「ラビのやつ……!」
大地が、思いっきり、しかめっ面をしている。
なぜかというと……。
「いや~こんなところで、君たちみたいな可愛い子に巡り会えるなんて、オレって運がいいなぁ〜!」
ニコニコと鼻の下を伸ばすラビ。
ホテルを出て街を歩いていたら、3人の女の子たちから、声をかけられたのだ。
「お兄さんたち、どこ行くの?」
「この辺、初めて?良かったらあたしたちが案内してあげるわよ?」
「ねぇ~一緒にどう?」
いわゆる逆ナンである。
大地はこんなことは初めてのことで、どうすれば良いのかわからず困惑していたのだが、ナンパに慣れてるからか、逆ナンされた経験があるからなのか、ラビは意気揚々と女の子たちの輪に加わった。
会って数分でもう打ち解けてる。相変わらずだな、とため息をつきつつ、何故だか大地は面白くなくて、見ていたくなくて、顔を逸らす。
(どうしたんだよ、俺……。こんなのいつものことじゃないか……。ラビがナンパ好きで、女の子好きなんて今更だ。ラビルーナを旅していたときだって、何度もラビは可愛い女の子を口説いていたじゃないか……。)
自分でも、何故こんなに例えようのない気分になるのか、さっぱりわからない。ただ、いい感情ではないことだけは確かで……。面白くない……。今わかるのはそれだけだった。
「ねえってば!そっちの黒髪のお兄さん!」
「えっ?」
思考の渦に沈んでいたため、大地は女の子の1人が、いやに自分の近くに来ていたことに気が付かなかった。
近くで見ても改めて可愛い子だと思う。だが、それだけで、それ以上何かを思うかと言われれば、なんとも思わなかった。
「ねぇ~あたしたちと一緒しましょうよ!楽しいわよ?」
そう言いながら、大地の腕に抱きついてくる。香水の強い匂いがブワッと香る。上目遣いに至近距離でこちらを見てくる。
普通ならば、この状況は嬉しく思うはずのところなのだろうが、何故だか大地は急に頭の中が冷え切った気がした。そこまで強い力ではなかったはずだが、大地が掴まれていた腕を振りほどくと女の子はよろけた。
「おっと、大丈夫かい?」
ラビが女の子の肩を掴んで後ろから支える。
(こんなときでも女の子の心配とは、さすがだなラビ…。)
そんなどうでもいいことを考えながら、大地は踵を返す。
「おい、大地、どこ行くんだよ?」
「どこだっていいだろ。」
自分でもビックリするくらい冷めた声色だった。あぁ、自分ってこんな声も出せたのか、なんて頭の片隅で思う。
「俺はもう帰る。ラビはその子たちと遊んでたらいいじゃないか。駆け落ちの話も悪いけど、白紙に戻させてもらうぜ。なんならその子たちとでも駆け落ちすれば?可愛い女の子たちの方がよっぽど婚約破棄の言い訳に使えるんじゃねーの。」
じゃあな、そう言って大地は今度こそ、振り向かずに歩き出す。
「おい、待てよ!大地!!」
ラビが追いかけようとすると、ラビが支えていた女の子がラビの腕を掴んで、ホールドする。
「行かないでよ、あたしたちと一緒に遊んでくれるんでしょ?それにあの子、あたしに乱暴したのよ!」
「そーよ、そーよ!なんなのよ、こっちは親切で一緒に行こうって言ってるのに、あの子のあの態度は!まるで嫉妬じゃない?見苦しいのよ!」
「ホント。あんな子放っておいて、さっさと行きましょ!」
「ねぇ、ちょっと聞いてる……きゃあっ!」
ラビの腕を掴んでいた女の子が悲鳴を上げ、尻もちをついた。ラビが、さっき大地が振りほどいたのとは比べ物にならない程の強い力で、掴まれていた腕を振りほどいたのだ。
女の子たちが全員、唖然としてラビを見る。
「悪いねぇ。せっかくのお誘いだけど、やっぱオレもパス。」
じゃあね、と言ってラビは手を振る。言葉も声色も至って普通の感じなのに、目が笑っていない。何よりも、ラビの全身から溢れ出る気迫に気圧されてしまう。
「あっ、待って、ちょっと…!」
それでも勇気を出して声を掛けるが、振り返ったラビの顔を見て、完全に固まる。
「アイツのこと悪く言うやつは、たとえどんなに可愛い子でも許せないんだよね。次オレたちの前に現れたら、ただじゃ置かないから、そのつもりでね。」
そう言うと、物凄い速さでラビは走って行ってしまった。
残された3人の女の子たちは、ラビの姿が完全に見えなくなったのを見計らい、フゥーと息を吐く。
そして、周囲に人目がないのを確認して、変身を解いた。
3人の魔法使いたちは、冷や汗をかいていた。
1人目「なんか、ヤバいことになってないか?」
2人目「俺もそう思う。駆け落ちって、グリグリ様との婚約を破棄するための言い訳だったはずなのに、いつの間にか、本気になってないか?あの2人……。」
3人目「だけど、そんなこと、V‐メイ様に報告なんか出来ないし、かといってこのまま放っておけないだろ。」
2人目「どうするんだよ、じゃあ!時間もないってのに。」
3人目「仕方ない。とにかく、今はあの2人を捕まえることだけに専念しよう。」
1人目「連れ帰るにはそれしかないからな。多少面倒でも、俺たちは、V‐メイ様のご命令に従うまでだ。」
3人が互いの顔を見て頷き合うと、もう既に、3人の姿はそこにはなかった。