ペトログラード、ドイツ語でサンクトペテルブルク、第一次世界大戦の開幕後、ロシア語風のペトログラードに改名した、ロシア帝国の首都。190万人を超える人口を誇る。
そんな都市の中で俺は皇女殿下と2人で店巡りをしていた。
「あら、もう疲れたの?」
「疲れたとかじゃなくて大丈夫なんですか?勝手に宮殿を出て」
「大丈夫よ!何かあれば二人で怒られるのもいいでしょう?」
「嫌ですよ、皇女殿下に怪我でもあれば首が飛びかねません」
マジで、物理的に。
「ふふっ、問題ないわ。レナードなら何かあっても私を守ってくれるでしょう?」
「はぁ、できる限りのことはしますが……」
「なら大丈夫よ」
まったく、この人は。
会ってから五日程しか過ぎていないのに、なんで人を信用できるのやら。
一応、父親が裏切り者で有名なんだけどな。
護衛の任についてから五日程、毎日のように皇女殿下の宮殿からの脱出に付き合わされてる気がする。←(宮殿から出るのを止めるのは諦めた)
「それから、外にいる間は皇女殿下とは呼ばないようにしなさい。一応、バレないようにしているのだからね」
「……本当にバレないようにするなら、そんな高そうな服装で行かないと思うのは私だけですか」
「あらそう?お母さまはこれでバレないと言っていたわよ」
…金持ちは平民と感覚が違うことを思い知らされる一日だった。
この後、しっかり怒られました。
***
「ってことがあったんだが、どうすればいいと思う?」
親衛隊の寮でサミュエルに聞く。
親衛隊の新人の大半はこの寮で過ごしている。
実家が遠い者、独り身の者が多いからだ。
「何がだ?この裏切り者!人でなし!どうしてお前は皇女殿下と早速仲良くなってるんだよ!やっぱり顔か?面か?か~、イケメンは羨ましいぜ」
「……裏切り者か…、そうだな」
「ああ、済まねえ。裏切り者は禁句だったな。それで、何を困ってるんだ?」
「呼び方だ」
「何の?」
「名前の」
そう言うとサミュエルは呆れたように言う。
「お忍びで一応行ってんのに、皇女殿下と呼ぶ奴がいるか!いいか、そういう時は偽名を使うんだ」
「恐れ多いだろ!」
「そこかよ!」
「そこ以外にどこがある?」
「いや、もっとこう、ネーミングセンスとかの問題かなと」
「俺のネーミングセンスのどこに問題がある?」
「ストラフ」
「ライフルに名を付けただけだ。問題ない」
「この永久厨二病患者が!」
ストラフとは恐怖を表すロシア語だ。
ただ、敵に恐怖を与えるという意味で名付けたのだが。
「レナード!すぐに来て!外に出るわよ!」
部屋の扉が勢いよく開くと皇女殿下が表れた。
おかしい、今日の護衛はイワンのはずなのに。
「イワンなら寝てるわよ」
護衛の仕事は?というかなんであんたは心読んでんだよ!
「ちょっ!勝手に……」
止めようとしたが皇女殿下は手を振って外に出て行った。
「ああもう!サミュエル。急ぐぞ」
「俺もかよ!」
***
「昼間ならともかく、夜に外に出られるのは困りますって」
昼間ならいいわけじゃないけど。夜は治安が悪いからな。
「あら、遅かったわねレナード。そちらは?」
「はっはい!サミュエル・アシモフと申します!皇女殿下」
「サミュエル、いい名前ね。よろしく頼むわ」
「あの~、聞いてます?」
「レナード、私のことを皇女殿下以外の呼び方で呼ぶまで貴方の発言は無視します」
そう言うと皇女殿下は顔を膨らませプンプンとすねていた。
「ええ~、困るんですが」
「ふ~んだ」
「……無視できてなくないですか」
「うるさいわね!怒り方が分からないのよ!」
一拍ほどおいて皇女殿下の顔が真っ赤になった。
「い、今のはその…」
「年相応で可愛らしかったと思いますが」
「う、うるひゃい!しばらく黙りなさいレナード!」
何が駄目だったのだろうか?
***
それから暫くの間、夜のペトログラードを探索した。
基本的に食べ物を買って食べるの繰り返しだった気がする。
「サミュエルにレナードか!それに皇女殿下……皇女殿下!」
「上官殿、これには深いわけが」
「……うん、何も言うな、分かっている。分かるぞ。私も若い頃は今の皇帝陛下に連れ回されていた」
偶々、入った飲食店に上官殿がいた。
そこで上官殿からは色々な話を聞かされた。
ほとんどが今の皇帝陛下つまりニコライ2世の若い頃の話で『狩猟の帰りに返り血だらけで店に入ったせいで子供に泣かれた挙句、警察を呼ばれた』や『無償で市民の写真を撮ってたらスパイと間違われかけた』などなど興味深い話だった。
「この人も意外と苦労してるんだな」
サミュエルが小声で耳打ちしてくる。
ロマノフ家は代々こうなのだろうかと少し気が遠くなりかけたが倒れなかった俺を褒めてほしい。
「やいやいやいやい!俺たちゃ、この辺で一番のならず者!」
「名前は決めてないぜ!」
「何故なら!」
なんか三下の不良みたいな連中が入ってきた。
「サミュエル、武器は」
「急ぎだったから持ってねえ」
「おいおい、いけねえな兄ちゃんたち。こんな別嬪さんがいるならみんなで分け合わないと」
「黙れ三下」
腰から引き抜いて発砲する。
『ナガンM1895』ロシア帝国における正式拳銃。銃弾の装填数は7発。
「おい~!何やってくれてんだお前!」
「ひでえよひでえな」
「うるさい!」
何故自分が怒ってるかは分からない。
だが、ここで撃つ。
「殺すなよ」
「分かっていますよ上官殿」
敵は20人くらいか。
「皇女殿下は上官殿の後ろに!サミュエル。貸してやるから援護しろ。さすがに厳しい」
サミュエルに予備の拳銃を投げ渡す。
「勝てないとはいわねえのな」
「よくないよ、よくないよ。正直に命乞いしろよ」
「舐められたものだよな。サミュエル」
「お前に合わせれんのは俺くらいなもんなんだから感謝しろっての」
放った銃弾は全部、相手の手に着弾する。
「あっ、弾切れ」
「今だ!殺せえ!」
1,2,3,4,5,6そして7人。
装填完了。
「はいよっと」
これで終わりかな。
「皇女殿下に上官殿。御無事ですか?」
「ええ、無事よ」
「上官殿~、手伝ってくださいよ~」
「お前たちなら問題ないと判断しただけだ」
「サミュエル、弾一発無駄にしやがって」
「全弾命中させてるお前がおかしいだけだっつ~の」
「そうよ、あれはどうやったの?ズババ~って」
皇女殿下が飛び跳ねながら聞いてくる。
「はしたないですよ」
「いいから、答えなさい」
「何となく見えるんですよ。放った弾の軌道が」
「替わりに近接は弱いけどな」
「それをわかってて、虎やら熊やらとの噂を流した馬鹿がいるらしいけどな」
「……誰のことでしょうね~」
顔をそらすなよサミュエル。
「やれやれ、騒がしいことだ。何があったのだね」
全てを見透かしたかのような声が聞こえた。
本能が警戒する。
頭の中にこの男を始末しろと警告が鳴り響く。
俺はこの男を知っている。
無意識、しかし、確かな意思をもって、皇女殿下の前に立つ。
「なんと、アナスタシア皇女殿下。お久しぶりにございます」
男の名をグレゴリー・ラスプーチン。
その異名を『怪僧』
ロシア帝国の影の支配者。
ということでラスプーチン参戦。
このラスプーチンは言峰の外見ではない生前の姿です。(どんな姿してたんだろう)
敬語とかちょこちょこ間違ってるかもしれないです。
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