魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響   作:ATARU 2025

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まどかを巡る時を超えた愛憎。変身するな。変身すれば、吸収される―――
魔法ではない砲弾が、結界を引き裂く








第十四話 針と立方体

気を失っていたのは、ほんの数秒だったはずだ。

 

だが、目をあけたとき、空には雲が流れ、風が渺渺と吹いていた。

 

建設途中の高層ビルの屋上である。

 

まだ鉄骨がむき出しだ。

壁もない。もちろん床もない。

 

まどかは悲鳴をあげるかわりに、魔法少女に変身しようとした。

まことに理にかなった判断だ。

 

その手を、偽ほむらが止めた。

 

「だめですわ、愛しいひと。」

そのからかうよう微笑みから、もうひとりの偽ほむら―――円環の欠片から彼女を守ってくれた当人だとわかる。

 

「あ、あの……わたしは鹿目まどかっていいます。見滝原中学の2年生で……」

 

「そうね。それもまたあなたにふさわしい在り方ですわ。」

 

風が少女の髪を巻き上げる。

さっきまで、見滝原の制服を来ていたはずだったが……

 

今は白いロングコートを羽織っていた。

コートの下は、胸元に黒いコルセットのような装飾に、白いタートルネック。腰には黒いベルト、紫の天板に金のラインが小さな帽子。

 

「……あなたも……魔法……少女」

 

「変身はしないで。あいつはあなたを吸収しようと狙っているのです。」

笑みを絶やさず、少女は言った。

「変身してまえば、吸収されやすくなってしまいますわ。」

 

「あなたは……? えっとたしか三年生でしたよね。マミさんと同じクラスの……」

 

「その子を返してもらうわ。」

もうひとりの暁美ほむらが言った。

 

鉄骨から突き出したクレーンのうえに立つ彼女もまた既に「変身」を終えていた。

 

こちらも暁美ほむらの魔法少女姿とは違う。

まとった紫紺のドレスは裾が裂け、裏地には星空が瞬く。白い骨に黒い羽根を生やした翼を広げていた。

生地は、レースを使用した肌着に近いような代物で、細いほむらの身体にそれをまとうのは、なんとも煽情的にも見えた。

 

「なぜ、彼女の意志を無視するの?」

白いコートのほむらが言った。

 

「それは、もともとわたしから分離したものだからよ。」

黒い翼のほむらが言った。

「『悪魔』がもぎ取ったわたしの一部。前回は回収しきれなかった。こんどこそ」

 

風が吹く。

 

白いコートが翻る。

長い髪があおられる。

 

まどかの視線に答えるように、白いコートのほむらは優しく微笑んだ。

 

「ここは、わたしが作った“結界”ですわ。ここで、なにをしても外の世界に破壊が及ぶことはないのです。」

 

黒い翼のほむらも笑った。

「そう……ありがたいことね。」

 

ギャン!

 

耳障りな音をたてて、建物の上空。虚空にそれ自体がビルほどもある巨大な立方体が現れた。

金属のもつ硬質な輝きをまとっている。

 

それが、分離する。

砕けるのではない。もともとそうなるのが決まっていたかのように、数百本の柱に分解して、白いコートのほむらとまどか目掛けて殺到する。

 

まどかの手をひいて白いコートのほむらが、宙を駆けた。

殺到する金属の柱を次々とかわしていく。

 

「“まどか”を人質にとったつもりならば無駄よ。」

 

黒い翼のまどかは冷酷に言った。

 

「その身体に本当に危機が迫れば“まどか”は自動的に魔法少女に“変身”するわ。そうすればわたしは、彼女を吸収できることになるのよ。」

 

空中に逃れた白いコートのほむらとまどかに、四方八方から柱が殺到した。

 

ガン!

ガンガンガン!!

ガガガ!

 

空中で柱は互いにぶつかり合い、ふたりを閉じ込める檻を形成した。

 

「これでおしまい!」

 

檻がそのまま縮んだ。

 

白いコートのほむらは手を伸ばした。その手を挟み込むように。

檻は収縮し。

 

次の瞬間、バラバラに切断されて飛び散った。

 

白いコートのほむらの手に、剣が光っている。

その剣が、金属製の柱を両断したというのだろうか。

 

ふう。

と、白いコートのほむらがため息をついた。

背後にまどかを庇っている。

 

「あなたが覚えているのかどうか知らないけれど……まえにもわたしは悪魔とこうして戦ったのよ。」

 

白いコートのほむらの視線はどこか憐れむようだった。

 

「あなたは結局のところ“システム”。自ら改善し、進歩するということはないのかしらね。」

 

「だまりなさい!」

黒い翼のほむらが叫んだ。

「あのとき―――セルマたちが来なければ、ほむらが勝っていた。今回もそうなる―――」

 

ヤッハーっ!!!

 

けたたましい叫びが、響き渡った。

 

空の一部がさけ、そこから魔法少女が降ってくる。

明るいツインテにした髪。手には針のように尖ったレイピアを携えていた。

 

「おまえは!!」

 

「希望を運び、絶望を振りまくもの!」

 

鋭い突きを、黒い翼のほむらは辛うじてかわした。

 

「セルマ・テレーゼ! 見参っ!!」

 

「クッ……なぜ、おまえが」

 

「セルマはとおっても役に立つやつだからなんだよぉ。」

 

ヒュン。

 

黒い翼のほむらが、飛び下がるが、剣の先が翼を掠め、黒い羽毛が散った。

 

「キュウべえは宇宙を救ってくれるんだ。セルマはねえ、そのお手伝いをするの!」

 

たしかに。

『前回』は一対一では、ほぼ互角。

セルマと紫丁香がいて、はじめてパワーバランスは傾いた。

相手にセルマがついてしまったら。

 

セルマの鋭い突きにバランスを崩したところに、白いコートのほむらが剣を振るう。

 

斬!!

 

黒い羽毛が飛び散り、黒い翼、その片翼が切断された。

 

落ちる。堕ちる。

 

バランスを失った華奢な身体は、くるくると回転し、地面に落下していく。

 

それはつまり。

この世界からの離脱を意味する。

 

「わたしの結界からは逃げられないわ。

あいつを回収しましょう。セルマ、手伝って…」

 

そのとき。

空が割れた。

 

雲が消滅した。

魔法でもなんでもない砲弾。

ただの金属の塊。

それが、マッハ6の速度で、白いコートの少女に突き刺さった。

 

 

ドンッ!!

 

音は遅れてきた。先に衝撃が来る。身体が雲散霧消する。マッハの衝撃とはそのようなものだ。

 

「―――っ!?」

 

セルマが振り向くよりも早く、白いコートのほむらはその姿の再生を終えていた。

だが衝撃は、再生した体をも巻き込んでその身体を隣のビルの叩きつける。

 

 

ガシャン!! 鉄骨が曲がる。

 

「きゃあっ!」

 

まどかが叫ぶ。吹き飛んだ身体を、セルマが飛ばしたまち針が服とスカートを縫ってビルの壁に貼り付けた。

 

「なにをしてるのかなあ!?」

セルマはどなった。

「なんでおまえがセルマの邪魔をするのかなぁ?」

 

白いコートのほむらは、胸を押さえたまま、笑おうとして失敗した。口元から血ではない、何か黒い粒が零れている。

 

ふたり……いやまどかも入れれば3人の魔法少女の視線の先には、仁王立ちする暁美ほむらの姿があった。

「まどかは誰にも渡さない。」

 

「……なにを使ったの、暁美ほむら」

 

白いコートの偽ほむらが尋ねる。

その存在はいまも揺らぎ……いまにも消えそうだ。

 

「海上自衛隊試験艦ASE-6102明日香……

レールガン、よ。」

 

「愚かしい。わたしはまどかを円環の欠片から守っていたのよ。」

白いコートの偽ほむらがつぶやいた。

「だが、致命的ではないわ。あなたはそうして、彼女を守るのね……」

 

 

世界そのものが。

細かいパッチワークが剥がれてように消えていく。

 

暁美ほむらは、まどかをそっとその手に抱いた。

 

「また、会いましょう、暁美ほむら!」

白いコートの少女が手を振った。

「そう先の話ではないわ。」

 

 

 

------------

 

 

 

 

まどかは目を覚ました。

 

自宅のリビングだった。

 

夢……

 

夢では無い。

 

目の前には、暁美ほむらがいた。

 

「……ほむらちゃん?」

 

ほむらは頷いた。

 

「よかったあ……!!」

 

まどかがほむらに、抱きつく。

 

「なんか凄いことがあったんだよ! あ、ほむらちゃんも来てくれたからわかってるよね。

そうだ、みんなにも知らせないと」

 

まどかの体温を感じたほむらの身体が硬直した。

こ、これは―――!

 

ピンポーン。

 

玄関のチャイムが鳴った。

 

「まどか。帰ってるのかい?」

間違いない。父親の声だった。

 

まどかは急いで玄関のドアを開けた。

 

手にいっぱいの買い物と弟を抱えた父親と。その後ろに。

マミさん、さやかちゃん、佐倉さん。

 

「ちょうど、ここに来る途中のお友だちと会ったんだ。」

ニコニコと笑いながら父親は言った。

「せっかく来てくれたんだから、お茶を入れよう。

ええっと……お茶菓子はなにかあったかな……」

 

「あ、あのチーズケーキ……」

さやかが紙袋を持ち上げた。

 

「いいね。それじゃ紅茶を入れようか。どうぞどうぞ、上がって。」

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤッハーは昨日、ちいかわみたせいです。
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