ルナ・トーキョーの中心で、人が最も多く集まる場所に来た大地とラビは、取り敢えずお腹が空いたので、ハンバーガーショップに寄って昼食を食べていた。
「考えてみれば、朝から祭典の準備で忙しくて碌に食べれてなかったんだよな。」
「俺も、久しぶりにみんなに会えるって思ってたら、夜眠れなくて朝寝坊して、朝ご飯食べそこなっちゃったからさ。」
時計を見るとちょうど10時をさしており、昼食には早く朝食にしては遅いこの時間。人が多い中心地とはいえ、ショップの中に人は数人しかいなかった。
「それで、ラビ、俺たちこれからどこに行くんだ?お金だってそんな持ってないんだし、あんまり遠くには行けないぜ。」
ハンバーガーを食べながら大地が言うと、飲み物を飲んでたラビが顔を上げる。
「金なら心配ない。この前月面に来たときに独楽回し勝負をやってて、10分間に参加者全員の独楽を倒し、なおかつ自分の独楽を最後まで回し切ることが出来た者には、賞金1万ムーンドル出すって言うから、参加したんだ。」
「……それで勝ち残ったわけか。さすがだなラビ。」
「まぁ、オレって天才だからな!向こうもまさかホントに勝ち残るやつがいるとは思ってなかったみたいでよ、泣く泣く賞金をオレに渡してたぜ?ああいう金は、優勝者が出なければ大抵は企画したやつのもんになるって決まってるからな。まっ、相手が悪かったよな。お生憎様って言ったら、膝から崩れ落ちてホントに泣き出しちまってよ、参ったぜ。」
「……あっ、そう…。だけど、そんな大金を普段から持ち歩いてるのか?」
「いや、普段は魔法でオレ専用の金庫に仕舞ってるんだ。魔法さえ使えれば、いつでも取り出し可能だぜ。ただし、オレが、魔法を使う必要があるけどな。」
「ナルホド、それは便利だな。」
そこまで言ったあと、大地はラビが言ったことを思い返して、ん?と疑問が湧く。
「ちょっと待てよ、ラビ。お前、この前月面に来たって言ったけど、この前っていつだよ?」
「んーと、1ヶ月くらい前かな。」
「1ヶ月前!?」
大地は思わず大声を上げる。周囲が何事かと2人を見るが、2人が大人しくなったのを見て視線がそれる。
「大地うるさいぞ。」
「ゴメン。だけどさ、なんで月面に?」
また大声にならないよう気をつけながら、大地が聞く。
「1年前の事件のあと、ニンジン博士が闇の塔や魔動石を調べてわかったことを色々と教えてくれたんだよ。」
ラビの話をまとめるとこうだ。
あの闇の塔はラビルーナにある光の塔と対になる存在であり、闇の塔で見つかった魔動石も大地たちの魔動王が有している魔動石と対になる存在である。
大地たちの魔動王の魔動石は、光の魔動石。闇の塔にあった魔動石は、闇の魔動石。
光の魔動石は正しき心に反応し、闇の魔動石は悪の心に反応するのだという。
「海賊のボス、グレコ・ノーマンが悪しき心を持って、ダークグランゾートを操ろうとしていたから、あの闇の魔動石はより強い力を発揮したんだろうって話だぜ。じゃなければ、いくらオレたちから魔動力を奪ったって、人間が扱えるような代物じゃねぇからな。」
ラビの説明を聞き、大地は自分が魔動力を奪われる直前、グレコ・ノーマンに言われたことを思い出した。
ーーそうそう、いやその調子でこの私を憎むが良い。君が私を憎めば憎むほど、君の光の魔動力は闇の魔動力に近くなっていき、我々の魔動王に相応しい力になっていくのだーーー
「おい、大地、大丈夫か?」
ハッとすると、ラビが眉を寄せながらこちらを見ているのに気づく。
「あぁ、ゴメンゴメン。大丈夫だよ。」
大地は、なんともないと言わんばかりに笑いながら言う。そして、人間は誰しも邪動族になり得ると言ったニンジン博士の言葉も思い出した。憎しみと怨みの気持ち、人間なら誰しも持つ可能性のある感情。
実際、あのときの大地は、確かにグレコ・ノーマンに対して憎しみの気持ちを抱いた。ラビたちが危険に晒されて、ガスの無事も確認できていなかった状況下、怒りに身体が震え、どうにかなりそうだった。そのときのことを思い出したくなくて、大地は話を戻す。
「それで、その魔動石とラビが月面に来ることと何の関係があるのさ。」
「今、魔動石は闇の塔に戻してある。一応、もう誰にも盗まれないようにニンジン博士が色々と手回ししてくれたが、それでもいつ、悪しき心の人間の手に渡るとも限らない。それにあの魔動石は、今でこそもう何の力も持ってないが、悪い心が近寄るだけで、悪の反応を示す恐れのある代物だ。だから、見張る必要があるのさ。」
「見張る?」
「あぁ。魔動石が闇のパワーを宿していないかどうかをな。」
「……闇のパワーを宿すとどうなるんだよ?」
「宿ったパワーの強さにもよるが、大体は人間の悪意の増幅だそうだぜ。」
「悪意の増幅って?」
ゴクリと唾を飲み込み大地が聞くが、ラビは大したことはないというふうにストローに口をつける。
「要するに、人間たちが心の中に持っている悪意といった負の感情を爆発させるのさ。普通は、そういうマイナスの感情があっても、理性やプラスの感情で押し留めているが、闇の魔動石は、それを破綻させる。取り憑かれる人間が増えれば、戦争くらい簡単に起きるぜ。」
「そんな!!」
大地は大声こそ抑えているものの、今にも椅子を倒して、立ち上がらんばかりの勢いだった。
「落ち着け。だから、オレが来てるんだ。」
「……どういうことだよ。」
「見張りだって言っただろ。普通の人間には魔動石に闇のパワーが宿ってるかどうかなんてわからねぇ。だが、魔動力を持つ者なら感じ取れるんだ。だから、オレが1ヶ月に一度、魔動石の様子を見て、変化がないかを調べてるんだよ。ガスにも手伝ってもらってな。」
「えっ!じゃあ、ガスとはよく会ってるの?!」
「だから1ヶ月に一度!魔動石の様子を見るときにな。」
大地は唖然とした。ラビルーナと月面は本来、交わってはいけないと聞かされていたのに、魔動石調査と称してラビは月一の割合で月面に来て、なおかつ、ガスとも会っていたなんて……。
だが、その話を聞いて潔く理解する。
(あぁ、だから再会したとき、ラビとガスは簡単な挨拶だけだったのか…。)
空港の前でガスと合流し、聖地ルナへの入り口が近い、闇の塔に向かっていたとき、ラビがこちらに走ってくるのが見えた大地は、
「ラビーーーー!!」
と大声で名前を呼びながら一目散にラビへと駆け出し、対するラビも大地の姿を認めるやいなや、
「大地ーーーー!!」
と走るスピードを一気に上げて、大地に飛びついて来たのだ。
2人で抱きしめ合いながら、再会を喜んでいたら、後ろから来たガスに気付いたラビが、ガスに対して片手を上げて「よぉ、ガス!」
と挨拶し、ガスも
「やぁ、ラビくん。」
と片手を上げて挨拶を返したが、2人はそれだけだった。
1年ぶりに会ったはずなのに、いくらなんでもアッサリし過ぎなのではないか、と大地は不思議に思っていたのだ。
疑問は解消したが、同時にモヤモヤとした感情が新たに渦巻いてきた。
自分は1年に一度の限られた期間しか会えないのに、月に一度も会うことが出来る2人が羨ましく思えたのだ。
自分だってもっと頻繁に会いに行きたいのに、簡単に行ける距離ではなくて。だけどそれは、ラビとガスも同じだと思っていたのに……なんか仲間外れにされたような、疎外感のようなものを感じてしまう。そんなことはないと、わかっているのに……。
「………。」
黙りこくってしまった大地を見てラビは、大地が考えていること、その心情を察して複雑そうな表情を浮かべる。
会いたいと思っていたのは大地だけではないのにと。自分だってガスだって、今日大地に会えるこの日を、どれだけ心待ちにしていたのかと。
伝えたいことはいっぱいあるのに、女の子をナンパするときはいくらでも言葉が浮かぶのに、生憎こういったときには何を言えばいいのか、皆目見当もつかないのだ。
「………大地。」
意を決してラビが呼ぶと、大地は目線を彷徨わせるが、ラビを見ようとしない。誰が見てもわかるほど、沈んだ表情をしている。
「そんな顔しないでくれ、頼むから。オレは、お前に、笑っててほしいんだよ。」
「えっ?」
驚いて思わずラビを見ると、ラビは顔を少し赤くしながら続ける。
「第一、今はオレと駆け落ち中ってことなんだぞ!それなのに、なんだってそんな、辛気臭い顔をしてるんだよ!マザコン坊やは、オレたちに会えなくて寂しかったかもしんねーけどな、今は少なくとも、オレを独り占め出来るんだぞ!こんな機会またとないんだからな!」
言ってることはメチャクチャだが、ラビがなんとかして自分を励まそうとしているのだということは、理解出来た。
必死に言葉を探すラビに可笑しくなってしまい、大地はクスッと笑って言う。
「確かに、今はラビを独り占め出来てるけどさ、ガスはどうするの?俺、ガスと会うのも1年ぶりなんだけど??」
ニヤニヤ笑いを浮かべて言うと、大地の調子が戻ったことに気付いたラビは、ふんっとそっぽを向く。
「知るかんなもん!」
心なしか耳が赤い。その様子を見て、大地はまたクスクスと笑う。心の中のモヤモヤとした暗雲は消え去り、秋晴れの青空のような気持ちになるのを感じた。
「ラ〜ビ〜。」
「なっ、なんだよ?!」
「ありがとな!」
さっきまでの沈み込んだ表情は何処へやら、満面の笑みを浮かべてラビに言う。
「〜~〜!!!」
自分に向けられた感謝を、笑顔を、真正面から見てラビは完全に照れてしまい、言葉に詰まる。
「あ~れ~どうしたんだよ、ラビ?顔が赤いよ、ラビ?」
「うるっせーぞ!大地!!」
「ラビの方がうるさいじゃんか(笑)」