魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
現実が侵食されていく。
インキュベーターははたして、敵なのか、味方なのか。
そして、円環の理は!
変身をといたあと、倉庫街から市街地までは遠かった。
再開発が決まっているこのあたりは、夜はほとんど無人だ。怪談めいた話もあるし、不良のたまり場になっているという話しもある。
中学生の女の子がうろつく場所ではない。
みんなおっかなびっくりではあったが、ひとりさやかは
「大丈夫よ。わたしたち魔法少女なんだから!」
ときっぱりと言い切った。
まあ…それは可能な話ではあるんだけど、人間に魔法少女の力を行使してたら、大怪我させちゃうんじゃないかな、と杏子は疑問である。
それに、ふつうの人間はいくら倒してもグリーフキューブ落とさないし。
“針の魔女”セルマは、水族館の前で別れた。
どこか泊まるところはあるらしい。
一同に同行していたキュゥべえが尻尾を振った。
「不思議だね。鹿目まどか、暁美ほむら。なぜきみたちは円環に吸収されなかったんだい?」
ほむらの長い髪が、海の風にうねっている。
それを抑えながら、ほむらは冷たい目で、インキュベーターを見た。
「え? なんのこと?」
まどかが自分の手を見た。さっき偽まどかの胸から光を吸い取った手だ。まだ淡く光っている。
「吸収……ってどういうことよ!」
一番先に声を上げたのはマミだった。
「円環の理が連れていくのは、ソウルジェムの浄化が間に合わなくなって“魔女”になりそうな魔法少女だけでしょ?
少なくとも『噂』ではそうなってるわ。
なんで鹿目さんや、暁美さんが円環に『吸収』されるの?」
「そうだよ、おい!
それじゃまるで円環の理が壊れてる見たいじゃねえか……」
杏子は口に出してみて、自分の言葉の意味に気がついた。
「……円環の歪みってそういうことなのか?
それにしたってなんで、まどかと暁美ほむらだけ……」
「円環の理が不完全だというのは本当だ。」
インキュベーターはしっぽを振りながら答えた。
「でもいまその力は不完全で歪んでいる。
ぼくらが、“魔女”を作ってみたのも、円環の力がどこまで壊れているかを確かめるためだし、それは立証できた。
円環の理は、魔法少女が魔女化したとき、それを還元することはもうできない。」
「じゃあ、円環の理ってホントに存在するんだな?」
杏子は言った。
現実にいま「円環の理」その一部と戦ったばかりなのだが、魔獣とも魔女ともちがう恐ろしさを感じた。
まるで、戦うことそのものが悪いことであるように感じたのだ。
「で、それがおかしくなっちまってるのは、なんでだ? キュウべえ、あんたらの仕業か?」
「それは誤解だよ、佐倉杏子。」
道の脇に手入れの悪い植栽があって、枝がいっぱいに茂っている。そのに白い毛ものは入り込むと、次の瞬間に、20メートルばかり先の交差点に姿を現した。
「円環についてぼくらが、気がついたのは、前々回のことだよ。」
なるほど。と杏子は納得しかかって、激しく頭を振った。
「……いい加減なことばっかり言ってんなよ!
なんだよ、前々回って? じゃあ前回もあったのかよ?」
「話してしまってよいかい、暁美ほむら」
目がいやに赤い。
杏子はほむらを振り返った。
「そうね。」
バサリ。
髪がまた海風に踊る。
「ほむらちゃん」
まどかが、ほむらに抱きつくように近づいた。
風に踊らないように、長い髪を素早く編んでやる。
そして、メガネを取り出してほむらにかけさせた。
「あ……あの、えっとお」
メガネほむらは、顔をふせてもじもじした。
だめだこれ!
杏子はほむらの顔からメガネをむしり取った。
「こっちのほうがまだマシなんだよ、あたしもこっちのほむらのほうが好きだし……」
メガネなしほむらは、杏子を睨んだ。
「黙りなさいっ!」
どっちもダメか。杏子はため息をついて、またほむらの顔にメガネをかけた。
「あの……わたしってそんなに話がしにくいですか……?」
どっちもな!
その夜は結局、それ以上話は進まなかった。さやかが話をすることを嫌がったのだ。
結局、それぞれがいったん家に戻り、明日の放課後また集合ということになった。でもマミは、まだひとりでもなぎさの捜索を続けるのだろう。
インキュベーターやセルマの言葉を信じるならば、少なくともいったんはなぎさは、円環の力からは逃れてはいるのだ。それにもかかわらず、戻ってこないということは……また円環に捕まったのか。
それとも―――こっちの方が可能性は高そうなのだが、なぎさはあたしらが忘れているいろんな事をぜんぶ覚えているようなのだ。だからこそ、マミやあたしらに迷惑がかからないように解決するために、姿を消したのだ。
「さやかぁ。飯食ってこうぜ!」
杏子がそういうと、さやかの表情がパッと明るくなった。まだギリギリ、中学生だけでご飯を食べていても注意されない時間帯ではある。
さやかは、ケーキビュッフェに行きたがった。杏子は甘いものも大好きだったが、本日3回目のカフェはさすがに気が引けた。口論の末、ふたりはフードコートに腰を落ち着けた。
フードコートの端の席。さやかはパンケーキにホイップ山盛り、杏子は唐揚げ丼にコーラを頼んだあと、しばし迷ってから、ドーナツを追加した。
「なんでドーナツなのよ?」
さやかがフォークを突き立てながらぶつぶつ言う。
「〆だよ、〆。」
「だったら駅地下のカフェでケーキビュッフェにすればよかったじゃん。」
「うるせえな。今日3回目だぞ、カフェ。あたしらどんだけお茶してんだよ。魔法少女ってのはもっとこう……」
「こう……なによ?」
「栄養ゼリーに、ブラックの缶コーヒー、それとお酢ドリンクだな。」
「暁美ぼむらのランチじゃんそれ!」
「ソウルジェムが濁りにくくかるらしいぞ。
あ、そうだ。ソウルジェムがくすんだときは重曹で洗うといいって、都市伝説知ってるか?」
「都市伝説過ぎるでしょ?」
「でもホントならずっと魔法少女してられるぞ?」
ずっと魔法少女……と、つぶやいて、ぶるっとさやかは震えた。
「それって、なに。学校卒業して、社会人になって、結婚して、子どもできてもずうっと魔法“少女”しないといけないってこと?」
「それはそれで怖いか。」
「怖いよっ!!」
二人して笑う。周りの家族連れがちょっと見る。
少しして、さやかがホイップを崩しながら、小さく言った。
「……さっき、ごめん。話、途中でやめさせちゃって」
「ああ、あれか」
杏子は唐揚げを頬張ったまま。
「別にいいよ。あたしもよくわかんなかったし。円環がどうとか、前回がどうとか。マミさんが固まってたしな」
「ううん。わかんないから嫌だったんじゃなくて……思い出しちゃうから」
さやかはフォークを止めた。
「さやか。あんたは“円環”のなんだ?」
「……」
「キュウべえのやつが、まどかと暁美ほむらは、円環に吸収されるって言ってたよな? ということは、あいつらは今は円環の一部と繋がってるってことなんだろ?」
「ああ。」
さやかは、視線をバスタに落とした。
「なんで、あんたもっとバカじゃないの?」
「なんだよ、その言い方!」
「なぎさちゃんはさ。たぶん全部覚えてるっぼいんだよ。固有魔法意外にも、あんな戦艦とか作っちゃうんだもん。たぶん、あれって魔女の力なんだよね。」
杏子はコーラを置いた。
「……あんたのオクタヴィアも魔女の力だろ?」
「そう……」
さやかは頷いた。
「たぶん、わたしとなぎさは、いつかどっかで、魔女になって、円環に迎えられて……それからなにかの理由でまたこの世界に戻ってきた……そういう存在……」
「なにかの理由?」
「まあ、カバン持ちってところっスかねえ!」
さやかは沈み込んだ気持ちを誤魔化すように、笑って見せた。
「分かんねえ。」
ムスっと杏子は答えた。
「じゃあ、なぎさは? なんで生き返ってきた?」
「きっと、チーズが食べたかっただけよ。」
そんな馬鹿な。
杏子はあきれた。
たしかに、なぎさの大好物はチーズケーキだったが
そのために、世の中法則をねじ曲げるやつがどこにいるというのだろう。
「だって、ほら。あたし、杏子とこうやって普通に飯食ってる。でもさ、ほんとはもうわたしは死んでで、円環にいたかもしれないんだよね?
怖いよ。」
「別に怖くねえよ。」
杏子は即答した。
「なんかその―――別の世界とかなにがあっても、あたしはここで、唐揚げ丼食ってるいまがあれば充分だよ。」
そして付け加えた。
―――一人ぼっちでもねえしな。
まあまあ、いいこという杏子。あんたもループのなかじゃあなんども死んでんだけどね。