【百合】ゴーストバスターズ~憧れ目指して今日も頑張ります!~ 作:空空空空
「はーい! ではスタート!」
西園寺先輩の掛け声とともに私はサイコロを振るった。
出た目は六。
「お~。初っ端から高い数字だね~」
反町先輩が出た目の大きさに感心を漏らしている間に、私は可愛い狼がデザインされた小さな消しゴムを動かす。
「えっと、何々……『お互いに見つめ合いながら愛してるって言う』って、えええ!!?」
「これは、また……」
私が内容に驚く傍ら、雫さんは頭が痛そうに額に手を添えて首を振る。
「はい、じゃあ。二人共、見つめ合ってね~」
西園寺先輩は既にスマホを構えており、準備万端な様子。雫さんは覚悟が決まったのか、私の方へと身体ごと向ける。
雫さんはいつも通りの表情に見えるが、心なしか頬が少し紅潮していた。
「ひ、光ちゃん。早く、恥ずかしいから」
「は、はい……」
あまりお待たせするのは、雫さんにも申し訳ないのと、早くこの地獄から脱したいと言う想いが強くあったため、無理やりにでも覚悟を決めて、雫さんに向き直る。
正面切って雫さんと目を合わせるのが気恥ずかしくて、思わず、私は目をそらしてしまう。
「神崎さん。ちゃんと目を合わせてね」
「……は、い」
私は一生懸命に視線を雫さんの双眸に合わせる。雫さんはこの恥ずかしい雰囲気に、少しずつ心が侵食していってるのか、顔はどんどんと赤みが増えて、瞳はうるうると潤んでいた。
「はい、じゃあ。雫ちゃんから言ってみようか」
西園寺先輩はこの妖艶な雰囲気に似つかわしくない程の楽し気な声色で割って入る。
雫さんは一度大きく深呼吸をして心の準備をすると、きりっとした視線で私を見つめると、口をゆっくりと開いていく。
「光ちゃん――愛してる」
「きゅんっ!」
憧れの人からの愛してるの破壊力に私は胸を撃ち抜かれたような衝撃が走り、思わず、自分でもおっかなびっくりの声を上げてしまっていた。
けれど、そんな声を上げたことなんてどうでもいいくらいに、私の心臓がドクドクと早く脈打っていた。
「はい、じゃあ。次、神崎さん。言ってみようか!」
まだまだドキドキが収まらない中で、雫さんに愛してると言うのはハードルが高すぎる。正直、心臓が破裂するのでは? と思うほどに心臓がばくばくと高鳴っていた。
私は心臓に手を当てて、目を閉じて大きく深呼吸をしてからに、雫さんと視線を合わせる。
「し、雫さん――あ、あ……」
私は覚悟を決めて、
「あ、愛してましゅ! あ……っ~」
覚悟を決めすぎた余り勢いまかせて言った結果、最後の最後で噛んでしまい、恥ずかしさの極みへと達してしまった。
「くすっ」
恥ずかしさで悶えていると、不意に笑い声が聞こえた。声の方へと向けると、雫さんが口元に手を当ててにこやかに笑っていた。
「ああ、光ちゃんごめんね。別に噛んだから笑ったわけじゃなくて、一生懸命で健気な姿が可愛くって」
雫さんは私が視線を向けた瞬間に、両手を横に振り、今の理由を私に伝えた。
「そ、そうですか。え、えへへ」
あれだけ恥ずかしかったのに雫さんから可愛いって言われて、私を纏う恥ずかしい熱は、嬉しさの熱へと変わっていた。
愛してるもそうだけど、憧れの人から直接面と向かって可愛いなどと言われるのは、やっぱり嬉しい。
「お、その照れ笑い可愛いよ」
「!?」
完全に雫さんだけに意識が集中していたから、他三人のことがいることをすっかり忘れていた。しかも、西園寺先輩にこのやり取りも動画に収められているため、せっかく嬉しい熱に変わったのが、再び恥ずかしさの熱に変わり、私はそれを誤魔化すために、皿にあるバタークッキーをぱくぱくと食べ、甘味に
「よしよし、じゃあ、次。渚ちゃんたちの番、行ってみよー!」
西園寺先輩はいい映像が撮れた満足感に溢れるように、快活の良い明るい声で反町先輩たちにサイコロを促す。
「はーい! いくよ~、それ!」
反町先輩は楽し気にサイコロを振ると、出た目は三。反町先輩は、ひつじの消しゴムを手に持ち、「一、ニ、三」と数を数えながらマスを移動させた。
「えっと、何々~『パートナーと一緒に飲み物を飲もう』だって」
「はい、というわけで、ちょっと準備してくるから待っててね」
西園寺先輩はキッチンへと赴き、冷蔵庫から二リットルのオレンジジュースとガラスのコップを持ってくると、そのままカバンの中身を漁り、一本のストローを取り出した。
そのストローは特殊な形をしており、真ん中にハート形を作り、そこから枝分かれして、二つの吸い口がある。
それぞれの吸い口に口を付けたら、キスをする寸前のような、顔と顔が至近距離で対面することが容易く想像させる。
オレンジジュースをガラスのコップに注ぎ、そのストローを入れた西園寺先輩は、楽しそうに一つ手を叩く。
「じゃあ、二人共、ストローに口付けて」
「はーい!」
反町先輩は明るく弾んだ声で返事すると、躊躇することなく一つのストローに口を付けた。しかし、対照的に臼井先輩は、苦虫を噛みつぶすような表情を晒したまま、動こうとしない。
「もう~はーちゃん固まってないで、ストローに口を付けて」
「……ん。嫌。絶対に嫌! だってストローに口を付けたら、渚の顔が、その……」
臼井先輩はストローを口を付けたときの想像をして、いつもの無表情の臼井先輩の頬は赤くなりながら、正座する股の間に両手を差し込み擦り合う。
「私の顔がいくら可愛いからって、そんな照れなくても~」
反町先輩は後頭部に手をやり、照れ照れとする。自信過剰ともいえる言葉をあたかも、臼井先輩が言ったように付け加えて。
「ん。渚のキモイ顔を至近距離で眺めるなんて苦行、私にはとても……」
「ひど!? はーちゃん、それはいくらなんでも女の子に言っていい言葉じゃないよ! 私、泣いちゃうよ!」
「ん。泣かれるのは困る。もっと気持ち悪い顔を拝まないといけないから。それなら、今のままで我慢する」
「はーちゃん! ちょっとはオブラートに包もうよ! いや、オブラートに包まれても、悲しいものは悲しいけど。それでも直接言われるよりかは、まだ、ちょっと、ううん、ほ~んの少しだけでも、マシだよ!」
反町先輩は人差し指と親指で視覚的にほんの少しを推量して、訴える。その態度に、臼井先輩はやれやれと言ったような呆れつつも、ストローに口を付けた。
「ん。ほら、早く渚。ちゃっちゃと終わらせよう」
「さっさとしてみたいな言い方だけど、はーちゃんが躊躇したせいだからね!」
「ん。もう言い訳はいいから、早くして」
「むう~わかったよ」
反町先輩はふてくされながらも、ストローに口を付けた。二人の顔は至近距離にあり、こちらまで恥ずかしくなってきて、私は「あわわわ……!」と両手で目を隠した。
しかし、気になるから、指の隙間を空けてのぞき見をする。
反町先輩は臆することなくにこにことして、臼井先輩の表情を見ているが、臼井先輩はというと、頬は紅潮して、若干の鼻息が荒く、目を固く閉じていた。
「あ、ちなみに、ちゃんと目を開けて飲まないと、オレンジジュースを継ぎ足していくから」
「ん!?」
西園寺先輩の新たな追加条件に、臼井先輩は驚くように目を開けて、何故か西園寺先輩ではなく反町先輩の方に向かって怨念の籠った瞳で恨めしそうに、いや、殺意すらも籠った瞳で射抜く。
反町先輩はそんな瞳にも臆することなく、ずっとにこにこしたままだ。
二人は互いに見つめ合ったまま一生懸命にオレンジジュースを飲んでいく。臼井先輩はドキドキから時間が経つにつれ、目がガンギマリになり、鼻息も凄く、反町先輩の前髪が激しく靡いていた。
反町先輩はこの時間が長く続けるためか、臼井先輩の表情をもっと見ていたいのか、真意は分からないけども、途中からオレンジジュースを飲むのを放棄して、臼井先輩の表情を楽し気に観察。
臼井先輩はそんなことも知らずに、というか、自分のことで精いっぱいで反町先輩を冷静に観察することも出来ずに、一生懸命にオレンジジュースを飲み干していった。
「っぷは! はあ、はあ、はあ」
臼井先輩はオレンジジュースを飲み切ると、一目散に口からストローを離す。まるで、長い事水の中にいたように、額や服が汗ばんでいて、荒い呼吸を繰り返す。
「もう~。はーちゃんったら、ちょっとばかり顔を至近距離で眺め合うだけなのに、大げさだよ~」
「ん。お前がおかしいんだよ。どうして、そんな平然としていられる?」
「うん? どうしてって言われも平気なものは平気だから」
「ん。お前に訊いた私がバカだった」
臼井先輩は落胆したように肩を落とす。
「さてさて、続き入ってみよう!」
息つく間もなく、西園寺先輩は楽しそうに声を弾ませ、すごろくの続きを促した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――そうして、あれこれと騒ぎ続けること二時間。ついにすごろくの決着がついた。
「ご、ゴール……」
私は駒をゴールに置くと、力なくゴール宣言をした。ゴールと書かれたマスには、狼の消しゴムと羊の消しゴムが並んでいた。
「二人共、ゴールおめでとう!」
パンっとクラッカーを鳴らす西園寺先輩。私と雫さんはゴールできた達成感よりも、すごろくによる心の疲弊が襲い掛かり、息も絶え絶えであった。
「ん」
私たちがゴールしてからに、臼井先輩は私をぎゅっと抱きしめる。それは、心の癒しを求めるかのように、力強く。
私は疲労困憊によりかける言葉すらも喉から出ずに、意識はずっとすごろくのことでぐるぐると回っていた。
「ん。これで神崎さんはずっと私の抱き枕。もふもふ~」
そう言えば、負けたら勝った人の言うことを一つ何でも聞くという条件だったのを今思い出した。
負けてしまったことにより、私は一生抱き枕に。しかし、私が悲しいのは負けたことの条件ではなく……、
「うう……バタークッキー。ショートケーキ」
すごろくで負けたことにより反町先輩の手作りお菓子が食べられなくなってしまったことの悲しさでいっぱいだった。
「神崎さん。落ち込まないで、別に勝っても負けてもいつでも作ってあげるから」
「!? ほ、ほんとですか!?」
反町先輩の言葉に私は目を輝かせる。反町先輩は私の興奮した様子に微笑みながらうんうんと何度も頷く。
「その代わりに一つ条件がある」
「じょ、条件ですか? 私は負けた身なので、何なりとおっしゃってください。どんな罰で受けます」
「おお~それは良いころ掛けだね~。じゃあ、そうだな~」
反町先輩は顎に人差し指を添えながら、敗者の私に課す条件を考える。
「じゃあ、これから私のことは渚先輩って呼んで。代わりに私は神崎さんのことを、ひかりんって呼ぶから」
甘味に惑わされて、何でも受けると大言壮語を吐いてしまい、内心、後悔とどんな条件を課されるのかドキドキしていた。
反町先輩だし、何か凄い条件を課されるとひやひやしていたが、意外にもその条件は緩く、逆に身構えていた私は肩透かしを食らった気分だった。
「そ、それだけでいいんですか?」
「うん? もしかして、不服? 神崎さん意外とドM体質なのかな~。それならもっときつい条件でも……」
「あ、いえ! 全然不服じゃありません! えっと、じゃあそれでは、渚先輩って呼ばせていただきます!」
不穏な空気を察知した私はその条件を
「じゃあ、これからはひかりんって呼ぶね~」
渚先輩は続いて視線を雫さんの方へと向ける。いたずらっ子のような微笑みに雫さんは怪訝そうな表情を見せる。
「雫ちゃんは、ホラー映画を見て来てもらおうかな~」
渚先輩の言葉に雫さんは一気に青ざめる。
「な、渚……ど、どうしてよりにもよって、ホラーなのよ……もっと他にあるでしょ?」
「雫ちゃんは驚いたり怖がっているときこそ可愛いから。あ! 安心して。その時は私も一緒に見てあげるから」
「そういう問題じゃない!」
「ん。ホラー見た後は神崎さんと雫ちゃん二人っきりでお泊り。その時にホラーで負った心の傷を神崎さんによしよしして慰めてもらうといい」
「お~それはいいね。じゃあ私はホラー映画を見ること。はーちゃんはひかりんと雫ちゃんの二人きりのお泊りを希望と」
「ちょ、ちょっと勝手に話し進めないでよ!」
「残念ながら雫ちゃんの意思は関係ないよ。だって敗者は勝者の言うことを何でも一つ聞くって条件で勝負は始まったんだから」
「そ、それは、西園寺先輩が勝手に……」
「ん。でも、神崎さんはちゃんと敗者として私たちの条件を飲んでくれたよ? それなのに、雫ちゃんは逃げるの?」
臼井先輩の淡々とした理攻めに、雫さんは奥歯を噛み締め、「ぐぐぐ……」と唸り声を上げる。そして、無理やり言いたいことを飲み下すと、
「……わ、分かったわよ。その条件を飲もうじゃない」
と半ば投げやりに二人にそう言った。渚先輩は「じゃあ決まり」と高らかに声を上げる。
「え、私……雫さんとお泊り?」
雫さんが条件を飲んだということは、つまりはそう言うことである。展開が急すぎて、理解が頭に追いつけない。
雫さんとお泊り。それも二人っきりで、一夜を共にする。入学してから約ひと月ほどで、こんなにも急接近して私の内心は、嬉しさと喜びと困惑と驚きとで、ぐちゃぐちゃのごちゃまぜになっていた。
「ん? 嬉しくない?」
未だに私を抱きしめる臼井先輩は私の顔を覗き込みながら、首をかしげる。
「い、いえ嬉しいです。嬉しいですけど……なんかあまりにも急展開で現実味がなくて」
「ん。雫ちゃんのことよろしくね。ホラーで傷ついた心をしっかりと癒してあげて?」
「は、はい! 頑張って癒します」
「葉月ちゃん。光ちゃんに変なお願いしないでくれる? 光ちゃんも意気込まなくていいから。そもそも後輩にそんな癒しを求めることしないわよ」
雫さんはこちらをジト目で見つめながら、ため息を混じりに言葉を零す。その時に、私のポケットからスマホが震え、見ると凜ちゃんからだった。
『授業が終わって、お買い物して帰るから晩御飯何がいい?』 と連絡が。私は『お買い物いくなら私も一緒に行く!』と返すと、すぐさま凜ちゃんから返事が。
『じゃあ、寮のラウンジで集合でいい?』と聞かれたので、私は敬礼しながら、吹き出しにOKと書かれたとインコのスタンプを返す。
「私、凜ちゃんとお買い物する約束が出来たので、お暇しますね」
「……ダメ。もっと私にもふもふ堪能させて」
お暇を告げようとしたところ、臼井先輩は離さないとばかりにさらに強く抱きしめる。
「え、ええ!? そ、それは、えっと、また別の機会に」
「……葉月ちゃん。あんまり光ちゃんを困らせちゃだめだよ」
「む……しょうがない。また別の機会に堪能する」
と、臼井先輩は渋々ながらも私を解放する。
「いや~今日は良いのが撮れましたわ~。これをおかずに妹とのいちゃいちゃ妄想を、ぐへへ~」
西園寺先輩はぐへへとスマホの画面を見ながら嫌らしい笑みを浮かべる。今の発言を鑑みるに、西園寺先輩の真の目的は、私たちのパートナーの絆を深める為ではなく、ただ、いちゃいちゃする私達の動画を摂り、その様相を実の妹と重ねて妄想を捗らせるという、言うなれば、私利私欲にまみれた欲望の塊だった。
「奏さん……流石に軽蔑します」
雫さんの瞳からは痛々しい程の軽蔑を宿し、それを全面に西園寺先輩にぶつける。
「だだ、だって~。わ、私だってほのちゃんとこういったイチャイチャしたいんだよ? で、でも、ほのちゃん私につんつんだから。うう……どうして? 私はこんなにほのちゃんが好きなのに。うわーんんんん!!」
西園寺先輩はみっともなく、大声で泣き出した。どうやら学院で最強と謳われてる西園寺先輩の最大の弱点は妹の――西園寺穂花さんにあるらしい。
間接的に地雷を踏んでしまった雫さんは、いたたまれない表情でどうしたらいいか困惑していた。
「さ、西園寺先輩えっと、元気出してください!」
私はどうにかして西園寺先輩の心の傷を癒そうと、ほとんど無意識で頭をなでなでする。
「おお~ひかりんが学院のアイドルである奏さんの頭を撫でてる」
「ん。なんか新鮮かも」
二人の感想を聞いていた私は不意に我に返った。今現在私が頭を撫でてる人物は、皆から尊敬、羨望、果ては崇拝されている、学院のアイドルである西園寺先輩。
その事実が私の頭をよぎった瞬間、背中が急速に冷えたように悪寒が走る。
「す、すすす、すみません! 西園寺先輩をげ、元気づけようとしただけで、決して他意はなく……!」
「……もっとやって」
「へ?」
「もっとなでなでしでえええええ!!」
西園寺先輩は凄い雄叫びを上げながら私に抱き着いてきた。今までの私ならその勢いに押され、尻もちを着いていただろう。しかし、一ヶ月の鍛錬の成果により足腰や体幹が鍛えられ、バランスを崩さないでいた。
私は戸惑いながらも西園寺先輩の頭を撫でると、「うにゃ~」っと猫の鳴き声のような甘ったるい鳴き声を上げて、もっとして言わんばかりに私のお腹に頬ずりする。
「ひかりんのなでなでは奏先輩までも
「ん。流石神崎さん。奏先輩までも
「……光ちゃんのなでなでってそこまで気持ちいいの?」
「ん~? 雫ちゃんもひかりんのなでなでに興味深々? それならやってもらえば? ひかりんなら、喜んでやってくれるよ~?」
「っ! そんなことするわけないでしょ!」
「ん。それは分からない。ホラー見た後に傷心した雫ちゃんを癒そうと、神崎さんからなでなでされるかもしれない」
「……そうならないように頑張るわよ」
お三方が会話を繰り広げられている間にも私は一生懸命に西園寺先輩の頭を撫で続けていた。
「ぐーすかぴー」
「ん。奏先輩、寝ちゃった」
西園寺先輩は規則正しい寝息を立てながら、幸せそうな表情で熟睡していた。西園寺先輩の寝顔を眺められるのは至極恐悦の極みだが……
「私、動けないんですけど……」
「全く、この人はどういう情緒してるのやら。もう完全に子供じゃない」
雫さんは西園寺先輩の情緒の激しさに頭を抱えていた。西園寺先輩ってお姉さん的な包容力があり、テレビを見てた時に凄い落ち着いて、決して感情に振り回されないタイプだと思っていた。
それがどうか、今日の、いや、学院生活を通して西園寺先輩と出会って、それが一気に覆された。本当に同一人物か? そんな気さえするほどに、子供のように感性が豊かであった。
妹の西園寺穂花さんと比べると似ている部分はあるものの、その中身は全く正反対。
姉の方は無邪気な性格。妹の方は落ち着きがありしっかりした性格。という風に、全く正反対の性格だった。
言っちゃ悪いけど、今の西園寺先輩は姉というには似つかわしくなく、どっちかと言うと西園寺穂花さんの方が姉っぽさがある。
決して本人を前にして言えないけど。
「はい。これでひかりん動けるでしょ?」
西園寺先輩の寝顔を見ながら、ぼんやりと西園寺姉妹について考察していると、渚先輩が私を抱きしめる西園寺先輩の腕を解く。
そのまま、手際よく西園寺先輩をお姫様抱っこすると、ソファへと静かに置いた。
その様子をずっと見ていた私に渚先輩は小首を傾げて、リビングにある時計に指さす。
「ひかりん。水無月さんと待ち合わせしてるんでしょ? 早く行かなくていいの?」
「へ……わ!?」
渚先輩が差す時計を見ると、時刻は四時半を周ろうとしていた。凜ちゃんと連絡したのが、四時十五分くらいなので、もうとっくにラウンジで待っているはず。
私は慌てて立ち上がると、
「えっと、先輩方。今日は凄く楽しかったです!」
「うん。こっちも楽しかったよ」
「ん。私も楽しかった。また遊びたい」
「私もひかりんと遊べて楽しかったよ~」
一人を除き三者三葉、充実した時間を過ごせた満足感があったのか、そこには笑顔が溢れていた。
そうして、私は三人に見送られて、渚先輩の部屋を後にしたのであった。