S.T.A.L.K.E.R. すばらしき開かれた世界で ~ZONEが日本にやってきた~ 作:廃墟ゲー大好き
拾い上げたばかりの結晶を、とりあえずパーカーの右ポケットへと放り込む。
1つ目の「お守り」が入っている左ポケットとは逆だ。
「よし、コタロウ。危険ゾーンは抜けたし、一息つくか――」
歩き出そうとした佐藤は、ふと違和感を覚えて足を止めた。
「……ん?」
右のポケットが、やけに軽い。
ずっしりと服を引っ張っていたはずの、パチンコ玉の重みが綺麗さっぱり消えているのだ。
嫌な汗が背筋を伝う。
佐藤は慌てて右ポケットに手を突っ込んだ。
(ない……!? ウソだろ、穴でも空いてたか!?)
指先に触れるのは、さっき入れた冷たいソフトボール大の結晶だけ。ジャラジャラと入っていたはずのパチンコ玉が、一発残らず消失していた。
(げっ、まさかこいつ……周りの金属を分解して食っちまうような『ヤバいやつ』か!? 命懸けで回収したのに、俺の唯一の武器をパーにしたとか笑えないぞ!)
青ざめながら結晶を取り出し、まじまじと観察する。
すると、半透明なガラスの奥――中心でうごめく赤色の液体の中に、見覚えのある銀色の小球が幾つも揺らめいているのが見えた。
「……おぉ?」
ゆらゆらと流れる渦に紛れて、無数のパチンコ玉が、まるで無重力空間に浮遊するように結晶の「内部」に納まっている。
佐藤はゴクリと唾を飲み込むと、おそるおそる指先で結晶の表面に触れ、頭の中で(パチンコ玉、出てこい……)と念じてみた。
――すっ。
結晶の表面が一瞬だけ水面のように波打ち、赤い液体の中から、コロンと一発のパチンコ玉が手の中へ滑り出してきた。
「ぬおっ!?」
あまりの滑らかさに佐藤は声を上げた。
手の中にあるのは間違いなく自分のパチンコ玉だ。冷たさも、重みもそのままだ。
(今度は……戻れ!)
手に持ったパチンコ玉を結晶に押し当てると、まるで底なし沼に吸い込まれるように、すーっとガラスの奥へと沈んで消えた。内部の絵の具のようなモヤと混ざり合い、再びゆらゆらと浮かび上がる。
「マジかよ……これ、中に物が入るのか!?」
興奮気味の佐藤の横で、コタロウが「わふ?」と首を傾げる。
佐藤は実験とばかりに、防災袋からパチンコ屋で拾ったライターを取り出し、結晶に押し当ててみた。
――吸い込まれた。
次に、お菓子の袋を開いて、小分けにされたキャンディの包みを近づけてみる。
――これも吸い込まれた。
調子に乗って、足元にあった少し大きめのブロック片を押し当ててみる。
――カツン、と硬い音を立てて弾かれた。
「あー……なんでも入るわけじゃないのか。サイズ制限があるな」
実験の結果をみるに、結晶に収納できるのは、結晶の中で泳ぐ絵の具のひと固まり――親指と人差し指で作った輪くらいのサイズでないと駄目らしい。
大きな武器やリュックは無理だが、小物ならいくらでも入りそうだ。
「ポチ袋サイズの四次元ポケット……ちっちゃなアイテムボックスってところか」
何より凄まじいのは、どれだけ物を入れても結晶自体の重さが全く変わらないことだった。
ポケットをずっしりと重くし、歩くたびにジャラジャラと不快な金属音を立てていたパチンコ玉が、完全に無重量かつ無音で持ち運べるようになっていた。
「完璧じゃないけど、チートアイテムには間違いないな。これでパチンコ玉を持ち歩くストレスが消えたし、細かいものを持ち歩く手間がなくなったな」
万能の超兵器というわけではない。
だが、小物の重量を無くせるというのは、とんでもなく大きい。
どんなに軽いものでも揃えればそれなりの重さになるし、かさばる。
荷物を軽くするのは、ただ楽になるだけではない。
整理して最低限の荷物にすれば、それだけ多くの戦利品を持ち帰れるということを意味する。つまり、サバイバルで優位に立てる。
「いやー、助かるな」
持ち上げて光に透かすと、半透明なガラスの中で、パチンコ玉を飲み込んだ赤色のモヤがゆらゆらと揺れている。
その姿はどこか、流氷の海を泳ぐ「海の天使」を思わせた。
「名前をつけるなら……『クリオネ』ってところか?」
凶悪な「スタンプ」の中にあった謎の物体は、これから優れた荷物持ちとして、佐藤のサバイバルを支えてくれるだろう。
「命を懸けた甲斐は、お釣りが来るくらいあったな」
佐藤は満足気に口元を緩め、手持ちのパチンコ玉をまるっと呑み込んだ「クリオネ」をパーカーの右ポケットにしまった。