魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響   作:ATARU 2025

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ついに登場する超絶なる魔女の集合体。
ワルプルギスの夜。







第二十七話 その名

「こ、こんなときに、か。」

 

杏子はワルプルギスの夜に会ったことは無いはずだ。

 

その記憶はあくまでも、この世界のもの。

魔獣の狩場として、見滝原に流れてきた。

魔法少女はむしろ、狩場を独占するためのライバル。

味方はいない。

仲間も必要ない。

 

そんな杏子はしかし、不思議と美樹さやかに声をかけられ、平然と「仲間」になっていまここにいる。

 

恐ろしい。

ワルプルギスの夜に、杏子は心底怯えていた。

 

それなのに、その唇は笑みの形に釣り上がる。

 

「くそっ!わけのわかんねえことに巻き込みやがって!」

 

オフィーリアは、宇宙を駈ける。

 

「どうせ。みんな死んじまってて、今こうして、一緒に戦ってるのは夢なんだろっ!」

 

「夢っていうほど」

さやかの手が杏子の手を重なったような気がした。

「悲しいものじゃないわ。これ。」

 

気がつくと、となりにオクタヴィアが並走していた。

 

「なんの未練もないつもりでいたけど。

なんどでも戻ってきちゃうなんて。

やっぱり心残りだったのかもしれないね。

杏子がひとりぼっちになっちゃうのが心配で!」

 

「ワルプルギス……」

ほむらがホムリリィのコクピットでつぶやいた。

「今度こそ!」

 

マミはディ・ハイリゲのコクピットで芝居でも演じるかのように、ささやく。

「卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでいく… 魔法少女は雛、卵は閉ざされた世界

世界の殻を破らねば、我々は生まれずに死んでいく 世界の殻を破壊せよ。」

 

ガコン!

ガコンガコンガコン!!

 

その背のラックにマスケット銃が補充されていく。

その銃身を、マミのディ・ハイリゲ手が掴んで引き抜いた。

それは…銃ではなかった。

銃身の部分が柄。グリップの部分は金の粒子を帯びた刃になっていた。

マミは高らかに叫ぶ。

「世界を革命するために!!」

 

 

******

 

 

「なぎさ! なぎさ!

今度はなに? セルマ怖いんだけど?」

 

「うーん。」

なぎさの額に冷や汗が滲む。

「……マミにはあとでおいしものを食べてもらって、なぎさが添い寝してやるのです。

いまは、いまをなんとかするのです!」

 

裂けた空間から、街並みがのぞいた。

見滝原の街並みだった。

 

現れたのは、巨大な。

なぎさたちの戦艦よりも大きな異形。

 

それは女性の人形のようにみえた。

雑に作った頭部。棒切れのような胴体と手。

足の部分は、大きく広がったスカートに隠されていた。

 

「キャハハハハハッ」

 

それは笑っていた。

歓喜にも狂気にも聞こえる。

 

なぜかそいつは逆さまだった。

 

逆さまのまま、高笑いを続けた。

 

狂っていく。

世界そのものがそいつの発する狂気に呑まれていく。

 

 

*********

 

 

「ウラ?」

グレーダーが首を傾げた。

 

「そうだよ。あれが魔法少女たちの都市伝説にあったワルプルギスの夜だ。」

インキュベーターは淡々と答えた。

「もともと円環の理による世界改変のために、魔女などという存在は、最初からいなかったことになった。

実際に、円環の理が完璧に作動していたときには、アレは出現しなかったよ。

暁美ほむらが、円環の理から、鹿目まどかという人格をもぎとり、世界を再構築することで、再び存在することが出来るようになった。

だからあれが現れるということは」

表情は読み取れない。だが、インキュベーターは残念がっているようにみえた。

「間もなく“巻き戻し”が起こるのだろうね。今度はどんな物語が紡がれるのだろう。興味はあるが、好奇心だけで試すには、あまりにもリスクの大きい事象だ。」

 

「ウッラ?」

 

「そうだよ。次に“巻き戻し”が起きたらきみにもついてきてもらう。

いずれにしても宇宙を救うには、円環の理のエネルギーを使うしかないんだ。

たぶん、ぼくひとりで説得するよりもよい結果が得られるだろう。」

 

「プリャ、ヤッハ!」

グレーダーが耳をびょんと動かした。

 

あらたに現れた艦隊が加速する。

目標は────ワルプルギスの夜。

 

600メートル級が十隻。その艦隊が、一斉にワルプルギスの夜に向けて主砲を放った。ビームは、ワルプルギスの夜がどんな金属で構成されていたとしても、素粒子に分解したはずだった。

 

当たらない!

 

ワルプルギスの夜のまえで、ビームは不自然に曲がった。

ありえない角度でその方向は変化し。虚空へと散らされていく。

 

「空間操作だね。魔女の得意分野だよ。」

インキュベーターは言った。

 

「ニャッハ?」

 

「そうだね。弩級戦艦の無限ガンマ砲なら空間を超えてダメージを与えられるかもしれないね。ここは魔法少女たちと共闘してみるかい。」

 

 

 

********

 

 

 

なぎさは顔をあげた。

 

艦橋のコンソールパネルのうえに、白い生き物と黄色の生き物が鎮座していた。

 

「キュゥべえ!!」

セルマが嬉しそうに叫んだ。

 

「なにをしに来たのです?

いま、あなたたちと戦闘の真っ最中なのです!」

 

「ほっておいたらこの時空は終わりだよ。」

インキュベーターは淡々と事実だけを述べる。

「壊れた円環の理はそのままに、ぼくらはまた時空というもうひとつの円環に導かれ、いつかの見滝原に戻されるんだ。ループの主宰である暁美ほむらや、円環に一度は還元されたきみや、美樹さやかはそのままやり直すことになるだろう。」

 

インキュベーターの目が怪しく輝いた。

 

「いまの暁美ほむらに、記憶干渉出来るだけの力が残っているかはわからない。

だから、次はもう少し。」

 

ため息をひとつ。

 

「ましになるかもしれない。だが時を渡ることそのものが記憶障害に関係があるのなら、また『思い出す』ことから始めなければならない。

もっと酷いことになる可能性のほうが高い。

だったら、ここでワルプルギスを倒して、ルーブから脱出するのが先決だ。」

 

「そうなのですか?」

なぎさはバカにしたように笑った。

「なら、そっちもわたしたちへの攻撃は諦めるのですか?」

 

「それは……」

 

「ハアッ!?」

グレーダーが腕組をして言った。

 

「……攻撃、はやめてもいい。けどその場合、不要になった母艦はそのまま地上に廃棄するって。」

 

「……わかった!申し出を受け入れるのです!」

 

なぎさは一瞬の沈黙の後、そう言った。

 

「攻撃はやめるのですね。そして母艦を地球に落とす、と?」

 

「ウラー!」

 

「いいですよ。そうするといいのです。」

なぎさは、後ろ手を組んでくるりと回った。

「ただそれは困るので、なぎさたちは全力で抵抗するのです。」

 

「ぼくたちに攻撃をやめさせて、自分たちだけが攻撃するのかい?」

 

「おまえがそう言ったのです。」

なぎさは笑いながら言った。

「ワルプルギスを無力化するために、わたしたちは共闘するのです。もうわたしたちは戦わないのですよ、ね?」

 

「しかし、いまきみは、全力で抵抗すると言った。」

 

「それは『戦い』ではないのです。

不法投棄を邪魔するだけのことなのです。」

 

 

インキュベーターは艦橋の床にぺたりと体を伏せた。

「百江なぎさ……きみはいったい……」

 

「インキュベーター。なぎさは全部覚えているのですよ!」

 

 

 

*********

 

 

 

暁美ほむら。

機動兵器はホムリリィ。基本人型であるが、顔の目から上の部分が消失したような異様な風体だ。ながく裾をひくヴェール状のエネルギーの放出はときに敵を絡め取り、あるいは押しつぶす。空間そのものを切断するアインラードゥング・ツァ・エントハウプトゥングは不可視の刃だ。手にもつライフルは、電磁加速砲……レールガン。

 

美樹さやか。

機動兵器はオクタヴィア。

下半身が魚に似た形状をしている。

近接戦闘においては、鋭い実体剣を巧みに使う。遠距離の相手には、本体に内蔵されたビームカノンで敵を牽制しつつ、一撃必殺の銛を投擲する。

 

佐倉杏子。

機動兵器は、オフィーリア。

ケンタウロスのように腰から下が馬になった機動兵器だ。加速力にたけ、タイムラグゼロの直撃砲はグレーダーの大型艦の装甲も貫く。接近する相手には多節棍にもなるビームスピアで相手をする。

 

巴マミ。

機動兵器はディ・ハイリゲ。聖女の名を持つ機動兵器は、そのフォルムもどこか女性らしいラインを帯びていた。

金色の粒子がバーニヤから噴出し、敵のビームを遮る一方、背に背負ったビームライフルは単発式。だがぐるりと円を構成するように数十丁が装備されている。

 

鹿目まどか。

機動兵器は、クリムヒルト・グレートヒェン。主人公機らしく白を基調にビンクやブルーのラインをあしらった精悍な印象の機体である。武装はビームガトリングにと平凡だが、その盾は、他者に向かった攻撃を自分に引き寄せ、無力化する力がある。

 

 

 

 

 

位置関係から、最初にワルプルギスの夜に接近したのは、まどかだった。

まどかたちの機動兵器より、遥かに大きい。

それは、ゆらゆらと漂いながら、笑い続けていた。

 

 

頭は下方にある。

 

まどかはクリムヒルト・グレートヒェンを慎重に、その上部へと移動させた。

スカートは────実際にはスカートではなく、お盆のような形状になっていた。

ちょうど蓋になるようなところには、席が置かれ、象やピエロやさまざまな扮装の芸人たちが、出番を待っているようだった。

その中央に。

 

玉座があった。

 

だれかが、そこにいる。

 

まどかはクリムヒルト・グレートヒェンをさらに接近させた。

玉座は。

一応、豪華なつくりでひとが腰掛けられるようになっているから玉座と呼んでみたのだが、よくよく見ると玉座でもなんでもない。

 

そのてっぺんから水が吹き出している。

 

吹き出した水は、段々をながれ、底にある池へと流れ込む。

 

その途中に。

少女がいた。

 

あの人だ。

 

前に円環の欠片から、まどかを守ってくれた上級生。

ほむらちゃんによく似た……で、ほむらちゃんが敵と間違えて吹き飛ばしちゃった。

 

衣装はあのときとは違う。

白いコートではなく、縁取りのついた紺のコングコートだった。

頭には、左右に大きく角のように張り出した、独特な形の紺色の帽子をかぶっている。先端には金色の輪飾りが揺れている。

魔法使いのような。

道化師のような。

不思議なファッションだ。

 

そして彼女は、座ってさえいない。

座面になるところに両足を投げ出し、逆さまになって、まどかを見ていた。

 

笑ってる……

 

まどかは、クリムヒルト・グレートヒェンを着地させるとコクピットを開けた。

ちゃんと呼吸もできる。

身体はふわふわ浮いたりせずに、表面をきちんと踏みしめられた。

 

少女は、まどかにむかって手を伸ばした。

 

組み合わせた指の間から、まどかを見つめる。

 

 

 

******

 

 

 

ホムリリィのコクピットで、ほむらが呻いた。

 

「あれは────なに!?」

 

 

 

********

 

 

「幾千の円環を超えて。」

少女は言った。

「また巡り会うことがかないました。愛しき御方。」

 

知らず知らずのうちに、まどかの唇は言葉を紡いでいた。

 

「……マルグリート」

 

 

 

 

 

 

 

 




マミさんはちゃんともとに戻ります。
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