魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
なぎさは、艦長席のシートに体重を預けた。
自分のためにつくった戦艦なのに、シートは成人男性用のサイズだ。
足をぶらぶらさせながら、コンソールを眺める。
セルマもいなくなった艦橋はだだっ広い。
「なぎさ……」
マミに呼ばれて、なぎさはびっくりして飛び上がりかけた。
「マミ……みんなといかなかったのですか!?」
「なぎさの分よ。」
マミはお皿にのせたチーズケーキを差し出した。
「学校の近くのケーキ屋さんよ。なぎさに食べてもらいたかったんだけど、いなくなっていしまったから」
「ごめんなさい……のです。」
なぎさは、ケーキをくちに運んだ。
うむ。甘さと酸味の調和も香りもちょうどよいのです。
「ねえ、なぎさ」
「……」
なぎさは無言でマミ見上げた。
深い意味は無い。ケーキを口いっぱいに頬張ってしまったからだ。
「準備に時間がかかるって言ったけど」
マミは静寂に包まれた艦橋を見回した。
「……ウソね?」
「むぐむぐ」
「危険な作戦なのね。」
「うぐうぐ」
「因果応砲を発射と同時にわたしたちを脱出させて、なぎさはどうするの?」
「……それは」
なぎさは視線を逸らした。
「戦艦が分解されるのとこ同時に平行して再生するのです。それは分解の速度の方が早いのですが、脱出の時間くらいは充分稼げるのです。」
「……お別れの時間をつくらなくちゃ行けないくらい危険ななのね。」
「失敗したときのことはかんがえなくてよいのです。マミはこれから普通に、幸せに生きていけばよいのです。」
「『ある』ものを『なかった』ことにすれば因果律の反動があるわ」
マミは、言った。
「キュウベエたち風にいえば、ひとつの天体を消滅させるという希望が叶えられたならば、それに匹敵する絶望も生まれる……ということね。
反動が物質的な破壊エネルギーとして生じる分には、防御も再生も可能だろうがね。」
マミの表情が一変している。
優しい、頼れる先輩の顔は消滅し。
気難しそうな学者の顔になっている。
「なぎさ……わたしはあなたを本当の妹のように思っている。」
それは、なぎさが『履修』させたどれかの人格だ。だがその言葉はマミの本心から出ているのは間違いない。
「もし、何かの成果が誰かの犠牲のうえに成り立つものなら、わたしはそれを認めない。
……そうだ。いまはたしかに暁美さんの気持ちがわかるような気がする。」
マミはコンソールにパネルのまえにたった。
「こんなこともあろうかと、因果応砲の砲身をカートリッジ式に改造してある。
発射と同時にカートリッジを切り離せば、砲身融解による船体へのダメージは最小限に抑えられる。
問題はそのあと。因果律の反動だ。」
「それなら」
ふたりは同時に振り向いた。
無人のはずの艦橋に人影があった。
ほむらによく似た顔立ち。縁どりのついた青いロングコート。道化師のような帽子。
「ワルプルギス……いえ、マルグリート?」
彼女は静かに微笑んだ。
「わたくしが力をお貸ししましょう。」
************
「すげえよ、すげえ!!」
杏子は、窓から見える景色に感嘆していたように叫んだ。
海の青と雲の白。
それらが複雑に混じり会う天体は、彼女たちがあとにしてきた地球だ。
「キレイだよな。あそこを護るんなら戦いもやりがいがあるってもんだ!」
「はー、お気楽!」
さやかが言った。
「相手は、月くらいあるのよ?
どうやって、止めるっていうのよ!」
「忘れたのか? あたしたちには因果応砲があるんだぜ。あれをもうパワーアップして1回使えば……」
「そんなに都合のいい展開があるわけない!」
「なぎさに見せられたアニメはたいていそうだったぞ?」
「これはアニメじゃないんだけどなあ。」
美樹さやかは、チーズケーキをくちに運ぶ。
もし自分が「死んだ」らどうなるのだろうか。再び円環の一部に還元されるのか。
それは厳密「死」ではないのだろう。
だが、さやかは今の自分という「個」を失いたくはなかった。
ちらりと隅の席で、両手を胸の前で組んで祈りを捧げているほむらを見た。
そうだ。祈りを捧げている「ように」見えるだけだ。
いまほむらがやろうとしているのは、自分のなかに残った悪魔の力を根こそぎ集めることだ。
その力は、一度は宇宙を書き換えた。
見滝原すべてを己の結界と化し、物質を自在に操る。
その力をもって、グレーダーの母艦を止めようというのだろう。
さやかは、まどかを見やった。
まどかはほむらを心配そうに見つめている。
「ねえ、暁美ほむら!」
さやかは話しかけた。
「あんたって、まどかに心配ばっかりかけてるよね?」
集中をジャマされたほむらは、氷のような目で、さやかを睨んだ。
「あんたがやろうとしてることって、無意味だよ。あんたの持ってた悪魔の力は、ほぼ円環の理に回収されてしまってる。星くらいあるモノの落下を止める因果はあんたにはないよ!」
「なら諦めるの?」
ほむらは立ち上がった。
「ほむらちゃん。」
まどかが言った。
「わたしの願いはすべての魔法少女を救うことだよ。だからわたしたちだって、諦めることなんて、ない!」
「まどか!」
ほむらはまどかを抱きしめた。
うぐぐっと呻いて、まどかは顔を赤くした。
「ね、わたしの相方はけっこうへんなヤツなんだよ、杏子。」
さやかが言った。
「正直、まどかと2人っきりにするのかちょっとまずいような気さえするんだ。」
「まあ、それもたしかに問題だよ。」
杏子は、まだ地球を見つめていた。
「でも、出来ることからコツコツやろうぜ。
まずはグレーダーの母艦の落下を止めて、それからなんとか円環の理を修復する。それでそのエレルギーをインキュベーターが使えるようにして、宇宙を救って、それからソウルジェムの浄化を半永久的にできるようにして、魔獣の発生を止めさせて……」
「そんな宿題出されたら、わたしだったら学校休むよ。」
*****
かつて地球にはいくどとなく、隕石の落下があった。
歴史上なんどかあった生命の大絶滅。
それは隕石の落下が起こした大変動が原因となるものが少なくない、という。
一例をあげるならば、約6600万年前、白亜紀末期、ユカタン半島に落下した起きた直径約10キロの巨大隕石の地球への衝突は、その直接の衝撃もさることながら、その後の地球環境を一変させ、恐竜を絶滅においやった、という。
グレーダーが投棄しようとしている母艦は、直径約6000キロ。
「彼女たちはなにをするつもりだい?」
インキュベーターは、宇宙空間を漂いながらそう言った。
「プルルルルルルィイイイイイヤァァァァァハァァァァァァァッ!」
叫んだグレーダーに、インキュベーターは視線を向ける。
「え? そこまでする必要があるかい。ぼくたちの目的は、あれを地上に落としてしまえばいいんだよ。たとえ、彼女たちの因果兵器が使えたとしても、止めることも向きをずらすことも出来ない。」
「ィィィィィィ ヤァァァァ ァアッハ!!」
「そうだね。たしかに、彼らの『文明』を破壊できなければ、次の策は、星の絶滅だ。」
「ウラ ヤハ!」
「たしかに、ぼくらが彼女たちに好意的なことは、知られてはならない。
ワルプルギスの夜が敵では無くなったことで、一時的に時間のループは停止しているばすだ。この間に円環を修復して、その意思に、エネルギーを宇宙救済のために使用することを許可してもらい、さらにそれを上層部に納得してもらう。
ああ、円環の理の人格が鹿目まどかでも暁美ほむらでも、おそらくは魔獣の発生の停止と、ソウルジェムの浄化システムの改善を要求してくるだろう。」
インキュベーターはうなだれた。
「……とても不可能だ。」
「ケセラセラ」
「そうだね。諦めるつもりはないよ。これが宇宙を救う最善の。そして最後の一手になるだろうからね。」
*********
ほむらたちが損害を与えたのは、グレーダーが用意した艦隊のごく一部だ。
残った艦艇は、グレーダーの命令に従い、母艦の前面に集合。
一斉にバリヤをはった。
さらに、円形に発生したバリヤとバリヤを融合させる。
母艦はその進行方向に、強固なバリヤの傘をかぶったようになった。
あと3話くらいで修了予定です