N市に集められた新人魔法少女たちは殺し合いゲームをさせられるとも知らず、伸び伸びと暮らしていた。
そんなある日、傷だらけで身元不明の魔法少女が発見されてみんなが集まった。それは赤いスノーホワイト、これはいったいどうしたことだと相談していたのだが。突然目覚めたスノーブラッドは、目の前に居たファヴと森の音楽家クラムベリーに復讐の炎を燃やし殺し合いを演じたのだった。
「げほっ。こほーー」
戦いはスノーブラッドが薄氷の上の勝利をもぎ取ったかに見えて、けれどファヴの策略により逆転した。
しかしスノーブラッドは自ら心臓マッサージを行って復活、クナイをマシンガンのように投げ続けて追い払った。そこで限界が来たのか膝をついてしまった。
わずかに訪れた弛緩した一瞬、だが何も終わっていないし、他の魔法少女はほぼ何もわかっていないに等しい。
「っち!」
驚いてクナイを盗まれるがままになっていたリップルはトップスピードを抱えて飛びのいた。クナイを盗られても何かがある訳ではないが気持ち悪いし、何より自分の魔法を使われたのが不可解に過ぎる。
だから、敵意丸出しでにらみつけてしまう。
「おい、あんた一体何者だ? なぜ私の魔法が使える?」
「……」
スノーブラッドは答えない。というか、答えられない。心臓停止のダメージは深く、身体は重い。口を開くのも億劫なありさまだった。
「――おい!」
何も答えないスノーブラッドに業を煮やして詰め寄ろうとするが、トップスピードが止める。
「なあ、答えられるようになったらで構わないから、答えちゃくれないかな。えっと――あんたはなんだってリップルの魔法を使えたんだい?」
「……使えるわけじゃない。ただの技術」
スノーブラッドは弱々しく、目をそらして答える。嘘だった、が仕方ない。スノーホワイトの魔法は初見殺しにもなるが、本領を発揮するのは知られてからだ。そっちの魔法を言った方が都合がいいと、計算していた。
「はあ……?」
「――」
ゆっくりと息を吸ってから立ち上がった。
「あの……」
そこにスノーホワイトがかけよってきて口元についた大量の血を拭ってやるのだが、気怠そうに顔を振って追い払った。そしてトップスピードと目を合わせる。
「いやいや、冗談はよしてくれよ。それならなんだって投げたクナイがあんな動きをするのさ――」
「私の魔法は、人の弱みを暴く魔法。――優しいんだね。二人とも、互いをかばって動いてる」
「――ッ……!」
「うそだろ、おい」
いざというときは私がかばうと、二人とも互いに対して思っていた。それを見透かされ、言葉が出なくなった。
「なら、君がスノーホワイトと同じ姿をしている理由を聞かせてもらおうか。クラムベリーとの関係についても」
「えっ……ちょっとそ――じゃなくて、ラ・ピュセル? あの、相手は怪我人だから」
無遠慮に近づいて行くラ・ピュセルをスノーホワイトが止める。がやがやと騒ぐうちに、残った全員でスノーブラッドを取り囲む形になる。
「偶然だよ。そして、クラムベリーは……あいつは殺し合いをさせている。新人が魔法少女にふさわしいかを監査する試験官の役割を悪用して――嘘をついて」
「――」
「うそ……」
その言葉の衝撃に、偶然とかいう適当な誤魔化しのことは忘れてしまう。
なにせ、彼女については自分達と同じく新人魔法少女だと思っていたのだ。まあ、初期メンバーだから新人にしては長いだろうけど。しかし、試験官とかそんなものとは無縁だと思っていた。
そんな彼女が自分達を騙して殺し合いをさせるなどという荒唐無稽な話に、皆そろって唖然としてしまう。
「証拠は? 確かに君もクラムベリーも強かった。魔法少女として長く鍛錬を積んだのは間違いがないのだろうけど」
「なんだったら納得するの? ファヴかクラムベリーに聞いてみる? もうチャットはつながらないと思うけど」
「ファヴは……クラムベリーの味方なのか?」
「さっき見たでしょう。ラ・ピュセル」
「――」
交渉のスキルもないラ・ピュセルは、早々にぐうの音も出なくなってしまった。
そもそもクラムベリーをかばう義理もないのだから、口喧嘩に勝ちたい理由もない。それで仲間を危険に晒せば本末転倒。黙って説明を聞いた方がよほどマシだ。
スノーブラッドはまだ何か話してくれそうな感じであることだし、他にしゃべりたそうにしている奴も居るし。
「ねえ、スノーホワイト。こいつはどう思ってるんだい?」
「え、ええ……あの、トップスピード……?」
スノーホワイトはいきなり自分の名前を出されてびっくりして心臓が飛び出そうになってしまう。蚊帳の外だと思っていた。
「あんたの魔法で、こいつから何か聞こえたかって聞いてるんだけど」
「あ……そういうこと。でも、彼女の声は、なぜか遠くって。――でも、かすかにだけど。クラムベリーの人殺しを許してしまうことを恐れる声が聞こえるかな。それと、えと髪が……ひゃうっ!」
余計なことを、とスノーブラッドがにらみつけるとスノーホワイトが身を縮めてしまう。
「それは、自分じゃなくこっちを心配してくれてるってことかい?」
「え? あ……はい」
かすかに怒っている様子のスノーブラッドにびくびくしながら、スノーホワイトは頷いた。
「きっとクラムベリーはそろそろあなたたちに殺し合いをさせる気でいたはず。――ゲームは、このくらいの人数のことが多かったから」
「なるほどね」
「ひうっ……!」
スノーホワイトは度々話の中心に来るくせに、怯えておどおどと震えてばかりいる。堂々としたスノーブラッドの姿と見比べれば、同一人物だなどと疑う視線は一つもない。
まあ始めから、関係ないとの言葉を真に受けている間抜けも少なくないのだけど。
「でも、私にバレてしまったから。あなたたちのことは雑に皆殺しにしてしまうかもしれない」
「簡単に言ってくれるね。スノーホワイトの話だと、アンタはそれをとっても心配してくれるってことだけど」
「そんなことはない。勝手に私の気持ちを決めないで、トップスピード」
「そうかいそうかい。悪かったね」
「だが、倒せるのか? 不利のように見えたがな。それとも、手伝いがいるか」
居心地悪そうにしていたリップルが口をはさむ。できれば無関係だと決め込みたかったが、話の流れで無関係でいられなかった。
それにクラムベリーが勝利する方が都合が悪いことを理解できるだけの冷静さは保っている。
「そうかもしれない。けれど、あなたたちが来ても邪魔になるだけ。素人では、クラムベリーに勝てない」
「言ってくれる。あいつがどんな特別な存在だって言うんだ?」
「そうだね。魔法の国の各部署で幅を利かせる魔王塾の塾生の一人で、“森の音楽家”という称号は最強の魔法少女『魔王パム』にもらったものだもの。そこの3人しかいない卒業生なのだから、世界で4位以内の強さを持つ魔法少女と言っても過言ではないわ」
「……はぁ?」
こともなげに、情報量で殴りつけてきた。ここに居る素人魔法少女は、そもそも魔法の国など、「まさかマスコットの国?」と思ってしまうほどに何も知らない。
事実はマスコットなど数ある道具の一つでしかないのだが。しかも、魔王塾なんて魔法少女には似つかわしくない団体名まで出てきてしまってはあっけにとられるしかない。そして、スノーブラッドは皆があっけにとられた隙に重要事項を滑り込ませる。
「あなたたちのことは私が魔法の国と話を付ける。記憶を消して一般人に戻るか、そのまま魔法少女を続けるか好きに選べばいい」
「「「「……なんだって⁉」」」」
ざわざわと声が連鎖する。自信満々に放たれた言葉に圧倒されそうになるが、しかしその内容は簡単に頷けるものでもない。
そもそも魔法少女を続ける許可をいただくなどまっぴらごめんと、差し出された手に噛みつく気の強い者も多い。
それにまさか、一般人に戻ることを希望する者などいるはずがないし。
「あんたに判定する権利があるのかい?」
「ないけれど、暴れる魔法少女は倒す。私は魔法少女狩りだから」
「そもそも、記憶なんてどう消すんだ?」
「アイテムがある。クラムベリーもそれを使って隠ぺいしていたけれど、そもそもそれは魔法の国では日常業務の一つなの。それを悪用して報告をごまかしているだけで。なにせ犯罪者でも、収監する価値のない魔法少女だったら記憶を奪って元の場所に戻しているもの」
「……ほお。ああ、うん。なるほどなるほど、こりゃ敵わんわ。わたしら魔法の国についてはなーんも知らんし、頼みの綱のファヴはクラムベリーの共犯者だしね」
「トップスピード。コイツの話に納得できたのか?」
「いやいや、別にやめる気になったらって話でしょ? こっちは魔法少女やめる気ないから、関係ないさね」
「そうなのか……?」
一触即発じみた空気が、トップスピードの漫才じみた言動のおかげで静まっていく。別に、無理やり言うことを聞かそうというのでなければ、わざわざ争う意味はない。
喧嘩を吹っ掛けるなど馬鹿のやることだ、殴り合いにはなんの得もないのだから。そこで火種を起こすとしたら――
「チ」
気に食わないという理由で暴力沙汰を起こすのにためらいがない、スノーブラッドが悪と憎む性根の者だ。
その彼女が舌打ちとともに因縁を付けようとして。
「けれど、あなたは別だよカラミティ・メアリ。魔法少女の姿を解いて、端末を渡して」
その機先を制された。