「大地!待てよ!!」
ラビが大地に追いついて、腕を掴む。振りほどこうにも、かなり強い力で掴まれてしまって振りほどけない。大地のイライラはもう限界だった。
「いい加減にしろよ、ラビ!離せよ、ラビ!!」
「嫌なこった!最後まで付き合ってくれる約束だろーが!何勝手に自己完結して、帰るとか言ってんだよ!!」
「駆け落ちのことなら、あの子たちとすればいいじゃないか!俺はもう用済みだろ!!」
「だから、勝手なこと言ってんじゃねーー!!何をそんなに怒ってるんだよ?!」
「怒ってねーよ!!」
「怒ってるじゃねーか!!」
「怒ってない!!」
「怒ってる!!」
言い合いのヒートアップは止まらない。いつもなら、2人が口論するのをガスが止めるのだが、生憎今この瞬間、2人のストッパーになる者は誰もいない。
今にも掴みかからんばかりの勢いで、言い合いは続く。
「ねぇ、あれ喧嘩じゃない?」
「警察呼んだほうがいいのか?」
「でもまだ子供じゃない?親はどうしてるのかしら?」
「何、何、喧嘩??」
「どうしたの??」
周囲が騒がしくなってきて、ようやくそこで2人はハッとする。2人が口論してたのは、街の通り沿い。人も多い日中のこの時間帯、あれだけの大声で怒鳴り合えば、注目の的になるのは当然だった。
「チッ、しかたねーや、走るぞ大地!!」
「えっ、ちょ、待てよラビ!!」
大地の手を掴み直して、ラビが走り出す。もともとラビの方が足が速いのだから、半分引きずられるような形で大地も走ることになった。当然、ジェットボードになんて乗る間もなく。
(もう!なんでこうなるんだよ!!最悪だ!!!)
大地の心の叫びは誰にも届くことはなかった。
2人が走ってきたのは、噴水がある人気のない広場だった。
「ハァ、ハァ、ここまで来れば、大丈夫だな……。」
「ハァ、なんで、こんな、ハァ、走らなきゃ、いけないんだよ……。」
元気盛りの14歳の男の子とはいえ、手を繋ぎなからの全力疾走はさすがに応える。ラビは大地を引っ張っていたようなものだし、大地はラビに引きずられていたようなものだ。
疲れはかなりのもので、もう言い合いする気力もない。近くにあったベンチに2人して座る。手は繋いだままだ。
少しして、だいぶ呼吸が落ち着いてきた2人は、話し合うことにした。人気がないとはいえ、また騒いで注目を浴びるのは真っ平ごめんだったため、相手を刺激しすぎないように言葉を選びながら喋る。
「なんで、俺を追ってきたんだよ。」
「当たり前だろ。大地がいきなり帰るとか言うから、オレすっげー焦ったんだからな。」
「どこがだよ、女の子たちに鼻の下伸ばしてたくせに。」
「……大地、何をそんな怒ってるんだよ?お前、さっきからさ、なんというか、その、嫉妬してるみてーだぞ。」
「っ!そんなんじゃないよ!なんで俺が、嫉妬なんか!」
「さっきの子たちも言ってたけどさ、大地の言葉を思い返すと、オレもそんな気がしてくるんだよ。駆け落ちなら可愛い女の子とすれば?とか、もう俺は用済みだろ!とか…。」
「っ、それは、俺と駆け落ちするとか言っときながら、逆ナンに応じるわ、女の子と仲良くするわ、それじゃ、俺はなんのためにお前といるんだろうって、駆け落ち相手なんて、別に俺じゃなくてもいいんじゃないかって、思って……。」
段々と言葉尻が小さくなっていく。自分は一体何を言ってるのか、これではホントに嫉妬してるみたいじゃないか、と大地は自分でもよくわからなくなってしまった。
ラビはというと、そんな大地を見て、自分の中に、抱いたことのない感情が、波のように押し寄せてくるのを感じた。
(なんで、オレ、こんなふうに、大地に思われて、嬉しいなんて思っちまうんだ……?なんで、こんな気持ちに……?)
大地にとってラビは友だちで、ラビにとっても大地は友だちで。だけど、今感じているこの気持ちは、果たして、友だちに向けるべき類のものなのだろうか…。
「あのさ、大地。1つだけ誤解のないように言っとくけどな。」
先に考えるのを放棄したのはラビだった。大地が目線だけで、何?と訴える。
「さっきの子たちだけど、オレは逆ナンに応じるつもりはサラサラなかったぜ?」
今更何を言い出すのかと、大地はラビを見る。
「何言ってるんだよ、その気満々だったじゃないか!」
「それはそういうふうに見せかけてたんだよ。オレたちを罠に掛けようと寄ってきたアイツらを、逆にこっちが嵌めてやるつもりでな。」
「えっ、罠に掛ける??逆に嵌める??どういうこと??」
「アイツらは人間に変身した、ばーさんの弟子たちだよ。」
「………えぇーーー!!嘘だろ?!」
一泊置いて、大地は声を上げた。
「ホントだって。その証拠にアイツら、大地が駆け落ちって言葉を使っても、何の反応もしなかったんだぜ?普通なら、駆け落ちってどういうこと、とか、男同士じゃない、とか、色々と言うはずなのによ。大体、月面の女の子たちはギャルを含めて、みんな品が良いんだよ。だから、こちらからのナンパに応じることはあっても、逆ナンするなんてことはまずない。オレが月面で生活してた頃だって、ただの一度もなかったんだぞ。」
大地はポカンと口を開けてしまった。ではラビは、始めからあの女の子たちが、V‐メイがよこした弟子たちだと、わかっていたというのか。
わかっていた上で、逆ナンに応じるフリをしようとしていたというのか。
「……どういうふうに嵌めるつもりだったんだよ?」
「そんなの、騙されたフリしてついて行って、隙を見て魔動王を呼び出して、一網打尽にしてやっても良かったし、なんなら逆にアイツらを捕まえて、オレの魔法でラビルーナに送り返してやっても良かったんだ。」
「……そうだったんだ……。」
大地はそこまでラビが考えていたことに、驚くと同時に素直に感心する。戦況を見極めるような策略家のようなことを、ラビが出来るとは思ってもいなかった。
(魔法使いとしても、魔動戦士としても、ラビは成長してるんだな……。)
ふと、大地は先程までのイライラが、きれいにとまではいかないものの、だいぶ解消されているのに気が付いた。
(……あれ?なんで…あんなにムカムカしていたのに、今は、気分が、軽い……?)
大地が自分の気持ちに首を傾げていると、ラビがため息をついて言う。
「なのに、お前はいきなりどっかに行こうとするし、駆け落ちは女の子たちとやれとか理由のわからないこと言い出すし、なんなんだよ、ホントに!」
「っ、それは…!そうだけど……だったら、お前だけでも罠に掛かったフリをすれば良かったじゃないか!なんで、俺を追っかけて来たんだよ!」
「しかたねーだろ!!頭にきちまったんだから!!」
「?頭にきた?なにが??」
「だから!お前のことよく知りもしないで!乱暴とか、見苦しいとか、放っておけとか、そんな悪口聞かされてムカついたんだよ!!だから、掴んできた腕を思いっきり振りほどいてやったぜ!尻もちついて唖然としてたな。フンッ、いい気味だぜ……おい、大地…お前、何赤くなってんだよ……?」
「?!」
大地はラビに言われて、ようやく自分の顔に熱が集まっていることを自覚した。指摘されて、更に顔が赤くなるのがわかる。
「別になんでもないよ!」
大地はふい、と顔を逸らす。自分のためにラビが怒ってくれたことが、作戦を放ってまで自分を追いかけて来てくれたことが、自分を1番に優先してくれたことが、嬉しくて堪らなくなってしまったなんて、口が裂けても言えないと大地は密かに思う。
なんとなしにラビの方を向くと、ラビは俯いていた。その顔は、横から見てもわかるくらいに赤くて、大地は言葉に詰まる。ラビもラビで、今更ながらに自分で言った言葉に恥ずかしさを覚え、顔を赤く染めていたのだ。そんなラビを直視出来ず、大地はまた目を逸らす。
手を繋いで頬を赤く染めながら、そっぽを向く2人の空気感はまさに焦れてる恋人同士、といったところだろうが、当の本人たちにその自覚は皆無である。それよりも今の2人は思考の大半を、先程から感じている得たいのしれない、今まで感じたことのない感情の正体を知るために費やしていた。
だから、聞き覚えのある声が近づいてきても、すぐ反応出来ずにいたのだ。
「船長、俺たちなんのために海賊やってるんですかね?」
「バカヤロウ!そんなこといちいち聞くなぁ!!」
『……ん?』
大地とラビが一呼吸おいて、顔をバッと上げると広場の外れに見知った顔が見えた。先に走り出したのはラビだった。
「オセロ!ドミノ!」
「あっ、ちょ、待てよラビ!」
そう、それはラビが月面で生活していた頃から馴染みのある、自称宇宙海賊の、オセロとドミノだった。