魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
円環vs魔法少女!
「さやか! おまえは黙ってろ!」
そう叫んだ杏子の声が、まだ天井に反響しているうちに――人形は動いた。
差し伸べていた手を払われたことが、気に入らなかったみたいに。巨大な両腕を、がばっと広げる。
その脇の下から、縫い目が弾けた。
ビリビリビリッ!
本当に雑な作りなのだ。動けば破れる。すぐにでも壊れそうな。
「やっつけちまっていいんだな!?」
杏子が叫んだのは、人形が魔法少女の、しかも自分たちの友人をモチーフにしていたからだ。そして、その力は魔法少女の導き手『円環の理』に由来している、と言う。
「待って! 鹿目さん! 暁美さん?」
マミが懸命に呼びかける。
人形が弓を取り出した。
まどかの使う花をモチーフにした優美な弓ではない。塵芥をかき集めて、弓の形を作っただけの代物だ。人形が壊れながら、弓を引き絞る。その矢も廃材の先を尖らせただけだ。
さやかが踏み込んだ。
この距離なら弓を放つより剣が速い。その判断は良い。
人形は身体を傾けて、前腕部に装着した盾で受けた。ガキッと音がして、さやかの剣戟が逸らされる。
“ここは、ほむらのマネかよ!”
人形は矢を諦めたように、弓を持った腕をそのまま振り回した。さやかが吹き飛ばされる。
地面に投げ出される前に、杏子がその身体をキャッチした。
「サンキュ」
「アンタ……」
杏子が呟いた。
「前より重くなってないか?」
「あなたが、フードコートやカフェを連れ回すからでしょうが!」
重いって言ったのは冗談だ。さやかを抱えて横っ飛び。そこに巨大な足が振り下ろされた。
「さやか!! なんでおまえ円環と戦えるんだよ!」
「え? 何言ってるの。杏子だって戦ってるじゃん?」
「わたしたちは魔法少女だよ! 言ってみりゃあ、インキュベーターの作った改造人間だ。それを救済してくれるのが円環ってだけで、戦おうと思えば戦える!」
弓を剣のように振り回す、その下を掻い潜りながら、杏子は懸命に言った。
「でもおまえはもう……死んでて……円環が、おまえを再生して……送り込んだんじゃなかったのか?」
「……なにその怖い話」
人形は身軽だ。それに動きが速い。懸命にかわし続ける。
マスケットを構えるマミに、苦しそうな表情が浮かぶ。この相手を―――本当に攻撃して良いのか。
その時、人形のほつれかけたブーツの切れ端が、ぴたりと止まった。飛んできた待ち針が、床に縫い付けたのだ。
「セルマは、とーっても役に立つでしょう?」
空から糸巻きを出現させ、さらにその動きを拘束する。この結界を維持している魔女そのものかもしれない少女は、得意げに言った。
「戦わないんなら、逃げよう! ここから出ちゃえば、あいつはいつか円環の本体に吸収されちゃうからね」
「そ、そうなの、セルマさん」
「……たぶん」
た、たぶん?
マミは叫んだ。
「佐倉さん! 美樹さん!
ここはいったん引くわよ!」
「おう!」
人形の剛腕をいなしつつ、杏子は応えた。
とんでもない巨体だが、もっとでかい魔獣とだって戦ってきた。
内ふところに潜り込んでしまえば、戦いようはいくらでもある。
そして杏子のやりの柄は、多節棍になっていた。
離れていても、目と鼻の先の至近距離でも戦える。
杏子の多節棍が、人形のボディを叩いた。
充分な重さののった打撃のはずだが、ポフポフと頼りない音がしただけだった。
だが、そのすきに杏子は、距離を取る。
「よし!逃げるぞ、マミ! マミ……?」
マミとセルマは立ち尽くしている。
ついさっき、彼女たちが入ってきた通路はなく。
まわり全てが水槽に覆われていた。
「いったいなにが!?」
「そんなこともわからないかな?」
セルマがバカにしたように言った。
「もたもたしてるから結界を乗っ取られたんだよ。」
「な、なんとかしなさいよっ!」
「出来たらやってるに決まってるよ!」
セルマは言い返した。
「そのくらい察するといいよ!」
ダメだ。
いつは話にならねえ!
全員が同じことを思った。
ブチッ
ブチブチッ!
再び糸が引きちぎられていく!
「……仕方ないわ。全員でやるわよ!」
マミのマスケット銃が火を吹いた。
人形の胸のあたりに着弾する。
人形は笑った。笑ったぶん、顔の布が切れる。ボロボロと中身が零れる。
「いいんだよ。」
人形が言った。
「もういいんだよ。大丈夫。どんな攻撃もわたしが全部受け止めるから……」
うわあ。
全魔法少女がドン引きした。
歪んだ円環。まさに歪んでいる。特に××。
「うっさあいっ!」
高く飛び上がって、空中出向きを変える。さやかの斬撃は変幻自在だ。
「わたしの友だちの声で、喋るなっ!」
コスチュームはまどか。声もまどか。
でも顔はほむら似ではないかと杏子は思うのだが。
一遍の情けもなく、さやかは人形の顔を切り裂いた。
マミは、その数秒の間に、マスケット銃を数十丁束ねたものを作り上げていた。
巨体には一発二発命中させてもキリがない。
ここらの判断はさすが、と杏子は思った。
「あ、ちょっとま……」
発射された弾丸が、人形の胴体をふたつに引き裂いた。
「ああ、もうなにをやってるんだかなあ……」
セルマが大袈裟にあたまを抱えて見せた。
「なにを言ってるの、セルマさん?」
「あのぬいぐるみはねえ……セルマが円環の力を抑え込むために苦労して作り上げたものなんだよ。」
チラリと見上げたその顔が意地悪そうに笑って見えたのは気のせいだろうか?
「ぬいぐるみを壊しちゃったら、封じた円環の力が解放されちゃうんだからね。」
ぬいぐるみは落ちた。
濡れた地面に転がった。
当たり前である。ぬいぐるみなのだから。
その背中が大きく割れて、爆ぜた。
布の切れ端、綿があたりに飛び散る。
その中から、人影が身を起こした。
「ま、まどか?」
さやかが叫んだ。そう。その姿は彼女の幼なじみでもある親友に瓜二つだ。コスチュームはいままでのものとは違う。もう少し露出の多い水着のような衣装だった。そして、その半身を覆うように、黒い巨大なトカゲがへばりついていた。
「なんだよ、あの格好……」
杏子が思わず呟くと、
「むかしさあ……もし、魔法少女になれたらって、まどかといろんなスケッチして遊んでたんだよね」
さやかがボソリと言った。
「あんなのもあったと思う」
「ト、とかげも?」
杏子が思わず悲鳴をあげかけると、
「いや、トカゲはいないよ」
と、さやかが応じた。
マミが必死に問いかける。
「か、鹿目さん? わたしたちがわかる? わたしたちあなたと争いに来たんじゃないの。ねえ、なぎさがどこに行ったのか、知らない?」
少女が口を開いた。
暁美ほむらの声で。
「だぁまぁりぃなぁさい!!」
杏子は思った。ほむらはほむらで、コミュ障気味だし、まどかはまどかでちょっと引くくらい優しいんだけど。
「このふたり、一緒にしたら最悪……」
横で美樹さやかが呻いた。考えることは一緒だったらしい。
半身にトカゲをへばりつかせた少女が叫んだ瞬間、ガラスが砕ける音が響いた。
「結界を破った!」
セルマが呆然とつぶやいた。
「セルマの結界を」
バチンッ!
世界が塗り替えられていく。
周りの水槽は、最初から空で、床はわずかにしめっているだけ。
巨大なぬいぐるみは、ふつうのテディべアサイズになり、どこからともなく部屋を照らしてい灯りは、非常灯の薄暗ものへと変化する。
「ほ、ほむら!?」
「暁美さん?」
謎の少女の目の前に、現れた暁美ほむらは、銃口をピタリとその額に押し付けていた。
見滝原の魔法少女たちには、それがそむらの時間停止能力をつかったものだとわかる。
「来てくれたのね、暁美さん! ここはね……」
マミが、状況を説明しようとするが、ほむらは汗を流した。そのまま、拳銃を下ろす。
「どうしたんだよ、ほむら! そいつは敵だぞ!」
杏子は叫んだ。
「円環絡みの力の残りカスらしいんだけど、もう歪んで別物になってるんだ。」
「……だめだ……まどかの姿をしたものをわたしは……もう二度と撃てない……」
「あ、あの暁美さん?」
マミがひきつった声で言った。
「その言い方だと、まえに撃ったことがあるようにも聴こえるんだけど?」
人形まどかはしみじみと、ほむらの顔を眺めていた。
それからそっと手を伸ばし、頬に触れる。
「おかえり。ほむらちゃん。」
ピクンと、ほむらの身体が震えた。
「ずっと待っていたんだよ? 流れでちゃったわたしの一部まだ、ほむらちゃんが持ってるんだよね?」
「ま、まどか……」
「返してよ。わたし完全にならないと。
世界を。
魔法少女を救わなきゃ、だから。」
キュイン!
一筋の矢が、その胸を貫いた。
いつわりまどかの中でなにかが砕ける音がした。
「あ、け、み、ほ、むら……?」
それだけ言って偽まどかは、崩れるように倒れた。
「ほむら……ちゃん?」
弓をもったまどか(今度は本当のまどかだ)が、バルコニーから飛び降りてきた。
「これって……」
だまって、ほむらは手を引いて、まどかを倒れた偽まどかの隣に座らせた。まどかが貫いた胸の穴に、手をかざす。
「さあ、まどかも」
「え、え?」
とまどうまどかの手首を掴んで、強引に傷口に手を近づけさせた。
傷口から淡い光が明滅する。それはかざしたまどかの掌に吸収されていく。
「おい! いったいなにが起こってるのか説明しろっ!」
杏子が怒鳴った。
「毎回、わけのわからないことに巻き込みやがって……え? 毎回?」
偽まどかの身体にへばりついていたトカゲは、小さく姿を変え、暗闇に逃げ込もうとする。その頭を待ち針が貫いた。
「ご協力ありがとう、セルマ・テレーゼ。」
ほむらは、セルマに微笑むと、ピクピクと痙攣する黒いトカゲを口を開けて飲み込んだ。
うっ!
ゲッ!
マミさんとさやかが、嗚咽をもらすなか、杏子はほむらに近づき、ココナッツクリームのかかったドーナツを差し出した。
最後の一個だったが、しかたない。
疑問符で顔をいっぱいにしながら、ほむらが杏子を見上げた。
「……腹へってんだろ?」
杏子は優しく言った。
「たしかに、おまえはへんなとこあるけど、友だちだからな。食っていいぜ。」
インキュベーターも含めた全員が、いやおまえもだろうと思った。
そろそろ公開も終了に近い感じですね、ワルプルギスの廻天。ネトフリとかで観れるのはだいぶ先だろうし、もう1回見ておこうかなあ