魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
「……ったく、厄介なことに巻き込みやがって」
杏子は、コンビニのビニール袋からサンドイッチを取り出して、目の前の少女に差し出した。
「あ、あの……えっと……」
問答無用!
おどおどと視線を逸らそうとするその顔から、メガネをむしり取る。
「……佐倉杏子。あまり、わたしに関わらない方がいいわ……」
喋り終わる前に、その口にチョコレートヌガーを放り込む。
「……へ。隙だらけだな、暁美ほむら」
「うぐぐ」
と言いながら、ほむらはもぐもぐして、お菓子を飲み込んだ。
「そしてこれが! あたしのおすすめ! マンゴー風味ミルクティーだ!」
渡されたペットボトルをほむらは反射的に口に運んだ。
こく。
こく。
こく。
半分ほども飲み干して、ほむらはペットボトルをベンチに置いた。ベンチの端に、さっきむしり取られたメガネが置いてある。
見滝原中学校は昼休みである。
屋上のベンチのあちこちで、少年少女たちは思い思いにお弁当を広げ、売店で買ったパンにかじりつく。
「さやかは?一緒ではないの?」
「あいつは、まどかと一緒だよ」
ニヤリと杏子は笑ってみせた。
「志筑仁美や上条恭介と食べてるよ。なんでもあの恭介ってやつが、コンサートが近いっていうので、仁美と全然連絡をとってなかったらしいんだ。それで恭介と幼なじみのさやかが一肌脱いだってところかな。
これからは、せめてお昼の時くらいは一緒にいようってことになったみたいなんだけど、二人でアツアツは目立つだろ? それで、まどかとさやかにもお声が掛かったってわけ」
「佐倉杏子。あなたのことは、巴マミや美樹さやかよりも信頼してるわ」
「へえ? 意外なことを聞くね」
「……その戦闘力は」
むぎ。
力が入りすぎたのか、ポテチの袋がとんでもないところで破けて、ポテチが飛び散った。
次の瞬間。
飛び散ったはずのポテチは、きれいに並べられて、紙皿の上に置かれていた。
「時間操作っていうのか……」
杏子は、ガリガリと頭をかいた。
「たしかにすげえ便利だな」
顔立ちにはやや険があるが、杏子もなかなか美少女の部類には入るのだ。だが、態度がガサツなので、同じ魔法少女以外には、なかなか友人は出来にくい。
「食いながら話そうぜ」
杏子は今度はハンバーガーを取り出して、あむっとかじりついた。
「わたしはこの休み時間に、昨日まどかにちょっかいをかけたわたしそっくりの魔法少女を探すつもりだったのよ」
ほむらは言った。
「言われれば、確かにそんな人がいたような気がするけど、どうしても名前が思い出せない」
「マミが同じクラスだって言ってただろ。ここの生徒なのは間違いないよ」
「でも、わたしもあなたも美樹さやかも、まどかも。その名前がわからないなんてありえるの?」
「ありえるだろう? この学校ってけっこうでかいぜ。それで学年も違えば」
「巴マミまで?
単純でいいわね、佐倉杏子」
「そいつの名前が出てこないよりも、おまえがそいつを見た瞬間に名前も思い出せないのに『敵』と判断したのか。そっちの理由が、あたしとしては気になるんだけどな!」
「わたしは」
暁美ほむらは、空を見上げた。雲の流れと、風の音を楽しむように、ひとつ息をついた。
「たぶん、『元凶』なのよ。まどかを円環なんてものにしたのも、それが壊れたのも、わたしが原因」
「ああ。インキュベーターのやつがそんなことを言ってたな」
杏子は笑い飛ばした。
「でもわたしにとっちゃあ、この世界が全部だ。ときどき、変な記憶は蘇るけど、もしその記憶がインキュベーターのいう『改変』前の世界だとしたら、今のこの世界はだいぶマシだぜ。だって、あたしは『ひとりぼっち』じゃねえんだって、胸が張れるからな!!」
*******
昨夜インキュベーターは言ったのだ。
円環の理のもつ力を、そのエネルギーを使えば、宇宙そのものをも救済できる、と。だが、それを管理するまどかはどうなるのか、と問い詰めるほむらに、異生物はこともなげに言ったのだ。
「構築されたシステムとその管理者は、分離できる。暁美ほむら、君自身が証明したようにね。新たに管理者となるものは、鹿目まどかである必要はない。僕らが替われれば、ベストなんだろうけど、やはりこのシステムの根幹には、感情をもった知性体が必要なようだ。それを誰にするか―――重要な問題かもしれないけれど、少なくとも解決不可能だとは思えない」
インキュベーターは、セルマの腕の中から、身体を伸ばすように空を見上げた。
「ひとつの円環の問題は、なんとかなりそうだ。差し迫った問題は、これも暁美ほむら、君自身に大いに関係することなんだ」
「何を……」
ほむらはインキュベーターを睨みつけた。
「何を言い出すの!?」
「君が、鹿目まどかを救うため、繰り返したループ。それ自体がもう一つの『円環』となって、僕らを縛り付けている」
インキュベーターは、ブルルッと身を震わせた。
「時間の巻き戻しは、もはや君の意思ではなく、この世界の『法則』になってしまっているんだ。何をしても―――何もしなくても一定の期間が経過すれば、ワルプルギスの夜が現れ、全てを破壊していく。そして、世界は巻き戻るんだ」
**********
「ワルプルギスの夜については? 覚えているの、佐倉杏子」
「ああ。あたしは見滝原以外の魔法少女とも多少、付き合いはあったからな。でも魔女自体が都市伝説みたいなもんだ。それが融合した呪いの集合体とか言われても正直、ピンと来ねえな!」
「周回の終わりに必ずアレは現れる」
ほむらは言った。
「姿は少しずつ違うけど、強いわ。わたしひとりでは残念だけど……たぶん太刀打ちできないわ。」
「ふん! わたしと一緒に戦ったことは?」
「それは、ないわ」
ほむらの脳裏には、マミに撃ち抜かれる杏子やら、オクタヴィアとともに砕け散る杏子の姿が浮かんでいたが、杏子には知る由もない。
「なら、一緒に戦おうぜ! ワルプルギスの夜を倒せれば、やつの言ってたループも止められるかもしれねえ。あたしらだけじゃねえ。マミもさやかもまどかだっている。あの得体のしれないセルマってやつや、おまえそっくりの上級生とやらも味方してくれるかもしれない。そしたら向こうが魔女の集合体でも、こっちも魔法少女隊だぜ?」
杏子は、ほむらの肩を叩いた。ちょっと強すぎたようで、ほむらが顔をしかめた。
「食い終わったらマミさんの教室に行ってみてもいいぜ!」
杏子は二個目のハンバーガーに手を伸ばした。
「その前にまず、腹ごしらえってことだ。あたしらまだ成長期なんだぞ。ちゃんと食って育つとこは育たねえとな!」
ほむらには何か、グッとくるものがあったのだろう。
「それは……時期が来ればね。5年……いえ、3年後。刮目してみるといいわ!」
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見滝原中学の生徒数は多い。とはいえ、各クラスの人数は少ないし、対して教師の数も多い。
それでも時間帯、授業のカリキュラムによっては、人気のない一角ができてしまうのは仕方ない。
たとえば、昼休み時間の音楽教室などはそうだ。
防音設備がしっかりしているので、コンクールなどが近ければ、吹奏楽部などが昼休み時間も練習している事だってあるのだが、人気がない。
巴マミが扉を開けた。
窓際の席に、ツインテールの少女が座っている。何やら鼻歌を歌いながら、外を見ていた。
「セルマ・テレーゼ」
マミは静かに呼びかけた。
セルマは振り向き、揶揄うように笑いかけた。
「巴マミ。ほんとに来たんだ?」
「手紙を受けとったわ」
マミは、机に紙片を叩きつけた。
―――マミ わたしもチーズケーキが食べたい
「ごめんねえ、シャルロッテじゃなくって!」
セルマは立ち上がる。昨日、キュゥべえとともに現れたときと変わらぬカーディガンに、スカート。
「よくひとりで来たよね」
「誘いなのはわかっていたわ」
マミは冷静に答えた。
「わたしひとりを呼んだのなら、わたしひとりに話したいことがあったのでしょう?」
「正解! マミはほんとに役に立つなあ!」
セルマはケラケラと笑った。
「これは、さ。キュゥべえにも内緒の相談なんだ。ふたりで、シャルロッテを助けに行かない?」
ここから独自設定がかなり入ります。
ちゃんと完結しそうですね。よかった!