「今週の日曜日、楽しみね。あんたを三回叩きつぶせば、白雪先輩とパートナーになれるなんて、はは! 今だけは、あんたが白雪先輩のパートナーでいてくれたことに感謝しなきゃね」
訓練開始前、立花さんは勝ち誇った笑みを浮かべながら、皮肉交じりに私にそう言い放った。
先ほど、雫さんから、『今週の日曜日、午前十時に一回目の模擬戦を行う』と、端末に連絡が届いていた。
「ずいぶんと余裕なんですね。立花さん」
静かな声音でそう告げる師匠。
鋭い視線を立花さんへ向けるもしかし、その視線を真正面から受けてもなお、立花さんは眉一つ動かさず、不敵な笑みを崩さなかった。
「そりゃあね。こんな雑魚に『天才』であるあたしが負けるはずないもの。あ~あ。早くこの茶番終わらないかな~」
どこまでも自信に満ちた、傲慢な態度。けれど、師匠はそんな立花さんを前にしても表情を変えなかった。
ただ静かに、そして、断言するかのように立花さんに告げる。
「立花さん。あなた絶対、神崎さんに足元をすくわれますよ」
立花さんは私の両隣に立つ凜ちゃんと師匠を交互に見やり、露骨に眉をひそめてため息をつく。
「ほんっと、『凡人』って天才様にやたらと噛み付いてくるのよね。あたしからすれば、負け犬の遠吠えにしか聞こえないんだけど」
肩をすくめて嘲笑すると、立花さんは私へ視線を向けた。
「それじゃあね、神崎光。日曜日に会いましょう」
立花さんはひらひらと手を振りながら、踵を返す。
その場にいた生徒たちは無言のまま左右へと身を寄せ、まるで道を譲るように立花さんの進路を開けていく。立花さんはそれを当然のことのように悠然と歩き去り、やがてその背中は人混みの向こうへと消えていった。
「神崎さん。絶対に立花さんの鼻をあかしてやりましょう」
師匠の口調は穏やかだったが、その声には立花さんの傲慢さを打ち砕こうとする揺るぎない意志が込められていた。
――日曜日、最初の模擬戦が始まる。
胸の奥で緊張がじわりと広がる。三回の内、一度でも勝たなければ、雫さんのパートナーは立花さんになってしまう。
正直、勝てる可能性は限りなく低い。それこそ『奇跡』でも起こらない限り、立花さんに勝つことなんてできないと思う。
それでも、雫さんは私が『奇跡』を起こせると信じてくれている。私なら勝てると、迷いなく信じてくれている。
なら、私はその雫さんの想いを信じるだけだ。
それに、もう賽は投げられた。今さら逃げるなんて出来ない。そんな選択肢はない。
私に残された道は、前へ進むことだけ。
――やるしかない!
私はぎゅっと拳を握り締め、来たる決戦へ向けて静かに覚悟を決めた。
*
「「キズナリンク!」」
二人の少女は、胸元へ手を当てるようにして、その言葉を同時に口にした瞬間――。二人の右手に嵌められたブレスレットから、眩い黄金の光が溢れ出す。光を放ったブレスレットは、まるで無数のリボンへと姿を変えるように長く伸び、二人の手首から全身へと絡みついていく。
そして、画面は一人目の銀色の髪をなびかせる少女へ。
全身を包むのは、白を基調としたフリルたっぷりのお姫様を思わせる衣装。動きやすさを考慮した手袋を両手に嵌め、足元には白いパンプス。
胸元には大きなリボンが結ばれ、その中央では赤いハート型のクリスタルがきらめいていた。
きつねのキャラクターが少女の目の前に来た途端、光に輝き、その姿を一本の白い魔法の杖へと変えた。
少女はその杖を手に取ると、まっすぐ前へ掲げる。
「希望の光で未来を照らす! キズナホワイト!」
決め台詞とともに、光が少女の背後で大きく弾けた。
続いて、画面はもう一人の少女へ。
衣装は先程の少女と同じで、違うのはカラーリングだけ。
衣装のすべてを漆黒で統一し、胸元のリボンに輝くクリスタルも、深い色合いを帯びている。
傍らにいたおおかみのキャラクターが光に包まれると、こちらも一本の魔法の杖へと姿を変えた。少女は黒い魔法の杖を手に取ると、
「闇を越えて未来を守る! キズナブラック!」
決め台詞と共に、先程の少女と同じように光が弾けた。
変身が終わり、二人の少女が並び立つ。二人はそれぞれの魔法の杖を前方へ突き出し、声を揃えた。
「「魔法少女キズナ!」」
爆発のようなエフェクトが二人の後ろにバーンと弾けた。
「「おおっ!」」
私と凜ちゃんは二人揃って、テレビの前で感嘆を漏らしていた。
今日は立花さんとの一回目の模擬戦。
私は朝、目を覚ましてからというもの、ずっとそわそわしており、「勝てるのかな……」と弱音を吐き続けていた。
そんな私を見かねた凜ちゃんは、少しでも気分を紛らわせようと、毎週日曜日に放送されている『魔法少女キズナ』を一緒に見ようと提案してきた。
私はその気遣いにありがたく甘んじ、私たちは二人並んで魔法少女キズナを見ることにした。
最初こそ、模擬戦のことや弱気な考えばかりが、頭の中をぐるぐると巡っていた。 けれど、アニメが後半へ差しかかるにつれて、そんなことも次第に頭から離れていき、気づけば、私はアニメに夢中になっていた。
今の場面は、怒りや苛立ちといった負の感情を持った一人のサラリーマンが悪の組織――ネガティアによって、その感情を肥大化させられ、醜悪な怪物へと変貌させられていた。
怪物と化したサラリーマンは、怒りに任せて街を破壊しながら暴れ回っていたところを二人の魔法少女が登場。
二人は息の合った動きで怪物の攻撃をかわし、魔法と格闘術を織り交ぜながら、怪物を追い詰めていく。
「いくよ! ブラックちゃん!」
「うん! ホワイトちゃん!」
二人は背中合わせになると、それぞれの魔法のステッキを怪物へ向けて掲げ――。
「「心を一つに!」」
その掛け声と共に、二人の杖から別々の魔法陣が浮かびがる。そして、その二つの魔法陣が重なって、一つの大きな魔法陣へと成り変わる。
「「キズナ・ハーモニー!!」」
二人は息ぴったりに必殺技を叫ぶと同時に、巨大な魔法陣から、眩い光の奔流が放たれた。
「ぐわあああああああ!!!」
光に飲み込まれた怪物が断末魔の叫び声を上げると、激しい爆発が巻き起こり、辺り一面を白い煙が包み込む。
「「心と心をつなぐ力――それが、本当の魔法」」
二人が決めポーズを取った、その直後。ゆっくりと煙が晴れていく。
そこに倒れていたのは、先ほどまでの怪物ではなかった。
そこにいたのは、何事もなかったかのように元のスーツ姿へと戻った、一人のサラリーマンだった。
怪物を生み出したネガティアの怪人は、その姿を確認すると、悔しそうに歯噛みしながら、その場から逃げ去っていった。やがて、地面に倒れていたサラリーマンがゆっくりと目を覚ます。その表情はとても晴れやかで、清々しさがあった。
こうして、魔法少女たちは一人の心を救い、そこからエピローグに入って、魔法少女キズナはエンディングを迎えた。
「ご、ご主人様! こ、今週も凄かったですね!」
「うん! 心を一つに!」
「「キズナ・ハーモニー!!」」
私と凜ちゃんは、先ほどの必殺技の決め台詞を息ぴったりに口にすると、顔を見合わせて笑い合った。
魔法少女キズナを見る前までは、弱音ばかり吐いていた私だったけど、今はそんなことはなかった。
魔法少女たちの怪物と戦う勇姿を見て、私は勇気をもらっていた。
少女たちは小学六年生。例えアニメの中の存在だとしてもだけど、そんな幼い子が恐怖や苦しさに弱音を吐くことなく怪物に立ち向かう姿を見て、弱音を吐く自分が情けなく思えた。
「凜ちゃん。ありがとう」
私はそんな気持ちを胸に抱えながら、隣にいた凜ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「ふぇ!? ご、ご主人様!」
突然抱きつかれた凜ちゃんは、何が何だか分からないといった様子で、慌てふためく。
「凜ちゃんが、一緒に魔法少女キズナを見ようって言ってくれなかったら……たぶん私、模擬戦までずっと緊張して、弱音ばかり吐いてたと思う。だから、ありがとう」
私は腕に少しだけ力を込めて、感謝の想いを込めて優しく凜ちゃんの頭をなでなでする。
「ご、ご主人様。えへへ~」
私のなでなでに凜ちゃんは脱力し、ご執心になっていた。部屋から出る少しの時間まで、私は凜ちゃんを撫でまわしたのであった。
*
「さてと、ちゃちゃっと終わらせますか~」
立花さんは余裕たっぷりの笑みを浮かべたまま、軽く伸びをする。そして、私を一瞥すると、まるで道端に転がる石ころでも見るかのように、鼻で笑った。
「はは、おもしろ。この茶番でしか戦いに真面目な顔して挑むなんてね。そんなにずるして白雪先輩のパートナーになった座に縋りたいの? 現実見た方がいいよ。あんたみたいな『凡人』には、過ぎた場所だってことをね」
「私はずるして雫さんとパートナーになってない! ちゃんと正々堂々と戦って、パートナーになったんだよ!」
立花さんに何を言ったところで、きっと信じてもらえない。そんなことは分かっている。
それでも――それでも、否定せずにはいられなかった。
雫さんとのパートナーが、ズルをして手に入れたものだなんて。私が何もせず、誰かに与えてもらったものだなんて。
そんなふうにだけは、思われたくなかった。
「ほんっとに、筋金入りの意固地ね。まあ、いいけど。どうせ? この三回の模擬戦で、全てが決まることだし。さてと、白雪先輩。試合開始の合図をお願いします」
「私も、お願いします!」
「わかったわ。じゃあ、二人共準備は良い?」
「「はい!」」
私たちは返事と同時に刀を抜く。雫さんは私たちから距離を取り、守護君へ開始の合図を促した。
タイマーが作動すると、私はいつものように深く息を吸い、意識を研ぎ澄ます。
因みに、グラウンドには観客(特に一年生が多く占める)がいる。
雫さんからの連絡を受けたその日に、私たちは大衆の面前で言い合いをしていたため、その噂が広まったのだろう。二人の決着を見届けようと、多くの生徒が足を運んでいた。
誰一人として立花さんを応援する者はおらず、私の応援のみが飛び交う。ただ、全員が私の味方とかじゃなく、中には鋭い視線を私へ向け、まるで実力を値踏みするかの如く見つめる者達もいた。
雫さんとのパートナーとなった私だが、一部生徒の中には、立花さんと同様に「何か裏で手を回したのではないか?」そんな根も葉もない風の噂を耳にした。
とりわけ一年生は、訓練で私の実力を知っている。だからこそ、「あの実力で、どうして雫さんのパートナーになれたのか」と、強い疑念を抱いているのだ。
私が立花さんのように高い実力の持ち主なら、こんな疑念に晒されることもなかったのに。と立花さんの強さに嫉妬してしまう自分がいた。
立花さんは性格はあれだが、実力は本物だ。模擬戦を見ていたが、他の追随を許さず、立花さんとの戦った皆、もれなく全員が敗北している。それも、一瞬で。
ただし、立花さんに口答え(私は例外)した生徒だけは、その限りではない。そういう相手に対して、彼女はすぐには決着をつけない。
わざと時間をかけ、徹底的にいたぶる戦い方をする。
そのせいで、立花さんの存在自体がトラウマになる生徒も私は少なからずこの目で見てきた。
立花さんにとって、この戦いは茶番も同然だ。それは言動からも明らかだ。おそらくだが。いたぶることはせず、すぐにケリをつけてくるはず。
ゆえに―—最初から本気で私を叩きつぶしに来る。
ぶううううううううう――ッ!!
開始を告げるブザーが、グラウンドいっぱいに響き渡った
「ふんっ!」
ブザーと共に駆けだした立花さんは、”ただ叩き潰す”、その一念だけを込めたかのような刃を私へと振るう。
本気の立花さんの刃は鋭く、速く、達人の如き洗練された一太刀。それは見惚れる程に美しい太刀筋。
でも、その奥には、触れた者を焼き尽くさんとするほどに猛烈な気迫が渦巻いていた。
私はその一太刀を受け流すため、さらに意識を研ぎ澄ませていく。雫さんから教わった通りに身体を動かし、刃の軌道を見極めながら、
私の刀へ、立花さんの刃がぶつかる―—その瞬間。
「ふふっ」
引き延ばされた時間の中で、立花さんが小さく笑った。
浅はかだと、短慮だと馬鹿にしたような含み笑い。それを私は如実に感じ取っていた。
「!?」
立花さんは腰を捻り、そのまま身体を回転させた勢いのまま、私の脇腹辺りを目掛けて刀を薙ぐ。
急激な軌道変更に私は咄嗟の判断で、後ろへと大きく跳躍。
「ぐっ……!」
右脇腹に焼けつくような熱が走り私は苦悶の声を漏らす。振り切られた立花さんの刀身の先には、私の血が細く赤い筋を描いていた。
回避することだけを先行した私の稚拙な跳躍は、立花さんにとっては絶好の隙であるらしく、すぐさま私との間合いを詰めると、刀を
跳躍の最中であり、さらに先程の一撃で生じた熱に意識を奪われ、冷静な判断ができない私は、その微かな動きに焦り、過度に反応。無意識のうちに刀を身体の前へと構え、それを盾にするように防御態勢へ移る私。しかし、それが致命的だった。
立花さんの口端が、にやりと吊り上がった。
私が刀を盾にした、その瞬間。立花さんは、私の刀とは真逆の方向へ刃を振り抜いた。
立花さんの微かに動かした刀は、私に防御を誘導させるための罠だったのだ。
しまっ!?
それに気づいたときには時すでに遅し。私はただ、迫り来る刃の行く末を見届けることしか出来ない。
立花さんの刃の軌道上は、私の左腰辺りから身体を横切るように一直線へと走っている。
私の身体は上半身と下半身に真っ二つに分かれる、そんな未来が訪れる―—はずだった。
不意に私の視界に現れたのはアーム。それは立花さんの振るう刀へと迫り――。
カーンッ!
その甲高い金属音は戦いの終わりの合図であった。
守護君に刀を受け止められた立花さんはその瞬間から刀に宿した闘志を消失させた。
そして、こちらを見て不敵に笑みを浮かべ、嘲笑する。
「ショウシャ! タチバナホムラ!」
守護君の叫んだ勝利の名は、静けさが広がる訓練所内に大きく轟かせたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あっけなかった。
何もできなかった。
無力だった。
私の胸中を満たしているのは、そんな言葉ばかりだった。
せっかく新しく教わった受け流しの技術も、活かすことすらできなかった。試すこともできず、ただ一方的に
敗北。
敗北、敗北、敗北、敗北……。
「はは! あと二回……あと二回、あんたを叩きつぶせば、白雪先輩とパートナーに! ああ! 今から待ち遠しい!」
そんな私とは対照的に、立花さんは勝利の余韻に酔いしれていた。
心ここにあらずの私をよそに、立花さんはわざわざ目の前でピースを作るように二本の指を立てて、私の残りライフを視覚的に認識させてくる。
恍惚とした表情を浮かべる立花さんの姿は、これから手に入るものへ恋い焦がれる少女そのものだった。
立花さんは私に目もくれることなく、背を向けると、一歩前へと足を踏み出す。その足が向かう先にいるのは、彼女が待ち焦がれている人――すなわち、雫さんだった。
「白雪先輩。待っていてください。もうすぐ、あたしがあなたの隣に立ちますから」
立花さんは快活の良い声色で、雫さんにそう告げると訓練所から姿を消した。
後……二回。
それまでに、私は立花さんに勝たなければならない。勝たないといけない。そうでなければ、雫さんとのパートナーが……。
私の、憧れが……。
ううん。まだ二回ある。それまでに死に物狂いで努力して頑張れば、まだ勝てる可能性がある。
そうだ。
まだ、すべてが終わったわけじゃない。あと二回。その二回のうちに勝てれば、それで――。
「光ちゃん。お疲れ様、よく頑張ったね」
雫さんが、我が子を褒めるように私の頭を優しく撫でる。その手のひらは温かいのに、私の胸の奥はどんどん冷たさが増すばかりであった。
この温かな手も。
その優しい眼差しも。
その慈しみの笑顔も。
あと二回。
その二回の内に私が勝てなければ、全部が全部、立花さんのものに、立花さんだけのものになってしまう。
雫さんの隣に立つのも。
雫さんから向けられる、この温もりも。
そして――私の憧れも。
立花さんに全てを奪われる。奪われてしまう。そう思うと、胸が締めつけられるようだった。
――怖い。
今こうして感じている雫さんの温もりが、逆に失った後の未来を、あまりにも鮮明に想像させてしまう。
ううん! ダメ! 弱気になるな私! 大丈夫、大丈夫。後、二回ある。それまでに立花さんに勝てれば万事解決! それに、雫さんは私が勝つと信じてくれている。
雫さんが私を信じてくれるのなら私も……私も雫さんが信じてくれた私を信じる。
そうだ……信じればいい。
「雫さん。すみません、不甲斐ない結果に終わってしまって……」
「ううん。光ちゃんはよくやったよ。私から学んだ受け流しの技術を活かそうとしてたし」
「でも、それも結局、何も意味を為せませんでした」
雫さんからせっかく学んだ受け流しの技術も空振りに終わり、結局私は何一つとして学んだことを活かせないまま、戦いを終えてしまった。
「光ちゃんはちゃんと受け流しをやろうとしていた。学んだ技術を戦いに活かそうとしていた。それだけで充分意味はあった。ちゃんと成長してる証だよ」
結果だけを見れば、私はあの戦いで何もできなかった。けれど、雫さんは結果だけを見ることはしなかった。
できるようになろうとしたこと。
学んだ技術を、実際の戦いで活かそうとしたこと。
そんな小さな変化を一つひとつ拾い上げて、あの戦いにもちゃんと意味があったのだと、雫さんは優しく言葉を紡いでくれる。
それは、何もできなかった私でも、確かに前へ進んでいるのだと教えてくれるような、温かい言葉だった。
「光ちゃんはよく頑張ったよ。上出来なんて言葉じゃ足りないくらい、上出来だよ。だから……だからね。不甲斐ないなんて思わないで。ちゃんと意味のある戦いだったんだから」
「……雫さん」
私の頭を優しく撫でる雫さんの手をそっと両手で包み込む。
「私、もっと強くなりたいです!」
私の意気込みに雫さんは快活よく大きく頷く。
「うん。その意気だよ光ちゃん。大丈夫、私も光ちゃんをもっともっと強くさせるために協力するから。頑張ろう!」
雫さんは撫でてないもう片方の手でぎゅっと拳を作ると私の前へ突き出してきた。
「はい!」
私も同じように拳を握り、差し出された雫さんの拳へ、コツンと自分の拳を重ねた。
戦いには負けてしまった。けれど、あの戦いの中で私は確かに一歩前へ進むことができた。受け流しを実戦で試し、学んだことを活かそうとした。その小さな一歩を、雫さんは「成長の証」だと言ってくれた。
負けたことだけではなく、そこに至るまでの過程にも意味があり、そう思えること自体が、私にとっては大きな進歩だった。
こうして、立花さんとの一回目の模擬戦は幕を閉じたのであった。