事のあらましを予定通りに(嘘も交えながら)話すと案の定、大地の家族には、微妙な顔をされてしまった。それはそうだろう。
帰ってきたら、大地が友だちのラビにソファーに押し倒されており、友だち同士ではありえない距離感で見つめ合っていたあげく、実は2人は遠距離恋愛中の恋人同士であると聞かされて、大地が月面にくる今日ようやく逢瀬が叶ったので、大地が月面に滞在するこの2週間を2人きりで過ごさせて下さい、とラビに頭を下げられたのだ。
面食らうな、という方が無理な話である。
「えっと、その、いいかい2人とも。」
大地のお父さんが、意を決して2人に話しかける。
「事情はよくわかった。だけど、お前たち2人は男同士なんだ。恋愛といっても単なるお遊びだと思っちゃ駄目だぞ。将来のことも考えないといけないし、単純な気持ちだとお互いに傷つくことになる。それをよく考えて付き合っているのか?」
さすがに父親の言うことには重みがある。が、ここで引き下がるようなら、ラビは始めからラビルーナを飛び出したりなどしていないし、大地も駆け落ちすることを引き受けたりなどしていない。
「男同士で付き合うのが大変なのは十分理解しています。でもオレは、いや、僕は大地を諦めるつもりはないんです。確かにこの先のことは、わかりません。でも、僕の気持ちが変わることはありませんから。大地はオレにとって、かけがえのない、1番大切なやつなんです。」
ラビ……。
大地はラビに、1番大切なやつと言われたことを、とてつもなく嬉しく感じた。たとえ、演技だとしても。
「母さん、父さん、じーちゃん、こんな報告になっちゃってごめんなさい。でも、俺もラビも本気だから。俺にとってもラビはホントに大切で、絶対に失いたくない人なんだ。だから、ごめんなさい。みんなになんて言われようと、俺は、俺は、ラビを、諦めたくない……。」
最後の言葉は、ラビルーナの第1エリアで、ラビが邪動族に連れ去られたときのことを思い出して言った言葉だった。
ーーー大地ー!
悲痛なラビの声が脳内に木霊する。
ーーー待てーー!!
急いで追いかけたが、結局間に合わず、大地は拳を握りしめた。悔しさに、己の無力さに、涙が滲んだ。ラビは、自分にあとは任せる言ってくれたのに、連れ去られる間際、自分のことを、呼んでいたのに……。
ーーーラビーー!!
「っ!!大地?!」
ラビのビックリしたような、焦ったような声に、ハッと我に返る。そこで大地は、自分が泣いていることに気付いた。
「あっ、ゴメン、なんでもないよ。」
平静を装うが、涙を誤魔化せるわけもなく。だがその涙は、大地の家族には結構なインパクトがあったらしい。全員がギョッとして大地を見てる。
「兄ちゃん、泣いてるの?大丈夫?」
大地の弟が心配そうに兄の大地の顔を覗き込んでくる。いつも明るく元気な兄が涙を流しているのだ。心配するなという方が無理な話である。大丈夫だ、と大地は返すが、赤くなった目元は簡単には治らない。誤魔化すように目をゴシゴシ擦る。
「大地。」
今度は大地のお祖父さんが声を掛ける。
「お前の本気はわかった。お前がそれでいいと言うなら、ワシは特に気にはせん。好きにしなさい。」
ほれ、とティッシュ箱を大地に渡しながら言う。亀の甲より年の功とはよく言うが、祖父の懐の深さに感嘆する。
そして最後に、大地のお母さんが、大地に言う。
「いいこと、大地。よく聞きなさい。一度決めたことは最後まで全力で取り組むこと、後悔はしないように考えて行動すること、どんなときにも諦めないこと、そして……友だちや恋人といった、自分にとってかけがえのない人を、ちゃんと大切にすること。以上を守ることを条件に、2人の交際を、認めます。」
大地とラビは顔を見合わせて、拍子抜けする。拒絶や罵倒といった差別まではされないだろうと思ってはいたが、こんなにもアッサリ認めてもらえるとも思っていなかったのだ。
どうやら大地の涙には、相当な影響力があったようだと、2人で苦笑する。
「返事は?」
『はい!!』
母は強し、とは、まったくもってその通りである。
大地の家族との挨拶を済ませて、2人はホテルをあとにする(大地は念の為、グランゾートを呼び出すときのためにジェットボードを背負って持って行くことにした)。オレにかかればざっとこんなもんさ!と、変に得意げになっているラビと、ラビとの交際が親公認となってしまったことに、どう反応すればいいのかわからず、悩む大地。
そんな2人を、3人の魔法使いたちが一部始終見ていたことに、2人は全く気が付かなかった。