魔法少女まどか☆マギカ 廻天の残響 作:ATARU 2025
それは大事なものを護るための結界。
そこにははたして、行方不明になったなぎさはどこに。
マミたちが去った後も、まどかとほむらは公園に立ち尽くしていた。
三人の声は、姿が見えなくなってからも、しばらく聞こえていた。
杏子の何か言う声に、さやかが言い返す。その間にマミの声が挟まって、やがてそれも遠ざかった。
まどかは、そちらを見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……ねえ、ほむらちゃん。これでよかったのかな。」
「ええ」
ほむらの返事は、きっぱりと短かった。
まどかは隣を見た。ほむらはもう、三人が去った方を見ていない。ほかに何か聞こえないか確かめるように、静かに周囲へ目を配っていた。
「ほむらちゃん」
「何?」
「結界をはってるって魔女の子のほんとの名前、結局、教えてもらえなかったね」
ほむらの視線が戻ってくる。
「セルマ・テレーゼ。」
「思い出してるんだ。」
まどかは両手の指を組んだ。
「キトリって覚えておけばいいって言われたけど……あの子も、自分のこと、ちゃんと思い出したのかな。」
「インキュベーターに弄られたあとよ。期待はできない。」
「そう……だよね」
それでも諦めきれないように、まどかはマミたちの去った方向を長め続ける。
「ねえ、やっぱりわたしたちも行ってみようよ!」
「だめよ、まどか。」
きっぱりとほむらは言った。その目は昏く静かな光を湛えていた。
「もし、インキュベーターの言うとおり、円環の力が歪んでいるのなら、いまのわたしたちは接近するだけでも危ないわ。」
「見るだけなら。」
「……円環はあなたを取り戻そうとした。」
懸命になにかを思い出そうとするように、ほむらは苦痛に顔を歪めている。
「わたしはそれを止めようとした。
結果、円環にはあなたとわたしの一部が取り込まれた。いまのまどかとわたしはその残り香。」
まどかはためらってから、頷いた。
「わかるよ。もし、わたしたちが円環に近づいたら。わたしたちも取り込まれてしまう。
円環の理のシステムの一部になって、ずっとずっと魔女を分解する機能だけになっちゃう。
わたしは……とっても怖いけど、それで魔法少女を救えるのならしかたないって、
でも、ほむらちゃんまで一緒に取り込まれちゃうのは違うのかなって思うんだよね。」
「わたしは!」
ほむらは、まどかを抱きしめた。
「わたしはどんな姿になりはてても、あなたと一緒なら!」
「うん。その気持ちはとってもうれしいよ。やっぱほむらちゃんは最高の友だちだよ。」
まどかの小さな手が、ほむらの背中をそっとさすった。
「でも焦らないで。
わたしの望んだのは、すべての魔法少女を魔女になる運命から救うことなんだよ。だからわたしたちだって、絶望する理由なんて、ぜったいない!!」
それからほむらの顔を覗き込んだ。
「やっぱり途中まで行ってみようよ。もし円環の力を感じたら、距離を取れば大丈夫だよ。」
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「おーい、キュゥべえ!」
ビルの屋上から屋上へ。助走をつけて飛び移る。
ここらは商店街で、高いビルなんてない。せいぜい三階建とか5階建て。1階が店で上の階に店主が住んでる。それだって普通なら絶対にやらない。魔法少女の身体能力だからできる技だ。
「なにかな、杏子」
飛び移った先の屋上の給水塔の陰から、白いのがひょっこり顔を出した。しっぽをふりふりしている。
いままでどこにいたんだ。先頭を走って水族館まで案内するはずじゃなかったのか。
「おまえの言ってることって、本当かよ」
一瞬足をとめて杏子は言った。
「無駄な質問だよ」
キュゥべえは給水塔の上にちょこんと座った。
「ぼくがいくら『本当だ』って言っても、それを証明する方法はないからね」
柵に足をかけてジャンプ! 高層ビル群の明かりが、遠くに見える。
たしか水族館は、反対の方向だ。港の近く倉庫ばっかりの再開発予定区とかいうやつ。
「そうそれ!」
空中で杏子は言った。
「さっき暁美ほむらも言ってたけど、おまえらは嘘は言わねえ。でも肝心なことは言わねえんだよな」
「そんなことは――」
「考えすぎだよ。なぜって、それを証明する方法がねえからだって、言うんだろ」
先回りして言ってやると、キュゥべえは並走して走りながら、耳をぴくっと動かした。
「たいしたものだよ、佐倉杏子。いちばん単純で、まったく同じことを繰り返してるように見えても、きみもまた変化しているんだね」
「なにと比較して、だよ。繰り返してるってなんだよ」
キュゥべえは答えなかった。ただ、くりくりした赤い目で杏子を見ていた。
ここで屋上は終わりだ。ここから先は倉庫街。飛び移れる建物がない。
杏子は地上に降りた。変な格好の女の子がものすごいスピードで走っていたら、否が応でも目を引くだろう。でも倉庫街は、とくに夕暮れ以降は、まったく人気がない。
別ルートを走っていたマミとさやかもそのそばに着地した。
「ここからは注意しながら接近するわ。」
マミが言った。
「なにかきがついたことがあった? 佐倉さん。」
「キュウべえに褒められてたとこだよ。
同じことを繰り返してるようでも、いくぶんマシになったってさ。」
「まあ!
まるで、それって、わたしたちが、おなじところろを、ぐるぐる回ってるみたいじゃない!?」
「考えすぎだよ、マミ!」
白い悪魔はおどけるように飛び跳ねて、マミの肩に乗った。
「世界の実相はひとつじゃない。解釈でいろいろ真実はあるんだけど、それをすべて説明することは、必ずしも必要とは限らないんだ。」
「そうね。たしかに……」
マミは顔をしかめた。
「知りたくもないホントのことってあるわよね。
わたしも魔法少女が、その成れの果てに魔女になるなんて都市伝説で留めておいてほしかったわ。でもあなた方が魔女“もどき”を作れるくらいなのだから、やっぱりほんとうに魔女はいたのよね?」
「もし、それをいきなり聞かされたらどんな気分になるかな、マミ?」
「そうね。わたしたちはあなたが作った“魔女もどき”しら知らないわけだけど、それでもそのおぞましいさ。危険度はわかったわ。
自分たちがいつかそうなるってきいたら」
マミはちらりと杏子のほうを見た。
「周りの仲間をぜんぶ撃ち殺して、自分も死んでいたかもしれない。」
「では、『いま』はそれに比べればずいぶんマシというわけだね!
よかったよ!」
「あなたの『よかった』とわたしらの『よかった』はだいぶ違うからねえ。」
さやかが、嫌味たらしく言った。
「それは否定しないよ!」
インキュベーターは明るく言った。
「でもひとつ言えるのは、ぼくたちの関係でいちばん悪い時期はすぎたんだ。ぼくらは手をとりあって、よりよい方向にすすめる。場合によってはもうひとつの円環もこえて」
「あれが、問題の水族館ね?
マミは、港の方を見た。潮の匂いがする方、倉庫街のなか黒い建物が一つ。
そのあたりは街灯もないのか、海を背景に、黒々と沈み込んでいた。
「そうだよ。急ごう。」
キュゥべえは、マミの頭の上からひょいと飛び降りて、倉庫街に消えた。
―――いま、水族館は魔女の結界で封鎖している。
あのセリフの場所だった。
すこし、この二次創作の設定にふれてみました。
時系列は、「ワルプルギス廻天」のあと。この世界は、二重の「円環」に閉じ込められているとキュウべえは指摘しました。ひとつはもちろん「円環の理」。もうひとつの円環とは―――