宇宙人のAIを拾った俺の誰も損しない頭脳バトル 作:なのそん
とうとう次回の交渉の日がやってきた。
金田恒一は、自宅のソファに座ったまま、目の前の空間を眺めていた。
そこには、会議室の映像が浮かんでいる。
大きなテーブルを囲む政府関係者と研究者たち。
大学教授。
国立研究機関の研究者。
電池メーカーの技術者。
材料工学の専門家。
そして、その中には大臣までいる。
金田は、その光景をただ見ていた。
会議室にいるわけではない。
発言しているわけでもない。
アイが会議室の映像と音声を、そのまま自宅に送っているだけだ。
「……なんか、すごいことになってるな」
誰に言うでもなく、金田が呟く。
『はい』
「俺、ここにいなくていいんだよな」
『現在は必要ありません』
「そう言われてもなあ……」
金田は少し居心地悪そうに頭を掻いた。
自分が選んだわけではない。
政府が最初の候補として選んだのは、高性能二次電池だった。
ただし、まだ第一候補に過ぎない。
その技術について、今まさに専門家たちがアイから説明を受けている。
会議室の一人が資料を手に取った。
「それでは、まず確認させてください」
声には慎重さがあった。
「今回提示されるバッテリーは、現在の日本で製造可能なものだと考えていいのでしょうか」
『はい』
「新しい元素や、地球上に存在しない物質を必要としない?」
『必要ありません』
研究者たちの間に、わずかなざわめきが起きた。
『使用する元素、合金、電極材料、電解質、セパレーターなどは、現在の人類が利用している材料体系の範囲内で構成できます』
「では、何が違うんですか」
『最適化です』
短い言葉だった。
だが、その意味を確認するように、研究者が聞き返した。
「最適化?」
『はい。新しい原理を導入するわけではありません』
会議室の大型モニターに、電池の断面図が表示される。
『例えば、電極材料に使用する合金の配合比率を変更します』
画面に複数の元素が表示された。
『ただし、一つの材料だけを劇的に変更するわけではありません』
別の図に切り替わる。
『合金中の元素比率をわずかに変える。粒子の大きさを変える。粒子の分布を変える。電極の厚さを変える。圧縮密度を変える。導電材の割合を変える。結着材の量を変える。集電体の厚さを変える。電解質の組成を調整する』
次々と項目が表示されていく。
『さらに、セパレーターの構造、電解質の浸透条件、製造時の温度、乾燥条件、加圧条件、充放電制御の方法を調整します』
研究者たちは黙って画面を見ている。
『一つ一つの変更による性能向上は、大きくありません』
その言葉に、何人かが顔を上げた。
『しかし、それらを同時に最適化します』
アイの声は変わらない。
『現在の電池では、それぞれの研究分野が個別に最適化を行っています。材料研究者は材料を、電池設計者はセル構造を、製造技術者は製造工程を、制御技術者は充放電制御を最適化します』
画面に複雑な相関図が現れた。
『問題は、それぞれの最適値が必ずしも同一ではないことです』
「つまり?」
『ある材料にとって最適な条件が、電極全体にとって最適とは限りません。電極にとって最適な条件が、セルにとって最適とも限りません』
研究者の一人が、ゆっくり頷いた。
『本設計では、それらを独立した問題として扱いません。電池全体を一つの系として扱い、相互作用を含めて最適化します』
金田は画面を見ながら、ぼんやり考えた。
「……要するに、全部ちょっとずつ良くするってこと?」
『概ね、その理解で問題ありません』
「なんだ。それなら、そこまで変な技術じゃないんだな」
『はい』
金田は少し安心した。
しかし、会議室の研究者たちの表情は、まったく安心していなかった。
一人が慎重に尋ねる。
「では、性能を確認させてください」
『既存の電気自動車に搭載した場合を想定します』
画面に、現在普及している電気自動車のモデルケースが表示された。
『バッテリーシステムの重量は、従来型と比較して約六〇パーセント低減できます』
「六〇パーセント……」
『はい』
「つまり、従来のバッテリーが一〇〇キログラムなら、四〇キログラムになる?」
『同一条件で比較した場合、その程度の低減が可能です』
会議室が静かになる。
金田も思わず身を乗り出した。
「それは……すごいな」
だが、さらに次の数字が表示された。
『同一車両に搭載した場合、航続距離は約八〇パーセント向上します』
「……八〇パーセント?」
研究者が聞き返す。
『はい』
「現在三〇〇キロ走る車なら?」
『約五四〇キロです』
金田が口を開けた。
「いや、それは……」
さらに表示が切り替わる。
『充電速度は約三倍です』
会議室の空気が変わった。
「三倍……」
『はい』
「現在一時間必要な充電を、単純に二十分程度まで短縮できるということですか?」
『充電設備側の出力が対応している場合、その理解で構いません』
「設備側の制約はある。しかし電池自体は三倍の速度に対応できる」
『その通りです』
研究者たちが資料をめくる。
その数値は、あくまで車体構造はそのままにバッテリーだけを新型に入れ替えた時の推定性能。
全体を再設計すれば、性能はさらに向上するという。
金田は画面を見ながら、呟いた。
「……六割軽くなって、八割遠くまで走って、三倍速く充電できる」
『はい』
「なんで?」
『複数の要因によるものです』
アイが答える。
『例えば、合金の配合比を最適化することで、充放電時の構造変化を抑制できます』
画面に、充放電前後の材料構造の比較が表示される。
『これにより、同じ容量を確保しながら、不要な材料を減らせます』
別の図が表示される。
『さらに、粒子径分布を調整することで、イオンの移動距離を短縮します』
さらに別の図。
『電極密度を変更することで、エネルギー密度を高めます』
また別の図。
『電解質の組成を調整し、界面で発生する抵抗を低減します』
『セパレーターの構造を変更し、必要な安全性を維持しながら抵抗を減らします』
『充放電制御についても、電池内部の状態変化を予測して電流を調整します』
一つ一つ聞けば、どれも極端な話ではない。
合金の配合を変える。
粒子の大きさを変える。
電極を少し薄くする。
少し厚くする。
材料の割合を変える。
温度条件を変える。
製造工程を変える。
充電方法を変える。
どれも、人類の研究者がすでに扱っている領域だった。
しかし。
それらすべてを同時に扱う。
しかも、それぞれの変更が他の部分に与える影響まで計算した上で、全体として最適な組み合わせを求める。
それがアイのやっていることだった。
「……つまり、新技術じゃない」
研究者の一人が呟いた。
『厳密には、新しい設計体系です。しかし、個々の技術原理については既存の科学技術から逸脱していません』
「では、なぜ我々は今までここまでできなかった?」
『必要な計算量と、分野間の相互依存関係の把握が困難だったためです』
研究者は黙った。
アイが続ける。
『人類は、それぞれの分野で十分に高度な研究を行っています。しかし、すべての変数を同時に扱い、材料、構造、製造、制御を一つの問題として最適化するには、非常に大きな計算量が必要です』
「アイなら、それができる」
『はい』
「だから、新しい科学原理を発明したわけではない」
『その通りです』
金田は、少しだけ安心した。
少なくとも、完全に理解不能な宇宙の技術を突然渡されるわけではない。
しかし、会議室の研究者たちは別のことを考えていた。
「……だったら、検証できるんですか」
アイは即答した。
『可能です』
「理論だけではなく?」
『理論、計算モデル、材料設計、製造条件、実験手順、評価方法のすべてを提示できます』
研究者の一人が身を乗り出した。
「具体的には?」
『まず、現在の電池材料を基準にします』
画面に実験計画が表示される。
『次に、合金の配合比を変更した試料を複数作製します』
『それぞれについて、結晶構造、導電率、イオン移動特性、充放電特性、熱特性を測定します』
『その結果をモデルと比較します』
『次に電極密度を変えます』
『次に電解質を変更します』
『その後、複数の変更を組み合わせます』
研究者の目が変わっていく。
『最終的にはセルを作製し、容量、エネルギー密度、内部抵抗、急速充電性能、寿命、安全性を評価します』
「つまり……」
『人類側で追試可能です』
その一言に、会議室が静かになった。
『なぜ性能が向上するのかという理論的説明も提示します』
『どのパラメータが性能に影響しているのかも提示します』
『どの実験を行えば予測を検証できるのかも提示します』
『したがって、私の提示する設計をブラックボックスとして受け入れる必要はありません』
研究者の一人が、ゆっくり椅子に座り直した。
「……これは、技術を渡すというより」
別の研究者が、その言葉を引き取った。
「研究開発そのものを加速させるための設計図を渡す、ということか」
『その表現が適切です』
金田は、画面の向こうの研究者たちを見ていた。
誰も興奮して叫んではいない。
むしろ、静かだった。
さっきまでの驚きとは違う。
研究者たちが本気で考え始めたときの沈黙だった。
そして最後に、政府側の担当者が確認した。
「量産は?」
『可能です』
「新しい工場が必要ですか」
『全面的な新設は必要ありません』
「既存の電池製造設備を使える?」
『大部分を流用できます』
「特別な材料を海外から大量に輸入する必要は?」
『ありません。地球上で調達可能な材料のみで構成できます』
金田は、そこで初めて背筋を伸ばした。
六割軽い。
八割遠くまで走る。
三倍速く充電できる。
発火リスクは大幅に低下する。
しかも、既存の製造設備をかなり使える。
そして何より。
なぜそうなるのかを説明できる。
実験方法も提示できる。
人間の研究者が自分たちの手で確かめられる。
「……なるほど」
金田は小さく呟いた。
これなら、政府が欲しがる理由も分かる。
単に「すごい電池」を渡すだけではない。
日本の研究者が、自分たちの手で理解し、再現し、改良し、量産へ持っていける。
アイが渡そうとしているのは、完成した未来ではない。
人類が今持っている技術を、一つ一つ限界まで磨き上げるための方法だった。
金田はしばらく黙って画面を見ていた。
そして、ふと時計を見る。
「……もうこんな時間か」
明日も仕事がある。
普通の会社員として出勤しなければならない。
目の前では、大臣や一流の研究者たちが、世界の技術史を書き換えかねない話をしている。
その中心にいるのは、自分だ。
なのに自分は、その会議室にはいない。
自宅のソファに座って、アイが送ってくる映像を見ているだけだ。
金田は小さく息を吐いた。
「……俺、本当にただの会社員なんだけどな」
『認識しています』
「だったら、もうちょっと普通のことをさせてくれよ」
アイは、いつものように淡々と答えた。
『管理者として必要な判断をしていただければ問題ありません』
金田は画面を見つめた。
会議室では、まだ研究者たちが議論を続けている。
その誰もが、最後には自分の判断を必要とする。
それだけは、どうしても現実感がなかった。
高性能バッテリーを最初の技術として要求する。
その方向性については、ほぼ全員の意見が一致した。
――ただし。
「本決定は、もう少し協議が必要です」
会議室の空気が、そこで少し重くなった。
政府側の担当者が、慎重に言葉を選んでいる。
「今回の技術は、あまりにも影響が大きい。経済産業省だけで決められる話ではありません。自動車、電力、資源、環境、安全保障……関係する部署が多すぎる」
研究者の一人も頷いた。
「研究側としても、いきなり実用化というわけにはいきません。アイの説明が理論的に整っていることは理解しました。しかし、実際の電池で同じ性能が出るかは、我々自身で確認する必要があります」
「安全性についても同様です」
別の研究者が続ける。
「発火や熱暴走のリスクが大幅に低いという説明は理解できます。しかし、それを我々が実験で確認しなければ、社会に出すことはできない」
「それに、論文として整理しなければならないでしょう」
「材料分析も必要です」
「製造条件の再現性も――」
次々と慎重な意見が出てくる。
金田は、自宅のソファからその様子を眺めていた。
「……まあ、そりゃそうだよな」
誰にともなく呟く。
自分だって、よく分からないものをいきなり車に積んで走らせろと言われたら嫌だ。
政府が慎重になるのも分かる。
研究者が検証したがるのも当然だ。
だから金田は、しばらく黙っていた。
しかし。
アイだけが、少し違った。
『確認します』
会議室に、いつもの平坦な声が響く。
政府側の担当者が顔を上げる。
「何でしょう」
『今回の技術について、実用化までに必要な検証項目を整理していますか』
「もちろんです。これから各研究機関で――」
『どの程度の期間を想定していますか』
担当者が一瞬、言葉を止めた。
「……まだ確定していません」
『おおよその見積もりで構いません』
「数か月……場合によっては一年以上かかる可能性もあります」
その瞬間。
金田は画面の前で眉を上げた。
「一年?」
そして会議室では、アイが答えた。
『それは長すぎます』
室内が静かになった。
政府関係者が、少し驚いたように画面を見る。
「……長すぎる、と?」
『はい』
アイの声には怒りも苛立ちもなかった。
ただ、事実を指摘するような口調だった。
『安全性の検証が必要であることは理解しています。理論の検証も必要でしょう。再現実験も必要です』
『しかし、それらを行うために時間が必要なのであれば、私は必要なものを提供できます』
研究者が口を挟んだ。
「必要なもの、とは?」
『バッテリーです』
「……?」
『完成したセルを生成できます』
研究者たちが顔を見合わせる。
『一個でも、十個でも、一万個でも構いません』
沈黙。
『必要な試験数に応じて用意できます』
研究者の一人が、思わず聞き返した。
「待ってください。生成できるというのは……」
『そのまま実験に使用できるバッテリーを生成できます』
「材料から?」
『完成したセルとして生成できます』
「同一仕様のものを?」
『可能です』
「何個でも?」
『必要数を提示してください』
研究者は黙り込んだ。
アイはさらに続ける。
『安全性について懸念があるのであれば、試験してください』
『過充電試験』
『高温試験』
『低温試験』
『内部短絡試験』
『外部衝撃試験』
『釘刺し試験』
『圧壊試験』
『長期充放電試験』
『必要な試験条件を提示していただければ、それに合わせた試料を用意します』
研究者たちの表情が変わっていく。
「……試験そのものは、我々が行っていいんですか」
『当然です』
「結果を操作するようなことは?」
『ありません』
「失敗した試料も?」
『必要であれば、失敗条件を再現した試料も生成できます』
誰かが息を呑んだ。
アイは淡々と続けた。
『理論についても同様です』
大型モニターに、新しい資料が表示される。
『なぜ性能が向上するのか理解できないのであれば、説明資料を作成します』
『日本語で作成できます』
『数式を含む理論説明も可能です』
『既存研究との比較も可能です』
『仮説を検証するための実験手順も提示できます』
『必要な実験装置の仕様も提示できます』
研究者の一人が、思わず身を乗り出した。
「実験装置まで?」
『必要であれば製作します』
「……製作?」
『実験に必要な装置を生成できます』
会議室が完全に静まり返った。
金田も、自宅でその話を聞いていた。
「……なんでもありだな」
思わず呟く。
アイはそれを聞いているのかいないのか、話を続けた。
『また、研究者の皆様が理解しやすいように、改善点を箇条書きにすることも可能です』
画面に文章が表示される。
> ・合金Aの元素比率を0.7%変更
> ・正極粒子の平均径を12%縮小
> ・電極密度を8%低下
> ・電解質中の成分Bを3.2%増加
> ・セパレーターの厚さを7μmから5μmへ変更
> ・製造時の乾燥温度を変更
> ・加圧工程を二段階化
> ・急速充電時の電流制御を変更
研究者たちは、その一覧を食い入るように見ていた。
『それぞれについて、変更理由、予想される効果、想定される副作用、検証方法を付記できます』
「……」
『必要であれば、各項目を一つずつ検証するための実験計画も作成します』
研究者の一人が、ようやく口を開いた。
「それなら……我々が一年かけて調べる必要はないのでは?」
別の研究者が、すぐに言った。
「いや、確認そのものは必要だ。しかし、確認に必要な材料と条件が最初から全部揃っているなら……」
「研究期間は大幅に短縮できる」
「少なくとも、理論の解明を理由に止める必要はない」
アイが静かに言った。
『その通りです』
政府側の担当者が、少し困ったような顔をした。
「しかし、政府としては慎重に――」
『慎重であることには反対しません』
アイの声が重なる。
『しかし、慎重であることと、時間をかけることは同義ではありません』
その言葉に、誰も返事をしなかった。
『安全性を確認してください』
『理論を検証してください』
『量産性を確認してください』
『必要な試験をすべて行ってください』
『私は、そのために必要な試料、資料、実験方法、実験装置を提供できます』
そして、一拍置いて。
『ですから、検証を理由に実用化を遅らせることはやめてください』
金田は画面を見つめた。
アイの口調は穏やかだった。
怒っているようには聞こえない。
脅しているようにも聞こえない。
それなのに、会議室にいる人間たちには、その言葉がかなり強く響いていることが分かった。
アイにとっては、本当にその程度のことなのだ。
人類が何年もかけて準備しなければならないものを、必要ならその場で用意できる。
研究者が欲しがるなら、バッテリーを作る。
理論が欲しければ、論文を書く。
実験方法が欲しければ、手順書を作る。
装置が必要なら、装置まで作る。
だから。
「時間がないからできません」
という言い訳だけは通用しない。
政府側の担当者が、慎重に尋ねた。
「……アイ。あなたは、我々に早く実用化してほしいと考えているのですか」
『はい』
即答だった。
『この技術は、人類にとって有益です』
『必要な安全確認を省略することには反対します』
『しかし、確認可能なものを確認せず、協議だけを長期間続けることにも賛成できません』
その言葉に、政府側の人間が黙った。
アイは続ける。
『管理者はすでに今回提供する技術について承認しています。、私はいつでも必要な資料と試料を提供できます』
金田は、自宅でその名前を聞いて、少しだけ身を固くした。
大それた考えがあったわけではない。
アイの能力の証明として、最初はただであげようと思っただけだ。
それが、宇宙由来人工知能というフィルター越しに、政府を大きく揺さぶっていた。
『したがって、政府側で必要な協議を行うこと自体には反対しません』
『ただし、協議が終了するまで研究を停止する必要はありません』
『検証を先に開始してください』
会議室の空気が変わった。
それまで「政府が正式決定してから研究を始める」という雰囲気だったものが、逆になった。
決定を待つのではなく。
できる検証を先に進める。
必要な資料を受け取り、必要な試料を作り、実験をする。
その結果を持って政府が協議する。
大臣が、しばらく黙った後、口を開いた。
「……なるほど」
そして、会議室にいる研究者たちを見回した。
「つまり、我々が今からやるべきなのは、技術を信じるか疑うかを議論し続けることではない」
研究者の一人が頷く。
「実際に試してみることです」
「そういうことだ」
金田は自宅で、そのやり取りを聞いていた。
そして、ぽつりと呟く。
「アイって、たまに怖いな……」
『何がでしょうか』
「いや……」
金田は苦笑した。
「正しいことしか言わないところ」
アイは少し間を置いた。
『それは、問題でしょうか』
「……たぶん、問題じゃない」
金田は画面に映る会議室を眺めた。
政府はこれから正式な協議に入る。
省庁間の調整もある。
政治的な判断も必要になる。
おそらく、すぐには終わらない。
それでも研究者たちは、もう待ってはいられない。
目の前には、検証可能なバッテリーがある。
理論もある。
実験方法もある。
必要なら実験装置まで手に入る。
後は、人間が動くしかない。
金田はソファから立ち上がった。
「……俺は寝るぞ」
『はい』
「明日仕事だから」
『承知しています』
金田はテレビもパソコンも消した。
世界の技術史が変わろうとしていることなど、今の彼にはあまり関係なかった。
明日は普通に出勤しなければならない。
ただし。
その日、政府はアイからバッテリー技術を貰うことで合意した。
その翌日から、日本の研究者たちは、アイが用意した新型バッテリーを相手に、本気の検証を始めることになる。
そして政府の正式決定を待たずして、最初の実験が始まった。