魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
「はっ?
何が言いたいの。わたしがもう魔法少女じゃないって、どういう意味なの?!」
学校の近くの喫茶店は最近オープンしたばかり。
美味しい紅茶とチーズケーキの店で、テイクアウトもできる。
美樹さやかは、ケーキが嫌いではない。
むしろ大好物だ。だが中学生のお小遣いではそうそうカフェに入り浸ってもいられない。
まあまあ
セルマは意地悪そうな笑みを浮かべながら、さやかのまえに水をとんと置いた。
「なぎさがさやかを呼んだのです。」
百江なぎさの前には、チーズケーキが置かれている。すでに半分ほど食べ終えているのだが、「二個目」だった。
「この三人で話しておくべきだと思うのです。」
「いっとくけど、わたしは魔女も魔獣も出なけりゃ、魔法少女の力を使う気なんてないぞ!?」
「電車のなかで、ホストの雑談に腹を立ててぶちのめしたりもしないですか?」
「するわけないだろっ!?」
なんでそんなことを言ったのかわからないが、なぎさは素っ気なく、それならいいです、とだけ言って、レアチーズケーキを口に運んだ。
あむっ!
はむはむ。
幸せそうにケーキをパクつくなぎさの姿は愛らしい。
これで、実体は魔女としての力も振るうことが出来る歴戦の魔法少女だというのだから────
さやかは気がついた。
この三人は、魔法少女でありながら、魔女の力を引き出すことが出来るメンバーなのだ。
「ようやく気がついた?」
セルマがウインクした。
「ただの魔法少女ではないセルマたちには、なんかカッコイイ呼び名が必要かな、と思ったんだ。」
「カッコイイ呼び名?」
さやかは、ストローをぐるぐる回しながら言った。
「魔法少女は魔法少女でいいじゃん。もう魔女も魔獣も出ないんだし、名前なんてどうでもいいよ。わたしはもう力を使わないし」
「そうはいかないのです」
なぎさが、もぐもぐしながら手を挙げた。口の周りにクリームがついてる。
「わたしとセルマ、それにさやかは、魔女の力も使えるのですよ。ふつうの魔法少女と一緒はおかしいのです。」
「魔女の力なんて危ないだけじゃないかっ!」
「そんならそういう解釈でもいいのです。」
なぎさはまたメニューを見始めた。
まずい。
さやかの背中を冷や汗が流れた。
お金がたりなくなるかもしれない────
「でも実際に、セルマは魔女の記憶は残ってるんだしその力も使えるんだ。」
さやかはちょっと考えた。
「じゃあ……魔女使い?」
「ダサいのです」
なぎさが即答した。さやかの意見を却下しながら手をあげて、ベイクドチーズケーキを追加する。
「もっとこう……プリティなのがいいのです。
たとえば…ドゥーブルフロマージュとか。」
「それは呼び名じゃなくてスイーツの名前だよ!
しかも北のほうから文句が来そうだし。」
「それは大丈夫なのです。」
なぎさはきっぱりと言った。
「チーズケーキの名前にドゥーブルフロマージュってつけたら怒られるのですが。、わたしたちがそう名乗ってもジャンルが違うから平気なのです。」
いや、ルタオが怒るんじゃないかな、とさやかは思った。
セルマが、ドンとフリップをテーブルにのせた。
「これに書いていこうよ。理由も一言添えて、さ。」
仕方なくさやかも一枚手に取った。
なんだか……大喜利でもはじめるような気がする。
「例えば……いちばん魔女の力を使いこなせてるのはセルマだよね。だから『セルマと愉快な仲間たち』とか?」
「却下!」
「じゃあ、『セルマの哀れな下僕たち』は?」
「却下!!
セルマはダメな子なのです。さやかお願いするのです。」
「えーっと。『円環の番人』とかは?」
けっこういい線をかけたと思ったさやかだったが、ふたりから
「中二病!」
と突っ込まれた。
いや中二なのに。
さやかはもう1枚をだすのをやめた。
そこには禁書目録と書いて、ルビを「インデックス」とふっている。
「要するにふつうの魔法少女よりも優れてるってとこを出したい。だからセルマはシンプルに考えてみたよ。」
ツインテ少女がフリップを、出す。
「えー……『特盛魔法少女』?」
「せめて大盛りくらいに」
「そういう問題ではないのです!」
なぎさはフリップを出した。
『見滝原特戦隊』
「却下!!」
「ならこれは?」
『魔滅隊』
「ダメ!!」
セルマがため息をついた。
「しゃあ、『スーパー魔法少女』は」
「いったんマンガから離れてみよう。」
「そうだ! マジカルナイツとかは!」
「カッコイイけどもういるよ!」
「あら、みんな揃って。何の相談?」
隣の席だった。
さやかたちの認識ではだれも座っていなかったハズのその席に、ふたりの美少女たちが腰を下ろしている。
ほぼそっくりの顔立ち。
だが、表情だけはちがう。
「あ……マルグ……」
「ワルプ……」
「違ういますわ。わたくしは、ほむらのお姉さん。」
「無駄なのですよ、ワルプルギスの夜。」
なぎさが唇をつき出すようにして言った。
「なきさには、記憶操作は効かないのです。」
「ではあらためて、よろしくね。なぎさちゃん。わたしは見滝原中学3三年生。暁美真珠。」
真珠はにこにこと愛想がいい。
「なにか面白そうなお話をしていたわね?」
「魔女の力を使える魔法少女の呼び方を考えてたんだ。」
さやかは言った。
「あら、それじゃあ、わたくしも仲間にはいる資格がありそうだわ。」
「やめなさいマルグリ……真珠。」
「まあ、ほむらはちゃんとお姉さんってよんでよ?」
「黙りなさい!」
ほむらはいつにも増して不機嫌そうだった。
「そちらはデートかなんかかな!?」
セルマがからかうように言った。
「そうそう。可愛い妹と評判のチーズケーキのお店に来たのだけれど。
ほむらは食が細くってね。」
「話をきいてくれてたんだったら、なにかいい名前を考えてくれるとよいのです。」
「そうねえ……」
真珠は首をかしげた。
「魔法少女でありながら、魔女の力をも使う存在……たしかにちよっと複雑ね。」
「簡単よ。」
ほむらが口を挟む。
「もう魔法少女でも魔女でもない……そんな存在を言い表すなら。
────それはもう、悪魔とでも呼ぶしかないんじゃないかしら。」
「悪魔は宇宙にあんただけだ!」
きっぱりとさやかが言った。
「あんたとまどかは特別なんだ。だから悪魔はひとりだけでいい。」
ほむらがちょっと下を向いた。
頬がわずかに紅潮していた。
どこかわからないが、さやかの言葉に響く部分があったようだ。
「わたくしも、さやかちゃんの意見には賛成ですわ。」
真珠はにっこりと微笑んだ。
「悪魔なんて不吉でおぞましいだけですもの。かわいい皆さんには似合いませんわ。」
ほむらが、すずっとコーヒーを飲んだ。
ミルクと砂糖はそのまま置かれている。ブラックのままだ。
目の前のお皿には、クレープを被せてやいたチーズケーキが置かれている。
「それより、なんであんたがここにいるんだよっ!
円環とひとつになったんじゃないのか?」
なぎさが叫んだ。
何人かが声に驚いてこちらを見る。
まずい。
ここは見滝原中学の生徒も多いのだ。
大声なんて出したら、学校中に知れ渡ってしまうし、この店にも来れなくなる。
「ワルプルギスの夜は、もともと複数の魔女の集合体なの。」
ほむらが言った。
「つまり、真珠とは別の人格がいまは円環の理におさまっているわけ。」
「そう。ちなみにわたしは明日は、朝から夕方までシフトが入ってるわ。そうだ。よかったから明日、夕ご飯をほむらと一緒に食べてくれないかしら。ちゃんと食事をしてるのか不安で」
「わかった! セルマに任せてよ。」
「そんなことなら、わたしも付き合うよ……でも」
さやかはじと目で、真珠を見た。
「円環の一部になるって、そんなバイトみたいな感覚でいいのか?」
「もう少し責任は重大よ。」
真珠は微笑みながら言った。
「インキュベーターたちも一枚岩ではないのよ。」
はむはむはむ。
ほむらは諦めたように、チーズケーキのクレープ包みを口に運ぶ。
ぱく。
もう1切れ。
ぱくぱく。
止まらない。
なぎさが羨ましそうにそれを見た。
「……美味しそうなのです。それも食べてみたいのです。」
「やめとけ! 四つめだぞ。晩御飯が食べられなくなったら、マミさんにこっちが怒られる!」
結局、ほむらたちの方が先に食べ終えて、席をたった。
出て行こうとした真珠がくるりと振り返っね言った。
「そうだ。
魔法少女の呼び方についての話だったわよね?」
「そうだよ。まあわたしはどうでもいいと思うんだけど……」
「魔法少女……って言い方は、もともとアニメからとったものだったわよね。」
「そう……かな。そうだと思うけど。」
「だったらよい呼び方があるわ。
『魔女っ子』……っていうのはどうかしら。」
これであとはキュゥべえが転校してくると全員揃うな……