魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
少女たちの戦いはあらたなステージへ。
「あの……佐倉さん?」
志筑仁美に呼び止められて、杏子は振り返った。
彼女自身はあまり、話はしないが、さやかとは仲がいい。ボーイフレンドは上条恭介と言ってさやかの幼なじみである。
「途中まですこし、一緒に歩きません?」
おっとりと丁寧な口調で話す。
背もスラリとしている。スタイルもいい。
杏子からすれば高嶺の花子さんなわけだが、美樹さやかと仲がよいので、少なくとも危ないヤツだとは思われていないのだろう。
「もちろん! かまわないぜ。」
まったく知らない仲でもない。悩みでもあるなら聞くだけ聞いてやるか。
そのくらいの度量は、杏子にもある。
「……あれ? でもいいの。
いつもあんた帰りは、ほらあの、かみじょ……」
「コンサートがあるというので、先に帰りました。」
この子が魔法少女でなくてよかったな……と杏子は思った。
ソウルジェムだったら真っ黒に濁ってる。
魂をソウルジェムに変えてしまうのは戦いに有利だ。
そんなふうにキュウべえは説明したが、決定的に生身の魂はソウルジェムに勝るところがある。
自分で浄化作用があるのだ。
「……なんか、話があったら聞くぜ?
さやかやまどかには話しずらいことなんだろ?」
仁美はうなずいた。
2時間後。
杏子は、さやかを前にしてパフェをつついている。
「……ってわけで、バス停んとこにあるカフェで、一時間がっつり付き合ってきた。」
「じゃあ、なに? カフェのハシゴしてるわけ?」
美樹さやかは、つんけんしているが、杏子は気にもとめない。そういう関係なのだ。
「でも参った……なんかわたしってそんなケーケンホーフに見えるか?」
確かに校則からもほんのりはみ出る杏子の行動っぷりは、見滝原中学には似つかわしくなく、なんとなく浮いて見えるのは事実である。
基本的に自由奔放な少女ではあるのだ。
「経験豊富かどうか分かんないけど、モテそうには見えない。」
キッパリとさやかは言った。
目の前のテーブルは、クリームソーダだけ。
今日は、マミさんのところにみんなでお呼ばれしている。昨日の魔女退治のお疲れ様会というわけだ。
当然、ケーキは期待できるし、ひょっとしたら晩御飯もお呼ばれするかもしれない。あまりここで甘いものがガッツリいくわけにはいかないのだ。
「だよな……って、おい!」
ふたりはひとしきり笑い転げた。
「でも……あれだろ? たぶんわたしに相談したってことは、あんたに上条の様子を見てきて欲しいって……そういうことなんだろ?」
たしかに自由奔放に見える杏子だが、ひとの
心がないわけではない。(いやソウルジェムに変えられてしまっているので、正確には「ない」のだが)
仁美が自分に声をかけてきた理由は、分かっていた。
さやかは、上条恭介の幼なじみだ。なんだったから現彼女である仁美よりも、上条のことをよく知っていた。
親だって、さやかの顔をよく知ってるので、なんとなく尋ねることも不自然ではない。
さやかはしかし、うかない顔をしている。
恭介に恋心を抱き、それを告げられず、仁美と付き合うことになった恭介。それはそれで、魔法少女という特殊な立場にあるのだから仕方ない、と思う反面、せめて勝手に幸せになれと考えるのだ。
「……わかった。電話してみる。レッスンおわんのは、たぶん8時過ぎだから、それから、ね。」
「苦労すんなあ……おまえも」
全部わかってる杏子は、ストロベリーをパクリと口に入れながらそう言った。
着信はマミさんからだった。
「はい? もしも……」
「佐倉さん? なぎさがそっちに行ってない?」
「いや……昨日の病院の1件依頼会ってないぜ?」
同時にさやかも自分のスマホが鳴り出した。
「まどかからだ……もしもし」
チラリと杏子に目配せした。
「マミさんが……? なぎさを探してる?
うん、いや、一緒じゃないよ。昨日別れてから会ってない。」
「いま、杏子と一緒。バス停のところのカフェにいる。マミさんから連絡受けてる。
そうたね……いったん全員集合しよう。
うん、公園でね!」
「……マミさんが言うには、午後からは送ったメッセージにぜんぜん、既読がつかなくなったみたいだ。」
杏子は、喫茶店を出ながら、さやかに話した。
「電話してもでないし……家にも帰ってないらしい。」
さやかは、うーんとうなった。
「……でもあの子、強いよね。ものすごく。」
そうなのだ。
杏子たちよりずっと幼く。その分無邪気に生きているようで、その戦闘経験はだれよりも深い。
その力は魔法少女のもつ固有魔法を越え、空間に干渉し、事実そのものをねじ曲げる。
まるでこのところ出現する“魔女”のように。
「たとえば、誰かがなぎさを誘拐しよつとして、なぎさが本気で反撃すると……」
見滝原壊滅か!!
魔獣より危ないヤツが身内にいた!
「とにかく、急ごう!」
息を切らしてたどりついた二丁目の公園には。
巴マミ。
鹿目まどか。
暁美ほむら。
そして。白い生き物がちょこんと座っていた。
「キュウべえ! てめえの仕業か!」
杏子が食ってかかろうとするのを、マミさんがとめた。
「まって! まず話を聞きましょう。
とっても大事な話みたいだから、あなたたちが来るまでやめてもらってたの。
……いいかしら?」
「もちろんだよ、マミ!」
白い生き物はわっふわっふとしっぽをふった。
それが上機嫌を意味するものなのかどうかは、わからない。なにしろこの生き物は自分に「感情がない」と自称しているのだから。
「百江なぎさは、囚われている。」
「誰にだ! おい!」
「佐倉さん! 落ち着いて!」
マミがとめたが、その彼女がいちばん焦っている。
「それで、キュウべえ。なぎさは無事なの? どこに囚われてるの? 誰がそんなことしたの? なんの目的で?」
その手はキュウべえの首根っこを掴んでつるさげている。
「マミさん、マミさんってば、それじゃ答えられないよ。」
「だ、大丈夫よ、まど、か。インキュベーターは別に喉に発声器官があるわけではないので……と思います。」
まどろっこしい。
杏子は、ほむらの顔からメガネをむりしとった。
ほむらのソウルジェムが輝き、その姿は魔法少女へと変身する。盾の内側から取り出した拳銃をピタリとキュウべえの両眼の間に押し当てた。
「答えなさい。インキュベーター!」
「暴力的だなあ。すぐそれで物事解決しようとするのは人類の悪い癖……」
パンッ
乾いた音が響いた。
野外での拳銃音はそんなものだった。
キュウべえの額に穴があく。
血はこぽれなかった。
マミがヒッといいながら、キュウべえを離した。
どさっ。
芝生に落ちた白い体を、木陰からはいでた同じ個体が貪り食った。
けぷ。
もう一体のキュウべえは、きれいに自分の死骸をたいらげたあと、息をついた。
「まあ、これがぼくらにダメージになるかどうかはともかくとして、弾が勿体ないじゃないか。」
暁美ほむらの顔を見ながら、キュウべえは毛繕いでもするように身をくねらせた。
「ほむら。きみの弾丸は魔法じゃないんだ。弾倉には限りがあるし、時間停止だけじゃあ、きみには攻撃手段がほとんどない。」
「……」
「質問には答えるよ。
まず、百江なぎさを攫ったのは、“円環の理”だ。」
「そ、そんな!」
まどかの顔が青ざめた。
「なんでそんなこと!?」
「百江なぎさのほうから、接触したようだね。たぶんなにかの交渉が決裂したってところじゃないかな?」
「円環の理っていうのは、概念よ。」
マミが言い返した。
「世界の法則そのもの……って言ってもいいわ。会いに行けるものじゃないし、まして交渉なんて」
「本来は、そうだよ。
そうあるべきものだったんだ。」
キュウべえは答えた。
「だが、それは歪んでしまった。不完全になってしまった……といってもいい。そうでなければ魔女なんて出てくるはずがないんだ。
魔女を分解して還元してしまう法則こそが、“円環の理”だったわけだからね。」
難しい話だな、おい!
こういうのはホントに嫌気がさす。
周りを見渡して杏子は気づいた。
巴マミはなんとなく納得しかけてる。
だが、さやかは難しい顔をしてるし、まどかは戸惑っている。
そしてほむらは、なにか苦痛でも耐えるように、顔を歪めていた。
「ぼくらは、その“円環の歪み”こそが、この世界そのもの閉ざしてしまってるんじゃないかと推測しているんだ。
歪みは正さなければならない。そのためにみんなに力を貸して欲しいんだ!」
なぎさって、記憶の欠落もないし、ぜんぶ分かってやってるオールマイティキャラなので、ちょっと捕まっててもらいます。