魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
つまりなぎさを自由にさせとくと、全部解説してしまうのでしばらく姿をくらませてもらいました。
もちろん、無事ですので、ご安心ください。
「なぎさの居場所を知ってるって言うの?」
マミは、セルマをじっと見つめた。
「おお、怖い怖い!
セルマをそんな目で睨んじゃダメだよ、マミ!」
ちっとも怖がりもせず、セルマは椅子からぴょんと立ち上がる。
「正確には知らないよ?
でも、おおよそ、見当はつく。
『円環の理』のところだよ。」
「『円環の理』はただの概念よ? どうやってそんなとこに」
「完全な『円環の理』はただの法則であって、本来、この世界の住人からは認知できないものだよ!」
セルマは明るく言った。
だがどこか、マミを揶揄うような響きがある。
「でもいまの円環は、傷つき、汚損されて、ろくに動けていない。それこそ、あなたたちに、『トカゲさん電話』をしてくるくらいに。」
セルマはいったん黙った。
マミが返答に窮しているのを、嘲笑うかのようにツインテの毛先をひげのように鼻先でぶらぶらさせた。
「……トカゲさん電話はね。もともと、円環の力を取り込んだほむらがはじめたもんなんだよ!
円環はほむらから、自分の力を取り戻そうとしたときに、その変質したほむらの意思も取り込んじゃった。」
「……」
「そのせいで、円環はもうボロボロ。自分からこぼれ落ちていく『欠片』をコントロールもできない。
このままほっておいたら、たぶんキュウべえが作ったんじゃない。ホンモノの魔女がこの世界に誕生してしまうかも!?」
「あなたの」
マミは、セルマを睨む。
「あなたの目的はなんなの、セルマ?」
「キュウべえに褒めてもらうことだよ! マミ!!
いまさら魔女をつくっても、キュウべえは褒めてくれない。それよりも円環を安定させて、そのエネルギーを宇宙の救済のために利用するようにできるのが、いちばんなんだよ!」
「昨日の晩、キュウべえは言ってたわ」
マミは言い返した。
「もう時間がないって。
もうすぐこの世界は、なかったことになって、わたしたちは。正確には暁美ほむらはまた巻き戻る。」
「その通り! 言わばこちらは、その運命に逆らってこの世界を創り変える叛逆者になるんだよ?
ワクワクするよねえ、マミ?」
「ワクワクはしないけど」
マミは応えた。
「もし、なぎさを救出する可能性があるのなら、わたしも手を貸すわ。
どうやって、『円環』の元へ行けばいいの?」
「名塚底根を通る。」
セルマは言った。
「こことは別の世界。すべての魔女の始まりの場所。すべての魔女の名前と記録が残されたところだよ。
円環の欠片たちは、多かれ少なかれ呪いに汚染されているから、魔女としての特性をもっている!
だから、こちら側に現れるには名塚底根を通るしかないんだよ。」
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「あ……」
マミのクラスメイトは戸惑ったように、口をつぐんだ。
下級生が教室に訪ねてくることは、そんなに珍しいことではない。
転校生の暁美ほむら。そして佐倉杏子。
転校生そのものが目立つ存在ではあったし、とくに佐倉杏子はその自由奔放な行動っぷりから、悪目立ちしていた。
だからと言ってとくに意地悪をするつもりは、決してない。
「あなたによく似たひと?」
マミのクラスメイトは首を傾げた。
「そうね。言われてみればよく似てるかも。
今日は見てないわね。お休みかも。」
「名前はなんて?」
「それは」
言いかけて彼女は眉間にしわを寄せた。
「……ええと、ど忘れしちゃったわ。おーい!」
彼女はクラスメイトのひとりに声をかけた。
「なになに?」
「ほら、この子になんとなく顔立ちが似たひとがいたでしょ?」
「いたっ……かなあ。」
「いたわよ。ほらあのいつもあそこの席に」
指さそうとしたその指が、教室を一周した。
「……あれ? どこに座ってたかしら。」
「巴さんは?」
「なんか、お昼ご飯食べないで飛び出してったわねえ……そうだ。なんか手紙をもらってたみたい。」
杏子の目が光った。
「どこに行ったか知ってるかい?」
最低限の敬語すら無視の言い方だったが、マミの同級生はみのがしてくれた。あるいは杏子の勢いに飲まれたのかもしれない。
「ええっ……と。たしか音楽室に行くって」
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中庭のベンチは、日当たりが一番いい。
志筑仁美が持ってきた敷物の上に、四人分のお弁当が並んでいる。仁美の手作り、まどかのはパパお手製、さやかのは今日はちゃんとお母さんが詰めてくれたらしい。恭介だけ、コンビニのサンドイッチと、楽譜が入ったクリアファイルを携えていた。
「それでですね、鹿目さん」
仁美がきちんと箸を揃えながら言った。
「上条君、わたしからのメッセージを見てくれてなかったみたいで。」
「いや、わざとじゃないんだよ……ごめん」
恭介がバツが悪そうに頭をかく。
「練習に没頭して、仁美メッセージに気がついくのがいっつも深夜になってしまって、返信しそびれてしまったんだ。」
さやかは、そのやり取りを横で見ながら、サンドイッチの袋を必要以上に強く握っていた。
―――わかってる。わかってるんだよ。
恭介がプロを目指してること。コンクール前は誰とも連絡を取らないくらい集中するタイプだってこと。仁美がそれで不安になって、さやかに相談してきたこと。
だからさやかが「じゃあ昼休みに四人で食べようよ!」って言い出したんだ。自分で言い出したんだ。
「恭介……」
さやかは大袈裟にため息をついたみせた。
「既読スルーってやつ?
けっこう最低なんだけど。」
明るく言ってみたけど、声が少しだけ上ずった気がした。隣のまどかが、ちらっとさやかの顔を見る。
「さやかちゃん?」
「なんでもない、なんでもない。ほら仁美、言ってやりなよ。『心配したんだからね!』って」
「も、美樹さん! そんな言い方はしません!」
仁美が真っ赤になる。
「あの……恭介君。コンクールの曲、仕上がりはどうなんですか?」
「ああ。まだまだだよ。なんだか……全体の表現がなんとかなったかと思うと細かいところがおろそかになる。あんまり、細かくところにこだわっても全体の表現がへんな感じなんだ。」
恭介がクリアファイルの中の楽譜をトントンと叩く。
さやかが昼食に誘わなければ、昼休みも楽譜を見ながらイメトレをしようと考えていたことは明白だった。
「失敗するとこ、聞きに行ってやる!」
「美樹さん、そんな言い方……」
「いいんだよ。」
恭介は自然に笑った。
「かえって、気が楽になった。音楽学校への推薦のかかったコンサートだからって、ちょっと気合いが入りすぎてたかもしれない。」
そう言って仁美に頭を下げた。
「心配させちゃってごめん。」
仁美が少しだけ勇気を出して言った。
「わたしも……聞きにいっでいいですか?」
「もちろん。君が来てくれると、緊張するけど……心強いよ」
恭介は、ちゃんと仁美の目を見て笑った。その笑顔が、昔さやかに向けてくれた笑顔と全然変わってなくて、でも全然違うものに見えて、さやかは急にお弁当が喉を通らなくなった。
―――ああ、もう。何やってんだ、あたし。
心の中で自分にツッコミを入れる。
好きなんだよ、恭介のことが。ずっと前から。幼なじみで、ずっとヒーローだった。でも、仁美が恭介のことを好きだって、泣きそうな顔で相談してきたとき、さやかは「応援するよ!」って言ってしまったのだ。
自分が魔法少女だったのが、気が引ける原因でもある。
彼女の魂はソウルジェムとなって身体の外にある。
よく言って改造人間。悪く考えればゾンビである。
それに、仁美はいい子だ。仁美の方が絶対、恭介とお似合いだ。仁美の方が、恭介の音楽をちゃんと理解できる。
そう思ったのは嘘じゃない。嘘じゃないんだけど。
「……ねえ、恭介」
さやかが、わざと大きな声を出す。
「コンクール終わったらさ、この四人で打ち上げしようぜ。駅前のケーキビュッフェ!めっちゃ美味いんだよ!」
「ああ、いいね。ぜひ」
「志筑さんにあげる。栞にでも」
恭介がクリアファイルに落ちてきた木の葉を一枚つまんだ。
仁美がそっとささやいた。
「それもらってもいいですか?」
「もちろん……でもなんで?」
仁美は恥ずかしそうに微笑んで、大事そうに手帳に挟んだ。
「栞にします。いつも恭介くんのこと思い出せるように。」
その何気ないやり取りを、まどかは黙って見ていた。そして、さやかの机の下で、そっとさやかの手を握った。
さやかがビクッとする。まどかは、何も言わない。ただ、握った手を、少しだけ強くする。
その温かさで、さやかはやっと息ができた。
「よし! じゃあコンクール、絶対成功させような、恭介!」
さやかが立ち上がって、拳を突き上げる。いつものさやかに戻った声で。
「おう!」
恭介も笑う。仁美も笑う。まどかも、さやかの手を握ったまま、ホッとしたように笑った。
風が吹いて、四人のお弁当の匂いが混ざり合う。
遠くで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
次回はちょっとバトルシーンを……