う。塔の内部が気になるからな。」

「文字の解読は2人に任せるわ。案内頼むわよ。」

「わかったぜ、着いて来な。」

 

 ラビの後をシャマンとエヌマが続く。

階段の入り口は、ガスが壁を押して一度上に持ち上げてから横に引くことで出現した。 

 

「すっげぇ!!こんなふうにして開くんだ!!ねぇねぇ、この入り口ってどうやって見つけたの??誰が見つけたの??」

「うるっせぇなぁ、ちょっとは落ち着けよ大地。」

「この入り口はラビくんが見つけたんですよ。ここだけ壁の模様が他と少しばかり違うことと、叩いたときに音が違って聞こえることにラビくんが気付いてくれたから、見つけることが出来たんです。」

「へぇ、凄いじゃんかラビ!!まるでプロの探検家みたいだな!!」

「まっ、まぁな。オレにかかればざっとこんなもんさ!」

 

 大地のはしゃぎように、げんなりしていたラビだが褒められると途端に得意気になる。大地は特に気にもせず、よぉし行くぞ、と入り口を入ってすぐのところにあった階段を昇ろうと足を踏み出した。

 

「あっ、おい、最初の段は落とし穴になってっから踏むと…。」

「うわぁっ!!」

「危ない、大地くん!!」

 間一髪のところでガスに腕をつかまれて事なきを得る。

「さっ、サンキュー、ガス」

「どういたしまして。」

「……落ちるから気をつけろよって言おうとしたんだが………言うの遅かったか?」

「遅いって!!もっと早く言ってよ!!」

 

 後ろを振り返ると1段目が抜けて穴がぽっかり空いていた。覗き込んだが底が見えず、相当深いことがわかる。

 

「なんだってこんな罠みたいなのがあるんだよ?!」

 大地がおっかなビックリ言うとラビが淡々と答える。

「ニンジン博士が言うには、侵入者を阻むための本物の罠らしいぜ。他にも色々あったからな。」

「ええっ?!こんなのがまだあんの?!」

「大丈夫ですよ、大地くん。私たちがすでに全ての罠を確認しましたから、注意して進んで行けば罠にかかることはありません。」

 

「確認したって言うと聞こえはいいけれど、要するに全ての罠に引っかかったってことね?」

 ガスの言葉にエヌマが茶化したように言う。

「いえ、そんなことは……あれ?でもそういうことなんでしょうか……言われてみれば、そんな気も……。」

「ガス、真に受けて墓穴掘ってんじゃねぇよ…。」

「あはは…すみませんラビくん。」

 

「……こんなところでいつまでも会話してるなら勝手にしろ。私は先に行く。」

「あっ、待ってよシャマン!俺も行く!」

「ボクも行くグリ!!」

 

 シャマンが大地たちの間をすり抜けて駆け足で階段を昇り始める(もちろん最初の段は飛び越えて)ので、大地とグリグリも駆け足でその後に続く。

 

「おい、待て!!お前ら罠の場所わかんねぇだろうが!!」

「罠の場所には私たちがバツ印をつけておきましたから、バツ印のところは触らないでください!!」

 

 ラビとガスが慌てて声を掛ける。数十段昇ったところで大地とシャマンが振り返る。

 

「えっ?バツ印??」

「そんな印見当たらないぞ。」

「あったグリ〜!!」

「何?」

「ウソ、どこ?!」

 

 いつの間にかシャマンを追い越して更に数十段先にいたグリグリが壁を指差している。そこには確かにバツが書かれた小さな正方形の紙がペタリと貼ってあった。

 

「おいグリグリ、その印は触っちゃあ…!」

「触ればいいグリね〜!!そいじゃあ行ってくるグリ!!ホロレチュチュパレロ!!マジカ〜ルしゅんそく〜!!」

 

 大地の制止の声を真逆の意味に捉えたグリグリが呪文を唱えると、グリグリの足が目にも止まらぬ速さで回転し始めた。

 

「バツいっぱい押してくるグリ〜!!」

「えっ、おい、待てっ!!」

 

 バギューーーーーン!!!!

 

 引き止める間もなく、グリグリが物凄い勢いで階段を駆け上がって行った。そして……。

 

 ポチッとな、ポチッとな、ポチッとな、ポチッとな!!

 

 上の方で何かを押しまくるグリグリの声が聞こえた。

 

 と思った次の瞬間。

 

「うわぁ!!!!」

 

 大地のすぐ横の壁から矢が無数に飛び出してきた。当たると思った寸前に、シャマンが大地を抱えて空中に飛び上がったことで難を逃れる。と思ったら、今度は天井から火炎放射器が出現し火を吹いた。これもシャマンが大地を抱えながらも身を翻して何とか躱して階段に着地する。が、着地した途端、階段の踏み板がパカッと外れて尖った剣先が4本バッと出現するので、下の段に降りてこれを躱すが、下の段を踏むとまた踏み板が外れて剣先が出現し……を3〜4回繰り返したところでようやく止まった。

 

「あっ、ありがとシャマン…。」

「どうってことはない。だがあのガキ……一体いくつ罠を作動させたんだ?!」

「多分全部…。」

 

 ギロッ。シャマンが大地を睨む。

 

「俺のせいじゃないよね?!」

「お前のせいだろうが!!」

 

「ちょっと、どうなってるのよ!!罠が次から次へと出てくるじゃない!!」

「お前らバツは触んなって言ったろうが!!」

「何があったというんです?!きちんと説明してください!!」

 2人が同時に叫んだ直後、エヌマ、ラビ、ガスが上がってきて合流する。

 

「グリグリがバツを押しまくるとか言って駆け上がって行っちゃったんだ!!止める暇なんかなかったよ!!」

 シャマンに下ろしてもらった大地が弁解すると、ラビが額に手を当てる。

「ったく、あのお転婆が…!」

 

 ズギューーン!  バシャーーン!!  ドドーーン!!!

 

 上ではまだグリグリがバツ印を触りまくっているのだろう。とてつもない振動と音が下の階まで響いてくる。

 

「ガス、グリグリのお気に入りのアレ、今持ってるか?」

「はい、ちゃんと持ってます。ラビくんこそグリグリちゃん専用のアレを持ってきてますか?」

「当然、抜かりはないぜ!」

 

 ラビとガスは頷き合うと、ラビは空中に手を伸ばし、ガスはポケットに手を突っ込んだ。するとラビの手にはオレンジ色のメガホンが、ガスの手にはオレンジ色の包み紙の小さな棒付きキャンディがそれぞれ握られていた。

 

「?何それ?」

「まぁ、見てろよ大地!」

 一度深呼吸してから、ラビがメガホンを口に当て叫ぶ。

 

「おーーーーい!!!グリグリーーー!!!聞こえるかーーー!!!」

 

 そしてメガホンを反対にすると、メガホンの中からグリグリの声が聞こえた。

 

「聞こえるグリよーーー!!!」

 

 再度メガホンを口に当てて叫ぶ。

 

「バツはもういい!!!マルを探して触れ!!!そしたらガスがご褒美に飴くれるってよ!!!」

 

 再度メガホンを反対にする。

 

「アメほしいグリ!!!わかったグリ!!!

 

 

  マルあったグリーーー!!!ポチッとなグリ!!!」

 

 グリグリの言葉が聞こえた瞬間、塔を揺るがすほどの振動も音も全く聞こえなくなった。と、上からグリグリが一目散に降りて来た。

 

「マル押したグリ!!アメちょうだいグリ!!」

「よく出来ましたね、グリグリちゃん。約束のご褒美ですよ。」

 そう言ってガスが持ってたキャンディを渡すと、グリグリは嬉しそうに受け取り、オレンジの包み紙を取って美味しそうに舐め始める。中の飴もオレンジ色だった。

 

「どういうこと?」

 大地が聞くと、ガスが答える。

 

「グリグリちゃんが最近、マジカル瞬足という魔法を使うようになりまして。足が物凄く速くなる魔法らしいのですが、一度この魔法を使って鬼ごっこをしたところ、ラビくんが負けるほどの速さだということがわかったのです。」

「ええっ!!ってことは、100メートルを5秒で走るより速いってこと?!」

「そういうことになりますね。今まではラビルーナでも月面でも、グリグリちゃんがあっちこっちにいなくなってもラビくんが連れ戻していたのですが、そのラビくんより速いとなると、さすがに手に余ることになります。」

「だからこっちも対策立てることにしたんだよ。このメガホンで呼びかければ、グリグリがどこにいてもちゃんと声が届くし、そのキャンディはニンジン味で最近のグリグリの一番の好物だから、その飴をやるって言えば、どこにいても必ず戻って来るのさ。」

 とラビも答える。

 

 へえぇ、と大地は感心しつつ、この1年で随分変わったなと多少の驚きも感じた。

 

「それで?さっき言ってたマル印って何なのよ?」

 エヌマがラビたちが話し終わるのを待ってから聞くと、ガスが答える。

 

「全ての罠の解除スイッチですよ。マルの印を付けた所に触れると、それまで発動していた罠の全てが一時停止するのです。次の発動可能までに1日程かかるみたいなので、もうバツ印を触っても問題ありません。」

「ならば、バツ印を触る前にマル印を先に触っていればバツ印に気をつけて進むこともなかったということか?」

 

 シャマンの問いに今度はラビが答える。

 

「その通りなんだがマル印は1つだけで、しかもあるのは最上階に近い階段の壁。その間には床やら壁やらにたくさんの罠が仕掛けられてるんだ。だから多少面倒でも、バツに気をつけて進む方が得策なんだよ。」

「グリグリちゃんの場合、全ての罠を作動させながら最上階近くまで昇っていたので、マル印を押すことが出来たんですね。」

「おもしろかったグリ〜!!」

 

 本気で罠の発動を楽しんでいたらしいグリグリが元気よく言うが、大地もシャマンも先程の危険スレスレの罠のせいで笑う気になどとてもなれず、顔を見合わせてため息を同時につく。

 

「お~い!!何をモタモタしとる、はよこんかい!!」

 

 と、ニンジン博士の声が聞こえてこなければ、再度階段を昇る気になどなれず立ち止まったままに違いなかった。

 

「先に行くわよ、シャマン?」

「……勝手にしろ。」

「グリグリちゃんは私と行きましょうか。」

「わかったグリ〜!!」

「大丈夫かよ大地。手でも引っ張ってやろうか?」

「……いいよ、自分で昇る。」

 

 茶化すように言いながら差し出してくるラビの手を軽く払い、大地も昇り始める。いくら疲れていたとしても、リードされたままなんて冗談じゃない。自分にだってプライドがあるのだ。

 

 階段の途中に幾つかあった隠し部屋の入り口も、階段の入り口同様に開けて入ったが、ただの空間だったり、空の戸棚や誰かが使っていた痕跡が僅かにある埃だらけの机やら椅子やら簡易用のベッド等があるだけで、めぼしい物は何もなかった。

 

「ニンジン博士が仰るには、この塔に住んでいた耳長族の居住空間だったのではないかとのことです。」

「隠し部屋になっていたのは、敵に見つからないようにするためらしいぜ。罠を仕掛けたのも敵対策っつーわけだな。」

 

 闇の塔が建設されたときと耳長族の間で内戦が勃発したときが重なっているとするならば、ニンジン博士の仮説も信憑性が出てくる。ということは、この塔に暮らしていた耳長族がシャマンたち邪動族の先祖であった可能性もでてくるというわけで。でも、だからこそ、何も残っていないことが大地には残念でならなかった。

 

「残念だったねシャマン、エヌマ。せっかく闇の塔まで来たっていうのに、何もなくて…。」

 

 せめてご先祖の形見になりそうな物でも残っていれば…と大地が思いながら言うと、シャマンとエヌマは目を見開き、フッと笑った。

 

「何もないわけがないだろう。ちゃんと残っているではないか。」

「えっ?」

「そうよ。この闇の塔、隠し階段に隠し部屋、たくさんの仕掛けられた罠たち…それら全てがこの塔であたしたちの先祖が暮らしていたという何よりの証拠じゃない。」

「我らをここに連れてきてくれたこと深く感謝する。ありがとう、光の戦士たちよ。」

「ホントに…ありがとう。心からお礼を言うわ。」

 

 優しく微笑まれ、真っ向から感謝の言葉を述べられて…。

大地はもちろん、ラビもガスも頬がカァッと熱くなった。

 

「…何赤くなってるのよ?」

「…っ、テメーらが、いきなりんなこと言いやがるからだろ…!」

「……さすがに照れ臭いです…。」

「……っ、照れるほどのことでもないだろう!顔を赤くするのをやめろ、今すぐ!」

「無茶言うなよシャマン!」

 

 大地たちが照れたように顔を赤くするのを見て、エヌマもシャマンもなんだか恥ずかしくなってしまって、赤くなったであろう頬を隠すように顔を背ける。

 

「みんな真っ赤っ赤グリ〜!!!」

 元気で変わらないのはグリグリだけだった。

 

 そんなときだった。ニンジン博士の声が上の階から響いてきたのは。

 

「お~い!!みんな早く来るんじゃ!!大発見、大発見じゃよ!!!」

 

 興奮気味なその声に、何事かと大地たちは急いで階段を駆け上がった。大地たちがいた部屋よりもさらに上の隠し部屋の中にニンジン博士の姿を見つけて、大地が真っ先に駆け寄る。

「ニンジン博士、どうしたの?」

「おお大地くん、それに皆も、はよ見てくれこれを!!」

 続いてラビ、ガス、それにシャマン、エヌマも博士の手元を覗き込んだ。

 

「何だそれ?」

「何ですかそれは?」

「石板のようだが…。」

「文字が書いてあるわね。」

「この石は床板に使われていた物じゃよ。材質が他の床と違うのが気になってのう、調べてみると動かせることがわかったんじゃ。そしてひっくり返してみたところ、文字が刻まれていたというわけじゃ!」

 

 刻まれているその文字には少しばかり見覚えがあった。どこで見たんだっけ、と考えたところで大地は唐突に思い出した。

 

「博士!その文字って、ゾーラクラウンの石板と同じだよね?!」

「そうなんじゃよ!!大広間の壁に書かれた文字とは違って、この文字ならばワシが読み解くことが出来るんじゃ!!」

「それで、なんて書かれてるんだよ?」

 

 ラビが聞くと、ニンジン博士がフムフムと石板を読み始めた。

 

「フム…。やはり完全な解読は研究所の資料が必要じゃが、ある程度なら読めるぞ。えーと…………ここに記す内容は、誰にも知られてはいけない、だが誰かに知ってほしい、私の想いを………と書かれておる。どうやら日記のようじゃな。」

 

 日記…。全員が顔を見合わせる。

 

 この塔に住んでいたであろう誰かが誰にも言えず、けれど、どうしても残さずにはいられなかった想いを綴り、見つかることを恐れて誰にも見つからないように隠していた日記…。

 

 だとすると…。

 

「他にもあるかもしれませんよ、床板に偽装された石板が。」

 ガスの言葉に全員が頷く。ニンジン博士も再度興奮の声を上げる。

「そうと決まれば善は急げじゃ!!みんなで隠し部屋の中を探すんじゃ!!だが床板とは限らん!壁、天井、棚や机、この石板と同じ材質の石やこれが隠せそうな場所をくまなく探すんじゃ!!」

「面白そうだな!なんか宝探しみたいじゃん!」

「きゃわーん!!面白そうだグリ〜!!」

「オーイエス!!その通りじゃよ大地くん!!まさにこれは耳長族が残した宝じゃ!!ワシらに残してくれた宝じゃ!!エクセレント!!ファンタァスティック!!これぞ時代を超えた巡り合わせじゃ!!」

 

「よーし、それじゃあみんなで手分けして石板を探そう!」

「仕切ってんじゃねぇぞ大地!」

「まぁまぁ。では、私は下の階を調べてきますね。」

「ボクも行くグリ!!」

「なら、あたしとシャマンは上を探すわ。」

「あぁ。見つけ次第、下の大広間に移動させよう。」

「でもシャマン、この石板重そうだよ?持ち運ぶの大変じゃない?」

「それなら心配いらんぞ。大地くん、持ってみたまえ。」

「えっ?うん……よいしょ、ってあれ?!軽い!!」

 見た目に反して持ってみると意外に重くはなく、1人で持ち運ぶくらいは出来そうで拍子抜けする。

 

「どうやら軽石と呼ばれる火山岩で作られておるようじゃの。月は元々火山活動が活発じゃったと言われておるからのう。」

「ええっ!でも軽石って確かマグマが冷えてその中に含まれる空気が固まったものでしょ?月には元々空気なんてなかったはずだよね?それに軽石は劣化しやすいとも聞いたよ?」

 

 そんな長い年月崩れることもなく刻まれた文字までそのままに残っているものなのだろうか、と大地が疑問の声を上げるとニンジン博士も首を傾げながら答える。

 

「そこに関しては何とも言えんが、まぁ耳長族のことじゃ。何かしらの魔法やら細工やらしていたのかもしれん。ともかく今は石板探しじゃ、ハリーアップ、ハリーアップ!!」

 ニンジン博士の言葉に取り敢えず納得し、一同は隠し部屋の中を探し回ることにした。

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