【百合】ゴーストバスターズ   作:空空空空

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13話 罪滅ぼし?

「ぐすっ、ひっく」

 

「落ち着いた?」

 

「は、い、ひっぐ」

 

「はい。ハンカチ貸すから、ちゃんと涙と鼻水を拭き取りなさい」

 

「ずびばぜん……」

 

 嗚咽を吐きながら、朝倉先生からハンカチを受け取った私は、濡れた頬をそっと押さえた。

 

 鼻先に残っていた情けない鼻水まで拭い終えるころには、涙で滲んでいた視界もようやく元の状態に戻っていた。

 

 そこで初めて、手の中のハンカチの柄が目に入った私。そこには、一羽のペンギンが描かれていた。

 

 青いスーツに赤い蝶(ちょう)ネクタイ。

 丸っこい体型のせいで腹元のボタンは閉まりきらず、縦に長い楕円形(だえんけい)の模様が曝け出されている。

 頭にはバナナの房みたいな髪がちょこんと乗っていて、その小さなヒレで得意げに髪をかき上げていた。

 

 何とも力の抜ける愛嬌なキャラクターだ。

 

 こんなゆるかわなキャラクターのデザインが施されたハンカチをお母さん的な雰囲気の朝倉先生が持っているなんて意外だった。

 

 朝倉先生ならもっとこう、無地とかシンプルなデザインなハンカチを好むと思っていた。

 正直、このキャラクターの雰囲気と朝倉先生の雰囲気が別ベクトル過ぎてミスマッチ感が否めない。

 

「あら? 神崎さん。もしかして”ペンサム君”に興味があるのかしら?」

 

 じっとハンカチを見つめている私に朝倉先生はどこか誇らしげに口元緩める。

 

「ぺ、ぺん、サムって?」

 

「何呼び捨てにしてるの神崎さん! ちゃんと”君”まで付けなさい。そこまで名前なんだから。ほら、もう一度ちゃんと言いなさい」

 

「え、えっと……?」

 

 朝倉先生の言ってることに何が何だか分からない私は戸惑ってしまう。

 

 戸惑う私を見つめる先生の笑顔が、なぜだか妙に圧を帯びていっている気がして……

 

「何? 先生の言うことを聞けないの?」

 

「ぺ、ペンサム君!」

 

「よろしい」

 

 朝倉先生の殺気に近い圧力が私の生きたいっていう本能を刺激し、意図してない声量でそのキャラクターの名前を口にした。

 

 たかが名前。されど名前。

 たったそれだけで命の危機を感じるとは思わなかった。

 

 朝倉先生から合格の判を押された私は安堵するも、動悸が凄く心臓のバクバク音がうるさく鼓膜を打っていた。

 

 ――こ、怖かった……

 

 ちゃんと名前を言えなかっただけで逆鱗に触れる程とは、朝倉先生はそれだけこのこのキャラクターが大好きということなのだろう。

 

 もはや、大好きというより愛していると言っても過言じゃない。

 

 もし、万が一にもまたこのペンサム君の話題を朝倉先生と話す機会が来た際には、慎重(しんちょう)に言葉を選びをしないと命が幾つあっても足りない。

 

「いい? 次ペンサム君の名前をちゃんと言えなかったら、神崎さんだけペンサム君という追加科目を受けてもらいますからね。テストで満点を取れなかったら、先生の雑用係か学院の全てのトイレ掃除をしてもらいますから、いいわね?」

 

「そ、それはあまりにも理不尽――」

 

「いいわね!」

 

「は、はいいいい!」

 

 有無を言わさぬ声音に反射的に頷いてしまった私。

 

 返事をしたことによりいつ爆発するかもわからない時限爆弾を持たされてしまった。

 より朝倉先生との会話に神経を使わなくなってしまい、気分は憂鬱だ。

 

 朝倉先生は満足げに頷くと、小さく息を吐いた。

 

「さて、と。私はそろそろ行くわね。お客さんも来てるみたいだし」

 

 朝倉先生は扉に目を向ける。私もその視線につられて扉を見た。

 

「お話は終わったから入ってきてもいいわよ」

 

 朝倉先生が室内に入る許可を出すと、ゆっくりと扉がスライドしていく。

 

 現したのは心配そうに眉を顰(ひそ)める凜ちゃんだった。

 

「凜ちゃん……」

 

「ひ、光ちゃん」

 

 互いの名前を呼び合い、しばらく視線を重ねた後――

 

「ひ、光ちゃあああん!!」

 

 凜ちゃんが目に涙を浮かべながら颯爽と私の元へと駆けつけ、勢いよく抱き着いた。

 

「ごめんね凜ちゃん。心配かけてごめんね」

 

 肩を震わせながら泣く彼女の声を聞いていると、自分がどれだけ大切に想われていたのかが痛いほど伝わってくる。

 

 

「二人の感動の再会に水を差すのも申し訳ないけど、もうすぐ訓練の時間だから水無月さん、そこらへんでそろそろお暇(いとま)しましょうか」

 

 私たちの再会を傍で見守っていた朝倉先生は、苦笑しながら話しかける。

 

「それと神崎さん。医者からはもう退院して問題ないって許可が出てるわ。元気なら部屋に戻っても大丈夫よ」

 

「本当ですか? じゃあ、この後の訓練にも参加します。ずっと寝てたから、身体を動かしたくて」

 

 そう言って腕を回すと、関節の奥で鈍く軋むような感覚がした。

 たった一日、身体を動かさなかっただけで、筋肉は驚くほど重たく、思うように動かない。

 

 そのわずかな鈍りさえ、今の私には耐え難かった。

 

 一日訓練を休めば、そのぶんだけ周囲との差が開く。

 だから私は、許される限りの時間を、少しでも強くなるために使いたかった。

 

 けれど先生は、私の言葉を聞き終えると、小さく首を横に振った。

 

「神崎さんの訓練に参加したいと言う気持ちは大変立派だけど、昨日の白雪さんとの戦いもあったし、神崎さん自身が元気でも、体はまだ休息が足りてない可能性があるから、まあ、今日は一日自分の身体を労わって英気を養いなさい」

 

 少し前の私なら、きっと聞き入れなかった。

 無理にでも立ち上がり、身体を動かしていたと思う。

 

 けれど、先ほど私は、自分自身の感覚と身体の状態が、必ずしも一致していないことを思い知らされたばかりだった。

 その小さな実感が、逸(はや)る気持ちにブレーキをかける。

 

「わかり、ました」

 

「ひ、光ちゃん。訓練が終わったら超特急であ、会いに行くからね!」

 

「うん。楽しみに待ってるね」

 

 

 別れの挨拶を済ませ、朝倉先生と凜ちゃんは次の訓練の授業のため、病室から出て行った。

 私も二人が出て行った少し後に、病室から退室したのであった。

 

 

 

 

                        *

 

 

 

 

 リビングの窓から差し込む陽が黄金に成り変わった頃。

 

 ピンポーン!

 

 リビングにインターホンの軽やかな電子音が響き渡る。

 

 ソファで寝落ちしかけていた私はその音でまどろみから解放される。

 

 壁際のモニターへ歩み寄る私。

 

 白いパネルの中には、肩で大きく息をする凜ちゃんの姿が映っていた。授業が終わって、そのまま駆けてきたのだろう。

 

 額には薄く汗が滲み、呼吸はまだ整っていない。

 

「ひ、はあ、ひか、りちゃん。はあ。き、来たよ、はあ」

 

 凜ちゃんの息がパネル越しでも感じそうなほどに、凜ちゃんは息遣いは荒い。

 

 別にそんなに急がなくても逃げやしないに……って思ってしまう。けれど、私に会

いたい一心で走ってきてくれたのだと思うと、凄く嬉しかった。

 

「うん。今、開けるね」

 

 その嬉しみを噛み締め、つい微笑んでしまう私は、扉を開け凜ちゃんを招き入れる。

 

「ひ、光ちゃん!」

 

 扉を開けた瞬間、凜ちゃんはほとんど飛び込むみたいに私へ抱きついた。

 

 胸元辺りに顔を埋め、子犬みたいに頬を擦り寄せてくる。その無防備な甘え方が愛おしくて、私は自然と彼女の頭を撫でていた。

 

「えへへ~」

 

 嬉しそうに声を漏らす凜ちゃん。

 

 ぴょこんと跳ねたアホ毛も、それに呼応するように、ぶんぶんと激しく揺れ動き、喜びを露にする。

 

 玄関先で私たちはしばしの間、そんなふれあいをしていたのであった。

 

 

                       *

 

 

「凜ちゃん、飲み物何がいい?」

 

「え、そ、そんないいよ」

 

「だーめ。凜ちゃんはお客さんなんだから。それに、今日凜ちゃんが来るから、商業区で一人で飲み切れない量の飲みものを買っちゃって。だから、飲んでくれると嬉しいなって」

 

 凜ちゃんが『く、訓練が終わったら、超特急でひ、光ちゃんの部屋にい、行くからね!』と、別れ際、私にそう伝えた。

 

 冷蔵庫はすっからかんで、とても誰かをおもてなしするような状態ではなく、私は病室を出た後、そのまま商業区で買い物に出かけた。

 

 凜ちゃんの好みが分からず、とりあえずお菓子やらジュースやら、思いつくままにかごに放り込んだ。

 

 結果、一人じゃとても消費しきれない量の飲み物とお菓子が冷蔵庫とキッチンを埋め尽くされていた。

 

「あ、えっと、お、オレンジジュースってあるかな?」

 

「うん。あるよ」

 

「え、えっと、じゃあ、それでお願いします」

 

「了解」

 

 私はグラスを二つ用意し、冷えたオレンジジュースを注ぐ。ついでにチョコレートも小皿へ添えて、トレイごとリビングへ運んだ。

 

 ソファに腰掛けた凜ちゃんは、どこか落ち着かない様子で両手を膝の上に置いている。

 

 凜ちゃんの前にあるガラステーブルにトレイを置き、

 

「はい、どうぞ」

 

 私は凜ちゃんの前にオレンジジュースとお菓子を配る。

 

「い、いただきます」

 

 凜ちゃんはグラスを両手で包みこむように持つと、ごく、ごく、と少しずつ喉を潤していく。

 

 私も凜ちゃんに倣ってオレンジジュースを口に含んだ。

 

「ひ、光ちゃん。わ、わたしの隣に、す、座って? そ、そこだと、い、痛いでしょ?」

 

 凜ちゃんはソファをぽんぽんと叩きながら言う。

 

 凜ちゃんの心遣いに甘えて私は凜ちゃんの隣に腰を落ち着かせた。

 

「えへへ~ ひ、光ちゃん」

 

 私が座るや否や、凜ちゃんは嬉しそうに身体を寄せてきた。肩に頬を擦り寄せる感触がくすぐったい。

 

 今日の凜ちゃんは、いつになく凄く甘えん坊さんだ。

 

 凛ちゃんは私のなでなでがお気に召したようで、時々、なでなでを要求するようになった。

 

 そこから、少しづつスキンシップは激しくなっていき、手を繋いだり、今は腕に抱き着くこともしばしば。

 

 今日に至っては授業も手につかなくなるほど、凜ちゃんは私の身を案じていたらしい。

 

 だから、その溜めに溜まったうっ憤を吐き出すために、今日のスキンシップはいつにも増して激しいのだろう。

 

「ひ、光ちゃん。あ~ん」

 

 凜ちゃんは、立方体のチョコレートを私の口元に近づける。

 

 私の方が体格が大きいため、必然的な上目遣いが成っている。

 

 あ~んなんて小さいころに母親にやってもらった以来で、この年で、しかも恋人同士ならともかく、まだ知り合っても間もない女の子からやってもらうのは気恥ずかしさがある。

 

 しかし、今日は特に色々と心配をかけてしまった。

 

 その上、凜ちゃんの何かを期待するような満ちた瞳を曇らせるのは気が引けるため、甘んじて受け入れることにする。

 

「あ、あ~ん」

 

 チョコレートは立方体のブロック状で一口サイズほどの小ささ。

 

 そのため、チョコレートと共にチョコレートをつまむ凜ちゃんの人差し指と親指までもが私の口の中へ。

 

 私の唾液の温度が立方体のチョコレートを氷のように甘く溶かしていく。凜ちゃんの指の微かな塩気が混じって、あまじょっぱさが口に広がる。

 

「お、おいしい?」

 

 凜ちゃんは小首を傾げながら、覗き込むように訊いた。

 

 正直、私はじっくりと味わう余裕なんてなかった。

 

 この状況に羞恥が悶え、心臓の高鳴りが抑えきれない。

 

 室内はテレビもついていないため、静まり返っていた。もしかすると、私の心臓の音は凜ちゃんに届いているかもしれない。

 

 そう思うと、さらに羞恥が深まり、味どうこうの話ではなかった。

 

 だけどなんとか、その質問に答えるため、私は舌に残ったチョコレートの残滓(ざんし)をかき集めて味わい、

 

「う、うん」

 

 小さく頷いた。

 

「そ、そっかあ」

 

 私の反応に凜ちゃんは照れ笑いを浮かべると、それから、ためらいがちに目を伏せる。

 

 そして、ちらちらとこちらを見ながら、

 

「えっと、ひ、光ちゃん。わ、わたしにも、そのあ、あ~ん、してほしいなあって」

 

 凜ちゃんは恥ずかしそうに頬を染めながら、私にあ~んをねだる。

 

 私はそのお願いを聞くために、凜ちゃんと同じようにチョコレートを手に持って、凜ちゃんの口元へ。

 

「は、はい。あ~ん……」

 

「あ、あ~ん」

 

 凜ちゃんは恐る恐る口を開ける。

 

 私はそっとその口にチョコレートを差し出す。私の掴む人差し指と親指までをも凜ちゃんの口の中へと入っていった。

 

 私は凜ちゃんの口に入った自身の指を取り出そうとする。

 

 だけど、その前に凜ちゃんは私の腕を掴み、犬のようにぺろぺろと私の指を嘗(な)め回す。

 私のほのかな体温で溶け、こびりついたチョコを全て取り除こうと、執拗に、入念に。

 

 凜ちゃんの舌はまるでタコの足のようにうねうねと動き回り、私の指に付着したチョコレートを拭き取っていく。

 

 凜ちゃんの舌はぷにぷにしていて、こう、何と言うか、凄くいかがわしい変な気分になってしまう。

 

 凜ちゃんは全て拭き取ったのか、引き離すと、凜ちゃんの唾液がつーっと蜘蛛の糸のように引かれた。

 

「え、えへへ~ す、凄く美味しかった」

 

 凜ちゃんはチョコのようにとろけるような惚けた表情でそう言った。

 

 その表情は、いつもの幼さとは違う艶(つや)を帯びていて、私はまともに見返せなくなる。

 

 このままでは、凄くエッチな雰囲気に飲みこまれ兼ねないので、

 

「えっと、あ、そうだ。凜ちゃん。今日は私のせいで色々と迷惑をかけちゃったから、何か私にしてほしいことあるかな?」

 

 会話を発生させて空気の入れ替えを行う私。

 

 凜ちゃんは私の問いに対し予め回答を用意していたのと思うほどに逡巡することなく口を開く。

 

「わ、わたしとパ、パートナーに、なってほしいかなって……」

 

「えっと、そ、それは……」

 

 思わぬ申し出に私はどもってしまう。

 

 朝倉先生が私を奮起しなければ、私は迷うことなく頷いていただろう。だが、憧れを取り戻した今、私はもう一度雫さんにアタックすると決めていた。

 

 その決意を胸に私は凜ちゃんに、

 

「ごめんね、凜ちゃん。パートナーに関しては、私は白雪先輩となるって決めてるの」

 

 私は最低な人間だと思う。

 

 恩を返すための文言を自分から言ったくせに、いざ、願いを差し出されると断るんだから。

 

 自分本意で、自分勝手で、自分中心で、友達として、いや、人間として失格だ。失格も失格、大失格だ。

 

 凜ちゃんから薄情と言われても仕方ない程に、私は最低な事をしている自覚があった。

 

「そ、そっか。ひ、光ちゃんがそう言うなら、今のは無し、で」

 

 凜ちゃんは文句の一つも言わず、すんなりと身を引く。

 ただ、その表情は痛々しい程に悲しみに暮れていた。その悲痛さは私の心を抉り、罪悪感で押しつぶされそうになる。

 

 自分からまいた種が原因なのに、凜ちゃんが一番苦しいはずなのに、あたかも私が一番苦しんでいるような感じてしまう自分に、その醜い自分に、嫌気が差してしまう。

 

 意見が通らなかった凜ちゃんは眉間に皺を寄せながら『う~ん……』と唸りながら考えて――

 

「あ、えっと。わ、わたし、ひ、光ちゃんのめ、メイドさんになりたい」

 

「メイド!?」

 

 全然予想斜め上の提案に思わず私の声は上擦ってしまう。

 

 ――メイドって? あのメイドだよね? いや、もしかして、私の認識にないメイドかもしれない。

 

「えっと、メイドって、あのメイド? ご主人様にご奉仕する、あのメイド?」

 

「う、うん。その、メイドさん、で、あ、合ってる、よ」

 

 どうやら、私の知らないメイドではないらしい。その上で、だ。

 

「えっと、私の聞き間違いじゃなければ、凜ちゃんが私のメイドになりたいって……」

 

「う、うん。そう、だよ」

 

「えっと、わ、私が凜ちゃんのメイドになるわけじゃなくて?」

 

「ち、違うよ。わ、わたしがひ、光ちゃんのメイドさんに、なるんだよ」

 

 凜ちゃんははっきりとそう言う。

 

 私は罪滅ぼしとして、凜ちゃんに何かしてあげたいと思ってのことだったのだが。これじゃあ、罪滅ぼしなんてもってのほか。

 

「えっと、私は罪滅ぼして凜ちゃんに何かしてあげたくて、私が凜ちゃんのメイドさんになるのはダメかな?」

 

 と、自分からメイドになると私は言うものの、メイドって何をすればいいのか全く見当がつかない。

 まあ、メイドって主人の言うことを絶対順守のイメージがあるので、凜ちゃんの言うことを聞いてれば何とか形にはなるだろう、と私は思っている。

 

 ――私のメイドのイメージってそんな感じだから。

 

「そ、それも魅力、てき、だけど、わ、わたしとしては、ひ、光ちゃんの、メイドに、なる方が、う、嬉しいから」

 

 私としては、何かしてあげたいのが本心だけど、さっきの申し出を断った今、もう一度、自分の意見を通して、また悲しませるのは本望ではない。

 

 パートナーの申し出と違って、絶対ダメ! というわけでもない。ここでまた断ることこそ、薄情のレッテルを貼られかねない。

 

 非常に悔やむが、凜ちゃんがその選択を取るなら、私は何も言わない。

 

「……わかった。凜ちゃんがそれでいいなら。でも、私としてはやっぱり何かしてあげたいのか本心かなあ」

 

 心の中では何も言わないと決めたが、私の罪滅ぼしがしたいという気持ちが高すぎて、気づけば無意識にその想いが舌に乗って出ていた。

 

「あ、だったら、わ、わたしがめ、メイドとしてのお仕事が、で、できたら、そのお、ご、ご褒美に、なでなで、とか、欲しいなって」

 

 メイドの仕事が一体どれほどなのか未知数だが、凜ちゃんがわざわざ私のメイドになりたいと言いだす程だ。

 

 きっと、それは私の想像を絶するほどの仕事量に違いない。勝手な予想だけど、どうしてかそう思ってしまう。

 

「わかった。なでなでとは言わず、欲しいご褒美があるなら、何でも言っていいからね。出来る範囲は叶えてあげるから!」

 

 流石になでなでだけでは、対価としては全然釣り合っていないので、なでなで以外のご褒美も条件に付け加えて、なるべく対価が釣り合うように調整する。

 

 流石に、家買って、とか言われたりでもしたらまずいので、自分が叶えられる範囲という条件を一応、付け加える。

 まあ、凜ちゃんのことだから、そんな大層なご褒美を要求しない思っているけど、念には念を、だ。

 

 あらかじめ言ってなかったために、ダメです。では、凜ちゃん側からしたら何でもって言ったのに……ってなってしまい、いつかご褒美の要求がだんだんと弱くなってしまう可能性もありうる。

 

 それなら、最初から境界線を示した方が、凜ちゃんも遠慮なくご褒美を要求できるはずだ。

 

「あ、う、うん!」

 

 凜ちゃんは余程私のメイドになることが嬉しいようで、弾むような声で元気よく返事をする。

 

 瞳はやる気に満ちていて、燃え盛る炎が映し出されているようだった。

 

 私の予想した展開と全く別方向の展開になってしまい、困惑したものの、凜ちゃんの嬉しさ滲み出る溢れんばかりの笑顔を見て、これで良かったのかな、と思う私なのであった。

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