『スパイダーマン:ホーム・インフォマティクス』   作:吉宗

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第2話:爆速の工事と、二段階のパニック

 

 

翌朝。ボロアパートの床でピーターとネッドがレゴの緑パーツを探して這いつくばっている裏で、世界はすでに爆発的な混乱の渦に巻き込まれていた。

 

デッドプールが勝手に提出したあの書類――【Parker Innovations LLC】の設立届と事業計画書。

昨日まで存在しなかったはずのその書類に基づき、スターク・インダストリーズと米国の建設請負業者がフル回転を始めていたのだ。

 

わずか数日で、ブルックリン郊外の広大な廃工場に「アーク・リアクター搭載型・超巨大AIデータセンター」が爆速で完工。

 

「おい! ブルックリンの廃工場に誰がアーク・リアクターを持ち込んだんだ!?」

「スターク社の会計システムに正規の発注ログが残っています!」

ペンタゴンとスターク社経営陣が巨大な大パニックを起こしている頃、ボロアパートでは別の悲鳴が上がっていた。

 

「ピーター! スマホに何か届いた! 『土地の固定資産税およびデータセンター維持費:請求額800万ドル』……って、無理無理無理! 僕たち破産する!!」

 

二人で頭を抱えて泡を吹いていると、再びドアが蹴り開けられた。

 

「デッドプールさんからの忘れ物で〜す! 伝票忘れてました!」

 

息を切らしたボブが差し出した封筒。中に入っていたのは、昨日まで存在しなかったはずの『スターク社からの正規の保守委託契約書&着金通知』だった。

 

【Parker Innovations LLC の口座に保守委託費として1,500万ドルが送金されました】

 

「「増えてるー!!????」」

 

二人が叫ぶ中、スターク社の経理部門は「うちの部署から”謎の支出”が、どう見ても”正規の支出”な件について。」と上から下まで二重のパニックに陥るのだった。

 

 

************************************

 

「ハァイ!ハニー&ダーリン! 画面の前のマーベル初心者に俺ちゃんが親切に解説してやろう!」

 

アパートの窓枠に身を乗り出したデッドプールが、カメラ目線で早口で喋り出す。

 

「『スパーダーマンの記憶が消えたのになんでスターク社が動くの?』って思ってるだろ? ストレンジの魔法は『ピーター・パーカーという人間の存在』を消しただけで、『スパイダーマンの存在』が消えたワケじゃないんだ。」

「現にスパイダーマンは、NYで素敵な隣人になっていて、みんな知っているだろう?」

「なので、彼と『スターク社で契約』をしておいたんだよ!俺ちゃん、超クールな仕事をしているんだろう?」

「あと、 脚本家も苦労してんだから細かいことは突っ込むなよ?! 」

 

デップー「ちなみに俺ちゃんは昔、恋のライバルがサノスでさぁ~。」

ネッド「ウェイド、サーバー設定作業の邪魔だから静かにしてて」

 

************************************

 

【同刻:ペンタゴン地下3階 国家安全保障合同会議室】

重苦しい空気の中、エネルギー省(DOE)、環境保護庁(EPA)、国土安全保障省(DHS)、そしてNRC(原子力規制委員会)の幹部たちが、青ざめた顔でスクリーンを見つめていた。

 

「事態を整理しよう……」

国防総省の将校が、震える手でマイクを握る。

 

「ブルックリンの廃工場に突如建設された巨大データセンター。そこに鎮座しているのは、旧スターク・タワーを丸ごと一ヶ月賄える出力を誇る第4世代アーク・リアクターだ。……なぜだ? なぜ一切の事前環境アセスメントが通っていない!?」

 

「それが……」EPAの担当官が額の汗を拭う。

「環境影響評価書、連邦エネルギー規制委員会への事前申請、州知事の設置許可、果てはニューヨーク市法第104条に基づく騒音・温排水基準適合証明に至るまで……全480項目に及ぶ許認可書類が、すべて完璧に決済済みなんです」

 

「バカな!? 申請が出されたのはいつだ!?」

 

「決済完了の記録は昨日の深夜2時15分です! 連邦官報にも即座に告示が出され、法手続きは『すべて終わった後』でした……! 関連する全12省庁の長官署名も、生体認証も、暗号鍵も……恐ろしいことに100%本物です。偽造の痕跡すらありません!」

 

「なら、何が問題なんだ!?」将校がテーブルを叩く。「手続きが完璧なら、なぜ我々はこうして緊急事態として集まっている!?」

 

法務担当官が、恐怖に声を震わせながらプロジェクターの画面を切り替えた。

 

「問題は……システムに残されたタイムスタンプ(ログ)です」

 

スクリーンに映し出された監査ログデータ。そこに並ぶ日付を見た幹部全員の顔から、一瞬で血の気が引いた。

 

「……な、なんだこれは……?」

 

「各省庁の最終決済ログのタイムスタンプです。ご覧ください……。長官の生体認証が実行された時刻が……『1776年7月4日(独立宣言の日)』『1863年(ゲティスバーグ演説)』『1929年(暗黒の木曜日)』『1969年(アポロ11号月面着陸)』……合衆国の歴史的瞬間に刻まれているんです!!」

 

「……は? 1776年……!? 当時アーク・リアクターも電子申請システムも存在しないだろ!!」

 

「書類も、印鑑も、長官本人の暗号鍵も、法的な効力もすべて完璧でつけ入る隙がない! なのに……タイムスタンプだけが米国の歴史そのものを網羅しているんです! 合衆国建国からの歴史の陰で『元からすべて承認されていた』かのように、完璧な正規書類が連邦のデータベースに鎮座している……!」

 

長官の一人がガタガタと膝を震わせ、頭を抱え込んだ。

 

「あ、あり得ん……! どんな権力を使えば、独立の父たちから現代の我々まで、国家の歴史丸ごと抱き込んで正規の決済を引っ張ってこれるというんだ……!?」

 

「代表者の名前は……『Parker Innovations LLC』。ニューヨークのボロアパートに棲む、19歳の単なる学生です……」

 

「その男は……合衆国の陰の支配者か何かか……!? 我々は……国家の根幹を揺るがす恐ろしい怪物を起こしてしまったのかもしれない……!!」

 

国家権力のトップに君臨する大人たちが、デッドプールが星条旗の歴史のどこかから力づくで掠め取ってきた「完璧すぎる歴史的書類」の謎に直面し、勝手に深読みして正気を失いかけていた。

「代表者の名前は……『Parker Innovations LLC』。ニューヨークのボロアパートに棲む、19歳の単なる学生です……」

 

「その男は……一体何者なんだ……!? 我々は……神か悪魔を敵に回してしまったのか……!?」

「おい……まさか、時間軸の管理者(カーン)すら手下に収めているというのか……!?」

「タイムスタンプの解析班から報告です! 一部書類の承認印に**『征服者カーン(31世紀・全宇宙統括課)』の社判**が押されています!!」

「ひぃぃっ!? どんな怪物なんだ、その19歳の学生はーーっ!?」

 

国家権力のトップに君臨する大人たちが、デッドプールがマルチバースのどこか(あるいは別の時間軸)から力づくで掠め取ってきた「完璧すぎる書類」の謎に直面し、正気を失いかけていた。

 

【同刻:スターク・インダストリーズ本社 最高経営会議室】

ペッパー・ポッツの不在を預かる執行役員たちと経理・法務のトップが、険しい表情で円卓を囲んでいた。画面に映し出されているのは、監査システムが吐き出した最新の自動送金エラーレポートである。

 

「報告を頼む。……落ち着いて、分かりやすく説明してくれ」

副社長が不機嫌そうにこめかみを押さえる。

 

「は、はい……。本日未明、我が社のメイン口座から『Parker Innovations LLC』という謎の新設法人に対し、1,500万ドル(約22億円)が自動送金されました」

 

「不正送金か! 新手の経済テロか!? すぐに口座を凍結してFBIと国土安全保障省に通報しろ! 我が社から資金を毟り取ろうとするヴィランの仕業なら、容赦なく潰すぞ!」

 

「それが……法的に不可能なのです!」

経理部長が冷や汗を流しながら叫ぶ。

 

「送金命令を出したのは、外部のハッカーでも攻撃プログラムでもありません。トニー・スターク本人の『生体ID認証』および『マスター暗号鍵』です。しかも送金承認のログは、トニーが亡くなった『アップステートの決戦場』の座標から送信されています……!」

 

会議室に一瞬、重苦しい沈黙が落ちた。副社長がテーブルを叩く。

 

「ハッカーがトニーの遺品から暗号鍵を盗み出したか……! 姑息な手口だ。契約書はどうなっている!?」

 

「それが……」法務部長がタブレットを掲げる。「『Parker Innovations LLC』との間で締結されていたのは、アーク・リアクター型データセンターの【永久保守委託契約】です。契約書の全条項はスターク社の法務フォーマットと100%一致しており、トニーの直筆サインと電子捺印が揃っています。……しかし、契約締結のタイムスタンプが『トニーが16歳でMITを首席卒業した日』になっているんです!」

 

「16歳のトニーが、存在もしない会社と未来のアーク・リアクターの保守契約を結んでいたとでも言うのか!?」

 

「はい! AIのフライデーも『トニー様が過去に設定された絶対優先プログラムです。変更および解約は不可能です』と認識しており、自動で資金を振り込み続けています! 我々の会計システム上、これは『100%合法で正規の、過去からの約束された支出』として弾かれてしまうのです……!」

 

「くそっ……! どんな巧妙な暗号資産テロだ! タイムスタンプを偽装し、亡きトニーのIDを悪用して我が社のメインシステムを丸ごと人質に取る気か……!」

 

副社長は怒りで顔を真っ赤にし、鋭い眼光でスクリーンを睨みつけた。

 

「相手の代表者のデータを出せ! どんな凶悪な国際犯罪組織のボスだ!?」

 

「え……っと、書類上の代表者は……ニューヨークのボロアパートに住む、19歳の単なる学生です」

 

「……は? 19歳のガキ……!?」

 

副社長は一瞬呆然としたものの、すぐにフッと冷笑を浮かべて立ち上がった。

 

「ハッ! 舐められたものだな。どこかの超人気取りか天才ハッカーのガキが、トニーの遺産を使って小遣い稼ぎの経済テロを企てたというわけか。相手が19歳の学生なら、こっちは世界最高峰の大企業だ! 法務部、一流の弁護士軍団を総動員しろ! どんな裏の手を使ってでも、その『Parker Innovations』とかいうハリボテ会社を社会的に潰して口座を差押えろ!!」

 

「「「サー!!」」」

 

スターク社の幹部たちが「新手のヴィランによる経済テロ」と決めつけ、大企業のプライドを懸けて全力で叩き潰すべく動き出した頃――

 

渦中の19歳の社長は、ボロアパートの床で「ねぇネッド?このレゴ、パーツ足んなくない?」とコーラを飲みながら呑気に首を傾げていたのだった。

 

 

【同刻:スターク・インダストリーズ本社 サイバーセキュリティ統括司令室(SOC)】

壁一面に並ぶ巨大モニターには、世界中の企業や政府機関に提供している次世代セキュリティグリッド「E.D.I.T.H. Enterprise」の稼働状況がリアルタイムで表示されていた。

 

「アラート検出! 権限ディレクトリのツリー構造に未定義の例外ノードが発生!」

オペレーターが緊張した声を張り上げる。

 

「ログオフ処理の不具合か? システムの運用自体に影響はあるか!?」

情報部門最高責任者(CISO)が身を乗り出す。

 

「いいえ、日常の業務システムや顧客へのサービス供給、セキュリティ監視機能は100%正常に稼働しています! ……ですが、ディレクトリ構造がおかしいんです!」

 

アナリストが震える指でキーボードを叩き、メインモニターに権限ツリーの構造図を拡大表示した。

 

「ご覧ください……我々役員やCISOが保持する『管理者権限(Administrator)』の上に……これまで存在しなかった最上位階層『レイヤー0:マスターオーナー権限』が突然生えてきています!」

 

「……は? 最上位権限……? 誰の権限だ!?」

 

「アカウント名『Parker Innovations LLC』。フラグは……『創業者特別権限(FOUNDER OVERRIDE)』です! 我々の管理権限は生きたままですが、彼らがその気になれば、我が社の全システムはおろか、顧客に納品しているE.D.I.T.H.の防衛グリッドすら一発でオーバーライド(優先上書き)できる位置に鎮座しています……!」

 

「馬鹿な!? トニーがE.D.I.T.H.の最深部にそんなマスターキーを残していたというのか!? なぜそれが謎のペーパー会社に紐付いている!?」

 

CISOは青ざめた顔で額の汗を拭った。

 

「まずいぞ……これが国防総省や納品先のメガバンクに知られたらどうなる!? 『スターク社のセキュリティには自社すらコントロールできない謎の上位権限が存在する』なんて噂が漏れた瞬間、我が社の株価は暴落、信用は失墜だ!!」

 

CISOは即座に赤電話を掴み取った。

 

「緊急セキュリティアラート発令! 最高経営陣、法務部、そしてフィジカル・サイバー統合警備部隊(Security Enforcement)のトップを司令室に緊急招集しろ! これは新手のヴィランによるバックドア設置か、高度な産業スパイ工作の可能性がある! 他社にこの状況が漏洩する前に、内々でこの『Parker Innovations』の正体を突き止め、権限を無効化するぞ!!」

 

数分後、緊急呼び出しによって続々と集まってきた役員や警備責任者たちが「ヴィランのサイバーテロか!?」とピリついた空気でモニターを睨みつける中――

 

渦中の「レイヤー0」の保持者たちは。

 

「ねぇピーター、このアパートのWi-Fi、なんか急に爆速になってない? 5Gどころか未来の通信回線繋がってんだけど」

「え? ホントだ、レゴの組み立て動画が0.01秒で読み込める……すごいねデップーのモバイルルーター!」

 

スターク社の最高機密回線を「ちょっと速いWi-Fi」程度に思いながら、呑気にYouTubeでレゴの解説動画を再生していたのだった。

 

 

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