魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響   作:ATARU 2025

1 / 27
時系列は「ワルプルギス」のあとです。
続きが観たかったというモチベーションではじめてみました。


第一話 シャルロッテ

ホントなの?

 

ううん、ただのウワサだよ。都市伝説、っていうのかな?

 

トカゲ?

 

トカゲさん電話。

なんでもひとつ、願いを叶えてくれるんだって。

そのかわり、この世の呪いと戦わないといけないの!

 

それはむかしのおはなしだよおっ!

いまはね!

 

 

 

学校帰りの佐倉杏子は、やけに腹が減っていた。

 

こう見えても(どう見えているのかは知らないが)、杏子はけっこうケンカっぱやい。いつ戦いになってもいいように、お腹はいつも八分目にしておくのだ。

空きっ腹のまま戦うなんて、信じられない。

 

見滝原中の裏門から、商店街を抜けるいつもの帰り道。

なんとかのモデル都市として造られた見滝原市は、基本的に小綺麗で、建物ひとつとっても先進的である。

学校のテキストはリュックに入れてある。ほんとうは指定の鞄があるのだが、杏子は平然と無視していた。

片手にはコンビニで買ったアップルパイ。もう片方の手にはリンゴ。

美味しそうなものを店ごとに買っていたら、こんな組み合わせになってしまった。それについて、特に後悔はない。

 

シャクッ。

健康そうな白い歯が、リンゴに齧りつく。

うまっ!!

思わず笑みがこぼれた。

 

そだ。

ひさしぶりに、戦う以外のことで体を動かしたいな。

あそこのゲーセン、まだやってたっけ?

ダンスのゲームがあったはずだ。

 

思い出しながら曲がった角は、いやに暗かった。思ったより細い路地は、その先で行き止まりになっている。

 

くすんだトタンでふさがれた、その行き止まりに。

 

電話が置いてあった。

公衆電話には見えない。

百年以上まえから、タイムスリップでもしてきたような。

 

ジリリリリ、と。

耳障りな音がした。

 

 

 

ならいまはちがうの?

 

そ。むこうからかかってくるんだって。きまったひとのところにだけ。

それで、この世の呪いと戦ってくれって言われるの。

 

それってまえとなにがちがうの?

 

なあんにも。

願いなんて、なんもかなえてくれないんだってさ。

 

ヤバすぎ! そんな電話だれが出るん?

 

 

 

杏子は足を止めた。こんな電話、鳴るわけがない。回線だって止まっているはずだ。

周りには誰もいない。夕立のあとの、湿ったアスファルトの匂いがするだけだ。

 

……リンゴの芯を捨ててから、受話器に手を伸ばし、耳に当てる。ひんやりと冷たい。

 

最初は、砂嵐みたいな雑音。

続いて――

 

「あなたは危険と責任を引き受けられる?

この世の呪いと戦える?」

 

声の主は知らない。

だが、都市伝説にならうなら、これが「トカゲさん」なのだろう。

 

女の声だ。

杏子とそう変わらない、十代前半の少女の声に似ている。

だが、無機質だった。

感情をそっくり削ぎ落としたような声。

 

「いつもご連絡ありがとさん!」

棘のある声で、杏子は言った。

「もちろん戦うよ。そうしないと、どうにもならない身体なんでね!」

 

安全で快適に見えるこの世界には、見えない悪意が渦巻いている。

人の世の淀みが、形となったもの――

魔獣。

 

そして――

 

「二丁目の廃病院」

声は淡々と告げた。

 

「ふうん。わかった、すぐ行く。

で? 相手は魔獣なの、それとも」

 

「魔女よ。気をつけて」

 

杏子は受話器を叩きつけると、アップルパイを口に押し込んだ。

 

魔獣は、いくら巨大でも知恵がないぶん御しやすい。

奇襲をかけたり、周りを取り囲んだりするくらいの知能はあるが、攻撃のパターンは限られている。

杏子なら、ひとりで複数の魔獣を相手にできる。実際、「仲間」ができるまではそうしていた。

 

だが、「魔女」は別物だ。

一体一体に意思があり、個性がある。

こちらの攻撃を分析する知性もある。それなのに、意思の疎通だけはできないのだ。

 

魔獣と魔女の関係はわからない。

魔獣に何者かが名前をつけ、進化させたものが魔女ではないか――マミはそう言うのだが。

 

とにかく。

 

相手が魔女なら、全員でかかるべきだ。

そこをしくじる「トカゲさん」ではない。

いまごろは、見滝原の魔法少女が全員集合しているはずだ。

 

急ごう。

 

それほど生真面目ではない杏子だったが、集合に遅れるのはイヤだった。

 

 

 

二丁目の廃病院は、フェンスの向こうに無言で佇んでいた。

 

かなり大きな病院だ。取り壊しの予定を告げる貼り紙だけを残して、もう何年も放置されているらしい。

近づく者は誰もいなかった。

 

「わりぃ! 遅れた!」

 

フェンスの内側に、四人がいた。

 

巴マミ、美樹さやか、鹿目まどか。そして少し離れて、暁美ほむら。

 

杏子は走ってきた勢いのまま、フェンスを蹴り越えた。

 

「おっそいよ! どこにいたの?」

さやかが言う。

 

「どこでもいいだろ。イイとこだよ!」

ほんとはコンビニと果物屋だったが、正直に言ってやる義理はない。

 

「なあによ! その言い方!」

 

睨み合うふたりの間に、ひとつ年上のマミが割って入った。

 

「佐倉さん! 美樹さん! その話はあとにしましょう。それより――」

 

病院の建物。それ自体が、歪んでいた。

 

「魔女」と呼ばれる存在は、自ら「結界」を作り上げ、そこに犠牲者を誘い込む。

魔法少女たちはすでに何度か魔女と戦っていたが、外から歪みが見えるほどの結界ははじめてだった。

 

窓ガラス一枚一枚の向こう側で、別の空が動いている。壁のタイルが、呼吸するみたいに膨らんだり凹んだりしている。

 

マミの顔が硬い。

 

「どうした? 早いとこ、やっつけようぜ。

犠牲者が出るまえに」

 

「いままでの相手とは違うみたいなんだよ」

まどかが言った。かなり緊張している。

 

「どゆこと?」

 

「結界が、何層にもなってる」

マミが言った。

 

「は? 何層って」

 

「一体の魔女に、結界はひとつなんです」

メガネをかけたままのほむらが言った。

「多重に結界が張られてるってことは……魔女も複数……」

 

あちゃ。

これは、はじめての事態だ。

 

「トカゲさん、なんか言ってたっけ?」

 

「……気をつけて、って」

 

 

ピキ。

杏子の額に青筋が立つ。

 

「ったく、役に立たねえなあ」

 

「危険だけど、やるしかない……と思います」

ほむらがおどおどと言った。

「さっきから、少しずつ結界が大きくなっています。中身が弾けて溢れ出したりしたら……」

 

マミが、ふっと笑った。いつもの、みんなを落ち着かせるための笑顔。

それから、うなずいた。

 

「そうね……やるわよっ!」

 

全員がうなずいた。

 

「さあ……それじゃあ、身支度しなくちゃね」

 

マミの胸元で、黄色いソウルジェムが光る。光はリボンになり、リボンはドレスに、ベレー帽になる。くるくると回転しながら、彼女はいつもの魔法少女の姿になる。優雅に、しかし迷いなく、マスケット銃を握った。

 

「さやかちゃん」

まどかが呼ぶ。

 

「うん!」

 

さやかが続く。青い光が弾ける。足元に水面が広がり、波が彼女の全身を包んだ。

波はそのままマントとなって翻る。彼女の変身はいつも少しだけ不器用で、音が大きい。武器は剣だ。

 

「やっぱ魔女は慣れねぇ。でも、やるしかねぇし!」

 

杏子は胸元の赤いジェムを乱暴に握りしめる。赤い炎が体を包む。裂けたスカート、長い槍。変身した途端、空腹が少しだけ紛れる。戦うための体になる。

 

「ほむらちゃん」

 

まどかが小声で呼ぶ。ほむらは黙ってうなずき、紫の光に包まれた。左腕に現れるのは、古びた円盤のような盾。その力は、時間停止だ。

 

最後に、まどか。

掲げた両手のなかに、ソウルジェムが現れた。

杏子はいつも思う。まどかの変身は、すこし違う。

ふだんは持っていないソウルジェムを、変身に必要だから、わざわざ作り出しているかのような。

ピンクと白を基調にしたドレスが、その身を包む。

武器は弓だ。

 

「魔法少女隊! ホーリー・クインテット!!」

 

ひゅん。

闇を深めつつある夜空から、もうひとり。

まだ幼い少女が舞い降りる。

 

「……プラス、ワン!!」

 

「な、なぎさ?」

 

「なぎさちゃん、なんで来たの?」

 

「あぶねえぞ、おい!」

 

「強敵みたいなので、手伝ってやるのです」

先頭に立って腕組みした百江なぎさは、不敵に笑った。

 

 

 

 

 




不定期更新になると思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。