S.T.A.L.K.E.R. すばらしき開かれた世界で ~ZONEが日本にやってきた~ 作:廃墟ゲー大好き
20分ほど歩いて、ようやく佐藤はレンタルコンテナまでたどり着いた。
金網状のフェンスをたどり、そっと門を押し開ける。
敷地の中は、不気味なほど静まり返っている。佐藤はアルミパイプを槍のように突き出し、周囲を警戒しながら砂利を踏みしめた。
海上輸送用のコンテナは、佐藤が思っていたよりもずっと背が高い。
コンテナとコンテナの間は、月明かりすら届かなかった。
幸いにも、人の気配はない。
管理事務所のプレハブ小屋は、鍵をかけていないどころか、ドアが大きく開け放たれていた。ここの管理人は、着の身着のままで逃げ出したのだろうか。
(えーっと……鍵は壁に架かっているこれがそうか?)
佐藤はスマホを掲げ、画面の光でキーホルダーの文字を追う。
すると、一つ鍵の前でスマホを持つ手が止まった。
『104番:社用・防災備蓄』
「よっしゃ、頼む……」
鍵を取った佐藤は、敷地に横たわる無数のコンテナから104番のコンテナを探し出すと、祈るような気持ちで鍵穴に差し込んだ鍵を回した。
カチャリ、と重厚な金属音が響き、頑丈なスチール製のレバーが跳ね上がった。
「やった、開いたぞ!」
レバーを引いた佐藤は滑り込むように中へ入り、内側の重いハンドルを引いて、コンテナの鉄扉を完全に閉める。
ガシャン、と内側から扉を閉めた瞬間、それまで街を支配していたサイレンの音や遠くの悲鳴が、まるで遮音壁で遮られたかのように遠のいた。
コンテナの内部は完璧なシェルター。安全地帯だった。
佐藤はポケットからスマホを取り出し、画面の明かりで周囲を照らした。
バッテリー残量は5%。画面がチカチカと消えかけている。
だが、その光が照らし出した光景に、佐藤は思わず目を見張った。
「これ……全部
104番のコンテナは、レンタルコンテナの管理会社が、万が一の災害に備えて用意していた備蓄倉庫だった。
東京都には「東京都帰宅困難者対策条例」という条例がある。
東日本大震災の際に一斉帰宅による大混乱が生じた反省から、東京都は都内のすべての事業者に対して、従業員が3日間会社に留まれるだけの水や食料、防災用品を備蓄するよう求めていた。
コンテナの中の物資は、全くの手つかずだ。
スチールラックの上には、段ボール箱がうず高く積まれている。
佐藤は親指をつっこんでガムテープを破ると、段ボール箱を破り開けた。
中に入っていたのは、大量のミネラルウォーターのペットボトル、そして賞味期限の長いアルファ米のおかゆ、サバ缶や肉の缶詰。さらには、単三乾電池で駆動する災害用の「ポータブル充電器」と各種ケーブルまでが綺麗に揃っていた。
「助かった……。これで生き延びられる」
極限の緊張が解け、佐藤はその場にへたり込んだ。
喉の渇きを潤すためにミネラルウォーターを一気に半分ほど飲み干し、サバの味噌煮缶をプルトップで開けて口に放り込む。
冷え切った身体に、濃い塩気と脂分が染み渡っていく。社会の底辺で「交換可能な歯車」として生きていた男が、今、この金属の箱の中のわずかな物資に、震えるほどの幸福を感じていた。
佐藤はポータブル充電器に単三電池を詰め込み、スマホに繋いだ。
弱々しく輝く充電マーク。5%から、6%へ。
インターネットは依然として繋がらないままだが、液晶の明かりがコンテナの壁を優しく照らすだけで、信じられないほどの安心感が得られた。
ラックの最下段には、ご丁寧にマットレスと高級アウトドアブランドの厚手の
佐藤は鋼鉄の床にマットレスを2枚重ねに敷き、寝袋を広げると、泥のように重くなった身体をその中へと滑り込ませた。
密閉された寝袋の内部は温かく、外の世界の地獄が嘘のようだった。
パーカーのポケットには、あの輝く水晶の破片が収まっている。
触れると、やはりひんやりとした冷気が伝わってきた。だが、その冷たさはもう恐怖ではなく、彼を世界の狂気から守る「お守り」のように思えた。
(明日から、どうなるんだ……)
スマホの充電完了を告げる小さな電子音を子守唄代わりに、佐藤は深い眠りへと落ちていく。
東京が「ゾーン」へと変貌した、その最初の夜が静かに更けていった。