魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
なぎさは大きく息をすいこんで、手にしたラッパに吹き込んだ。
虹色に輝くシャボン玉が、吹き出された病院のふつふつと、脈動する壁をぶりかり、炸裂する。
建物そのものが、悲鳴をあげ、脈動する。
「見えた!!」
なぎさが指先た。
ぎちぎちと壁の一部が退き、空洞が穴を開ける。
そこから数十体のなにかが飛び出した。
注射器、カルテ、聴診器。それからに羽根や脚が生えている。
「きゃあっ!」
おぞましさに、まどかが1歩退きかけた。
その肩を、長い黒髪の少女が支える。
「ここはわたしとマミさんが」
丸い盾のなかから、取り出した拳銃はワルサーP5.
「まかせて!」
マミがリボンから作り出すマスケット銃は単発だ。
だが、一丁ずつしか作れない。
そうだれが決めたのだろう。
ほむらとマミの銃が同時に火を吹いた。
異形の使い魔たちが、次々と弾け飛ぶ。
「よし! 突っ込むぜ。」
「おくれんじゃないぞ、杏子!」
「さやか!……おまえわたしのセリフを」
槍に剣。
前衛向きのふたりは、壁の穴目掛けて突進した。
ほむらたちもそれに続く。
結界の中は、もはや全く病院の形をしていなかった。
天井も。 壁も見えない。
すべてが平面のような。それでいて薄汚れた壁紙に塗りつぶされてい。
床には、レントゲン写真が張りつめられていた。
「数がくる……わね。」
その空間を埋め尽くすように、使い魔の群れが迫った。 ほむらが盾のなかから、手榴弾を取り出す。
「みなさん! 伏せてください!」
ほむらが叫んだ。
手榴弾を投じたところは見えない。
おそらくは、時間停止の魔法を使ったのだろう。
起こった爆発は、1箇所や2箇所ではない。
バラバラに、なって吹き飛ぶ。
乱れた隊列に、マミのマスケット銃の一斉射撃が撃ち込まれた。
「……ここ、もう病院じゃないね」
まどかが呟く。
使い魔が続々と現れた。点滴スタンドがフラミンゴみたいに一本足で歩いてくる。頭の部分の点滴パックがパンパンに膨らんで、中で金魚みたいなものが泳いでいる。後ろからはカルテの紙を折って作った折り鶴の群れが、パタパタと同じ言葉だけ繰り返す。
「ダイジョウブ、ダイジョウブ、ダイジョウブ」
全然大丈夫じゃない。
「蹴散らす!」
槍をかまえて、杏子は突っ込んだ。動きは決して早くはない。
槍の穂先が、使い魔を貫き、引き裂く。
さらに接近した使い魔を、柄の部分が伸縮・湾曲・分割して多節棍(たせっこん)のように変形させて打ちのめす。
回り込んだ使い魔は、さやか剣を振るった。
まどかの放った矢が、次々と使い魔を射抜いていく。
ほむらは新しい弾倉を装填した。
さやかが波を起こす。床のレントゲンが一瞬だけ海になる。沈んだ点滴たちが、剣で切られる前に溺れて消える。さやかは斬るだけじゃなく、沈んだ場所をすぐに塞ぐ。癒やす方の魔法少女だってことを、無意識にやってる。
ほむらは測る。
盾を開く。時間は止めない。代わりに、すべての神経を観察に回す
「……やっぱり。結界はひとつじゃありません!」
ゆっくりになった世界の中でだけ、壁の奥にもう一枚、別の壁紙が見える。一枚目の病院の向こうに、二枚目の病院がある。ほむらはゆっくり流れる時間の中で、銃弾を壁紙の継ぎ目だけに正確に撃ち込む。剥がすように。
バリバリッと、一枚目の壁紙が剥がれた。
奥にいたのは魔女だった。
カルテ綴じの魔女。体は巨大なカルテ棚で、引き出しを開けるたびに中から違う季節が出てくる。春の引き出しからは桜の点滴が、冬の引き出しからは雪の体温計が降ってくる。
顔に見える部分は、歪んだ仮面に覆われていた。
まるで、号泣しているようなその表情でこう笑する。
「あは! アハハハ! ハハハハハ!!」
さやかが怒りで真っ赤になる。
飛び出そうとするさやかを白いレースの手袋の手が止めた。
「さやかちゃん、わたしに任せて。」
ここで**まどかの番。**
まどかは直接相手を狙わなかった。光の矢を天井に向かって撃つ。矢は爆発せず、蛍光灯になる。パチンと、逆さまのベッドの影が正しい位置に戻る。
「こっちだよ! 本体は一番奥の引き出し!」
光で照らされた時だけ、カルテ棚の一番下の引き出しに「未処理」って札が下がっているのが見える。
「了解!」
杏子の槍が、マミの銃弾が、さやかの剣が、同時にその引き出しに突き刺さる。カルテ魔女が、紙吹雪になって崩れる。楽しかったのか、最後に小さく「ダイジョウブ」と呟いて。
全員が息をつく。
「魔力の消耗は? 大丈夫?」
マミが尋ねた。
そう言った彼女に疲労の色が濃い。
ほかのものたちもそれぞれ、消耗していた。
集団戦闘を行ってくる魔獣と違って、基本的には魔女は一体だ。だがそれを補うかのように使い魔を使ってくる。
「油断してはまずいのです。すぐに次が来るのです。」
なぎさがきっぱりと言った。
空間は、紙吹雪がまい、視界はほとんどきかない。
その時、崩れた紙吹雪が、止まった。
風もないのに、紙が宙で静止する。そして、逆再生するように、引き出しの中に戻っていく。
杏子はさけんだ。
「気をつけろ! 次が来る。」
剥がしたはずの壁紙の向こうから、燃える手が突き出された。
紙吹雪が一斉に燃え上がった。
二体目だ。
これはいったいなんの魔女なのだろう。
全体のフォルムは白衣を着た女性に似ていなくはない。
全身に包帯を巻いている。身の丈は10メートルを、超えるのではないだろうか。
燃える両手だけが、包帯を巻いていない。
そこが轟々と燃えている。
唇から歌がこぼれた。
「──本日の面会時間は、終了しました。終了しました」
歌うたびに、レントゲン写真が敷き詰められた床が落ちていく。割れた隙間から、下の結界の底は見えない。
足場なければ、杏子の槍が届かない。さやかの剣も届かない。
マミの銃が火を吹く。ほむらのワルサーが続きざまに発砲。またあたらしい弾倉を装填する。
なぎさのシャボン玉を吹き出した。
魔女が燃える手を突き出す。
銃弾も。シャボン玉も。
本体に近づく前に弾けて消える。
完全に相性が悪い。近づけない。
それ以上に。
“魔女と続けて戦うってこんなに疲れんのかよっ!”
周りの空間に絵本が現れた。
本が開くと同時に、描かれたキャラクターたちが飛び出した。
キャラクターたちはみな綿毛の塊に手足を生やしたような愛らしい姿だ。
だがそいつらが顔を歪め、手に手に武器を持ち「ヤーッ」と叫びながら飛びかかってくる。
マミのリボンが、そいつらを絡めとり、壁に叩きつけた。
ほむらが焦ったように、なんども盾の内側をまさぐる。
「どうしたの、ほむらちゃん!」
まどかが尋ねた。
「た、弾切れ……武器がなくなっちゃったあ」
「なにをやってやがる!」
「ったく! もう!」
押し寄せる使い魔を、槍と剣。
近接戦闘向きの武器をもった杏子とさやかが、その前に立ち塞がった。
吹き飛ぶ使い魔たち。
「不味いわね。いったん、撤退しましょう。」
「そう簡単にはいかないと、なぎさは思うのです。」
その可愛らしい手で、顔を隠す。
手を開いた瞬間、少女の面影はどこにもなく。
殴り書きの人形のような異様な買おがそこにあった。
カッと口を開くと、今までとは問題にならない程、大量のシャボン玉が発射された。
使い魔の一郡が「ヤダーッ」と叫びながら消えていく。
天井にシャボン玉が当たり、弾けた。
「インキュベーターの封印だって、ヒビくらいはいれられたのです! これは……」
「まどか、ほむら。」
いつの間にか。
床からテーブルが生えていた。
その上にちょこんと座る生き物は。
長い耳と赤い目はうさぎ。長い胴体はいたち。しぐさは猫に似ていた。
つまり、既存の生き物ににていながら、どれでもない。
彼女たちと「契約」し、魔法少女にした謎の外宇宙生命体。
インキュベーター。
「きみたちは、本来のきみたちの力は使わないのかい?」
まどかとほむらは顔を見合せた。
インキュベーターがなんのことを言ってるのか分からなかったのだ。
「やれやれ。時間遡行がもたらした記憶の混乱が起きてるみたいだね! でもそのままだときみたちは、魔女に食われるよ。
あの魔女は特別製でね。魔法少女を取り込んでどんどん成長するんだ。
たぶんきみたちを飲み込んだら、もうこの結界内にとどまらずに、外に出るんじゃないかな。」
「キューべえ……」
まどかが呟いた。
「まあ、それでもいいよ。ぼくらがあそこで採取した魔女の記録と記憶の断片。それでここまでのものが作れるなら、実験は成功だ。
でも希望をいえば、魔女を相手に絶望したきみたちにも魔女になって欲しいんだ。
その瞬間こそ、最大のエネルギーが採取できるからね。」
「そいつの言葉を、まともにウケるなよ、まどか。」
さやかが、まどかの肩を抱いた。
ほむらがなぜかくやしそうに顔を顰める。
「魔女には魔女か。それはとってもいいアイデアかもな!」
そう言うと。
さやかはジャンプした。
床はほとんどが消失し、暗い暗い空洞が広がるばかり。
そこに飛び込むように、空間に身を踊らせながら、くるりと剣を持ち替えた。
切っ先を自分の胸に。
ズブリと突き刺した。
「さやかちゃん!」
「さやか!」
「おい、おまえなにを!」
「ああ……それをするですか?」
吹き出す血潮は、波の飛沫に似ていた。
それはみるみる凝固し、巨大な釣り針となる。
そうして作られた釣り針を、さやかはそのまま、地下の空洞に投げ込んだ。
「やたらには使えない奥の手ってやつ。」
なにかを。
釣り針がキャッチした。
「完全にわたしがコントロールできるわけじゃないから、街中で暴れられでもしたらとんでもないけど。
ここは結界のなかだから。」
巨体が、飛沫とともに釣り上がる。
両手には巨大な銛。
下半身は魚の姿だった。
「いっけーーーっ」
あのデザインをどうやって文章で表現したらいいのだろうか、苦戦中です。