魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
そこにも昏い影が忍び寄り、少女たちを責める。
魔女とはなにか。
なぜ自分たちは戦っているか。
そしてそれは―――いつからだ!?
さやかは、駅前のカフェを希望したが、杏子は反対だった。
そこは、スイーツと洒落たパスタがウリの店で、杏子はどっちも嫌いではなかったものの、気分としては、もっとガッツリ食べたい気分だった。
なので、カフェは2軒目にして、最初は商店街の定食屋にしようと、主張した。
さやかは猛反対した。
夕食のハシゴなんてきいたことがない。
だいたい定食たべてから、ケーキなんて入りっこない。
「何言ってんだ。」
杏子は物分りの悪い親友に、説教した。
「今日だって、ギリギリだったじゃねえか。“トカゲさん電話”のおかげで不意打ちをくらうことはなくなったが、戦いはいつだって命懸けなんだ。
食える時に美味いもんをお腹いっぱい食っとかなくてどうする?」
さやかは、杏子のすらっと引き締まったお腹の辺りを見ながら、絶対にいや、と言った。
杏子はひとことも発せずに、立ち尽くしている暁美ほむらを見た。
「あんたはどうする? なんか食べたいものがあるか?」
「え……ええと」
転校してきてまだ日も浅い。
おどおどと下をむく少女に、杏子は手を伸ばした。
「あっ……」
メガネを奪い取る。
「杏子! 暁美さんに酷いこと、やめてよ!」
「違うんだよ!」
杏子は言った。
「これじゃ、コミュニケーションもとれねえだろ。だからこうすんだよ!」
ほむらの編み込んだ髪がほどけていく。
その髪を夜風が梳かした。
顔をあげた少女は。
冷たい笑みさえ浮かべて、杏子とさやかを見つめた。
―――別人だった。
「こいつはメガネはずすと、別人になるんだよ。言っちゃ悪いけど、わたしにはこっちの方が喋りやすくてね!」
暁美ほむらは、昏く光る目で杏子を睨んだ。
「だ、ま、り、な、さい!」
コミュ障なのは、結局一緒では?と言いかけて、さやかは慌てて口をつぐんだ。
結局、三人は、ショッピングモールのフードコートに腰を落ち着けた。
まだ、会社帰りのひとたちが立ち寄るには少し早い時間だ。
同じような学校帰りの学生。それに親子連れ。
さっきまでの異界の戦いがウソのように、平和な日常だ。
さやかは、パンケーキとサラダ。
杏子は、トンテキ定食に、唐揚げ。パフェとシフォンケーキ。それから鶏だし白湯麺。
「なんで、そこでラーメン?」
「はあ? なんでわかんないの。〆だよ、〆。」
「なんで、そういう酔っぱらいの発想になるかなあ……」
ほむらは。
アイスコーヒーだけ頼むと、カバンからゼリー飲料を取り出して、グイとやった。
無言で見つめるふたりに
「……食べることにはあんまり興味が無いの。」
「なにを言ってる!」
杏子は怒ったように言った。
「人生の最高の喜びを知らないまま、生きるのかよ!」
「なによ、それ。知らないわ。」
ブルル。
テーブルに置いたフードコートの呼び出しベルがなった。
「これだよ! 注文した料理が出来ましたって、合図がきくる喜び!」
「……まあ、個人個人で違うと思うから、否定はしないけど」
杏子は自分の注文を取りに行くと、一緒に空の小丼ももってきた。
自分の定食からご飯をわけると、うえにトンテキと唐揚げを足してやってから、ほむらの前に押しやる。
「ほら、食え。」
ほむらは。しばし、美味しそうな湯気をたてる丼を見つめていたが、そっとスプーンですくって口に入れる。
はふ。
はふっ。
もぐもぐ。
「美味いだろ?」
「まあ、毒ではないわね。」
「もうちょっと、メガネほむらに戻したら?」
自分のパンケーキとサラダ。それにアップルジュースをとってきたさやかが忠告した。
「しゃべりづらいのは、一緒だし。」
「いや、ちょっと、な。」
トンテキと唐揚げを同時に頬張りながら、杏子は言った。くちいっぱいにものを頬張りながら、しゃべれるのは、もちろん、杏子の固有魔法でもなんでもない。
「せっかく、この三人が揃ってんだ。すこし話がしたくってな。」
「なによ、あらたまって?」
「“魔女”だよ、“魔女”。
なんであんなモンが現れたんだ。」
「それは……わかんないわよ。いままで魔獣よりも強敵だけど。」
「魔女なんて、魔法少女の間だけに伝わる……都市伝説みたいなもんだったはずだろ?」
「そうね……ソウルジェムが穢れて浄化が間に合わなくなったわたしたちの成れの果て……でもそんなやつらはこれまではいなかったし」
「魔女はいるわ。」
ほむらが、つぶやいた。
クールなのだが、唇の横にお米がついている。
かなり、夢中で食べていたのだろう。
栄養的にどうかはしらないが、ほむらがゼリー飲料と缶コーヒー以外を口にしているところを、杏子もさやかも見たことがない。
おどおどしててもクールビューティでもやっぱりお腹は減るのだ。
「どこかで戦ったことがあるとかか?
いや、おまえは転校してくるまえは、ずっと入院生活だったよな?
いつ? どこで魔女と戦ったんだ?」
フッ
と、ほむらは笑った。
お米粒をつけたままで。
「わたしは、まえに入院してた話なんてだれにもしてないわ……」
「え、だって……」
「メガネをとったらわたしがこんな喋り方になるのもどうして知ってるのかしら。」
杏子は困ったように、さやかを見た。さやかも首を振る。
「……だって、なあ。長い付き合いだしそれなりに」
「わたしは転校してきたばかりよ。」
おい。
杏子は目眩を感じた。うん、これはあれだ。低血糖症だ。
まだ定食は残っていたが、急いでパフェのアイスを口に放り込む。
うん、これで大丈夫だ。
さやかが身を乗り出した
「暁美ほむら! わたしたちの記憶が書き換えられているっていうの?」
「そうね。ただその程度は、それぞれが違っているようね。わたしは以前、魔女と戦ったことを覚えている。そして、あなたは自分が魔女になったことを覚えている。」
「オクタヴィアの力は……」
さやかは戸惑ったように言った。そう。あの怪物がなぜ自分に力を貸してくれるかはまったくわからない。だが、それは今回がはじめてではない―――そんな気がする。
二人の視線が杏子をむいた。
杏子は狼狽した。
「わたしはなんにも覚えてないよ!
っていうか、記憶に変なところはひとつもない!
前の街でも魔獣と戦ってて、見滝原に来て、おまえらと知り合って、仲間になって」
ぐらり。頭が揺れた。
パフェに顔をツッコミそうになって、杏子はめいっぱい口を開けた。
パフェは見事に、口のなかに。ストライク!
「……でも。あんたと記憶の書き換えのことで、話をしたのはこれがはじめてじゃないような気がする。」
「もうひとつ。インキュベーターについてよ。」
ほむらはたんたんと言った。
唐揚げをむきゅむきゅしながら。
「インキュベーターが魔法少女を作った。
願いを叶えてくれるかわりに、わたしたちは魂をソウルジェムに変えられて、この世にわいた呪いと戦うように、と。」
「それは、わたしも覚えている。」
さやかは言った。
「でも戦う―――魔法を使うとソウルジェムに穢れだたまる。それはグリーフキューブて定期的に浄化しないといけないから。」
「美樹さやか。
あなたはなんの願いで、魔法少女になったの?」
「そ、そりゃあさあ」
パッとさやかの頬が赤くなった。
「恭介の怪我をどうしてもなおしてやりたくて……あれ?
でも恭介って彼女いたよな。そもそもいつ怪我してたんだっけ……?」
「わたしはあなた方より、もう少し思い出している。」
ほむらは続けた。
「魔女はいた。でもそれはこことは別の世界。そこでわたしたちは魔女と戦い続けてきた。でも」
不快なことを無理やり思い出すように端正な顔が歪んだ。
「魔女が複数で襲ってくることなんてなかった。
そう―――複数の魔女の集合体。ワルプルギスの夜が来るまでは!」
ワルプルギスの夜!!
その言葉に、杏子は戦慄した。
初めてきいたはずの名前なのに!!
こいつはいったいなんなのだろう。
杏子は、ほむらの顔を睨んだ。危険と隣り合わせなのは事実だけど、それなりに楽しくやって来れたはずだ。
こいつが来てから……妙なことばかり起こる。
そうだ。魔女なんて出現するようになったのもこいつが来てから……
「暁美ほむら……悪魔かおまえは!!」
「あら、また少し思い出したのね。」
そう言って、暁美ほむらは艶然と笑ったのだった。
会話が長いなあ。