魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
すべてが逆転する。
マルグリート。
そう呼ばれた少女はにっこりと微笑んだ。
顔立ちは、ほむらちゃんそっくりなんだけど。
まどかは思った。
ほむらちゃんもこんな風に笑ってくれればいいのに。
マルグリートが立ち上がる。
噴水の中に寝込んでいたのだから、服も髪もびしょびしょだ。
ブルっと身震いをするのと、コートから水が弾けた。
そのまま、まどかに向かって歩く。
マルグリートの手が伸びた。
ぐい。
と、まどかの下唇をひっぱる。
歯茎の色をみて、満足そうに微笑む。
「な、なに!?」
「ごめんなさい。癖ですわ。 健康状態をみるのに、歯と歯茎を見るのがいちばんいいので……」
「そうなの?」
「修道院で飼ってた羊や山羊にはみんなそうしていましたわ…人間にもついしてしまうのはわたくしだけですけど。」
「マルグリートさんは昔のひとなの?」
「そうですね……」
難しい質問を受けたように、マルグリートは眉間に皺を寄せた。
「わたくしはわたくしと言うものを忘れてしまって久しいのです。あなたに名前を呼ばれるまでわたくしは…いえ、わたくしたちは救いを求めてさ迷っていたような気がします。
もうずっと。」
「うん、大丈夫。」
まどかも微笑んで、マルグリートの手を取った。
「もう大丈夫だよ。わたしがいるから!」
マルグリートは困ったような顔をした。
「でも、あなたがここにいるということは、円環の理が不完全だということを意味します。」
「それは……」
「まどかっ!!」
突っ込んできたのは、ホムリリイだった。
さすがに、ホムリリィの武器で、マルグリートを攻撃すれば、まどかも巻き添えにしてしまうことは判断できたのだろう。
ぶつかる様な勢いで、ホムリリィを着地させると、そのままの勢いで、ほむらはコックビットから飛び出した。
「そいつとの戯言はやめて!!」
盾の内側から取り出した拳銃は、S&W M29。
少女の手には、明らかにゴツすぎる代物だった。
「ダメだよ! ほむらちゃ……」
ほむらは躊躇わす、引き金を引いた。
マルグリートの赤い瞳が、自分に迫るマグナム弾を凝視する。
ガキイイイイイッ!!
すんでのところで、銃弾は槍の穂先に弾かれた。
槍を握った杏子が叫ぶ!
「暁美ほむらっ!!
まず話を聞けえっ!」
ずウウん!
重い音が、ワルプルギスを揺さぶる。
杏子のオフィーリアが着地。というか墜落した音だ。
杏子自身は、オフィーリアの着地を待たずに、コクピットから飛び降りて、ほむらとマルグリートの間に割って入っている。
たかが槍の穂先で44マグナムを弾き飛ばしたのは、魔法少女ならでは、だろう。
続いて、美樹さやかのオクタヴィアが。
巴マミのディ・ハイリゲが続いて着地する。
「まどかっ!」
「鹿目さん!?」
コクピットが開いて、ふたりが飛び降りた。
マミのマスケット銃の銃口は。
さやかの剣の切っ先は。
杏子の槍の穂先は。
ほむらを向いていた。
そしてまどかは、マルグリートを護るようにその前に立ちはだかっていた。
なんでこうなる?
ほむらが泣きそうな顔をした。
**********
「ワルプルギスの夜が、敵対行動にでないっ!?」
インキュベーターの赤い瞳がまたたいている。
そいつがこの生き物の狼狽を表すものだ────ということを、なぎさもセルマもわかっていた。
「はい、そうですよ。」
なぎさはしゃあしゃあと答えた。
「魔女になりかかった魔法少女たちを救済してたのは、円環の理というシステムではなく、鹿目まどかという女の子だったのです。
『前回』でワルプルギスの夜はそれを完全に理解したのです。」
「ブリャ!」
「はい、そうですよ、グレーダー。
ワルプルギスの夜は敵ではなくなったのです。これで、約束は果たしたのです。
あなたたちの『艦隊』は引き下がるしかないのです。」
あとは。
なぎさは艦橋のメインスクリーンを見やった。
グレーダーの母艦。
月ほどもある巨大な球体が、移動をはじめていた。
あとはあれを始末すれば!!
*************
マルグリートは、ほむらに向かって近づいた。
手を伸ばして。
ぐい。
下唇を押し下げる。
「……タンパク質と鉄分が不足していますわ、暁美ほむら。」
姉が妹を気遣うような口調で、マルグリートはそう言った。
たしかにそっくり顔をしたマルグリートとほむらは姉妹に見えないこともない。
「マルグリート特製の山羊の乳のオートミールでも食べさせたいところだけど
……残念。いまは時間が無いわ。」
その指が高く上がり、天空を指さした。
そこには再び前進をはじめた球体。
グレーダーの母艦があった。
「あれが地球への落下軌道に入っている。あれを止めない限り、また時は巻き戻る。」
**********
「因果応砲をパワーアップさせる!?」
艦橋に戻った杏子たちは、なぎさの発言に驚いた。
「いいですか? こんなときにはこう言うのです。
『こんなこともあろうかと思って』
さん、ハイッ!」
「「「「こんなこともあろうかと思って」」」」
「……まあ、ウソなのですが」
椅子からコケる。口に含んだジュースを吐き出す。振り向こうとしたとたんに肘をぶつける。
思い思いのリアクションをとる魔法少女たちを、なぎさは満足げに見つめた。
「実際には、マミのマスケット銃に過負荷をかける手段を参考にしたのです。この船にいくら負担をかけてもいいのなら、さらに因果律をめちゃめちゃにねじ曲げることも可能なのです。
天体一個をなかったことにするくらい。」
「……でもそうしたらこの船は?」
杏子がおそるおそる尋ねた。
「ぶっ壊れるのです。ですが、みんなはそれぞれの機動兵器で脱出すればよいのです。」
「あんたはどうすんのさ!」
さやかが怒ったように言った。
「この戦艦はなぎさの思念で出来ているのです。ぶっ壊れても再生します。脱出するくらいの時間はかせげるのです。」
なぎさはちらりと時計を見た。
「調整に少し時間がかかるのです。30分後にここに集合するのです。」
今回、短めです。