スノーブラッドの殺り直し   作:Red_stone

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第3話 過去の景色

 

 禁忌である死者蘇生の儀式を阻止するために動いたスノーブラッドは、”古代の魔法装置”の暴発に巻き込まれた。

 

「はっ!」

 

 わずかな時間、気を失っていた。目を覚ますと――目の前には自分がいた。

 否、自分ではない。もう戻れない過去、スノーホワイトが心配そうな顔で自分を覗き込んでいる。

 

「……ッ!」

「きゃっ」

 

 そのなよなよとした姿に思わずにらみつけてしまうと、彼女は身を引いた。それをかばう影が後ろから出てくる。それは――

 

「君は、ボロボロの姿で倒れていたんだ。事情を聞きたい」

 

 懐かしいラ・ピュセル。その姿と声、当時のままそこにいた。

 

「……」

 

 懐かしいような、謝りたいような、ごちゃごちゃになった感情が胸を焼いて言葉に詰まってしまう。そこに、さらに声がかけられた。

 

「大丈夫か? 魔法少女は強い肉体を持つけど、それでも死んでしまうことはあるぽん。気を付けてほしいぽん」

 

 端末から投影された立体映像、丸に羽をつけたような電子妖精の姿が現れる。その“憎らしい語尾”、そして声。

 電子妖精だったら同じタイプが何人も居るし、その中にはわずかな間だけ相棒を務めてもらったファルという妖精もいた。そいつは悪い魔法少女のいやがらせで語尾がぽんになっていたけれど。

 

「ところで、君はどなたぽん? ファヴが契約した魔法少女じゃないし、近くにも君みたいな魔法少女はいないはずぽん。身元不明の不審者ぽん」

「……」

 

 だが、見間違えるものか。名乗られるまでもなく、そいつを見誤るなどありえない。

 こいつはファヴだ。そう認識した瞬間には視界が赤くなって手を出していた。スノーホワイトが手に持っていた端末を殴りぬいて地面にたたき落とす。そのまま端末を破壊しようと力を込めて地面にめり込ませていく。

 

「――ぽんっ⁉」

 

 みし、と痛みが手に走って冷静になる。これはオリジナルではないから、壊しても意味がない。

 それにファヴなら過去に倒したはずなのだ。しかも、死んだはずのラ・ピュセルだってなぜか生き返っている。夢のような状況だが、五感はここが現実だと訴えている。

 意味の分からない状況を紐解くため、素早く自分のいる場所の周囲を見渡した。そして、その薔薇を目にした瞬間に、今度こそ視界は真っ赤に染まった。

 

――クラムベリーィィ!

「クラムベリー……ッ!」

 

 槍は手放していない。ぎゅうと手が真っ白になるくらいに握りしめ、疾走し、奴の心臓めがけて槍を突き出す。

 

「ふむ? あなたに見覚えはないのですが」

「その薄汚い口を開くな。お前だけは絶対に殺してやる」

――そうだ、蘇ったのなら何度でも地獄に叩き落してやる。

 

 槍に手を添えられて、威力をそらされた。

 冷静じゃない。激情がこれまで積んできたスノーブラッドの戦闘経験と実力を奪い去っていた。スノーブラッドは怒りで戦う魔法少女じゃない。そもそも弱かったからこそ策を練り相手の隙を突いてきた魔法少女だ。

 それが今や、見る影もなくしゃにむに槍を振るっていた。

 

「まあ、恨まれる覚えがないと言えば嘘になりますが」

「お前だけは、お前だけは許さない。封印刑なんかで済まされて、たまるものかッ!」

――そうだ。コイツが生きている限り犠牲者が増える。

 

 びゅんびゅんと振るわれる槍。その凄まじい勢いは並の魔法少女なら叩きのめすところか一刀両断してしまうだろう。

 だが、クラムベリーは魔王塾“卒業生”。魔王パムこそが絶対の最強と言う不文律はあれど、最強に名を挙げられなければおかしいレベルの魔法少女なのだ。

 

 たとえ、今はゲーム開催者で素人殺しにドはまりして腕が錆びついていたとしても、その経験は裏切らない。

 

「速さに振り回されていますね。あなたの魔法は身体強化ですか? 姿は同じでも、スノーホワイトとは似ても似つかない魔法ですが――」

「ほざくな……!」

 

 その殺意に目を曇らせたスノーブラッドでは、その槍を届かせることができない。ただし、クラムベリーとて余裕があるわけでない。

 今のクラムベリーは全盛期とは程遠く、勘も戻っていない。変に手出しすれば偶然に刺されかねないから、回避のために神経を研ぎ澄ませているありさまだ。

 

「そちらがその気であれば、私も受けて立たざるを得ませんね?」

 

 突き出された槍を握る腕を、クラムベリーが手のひらで撫でようとした。

 タイミングを計って衝撃波を流し込む作戦だ。相手の強化された身体は拡散する音波なら耐えられたとしても、集中した衝撃波なら腕の骨を粉砕できるだけの確信はある。

 なにせ目の前の相手は、ただ身体能力が高いだけの素人だ。

 

「――ッ!」

 

 その一瞬前に、スノーブラッドは弾かれたように脱出した。これで仕切り直しだ。

 

「せめて、名前を教えてもらえませんか? あなたは私のことを知っているようですけど」

 

 その問いかけは別に本気ではない。めちゃくちゃな動きに対して、あの身体能力。単に身体を強化するか速くなる魔法かと思ったのだが、それにしては先の反応が良すぎた。必殺のカウンターを確信した瞬間に、向こう側は撤退していったのだから。

 この一幕で敵の魔法を分かった気になるのは危険だと判断した。

 

 それに――錆びついていた腕と頭が、反応しかけていた。自分でも知らないうちに、戸惑いの顔が笑顔に変わっていた。唇の端をゆがめた、禍々しい笑顔に。

 

「スノーブラッド。『クラムベリーの子供たち』の一人で、異名は【魔法少女狩り】」

 

 ちらりとスノーホワイトの方を伺い、そして答える。

 

「っふ。あはははははっ!」

 

 耐えきれない、という風に笑い始めた。

 

「子供たち? それはなんとも有名になったものですね。いえ、有名になっては困るのですが、しかしまあ――魔法少女狩り? それはなんとも恐ろしい名前ですが、そんな異名の魔法少女がいたことなどありませんよ。あなたのことに興味が出てきました」

 

 ゆらりと歩き出すクラムベリー、その本性が表出しかけていた。

 

 実はここには遅れて参加することになるハードゴアアリス以外の全メンバーがそろっているのだが……その圧倒的な戦いの前に手も口も出せずにいた。

 あんな戦いに参戦すれば秒で肉塊になると分かったのだ。負けん気が強くて戦うならやってやるとの思想の者も多かったのだが、あれに比べれば自分たちが想像していた戦いなど猫のじゃれ合いでしかないと分からされた。

 

「世界を暴力で思い通りにしようとする人、殺すことに快楽を見出す人を――私たちは許さない」

――そうだ、こいつは生かしちゃおけない。

 

 スノーブラッドが槍を構え、突進する。

 

「ですが、この程度の力で何を変えるとおっしゃるのです?」

「変えて見せる。諦めない……!」

 

 周りの魔法少女では介入できないレベルの魔法少女同士の殺し合いが再開した。だが、ここでギアが一段上がる。寝ていたクラムベリーの頭が起き、だがスノーブラッドとてわずかに冷静を取り戻して相手を観察できるようになった。

 必殺を確信した心の声を聞いて反射的に飛び退いたが、あれではクラムベリーに届かないと知った。

 過去の伝聞では油断してタマに殺されたそうだが、その油断も消えつつあるのだと。

 

「うふふ、少し――楽しくなってきました」

「私はずっと最悪の気分だよ」

 

 再度激突。スノーブラッドは槍を使うのに対して、クラムベリーは素手だというのに押されるどころか拳を敵にかすらせまでしている。槍は一度も当たらないのに。

 

「なるほど、手練れのようですね。本領を出せないままに終わらせてしまってはつまらないというものです」

「殺す。……殺すッ!」

 

「ふふ、まだ本領には遠い様子。しかし、私も勘を取り戻すにはまだまだ……」

「クラムベリー……ッ!」

 

 高速で舞う魔法少女はまるで早送りの舞踏のようだけれど、その細く可憐な手足がひとたび周囲の木々に当たればそのまま削り取っていく。本当の殺し合いなのだと、念を押すような光景があった。

 観客たちは見守るしかない。だが、スノーホワイトだけは、彼女はこの殺し合いを目で追うことすらできないまま、悲しみに暮れて叫ぶ。

 

「やめてよ、魔法少女ってそういうものじゃないよ! 魔法少女はみんなに夢と希望を与える――」

 

 周囲の観客があきれた視線をよこす。そんなお花畑、と誰もが思った。

 

「――」

 

 いつのまにか戦闘を中断したスノーブラッドが、スノーホワイトをにらみつける。彼女はたじろいで2、3歩下がったけど、そこで意を決してその視線に対して見つめ返した。

 

「甘い。理想論じゃ世界は変わらない。こいつみたいに、殺さなきゃいけない悪は存在する」

 

 深い絶望と憎しみが、目に見えそうなほど真に迫っている。

 正直なところ、観客たちにはクラムベリーがそんな相手だとは信じきれない。まあ少し話したことがあるだけで、それもチャット越しなのだから本当のことなど知らなくて当然だ。

 この純粋な疑問など、憎悪とは無関係に育った平和ボケの証といえるだろう。

 そこで今殺意を剥き出しにしているのがスノーブラッドなので、その“赤”も合わせて悪者はこっちなのではという疑念の方も消えないのだけど。

 

「……しかし、どこで漏れたのでしょうね? あなたの正体は、実のところさっぱり心当たりがありません。スノーホワイトの縁者にしても、別に彼女はそこで生きてますしね。それともそちらの彼女は偽物ですか?」

「私はスノーホワイトとは関係ない」

 

「そうは見えませんがね。まあ、あなたは特殊な魔法少女なのでしょう。復讐を果たすために強化した? 作った? それだけ強い魔法少女が、ぽっと現れるはずがないですからね。それとも【実験場】あたりと関係があったりしますか?」

「オスク派はむしろ敵、かな」

 

「……ッ! あなた、どこまで知っているのです? どこの魔法少女ですか?」

「さすがに焦ったね、クラムベリー。あなたのこと、魔法の国にバラされるとまずいんだよね?」

 

 クラムベリーはスノーブラッドを睨みつける。気分よく戦っていたのに水を差された。さすがにバラされれば身の破滅であるのは重々承知している。

 今まではスノーブラッドのことを公に知られない後ろ暗い復讐者だと思っていたが、魔法の国の深い事情にまで首を突っ込んでるとあれば話は別だった。

 表舞台につながっているのであれば、最悪が見えてくる。魔王パムに追われるのだけはごめんだった。それを楽しめる類の破綻者なら、デスゲーム開催なんてやっていない。

 

「答えてください」

「教えると思う?」

 

 睨み合う。物理的な圧さえ感じるほどの殺意のやり取り。観客はただ逃げることもできず、息を呑んで見守るしかない。

 

「「はああああっ!」」

 

 華美な魔法少女の、しかし醜い殺し合いの第三幕が幕を開けた。

 

 

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