すると外では人だかりが出来ていた。皆が興奮の声を上げながら上空を見ている。大地たちも何事かと空を見上げて、目に飛び込んできた光景に言葉を失った。
「……あれって、虹…?」
「……どう見ても、虹、だよな…?」
「……けれど、今は夜ですよ…?」
「光ってるグリ!!きれいグリ〜!!」
大地、ラビ、ガス、グリグリの言う通り、暗い暗い夜空に大きな大きな七色の虹がぼんやり光っているのが見えた。シャマンがコートから小型のタブレットを取り出して地球のニュース情報を見る。
「どうやらムーンボウと呼ばれる現象らしいな。ここ10日ばかりの間に何度か目撃されているようだ。」
「だけど俺、ずっと日本に住んでるけど、こんなの今まで見たこともないよ?」
なんだって最近になって、と大地が疑問に思いながら言うと、V‐メイがおそらく祭典の影響だろうね、と言った。
「祭典で虹龍が発した虹のエネルギーが、ラビルーナから溢れ出て月面に満ちて、そして月面からこの地球へ降り注いだからなんだろうさ。」
月で虹が見られなかったのは月の地面に染み込んでいたからで、地球で虹を見ることが出来たのは虹のエネルギーをたっぷり蓄えた月を遠くから見ているからなんだという。
そんなものかなぁと思いながら、大地たちは再び空を見上げる。月の光に照らされて浮かび上がる半円の虹は確かに幻想的で…。すると何を思ったのか、シャマンがポケットからオルゴールを取り出してスイッチを入れた。
神様の曲、祭典でもずっと演奏されていたあの曲。美しい調べが夜の空に響いていく。周囲の人たちの目線が一斉にこちらに向いて、大地はシャマンの袖を引っ張る。
「ちょっと、シャマン!急に音楽流したりしてどうしたんだよ?!恥ずかしいからスイッチ切ってよ!」
「恥ずかしがる必要などない。綺麗な曲ではないか、じきに周りの奴らも気にならなくなるさ。」
確かにその言葉通り、しばらくするとこちらを見ていた人々は視線を虹に戻していった。
「ほらな。」
「………けどなんで今オルゴールを…?」
「深い意味はない。ただ思い出しただけだ。祭典でのことを、ナブーが蘇ったときのことをな…。」
その言葉にエヌマとナブーは驚いてシャマンを見つめる。前よりは表情が豊かになってきたが、こういうときのシャマンは相変わらず何を考えているのかいまいち読み取れない。
エヌマは、そんなシャマンをもどかしく思いながら見つめていたが、シャマンの言葉でナブーにずっと聞いてみたかったことがあったことを思い出し、聞くことにした。
「………ねぇ、ナブー。あなた、あの龍に呼ばれたときのことやそれ以前のこと覚えてるの?」
ナブーは少し思案する。
「……ワシはずっと光のない暗い所にいた。そこで恨みや怒りの感情に心臓を押し潰されてしまいそうな、そんな苦しみを味わっていたが、それはその空間が苦しみを与えているというよりは、ワシ自身の心がずっと苦しみに囚われているような、そんな状態だった……。だがな、ずっと見ていたぞ……戦いの結末、ラビルーナや月面で起こった今日までの出来事、そして、お前たちのことも……。」
最後の言葉は、シャマンやエヌマだけではなく大地たちにも向けられた。
「虹龍の声が聞こえたとき、同時に音楽も聴こえてきたのだ。その音楽を聴いていると、今まで感じていた苦しみや怒りや恨みの感情が嘘のように消え去り、不思議と心地よい、安らいだ気持ちになったのだ。」
それがその音楽だ、とシャマンの持つオルゴールを見ながらナブーは言った。シャマンは納得したように頷く。
「なるほどな。さしずめ、この音楽は鎮魂曲といったところか。」
「レクイエムってなんだよ?」
ラビが首を傾げながらシャマンに聞く。
「ちんこんきょくのことだ。魂を鎮める曲と書く。」
シャマンが答えながら、グリグリにオルゴールを渡す(グリグリがシャマンの持つオルゴールを先程から熱心に見つめてくるので)。グリグリは嬉しそうに大地のオルゴールを受け取り見入っている。
「魂を鎮める…?」
大地が呟くように言うと、今度はV‐メイが答える。
「祭典のときにその曲を特定の楽器で演奏して流すのはね、虹龍を呼び寄せるためと迷い苦しむ魂たちに安らぎを与えるためでもあるんだよ。確かに、鎮魂曲と言っても差し支えはないね。」
ふぅん、と大地たちは思いつつ、ふと祭典で魂たちを導いて行ったあの虹龍のことを思い出す。
「綺麗だったよなぁ、あの龍…。」
「あぁ、あんな龍がこの世界にいたなんてな…。」
「ホント、驚きですよね…。」
「じーさん、生まれ変わるんだったらああいう龍に生まれ変わればいいのにな…。」
「ええっ、龍に生まれ変わるなんて、そんなこと出来るの?!」
ラビの突然の言葉に大地が目を見開く。
「知らねーよ、例えばの話だ!」
「ですが、本当にそうなったら素敵ですよね!ラーマスさんは何色の龍がいいんでしょう?」
「俺だったら赤がいいな!」
「オレは断然青だな!」
「私は緑がいいです!」
いきなり龍の色について語り出した大地たちに、V‐メイはもちろん、シャマンたちも呆れ返る。
「お前たち、自分の魔動王の色を龍に当てはめてどうするというのだ…?」
「赤だよ!」
「青だ!」
「緑です!」
シャマンの言葉に耳を貸す様子もなく、終いには言い合いみたいになってしまっている大地とラビとガス。V‐メイとシャマン、エヌマ、ナブーは珍しく顔を見合わせて、同時にやれやれと肩をすくめた。
「ボクニンジン色がいいグリ〜!!」
相も変わらず無邪気なのはグリグリだけだった。
(その数年後、地球と月の間を銀色に輝く龍が、まるで2つの星を守るかのように飛ぶ姿を大地たちは見ることになるのだが、このときはまだそんなことを知る由もなかった。)
そして、大地の夏休みはあっという間に過ぎていき、季節は変わって秋になった。待ちに待った秋休み。ラビから貰った手紙を持って、大地はスペースタワーに向かっていた。
『遥大地くんへ。お元気ですか? なんちゃって!
よぉ大地、元気してるか?
この間の夏休み以来だな!
魔動石の調査を行う、至急月面まで来られたし!
なんてな!ガスはもちろん、シャマンたちも
来るぜ!ニンジン博士も大地が来るっつったら
喜んでたぜ!絶対来いよ、待ってるからな!
追伸:別にこれラブレターじゃねぇからな!!
ラビより。』
「ふっ、ラビのやつ、ばーちゃんたちに何か言われたな。」
これじゃあ墓穴を掘ってるようなものだと、大地はクスクス笑う。けれど、自分も締まりのない顔をしていることはわかるため、パチンっと両頬を叩いてよしと気合を入れる。
シャトルに乗り込むと、大地はシャトルの搭乗員にパスを見せた。
「僕、遥大地!中学2年生、月まで行きまーす!」
END
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
本日の更新をもちまして、『月虹の鎮魂曲と光の仲間たち』は、これにて完結となります。
聖地ルナからの家出(駆け落ち作戦)から始まり、宇宙を巡る大冒険、邪動士たちとの再会、そして真実の祈り……。大地とラビのいつものギャグ掛け合いの雰囲気を大切にしながら、二人の絆が深まっていく姿を最後まで描ききることができて、グランゾートのファンの1人として、とても嬉しく思います。
大地たちの冒険はこれからも続いていきますが、ひとまずここで筆を置かせていただきます。
少しでもお楽しみ頂けていれば幸いです。本当にありがとうございました。