宇宙人のAIを拾った俺の誰も損しない頭脳バトル   作:なのそん

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会合

 

 

研究所から政府へ正式な報告が上がった、その日の夜。

 

通常なら、これほど重要な案件であれば、関係各所への連絡、情報共有、専門家の招集、警察や自衛隊を含めた警備体制の検討など、いくつもの手順が同時に走り出す。

 

しかし、この件だけは違った。

 

政府は、最初から情報を広げなかった。

 

広げられなかった、と言ったほうが正しい。

 

研究所から送られてきた報告書には、現在の人類の科学では説明できない現象が、極めて具体的な試験結果とともに記録されていた。

 

小さな物体が宙に浮く。

 

外部から確認できる電源がない。

 

重量を大きく変化させることができる。

 

しかも、それらの現象が偶然ではなく、研究者たちによって繰り返し確認されている。

 

そして、その物体を研究所に置いた人物は、自分の正体を明かさないまま、日本政府との交渉を要求している。

 

さらに問題だったのは、その技術が本物だった場合の意味である。

 

軍事、エネルギー、輸送、産業、宇宙開発。

 

どこに使っても、既存の社会構造を根本から変えてしまう可能性がある。

 

だからこそ政府は、最初の段階で余計な人間を増やさないことにした。

 

その夜、政府中枢にある一室が使われることになった。

 

部屋の前には警備員が立ち、廊下には人の姿がほとんどない。

 

会議に参加する人間は、あらかじめ指定された者だけ。

 

入室前には、携帯電話、スマートフォン、タブレット、ノートパソコン、スマートウォッチ、録音機、無線機、その他一切の電子通信機器を預けることになっていた。

 

ポケットの中まで確認される。

 

持ち込みが許されたのは、紙の資料と筆記具だけだった。

 

厳密な機密保持契約が結ばれ、破った場合のペナルティは常識を超えている。

 

「念のため」という言葉では済まないほどの徹底ぶりだった。

 

それでも、この場にいる人間の多くは、それを当然だと思っていた。

 

今回の相手が、研究所の報告にあるような技術を本当に持っているのなら、通信機器を持ち込まない程度で安全が確保できるとは誰も思っていない。

 

ただ、少なくとも自分たちが何を持ち込んだか分からない状態にはしたくなかった。

 

そして、何より重要なのは、この会議そのものを外部から切り離すことだった。

 

扉が閉められる。

 

施錠される。

 

会議室は、外部との通信経路を持たない完全な密室になった。

 

壁に埋め込まれている通信設備も、この会議では使用しない。

 

電源を落とした機器には、念のため物理的な封印まで施された。

 

室内にあるのは、照明と空調。

 

それ以外は、紙と人間だけ。

 

そこまで確認したところで、ようやく会議が始まった。

 

出席しているのは、政府側の責任者、科学技術政策を担当する幹部、安全保障を担当する人物。大臣までいた。

 

そして、研究所から報告を受けて呼ばれた専門家たちだった。

 

大学で物理学を研究し、博士号を取得している教授。

 

材料科学を専門とする教授。

 

エネルギー分野の研究者。

 

いずれも、その分野では十分な実績を持つ人間たちだ。

 

その中に、研究所長の大沢恒一もいた。

 

五十代後半。

 

長年、研究者として現場を見てきた一方で、現在は研究所全体を管理する立場にある。

 

本来なら、研究所長として落ち着いて報告するべき人間だった。

 

だが、この日の大沢は、明らかに落ち着いていなかった。

 

それも無理はない。

 

あの物体を最初に見たときのことを、まだ鮮明に覚えている。

 

机の上に置かれていた小さな灰色の物体。

 

誰が見ても、それだけだった。

 

ところがスイッチを入れた瞬間、それは机から数センチ浮いた。

 

最初にそれを見た研究員は、自分の目を疑った。

 

次に別の研究員が確認した。

 

その次は物理学者が確認した。

 

測定装置を持ち出し、条件を変え、何度も試した。

 

それでも浮いた。

 

さらに重量を変化させる機能まで確認された。

 

小さな物体が、まるで重力というものを自分の都合で切り替えているかのように振る舞った。

 

研究所長としては、もう少し穏当な現象であってほしかった。

 

新素材だった。

 

未知の装置だった。

 

新しい物理現象だった。

 

その程度なら、まだいい。

 

しかし、どう調べても現在の人類の科学体系から説明できない。

 

そして、その物体を置いていった人物からは、政府との交渉を求める手紙まで届いた。

 

大沢が資料を読み終えたところで、政府側の責任者が静かに口を開いた。

 

「確認します。研究所で確認された現象について、意図的な演出や装置による偽装の可能性は?」

 

大沢は一度だけ息を吸った。

 

「現時点では、否定できません。しかし……少なくとも、研究所内で確認した限りでは、既存技術による説明はできませんでした」

 

「専門家の見解は?」

 

物理学の教授が答えた。

 

「現象だけを見れば、測定ミスを疑うべきです。しかし複数の測定系で再現しています。重量変化についても、単純な磁力や空気圧などでは説明できません」

 

材料科学の教授も続ける。

 

「物質そのものについても問題があります。少なくとも、私たちが知っている製造技術の延長では説明できない可能性が高い」

 

室内が静かになる。

 

誰も、簡単に「宇宙人の技術です」とは言わなかった。

 

だが、誰も「ただの悪ふざけです」とも言えなかった。

 

それが一番厄介だった。

 

科学者たちは、分からないものを簡単に信じない。

 

しかし同時に、説明できない現象を「存在しない」と決めつけることもしない。

 

今回の物体は、その中間にあった。

 

本物かもしれない。

 

偽物かもしれない。

 

だが、本物だった場合の損失があまりにも大きい。

 

だから政府は、この時点で一つの結論を出そうとしていた。

 

無視することはできない。

 

交渉する必要がある。

 

ただし。

 

交渉することと、相手を信用することは別だった。

 

そのことを確認しながら、会議は進んでいった。

 

研究所から届けられた第一の手紙。

 

そして、政府側に渡された第二の手紙。

 

第二の手紙には、封がされた部分があった。

 

その封は、政府側の責任者が開くよう指定されている。

 

責任者は慎重に封を切った。

 

紙を取り出す。

 

室内の全員が、その紙に視線を向けた。

 

何が書かれているのか。

 

交渉条件か。

 

技術の説明か。

 

あるいは、相手が要求する金額か。

 

誰もがそう考えた。

 

だが。

 

紙には、何も書かれていなかった。

 

完全な白紙だった。

 

「……白紙?」

 

誰かが小さく呟いた。

 

責任者は紙を裏返す。

 

何もない。

 

光に透かしてみる。

 

何もない。

 

紙そのものに特殊な加工があるのか、専門家が確認する。

 

だが、少なくとも肉眼では何も分からない。

 

大沢は嫌な予感を覚えた。

 

あの研究所で物体を見たときと同じだった。

 

何かが起きる。

 

そう思った瞬間だった。

 

音がした。

 

最初は、ごく小さなものだった。

 

――ジ。

 

電子機器が立ち上がったような音。

 

しかし、会議室には通信機器がない。

 

全員が顔を上げた。

 

もう一度。

 

――ジ……。

 

今度は、はっきり聞こえた。

 

それはスピーカーから聞こえた音ではなかった。

 

部屋の中央。

 

何も置かれていない空間。

 

そこから聞こえた。

 

全員が同時に気づいた。

 

誰かが机の下を見る。

 

壁を見る。

 

天井を見る。

 

だが、何もない。

 

通信機器は持ち込んでいない。

 

既存の会議設備は停止している。

 

外部との通信経路も切断されている。

 

それでも、音だけが存在していた。

 

まるで空気そのものが振動しているようだった。

 

そして、その音が少しずつ人間の声へ変わっていく。

 

機械的なノイズが消える。

 

空間に直接、音声が形成されていく。

 

「――通信状態を確認しました」

 

全員が固まった。

 

声は、どこから聞こえているのか分からない。

 

右からでもない。

 

左からでもない。

 

上からでもない。

 

下からでもない。

 

会議室そのものが、声を発しているようだった。

 

政府側の責任者が、ゆっくりと立ち上がった。

 

だが、声は続いた。

 

「こちらからの通信を開始します。現在、この室内には外部通信機器が存在しないことを確認しています」

 

物理学の教授が息を呑む。

 

そんなことを確認できる理由も分からない。

 

まして、どうやって音を発生させているのか。

 

室内には音響装置など存在しない。

 

それでも声は聞こえる。

 

「この通信は、現在の人類が使用している通信方式とは異なります。会議室内の空間に直接、音響情報を生成しています」

 

誰も言葉を返せなかった。

 

研究所長の大沢は、椅子に座ったまま動けなかった。

 

つい数時間前まで、自分は「研究所に置かれた謎の物体」について報告していた。

 

それが今度は、政府の完全な密室にまで入ってきた。

 

いや。

 

正確には、入ってきたわけではない。

 

何も持ち込まれていない。

 

誰も持ち込んでいない。

 

通信機器もない。

 

電話もない。

 

ネットワークもない。

 

それなのに、声だけがここにある。

 

それが、大沢には何より恐ろしかった。

 

政府側の責任者が、ようやく声を絞り出した。

 

「……あなたは、誰ですか」

 

少しだけ間があった。

 

そして、何もない空間から再び声が響いた。

 

「私は、アイと呼ばれています」

 

その名前を聞いた瞬間、会議室の空気が変わった。

 

研究所から送られてきた資料。

 

二通の手紙。

 

あの物体。

 

そして今、目の前には何もない。

 

それでも、確かに声がある。

 

政府はようやく理解した。

 

これは、技術の展示ではない。

 

相手はもう、こちらと話す準備を終えている。

 

そして今夜。

 

日本政府は、人類史上初めてかもしれない存在との交渉の席に、自分たちの意思で座ったのだった。

 

 

 

 

午後九時四十七分。

 

金田恒一は、会社の自席で一人、モニターを眺めていた。

 

フロアにはまだ数人残っているが、ほとんどの照明は落とされている。

 

キーボードを叩く音と、空調の低い音だけが聞こえていた。

 

「……終わらねえな」

 

恒一は小さく呟いた。

 

今日中に終わらせる必要がある仕事ではない。

 

明日でもいい。

 

正確には、明日の朝にやっても間に合う。

 

それでも帰れない。

 

上司から明確に「残れ」と言われたわけでもない。ただ、周囲がまだ仕事をしている状況で、自分だけ帰るのも気まずい。

 

そんな、いつもの残業だった。

 

恒一は大きく伸びをして、机の端に置いていたスマートフォンを手に取った。

 

画面を見る。

 

通知はない。

 

当然だった。

 

今日は金田恒一という一人の会社員にとって、何も特別なことが起きていない。

 

少なくとも、表面上は。

 

数時間前。

 

恒一は、自宅から遠く離れた場所にある研究所へ、一つの物質を送りつけていた。

 

そして、その中には手紙を入れていた。

 

政府と話がしたい。

 

そう書いた。

 

さらに二通目の手紙も用意した。

 

こちらには、もっと単純な指示しか書いていない。

 

政府の責任者が開封すること。

 

その瞬間を合図にする。

 

恒一自身は、今その結果を待っていた。

 

ただし、会社の自席で。

 

しかも残業しながら。

 

「……まだかな」

 

恒一はスマートフォンを机に置いた。

 

その瞬間だった。

 

机の下に置かれた小さな端末が、短く振動した。

 

恒一は反射的に足を止めた。

 

会社に持ち込んだ私物の端末ではない。

 

黒い、手のひらほどの装置。

 

画面には何も表示されていない。

 

しかし、恒一には分かった。

 

「……開けた?」

 

端末が一度だけ点滅した。

 

続いて、イヤホンから声が聞こえた。

 

『通信モードへの移行を確認しました』

 

恒一は慌ててイヤホンを外した。

 

「ちょっと待て。今?」

 

『はい』

 

「今、会社なんだけど」

 

『承知しています』

 

「いや、承知していますじゃなくて」

 

恒一は周囲を見回した。

 

幸い、他の社員は自分の仕事に集中している。

 

『先ほど政府側責任者による第二の封筒の開封を確認しました。予定通り通信を開始します』

 

「予定通りって……」

 

恒一は額を押さえた。

 

正直言って、予想よりもだいぶ早かった。

 

長ければ1か月は待つかもしれないと覚悟をしていたのだ。

 

それが、まさか当日のうちとは。

 

「もう少しタイミング考えられなかったのかよ」

 

『封筒の開封時刻を事前に指定することは困難です』

 

「そういう意味じゃない」

 

『では、どのような意味でしょうか』

 

「……いや、いい」

 

恒一は声を潜めた。

 

ここでアイと普通に話しているところを誰かに聞かれるわけにはいかない。

 

しかも、これから政府と交渉する。

 

自分が何者なのか、絶対に知られるわけにはいかなかった。

 

『通信先との接続が確立しました』

 

「もう?」

 

『はい』

 

恒一は一瞬だけ天井を見上げた。

 

「……頼むから、変なことするなよ」

 

『具体的な指示をお願いします』

 

「いや、だから……普通に話せばいいから」

 

『了解しました』

 

恒一はイヤホンを耳に戻した。

 

その直後、政府側の通信回線が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

二通目の封筒が開かれた。

 

その直後、会議室の中央――誰も立っていない、何も置かれていない空間から、声が響いた。

 

「通信を開始します」

 

一瞬、誰も動かなかった。

 

スピーカーから聞こえたわけではない。

 

壁に設置された音響設備でも、机の上の端末でもない。

 

まるで、空気そのものが振動して声になったようだった。

 

警備担当が反射的に周囲を確認し、通信担当者が室内の機器を調べ始める。しかし、音声を発している装置は見つからない。

 

会議の責任者だけが、中央の何もない空間を見つめていた。

 

「……あなたが、今回の物質を研究機関へ送った存在なのか」

 

「いいえ。あれを送ったのは、私の管理者です」

 

「管理者?」

 

「はい。私はアイと呼ばれています。管理者は、私が保有する技術を人類に提供する際の、人類側における最終的な承認者です」

 

責任者は、開かれた封筒と、その中に入っていた文書へ視線を落とした。

 

「では、今回の資料を送った人物は、あなた自身ではなく、その管理者だということだな。我々としては、その人物が何者なのかを知りたい。少なくとも、これほど重大な技術を扱う以上、政府として本人確認を行う必要がある。身元も分からない人間に、人類の技術発展に関わる決定権が与えられているという状況は、我々にとって到底看過できるものではない」

 

しばらく間を置いて、アイが答えた。

 

「その懸念は理解できます。しかし、管理者の個人情報については開示できません。氏名、年齢、性別、住所、職業、所属その他、個人を特定できる情報について、私は提供することができません」

 

「我々が本人を探すことも認めない、と?」

 

「管理者の匿名性を維持することは、私の機能の一部です」

 

「つまり、我々は誰と交渉しているのかさえ分からないまま、あなたと話をすることになる」

 

「現時点では、その認識で正しいです」

 

淡々とした返答だった。

 

その冷静さが、かえって会議室の緊張を高めていた。

 

責任者は椅子に座り直し、腕を組んだ。

 

「分かった。では、管理者の正体については一旦置こう。重要なのは、その人物が何を求めているのかだ。今回、研究機関へ送られた物質は、我々の科学技術を大きく上回る可能性がある。もし本当にあなたが主張する通りの性質を持っているなら、エネルギー、輸送、産業、軍事、安全保障まで、社会の前提そのものが変わる。そんな技術を、あなたたちはなぜ我々に渡そうとしている?」

 

「人類が発展することを望んでいるためです」

 

「それなら、なぜ政府や研究機関ではなく、正体不明の一個人を通さなければならない?」

 

「それが管理者制度だからです」

 

アイはそこで一度言葉を切った。

 

「私は人類の利益になる技術を判断できます。しかし、技術的に最適であることと、人類自身がそれを選択したことは同じではありません。私は人類に代わって、その意思決定を行うことはできません。したがって、私が技術を提案し、人類側が検討し、管理者が承認する。その手順を経て初めて、私は実行に移ります」

 

責任者はその説明を聞きながら、ゆっくりと眉を寄せた。

 

「つまり、あなた自身には、技術を勝手に人類へ適用する権限がないということか」

 

「はい。私は提案し、説明し、必要な技術を提供できます。しかし、人類側の意思決定を私自身の判断で代替することはできません」

 

「その意思決定をする人間が、専門家でも政治家でもない一般人だったとしても?」

 

「問題ありません。管理者に専門知識は要求されていません」

 

会議室の空気が変わった。

 

責任者は、何もない空間を見つめたまま、しばらく考えていた。

 

「……一般人なのか」

 

「はい」

 

「今回、我々が相手にしているのは、研究者でも政府関係者でも企業経営者でもない。ごく普通の人間が、偶然あなたと接触した結果、管理者になったということか」

 

「概ね、その理解で問題ありません」

 

「その人物は、自分が持っている権限について理解しているのか?」

 

「理解しています」

 

「そして、今回の物質を送ったのも、その人物の意思だと?」

 

「はい」

 

「人類のために無償で提供するつもりなのか。それとも、何らかの見返りを求めているのか」

 

そこで初めて、アイの返答にわずかな間が生まれた。

 

「管理者は、自身の利益を確保することを望んでいます」

 

責任者の表情が変わる。

 

「……個人的な利益を?」

 

「はい」

 

「世界を変えるほどの技術を持ちながら?」

 

「管理者の目的は、人類を支配することでも、社会を破壊することでもありません。自身にとって望ましい条件を得たうえで、人類への技術提供を承認することです」

 

会議室の誰かが、小さく息を吐いた。

 

あまりにも現実的な話だった。

 

未知の文明。

 

人類を遥かに超える科学技術。

 

世界の常識を変える存在。

 

その中心にいる人物が求めているものは、少なくとも今のところ、世界征服でも人類の支配でもない。

 

ただ、自分にとって都合のいい条件だった。

 

責任者は苦笑するように口元をわずかに歪めた。

 

「……我々は、これから世界を変えるかもしれない技術について話し合うことになる。その相手が、どこにいるのかも分からない一人の一般人。そして、その人物は、自分が得をする条件を確認してから承認する」

 

「その認識で問題ありません」

 

「随分と……人間らしい話だな」

 

「私は、その点について評価を行う立場にはありません」

 

アイの声は、相変わらず会議室の中央、何もない空間から聞こえていた。

 

責任者はその声を聞きながら、目の前に存在しない相手の姿を想像する。

 

研究者でもない。

 

政治家でもない。

 

政府関係者でもない。

 

おそらく本人は、自分が歴史上どれほど特殊な立場にいるのかさえ、我々とは違った感覚で捉えているのだろう。

 

だが、少なくとも一つだけ確かなことがある。

 

その人物を特定することはできない。

 

そして、その人物の承認なしには、目の前にある未知の技術を、人類は手にすることもできない。

 

責任者は深く息を吸った。

 

「分かった。我々は、あなたの管理者を特定しないことを前提に話を進めよう。その代わり、技術について必要な情報はすべて説明してもらう。そして、その人物が求める条件についても、我々と直接交渉できるようにしてほしい」

 

「可能です」

 

「では、ここから先は技術の話をしよう。今回送られた物質が何なのか、我々に何ができるのか。そして――我々がそれを得るために、管理者が何を求めているのか」

 

「承知しました」

 

会議室の中央には、相変わらず誰もいない。

 

それなのに、そこから聞こえる声だけが、この場にいる全員の注意を完全に支配していた。

 

そして同じ頃。

 

その声の主である管理者は、自分が世界規模の政府会議を動かしていることなど知る由もなく、いつものように会社で残業をしていた。

 

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