魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
「娘ひとり、見滝原において、海外に行っちまうなんて勝手な親だよなあ。」
そう言った杏子を、ほむらは睨んだ。
まどかがおろおろしながら、それでも杏子に言った。
「そんな言い方ひどいよ! みんなそれぞれ事情があるんだから。」
「事情は説明してないから、佐倉杏子がそう思うのも無理はないわ。」
ほむらはそう言った。
見滝原の駅に3人はいる。
今日は、ほむらの両親が帰ってくる日だ。
なんとなく、落ち着かないほむらを見かねて、まどかと杏子はついてきてくれている。
「まあ、親父さんの海外フニン……?はともかく、母親まで一緒についていかなきゃならなかったのかよ。」
ずけずけきいてくる杏子だが、その方がほむらにとっても答えやすい。
「わたしの治療にかなりお金がかかってしまったのよ。無茶な転勤を断れないくらいにね。
で、父にとっては、始めての外国だったんだけど母は、まえに海外で働いてたことがあったので言葉も話せるし、ついていくことになったの。」
「大変だったんだねえ。」
まどかはしみじみ言った。
もちろん、残された娘は魔法少女になり、その後時間軸を何周もして、世界を救ったり、宇宙的な大問題を解決したりしていたのだが、まあ、それでも両親が苦労したことには間違いない。
「ご両親はもう、ずっと、こっちにいられるの?」
「父はたぶん一週間くらいで、また赴任先に戻る。母は向こうとこっちをいったり来たりになるのかな……だからいまのマンションは解約しないでそのままになると思う。」
「うんと甘えちゃえばいいよ!」
まどかは明るく言ったが、ほむらはまだ難しい顔をしている。
彼女の意識の中では、途方もない時間が流れているのだ。
どんな顔で会えばいいのか……わからない。
「はい、忘れ物」
ひょい、と後ろからメガネが差し出された。
ほむらは反射的に受け取った。
優しいゆびが、髪にかかる。
「もう、ほむらってば、メガネも持たずに髪も結わずに勝手に先に行っちゃうんだから。」
振り返った顔は、ほむらによく似ていた。
口元にはいたずらっ子のような笑。
「お……」
「はあ……」
「ええっ……マルグ」
「なにを言ってるの。」
ほむらによく似た少女はころころと笑った。
「わたくしは
「なんでてめえがここにいる!!」
杏子が飛び下がった。
まだ変身はしない。
駅の改札前は、魔女と魔法少女が戦闘をするのに向く場所ではない。
「まあまあ、杏子ちゃん。わたくしとはなんども会ってるはずよ。見滝原中学の三年生なんだから。」
「ああ……先輩。」
まどかはぺこりと頭を下げた。
「なんども助けてもらってありがとうございます。
わたし、その、ちゃんとお礼を言えてなくて」
「こちらこそ、愛しき御方。
うちのほむらがご迷惑をおかけしてないかしら?」
「そんな! 迷惑なんて!
終わり良ければすべてよしです。
そう思います!」
「それだと、『迷惑をかけたこと』の否定になってねえぞ?」
「まあまあ」
にこにこと、ほむらの姉。
暁美真珠は笑う。
「わたくしとほむらって、仲が悪いわけでもないのに会えばケンカばっかりなので。」
「ケンカっ?」
あれをケンカですませるのだろうか。
なぜこれがここにいるのかはわからない。
だが、人間の姿で現れた以上。
なにがなんでも決着をつける────
ほむらの手を真珠が握った。
「ダメよ。これからお父さんとお母さんを迎えるのでしょう。仲良くしないと心配させてしまうわ。」
「くっ」
手を握られていては、時間停止が使えない。
そして時間停止なしにここで、戦いを始めればたいへんなことになる。
「なんでおまえが姉なんだ?」
「それはまあ、なんていうか」
真珠は首を傾げた。
「それがいちばんおさまりが良いのではなくって?」
むに。
また指がほむらの下唇をむいた。
「この前よりはいいわ。
杏子ちゃんたちとお昼を食べてるおかげかしら。」
はあ。
とため息をひとつ。
「でもやっぱり、カロリーが不足しているのよえね。ほむら。あなたちゃんと寮で朝夜ご飯食べてる?
病み上がりのあなたがこんなだったから、わたくしが両親から怒られてしまいます。」
「あ、あのなあ! わけのわかんねえことに巻き込むなって!」
杏子が叫んだ。
「せめて、記憶操作をしてくれっ!!」
「あら、そんな非人道的なことはめったにするべきじゃないわ。悪魔ででもない限り。」
真珠はほむらを見つめながら言った。ほむらのことが好きで好きでしょうがない。だからこそからかわずにはいられない。
そんな風だった。
「あっちのほうはいかがですか?」
まどかがあらたまって尋ねた。
「ああ! 概ね順調です。愛しい御方。
もしくわしい報告が必要でしたら、今晩、わたくし夜勤がはいっておりますので、資料をまとめておきますわ。」
「夜勤、とか! なんのことなの?」
ほむらは手を振り払って、声を出した。
美人姉妹のケンカ……行き交う人が一瞬、足を止める。そのくらいの声で。
「わたしがなんと呼ばれていたか、言えるかしら、ほむら。」
「ワルプルギスの夜! 呪いの集積。恐るべき魔女の集合体……」
自分の言葉に気がついて、ほむらは黙った。
「そう!
わたくしの中には救いをもとめた魔女たちの人格が残されています。
そんなわけで、円環の制御は交替制で行っております。いまはペアでやってますが、将来的にはワンオペで十分かと。
ああ、そうだ、杏子ちゃん。今日の勤務は紫丁香さんと一緒なのですよ。なにか伝言でもありますか?
いえ、こんどみんなでわたくしとほむらが行き損なったあのケーキビュッフェのお店にでもいきましょうか……ああっ!」
真珠は満面の笑みで、改札をくぐった夫婦に手を振った。
「お父さん! お母さん!お帰りなさい!」
ワスがけっこういいお姉ちゃんになるのではないかということで