魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
と思うかもしれませんが、彼女は別に見滝原に来たかったのではなく、まどかがいるところに来たかったのです。
ええ……と。こういうときはなんて言うんだっけな。
杏子は懸命に頭を働かせた。
オフィーリアの両腕が、長大なライフルを構える。
「ロックオン! 狙い撃つぜ!」
ライフルの銃口が、バシュっと瞬いた。
ビームは出ない。
だが、マミの機動兵器にむかって突進する小型の艦の右舷の船腹が、抉られたように消滅した。
タイムラグゼロの狙撃。
「みたか! 杏子直撃砲だっ!」
「なんか……すっごい甘くて、べとべとしてそう……」
「セルマ! 杏子のなまえは、キョウコって読むのです!」
マミの目の前のモニターに、グレーダーの艦隊が広がる。
600メートル級の大型艦三隻。
ひと回り小さくして、砲塔の数を減らした中型艦が二十隻。
さらに、全長100メートル程度の機動性の高い小型艦は、百隻以上。
その砲塔は、魔法少女たちの戦艦ではなく、マミの機動兵器へと向きを変えつつある。
マミが展開した黄金色のベールは、有効ではあるが、無敵ではない。
ビームが当たれば、ちぎれ飛び、穴が空く。
それをすぐに光の粒子が埋めるのだが、すぐにまたビームが殺到し、防護ベールを散らしていく。
勝てるのか?
こんな敵に。
果てして勝機はあるのだろうか。
あるとすればそれはどのくらいなのだろう。
千に一つか。
万に一つか。
億か。
兆か。
それとも京か。
「たとえ、それが那由多の彼方でもわたしには充分すぎる。」
機動兵器の背にマウントされたビームカノンが外れ、その手の中に収まった。デザインは彼女が愛用しているマスケット銃に酷似してはいた。
敵艦隊の後方から、異様な船が現れた。
細長い円柱の船体。ほかの艦のように砲塔などはゴテゴテとつていない。
その代わりに、船と平行に剣が装填されていた。船体を取り囲むように4本。
異形の船は、ゆっくりと回転する。それと同時に、剣を切り離す。
やべぇ!
やべぇ武器だ!!
杏子は、剣目掛けて直撃砲を放った。
一本は砕け散った。
だが残りは三本。
「マミ……!!」
「まあ……よくない子ねえ」
マミはクスクスと笑った。
「だめよ、ケンカなんて。暴力をふるっていいのは」
マスケット銃は火を吹く。と、同時崩壊した。
明らかに、銃身が耐えられる以上の過負荷がかかったのだ。
「魔獣と異星人だけなんだから!!」
ビームは三本の剣を飲み込み、砕き、さらにその後方の発射艦に襲いかかった。
その船体を船首から船尾まで撃ち抜き、さらにその後方を移動中だった中型艦にも大穴を開ける。
カシャ。
マミは砲身の裂けたマスケット銃を捨てて次を手に取った。
*********
「なにをやったの、マミは!!」
セルマが叫んだ。
「銃がぶっ壊れるくらいのエネルギーを集めて攻撃したのです。」
「ほんとに銃が壊れちゃってるよ! どうすんの!?」
「マミの銃はもともと単発式なのです。」
さすがに驚いたなぎさだが、今はマミの意図を正確に理解していた。
「打ち終わったら捨てて良いのです。」
「でもそれじゃあ……あ!」
セルマも気がついたようだった。
「マミはあの銃を魔法でいくらでも作り出すことが出来るのです。」
*****
マミの次の一撃は、中型艦を一撃で爆沈させ、それによりそうような隊を組んでいた小型艦数隻を巻き添えにした。
小型艦は、散開した。
艦艇というより、戦闘機を思わせる加速と機動力だった。
回転砲塔からビームが輝き、ミサイルが発射される。
マミの機体の展開する黄金の粒子による防護は、ビームにしか効かないようだった。
ミサイルをかわしながら、小型艦の群れに突っ込む。
「なにやってんだ!」
杏子は、オフィーリアを加速させた。
「取り囲まれたらまずいぞっ!」
オフィーリアが宇宙を翔る。
その周りにも、小型艦が殺到した。
小型とは言っても、オフィーリアよりはかなり大きい。
武装は、回転式砲塔のビーム。
ミサイル。
「うおおっりゃあっ!」
杏子の取り出したビームスビアが、動力部を貫いた。
火球となって、四散する小型艦。
「マミ……!!」
マミの機動兵器は、取り囲まれていた。
上も下も。
前も後ろも。
戦闘艦が覆い尽くす。
こんな配置にしてしまえば、実は同士討ちを恐れて発砲しにくくなるのだが、グレーダーの艦隊は意にもとめない。
あるいは乗務員などいない自動艦なのか。
それとも彼女たちのみたインキュベーターのように個々の個体の存続などは意味をなさない形態なのか。
マミの機体の背後に円状に取り付けられたマスケット銃。
それが一斉に発射された。
ビームが、ではない。マスケット銃そのものが発射されたのだ。
それはグレーダーの艦隊の小型艦をはるかに凌ぐ運動性をもって、艦隊の間をかけぬけた。
ビーム発射!
砲身をいちいち使い捨てるような威力はないが、小型艦の装甲を撃ち抜くには充分だった。
ビームを打ち終わったマスケット銃は、再びマミの機体の背に戻り、エネルギーを補充され、また飛び立っていく。
一分もかからぬうちに、小型艦の艦隊はその数を数十も減らしていた。
「わたしのディ・ハイリゲは伊達じゃない!」
大型艦が迫る。
数は三。
マスケット銃のビームが命中したが、その装甲は、攻撃に耐えた。
死角に潜り込もうとした小型艦が、艦橋部分を研ぎ落とされるように、見えないビームの直撃を受けて爆散する。
杏子の援護射撃だった。
「神罰執行!!」
彼女が“ディ・ハイリゲ”と名付けた機動兵器の前に、十をこえるマスケット銃が集まった。
「ティロ」
聖女は手をあげは。
振り下ろした。
「フィナーレ!」
マスケット銃が砕け散った。
十丁のマスケット銃を犠牲に放たれた光芒は、先頭の大型艦に突き刺さり。その正面装甲を撃ち抜きいた。
巨大な火球となって消滅していく先頭艦。
後続の二隻はそれをかわそうとしたが、はたせなかった。
すでに見えないリボンが、三隻の主力艦を拘束していたのである。
「残ったちっこいのは、逃げてくぜ、マミ。」
杏子は言った。
多数のマスケット銃を失ったその機体は。
さすがに疲れているように見えた。
失ったマスケット銃は補充されずに、背中のラックに装填された銃は半分近くに減っている。
「暁美ほむらとさやかの方は……」
たしか2人は空母を含む艦隊に向かったはずだ。
考えようによってはこちらよりも、やっかいな相手である。
オフィーリアのレーダーが、接近する人型機動兵器をとらえた。
数は二十!!
「やすませてもくれねえのかよっ!」
杏子はパイロットスーツのポケットから、リンゴを取り出して齧り付いた。
「マミさん。さがってろ。」
遠距離のビーム攻撃は効果が薄いとわかったのだろう。
ミサイルで撹乱しながら、それぞれの機体が剣を抜いた。
「いいんじゃないの?」
杏子は笑った。
構えたスビアが、多節棍に変化する。
「得意なのはそっちでね!」
「アインラードゥング・ツァ・エントハウプトゥング」
ほむらがつぶやいた。
迫り来る機動兵器。
3機。
それが同時に首を絶たれた。
「ホムリリィ。我が名は断罪。
首を差し出したいものから順番にかかってこい!」
暁美ほむらの機体────ホムリリィの周りにはすでに切断された無数の機動兵器の手や足が浮かんでいる。
「こ、怖いんだよ、暁美ほむら!」
さやかが叫ぶ。
オクタヴィアが投擲した銛は、空母の甲板から船底まで突き抜けた。
******
「いいんじゃない、とってもよい調子だとセルマは思うよ?」
「こんなのは小手調べです。」
なぎさは冷たく言った。
「左舷弾幕薄いのです。マミたちを突破した機動兵器が接近しているのです。」
凄まじい衝撃が、艦橋を襲った。
「右舷被弾! パッチワークが破られたよ!
装甲も……撃ち抜かれた。」
「隔壁閉鎖! 敵影をメインモニターに映すのです!」
スクリーンが敵艦を映し出した。
「データが来たよ!
旗艦、全長1000メートル。ほか600メートル級5隻。補助艦艇多数!マミやほむらたちが戦ってるのとは別の艦隊みたい。」
その艦は、船首部分がそのまま砲塔になっていた。
三連装のショックカナン。
セルマのパッチワークを貫き、装甲を破壊した武器はおそらくそれだろう。
「面舵いっばい! 最大戦速なのです。あれをまた打たれたらまずいのです!」
放たれたビームは、そのまま三つの光条が絡まるようにまとまり、なぎさたちを襲う。
ギリギリ。
辛うじて、攻撃をかわしたが、かすめただけで、対空砲火群がごっそりと消滅する。
続いてほかの艦が放ったビームとミサイルの雨が降り注ぐ。
「し、しゅうちゅうほうか! 約2万!!」
「こんなもので!」
まどかのクリムヒルト・グレートヒェンが盾を掲げる。
すべての砲火は、その盾に引き寄せられるように曲がった。
「わたしたちがやられると思って!?」
クリムヒルト・グレートヒェンの盾が集中砲火をはじき飛ばした。
「砲雷撃戦、開始!!」
魔法少女たちの戦艦の主砲が、発射される。
グレーダーの新艦隊の中心部で、それは炸裂した。
巨大なエネルギーの球を形成。
艦隊を飲み込む。
だが……
「あのでかいのには効果がないのです。」
「……」
「セルマ! あれをやるのです!」
「へ?」
「目には目を。インキュベーターにはインキュベーターを! なのです。」
「わぁっあああっ!!!」
セルマの手が動いた。
縫いあげたものは。
巨大戦艦はこちらの動きにあわせて、回頭する。
あの戦艦の主砲は艦首に固定されている。
なぎさたちの「因果応砲」と同じパターンだ。
進行方向に敵をとらえねば、うてない。
その僅かなスキに。
艦橋に巨大な白いものが張り付いた。
全長は数十mあるのだろうが、巨大戦艦に比べると小さく見える。
だか、その姿は。
白い毛並み。
赤く光る瞳。
彼女たちがインキュベーターと呼んだ外宇宙の生命体に、告示していた。
「キュゥべえ!!」
セルマが叫んだ。
「そいつを食べちゃって!!」
ガツガツガツ。
異様な光景だった。
もともと魔法少女たちもインキュベーターが口を大きく開けたところを見たことがない。
だが。
全長1000メートルはあった巨大戦艦は、みるみるその容積を減らしていった。
「いまなのです! 主砲撃て!なのです。」
今度は、貫通力を高めた特殊弾が、巨体戦艦の主砲に飛び込んだ。
爆発は内部から起こった。
その巨体を2つに折って。
戦艦は沈んでゆく。
「ふう……やれやれなのです。」
ひといきついたなぎさは、スクリーンを見つめて、顔を強ばらせた。
グレーダーの旗艦。あの月ほどもある母艦の背後から。
また新たな艦隊が出現した。
「キリがないぜ。」
杏子が呻く。
「また新手かよ!」
さやかが顔を歪めた。
「新しい生贄ね!」
マミがうっとりとささやいた。
ほむらは────
「来る!!」
宇宙空間に霧がながれる。
ありえない。
楽の音が鳴り響く。
もっとありえない。
だがほむらはそれを感じ……
それが来るのを全身で感じ取った。
体を震わせるその振動。
世界がその到来を恐れるあまりのカウントダウン。
ほむらはそれを何回聞いたことだろう。
空間が、幕を引かれたように裂けた。
複数の魔女の集合体。
想像を絶する呪いの集積。
人呼んで
ワルプルギスの夜。
「こ、こんなときに、か。」
杏子はつぶやいた。
ちゃんと完結できそうなのは初めてかも!?