アイアンマン、本名トニー・スタークはその日もアイアンマンスーツを着たまま自宅に帰ってきた。
プライベートジェットであちこち飛び回るよりも、アイアンマンスーツで飛んだ方が便利で速い。
ヒーローと社長の二足の草鞋を履くのに、アイアンマンスーツは非常に便利だった。
とはいえプライベートにまでスーツは必要ない。
スーツを脱ぐシークエンスに入ろうとした矢先、サポートAIであるジャーヴィスが警告を出した。
誰もいるはずの無いトニーの自宅に、誰かがいる。スーツのカメラがほどなくしてその人物を捉えた。
ジーンズに赤いパーカー。黒い目出し帽にゴーグルを付けた不審者だ。
その不審者もこちらに気付いたのか、さも友達かのようにこちらに向かって片手を上げた。
「おかえり、アイアンマン」
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僕は好印象を与えるため、片手を上げて気さくに挨拶した。
アイアンマンは無言でこちらに向けた右手からリパルサーレイを「おっとそれは困る」
こちらに撃つ前に、僕は右手からウェブをリパルサーレイの発射孔に放って止める。
「ひどいなぁ、挨拶の返礼に攻撃はないんじゃないのアイアンマン?」
「不法侵入者に礼儀が必要か?」
そう言ながらアイアンマンは右手の代わりに左手からリパルサーレイを発射してきた。
上半身を捻ってかわす。
「ちょっとぐらい話聞いてくれてもいいんじゃない!?」
今のリパルサーレイを封じなかったのは、アイアンマンの両肩から出てきた小型ミサイルの穴に向けて両手からウェブを放つので手一杯だったからだ。
穏便に話し合いができると思ってたんだけどそれは僕の妄想に過ぎなかったらしい。
「大人しくしろ!」
「そりゃこっちのセリフでしょ!あんたの自宅なんじゃないのここ!?」
アイアンマンが右手にくっついたウェブを左手で取ろうとしたのでそこを狙ってウェブを発射…したんだけど、飛んでかわされてしまった。
「壊れた物は後でなんとでもなる。お前を捕まえるのが先決だ!」
「経済を循環させるのもいいけど、もったいない精神を学んだらどう?」
苦し紛れに追撃のウェブを何度も放ったけど、アイアンマンは右手のウェブを取りながら器用に飛んで全て回避してしまった。
「声からするにまだ子供だろう!親につき出してしっかり叱ってもらうからな!」
「おあいにくさま!孤児院育ちだから親なんて見たことも聞いたこともないね!」
この世界に転生して数年。前世の親の顔ももう大分朧げだ。
アイアンマンの右手から出るリパルサーレイを、跳んで天井に引っ付くことでかわす。
そこに左手のリパルサーレイが来たのでくっつきを解除して床に降りる所に右手のリパルサーレイ。
慌てて壁にウェブを放ち、それを引っ張ることで着地点を強引にズラす。
「なら警察だ!」
「自慢じゃないけど車ぐらいなら時速100キロ出ててもひっくり返せる奴を警察任せにするのはどうかと思うなぁ!呼ぶなら軍隊だと思うよ!」
とにかくアイアンマンを止めないと話にならなそうだ。
さっきやったように、天井や壁も使った3次元的な動きで引っ掻き回す。
そして隙ができた所にチマチマウェブを当てていく。
「くそっ、鬱陶しい!」
「話を聞いてもらうなら嫌がらせだってやるよ」
業を煮やしたのか、アイアンマンはウェブを取るんじゃなくてリパルサーレイで焼くことにしたようだ。
出力ミスったら大変なことになるのによくやるなぁ。
ともあれ、ウェブの除去スピードは上がってあっという間にまたアイアンマンはウェブが付いてない綺麗な体になっちゃった。
「これでどうだ!」
「マズッ……いいや!」
アイアンマンの肩からミサイルが何発も発射された。
僕はジャンプしてアクロバティックなポーズで避けたんだけど、首の後ろがムズムズする。
後ろを見るとミサイルが全部とんぼ返りして再びこっちに向かってきている。ホーミング機能付きのミサイルだったんだ!
このままじゃミサイルを避けるのに手間取っている内にリパルサーレイにやられてゲームオーバーだ。
反撃の為にはこれしかない。
「お返しするよ!」
「何っ!?」
ミサイル全部にウェブをくっつけた後、ウェブをまとめて一本の綱に。
それを振り回して、先端部のミサイルをアイアンマンにブチ当てる!
爆発の衝撃でアイアンマンは床に落下した。
その隙を見逃さずに、ウェブをとにかく大量に放射!頭以外をウェブでグルグル巻きにして指一本動かせないように床に接着させる。
「はぁーーーーーー……これで話聞いてくれる?スタークさん」
「……仕方ないな」
僕はアイアンマンの頭の近くに座る。一応奇襲をしてこないか体の方を見ながらこれまでのことを説明する。
孤児院で育った子供だということ。
変なクモに嚙まれて超能力を手に入れたこと。
その結果体が急成長して元の体とはかけ離れてしまい、孤児院に戻れなくなったこと。
「信じられないな…」
「そりゃ僕だって未だに信じられないし。でもスーパーパワーを持ってるのは信じられるでしょ?」
「あぁ。嫌と言うほど分かったよ」
「でさ、アイアンマンの弟子にしてほしいんだよ」
「なんだって?」
アイアンマンが頭をこっちに向けて来た。
「住める場所とご飯があればいいんだけどさ、タダで貰おうなんて厚かましい真似はしたくないんだ。だからさ、アイアンマンの弟子としてヒーローを手伝うからその見返りとして、ね?」
「弟子になるのも相当厚かましいぞ……」
マスクで見えないけれど、呆れた顔をしているのは声色から伝わってきた。
「お願いだよアイアンマン!ここしか行く場所が無いんだ!あなたしか頼れる人がいないと思ったんだよ!」
アイアンマンに向かって土下座する。
僕は頭が良くないけど、それでも一番良いと思ってここに来たんだ。
頭を地面に擦りつけたままじっと待つ。
どのくらいの時間が流れただろうか。
アイアンマンの口からため息が出た。
「……しょうがない。慈善活動の一環だと考えよう」
「本当!?」
思わず顔を上げると、アイアンマンが立ってこちらに手を差し伸べていた。
どうやらいつの間にか音もなく僕のウェブを全部取っ払っていたらしい。怖いね。
僕は大喜びでアイアンマンの手を両手で掴んで立ち上がる。
「言っておくが、ハードにやるぞ。あと学校にも行け」
「えっ勉強しなくちゃダメ?」
「ダメだ。子供じゃないんだから……いや子供なんだったな」
「小学校に入ったばかりだよ」
アイアンマンが頭部だけアーマーを解除して、中の人……トニー・スタークの顔を出してまで注意してきた。
アイアンマンスーツを自作した天才が言うのだから、やっぱり勉強もしないとダメらしい。
ともかく、これで住む場所とご飯、そしてヒーロー活動をする下地も揃った!
最高の結果に僕はトニーの手をブンブン上下に動かして感謝の気持ちを伝える。
「やっぱり警察に突き出すべきだったかな……」
トニーの顔が微妙に陰った気がする。なんでだ。
それはそれとして、そろそろ我慢できなくなったことがあるのでトニーにお伺いを立ててみる。
「ところでさぁ…そろそろマスク脱いでいい?」
「いいのか?」
「信頼の証だよ。それに、僕はアイアンマンの素顔を知ってるのに、アイアンマンが僕の素顔を知らないってのは筋が通らないし。後さっき動きまくったせいで暑くてかなわなかったんだ」
「最後の理由が一番大きいんじゃないのか……?」
フードを外して、目出し帽を脱いで、ゴーグルも外す。
汗でへばりついた髪を後ろに流して、顔に当たる空気の心地良さに両手を組んで上に伸ばす。
「あ、上も脱いでいい?大丈夫、まだ下にタンクトップあるから」
トニーの返事を待たないで、僕はパーカーを脱いだ。
さすが金持ちの家は空調も最高だと思っていると、トニーがこっちを驚愕の表情で見つめていた。
はて、何かおかしな所があっただろうか。
あちこち自分の体を確かめていると、彼がこちらを指差してくれることでようやくどこを見ているか分かった。
僕の小さな膨らみのある胸だ。
「君は、まさか?」
トニー・スタークの顔色が真っ青だ。
そういえばトニーの誤解を解くのとこっちの事情を話すのに気を取られて、僕自身の事はそれほど話していなかったことに気付いた。
「うん、女だよ」
だから自分はスパイダーマンじゃないと思っていた。
ピーター・パーカーは男で、自分は女なのだから。
だけど苗字は同じパーカーだったから、嫌な予感を拭いきれなかった。
そういえば。
「まだ、本名を言ってなかったね」
僕はできるだけ身なりを整えて、未だ口をパクパクとしているトニーに向かって満面の笑みで名前を告げる。
「ペネロペ。ペネロペ・パーカーだよ。よろしく、トニー」
そして僕は、アイアンマンの弟子になった。