いつの間にか彼女面が増えている件   作:怒飲焼

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第30話

アレルッキーノ……

 

心の中で声が聞こえる

 

起きて!アレルッキーノ!

 

「ッ……アッハ……」

 

周りには何もない

体の感覚もなく、フワフワと浮いている感じだ

 

(ライトハウスの時みたいなやつか……)

 

ご名答!さて、アレルッキーノ。今の君の状況は分かる?

 

「……あのクソ野郎……人を……」

 

思い出すのは黒いローブの男が人を弄んでいたこと

人を変質させ、意のままに操る肉塊へと変貌させていた

 

うん。それで君は今、その肉塊に埋もれてしまった

 

「早く……あいつを倒さないと…」

 

動きたいが、体の感覚すらないからどうすればいいか分からない

 

まぁまぁ落ち着きなって!今はそんなに焦らなくても大丈夫そうだからさ

 

「何言って……」

 

ほら!これみて!

 

ハジメの目の前に鏡のようなものが出てくる

そこには様々な色の肉塊の中から蟲の脚と木の根が無数に突き出て当たり構わず周囲に攻撃していた

黒ローブの男にも攻撃しており、黒ローブの男は何とか防いでいたが、所々怪我をしていた

 

君の中にいる繁殖と豊穣が暴れてるみたいだねぇ。彼も、結構君のこと舐めてたからこうなっちゃってるんだね

 

「放っておいたら……どうなるんだ?」

 

多分…豊穣と繁殖が混じった新しい運命が産まれるんじゃないかな。今の君は哲学の胎児足りうる存在だからね

 

「……ダメだ起きないと」

 

なんで?このままさせとけば、彼は倒せるよ?

 

たしかに鏡では無数の脚が黒いローブの男を貫き、木の根が締め付けている

そのままにさせとけば男を倒すという目的自体は達成されるだろう

だが、その後はどうなる?

ただでさえ推定貪欲と愉悦の赤ちゃんがいるというのに……

 

ちょちょちょ無理やり起きようとしないでよ!まだ話終わってないよ!

 

「……焦ったふりはもうやめろ。どうせ今もそこまで時間経ってないんだろ?」

 

………………

 

突如、声が聞こえなくなる

だが、逃げだけではなく、声を押し殺している感じだろつ

 

アハ…アハハハハハハッ!やっぱり君面白いね!気に入ったよ!

 

高らかに笑い始めるアッハ

姿は見えないが、腹を抱えて足をばたつかせているイメージが容易に想像できる

 

君は……本当にいいの?このままにしておけば勝手に倒してくれるんだよ?

 

「……それよりもその後どうにか出来ないことの方が大きいだろ」

 

……君、おかしいね。この前はメンタルボロボロになって彼女に泣きついてたのに、立ち直らなくても戦うし、今は知らない他人が弄ばれたことに怒ってる

 

アッハの言葉は、ハジメについての本質を突いていた

 

「ニュースでさ、人が死んだとか、事故が起きたとか……色々見るけど、みんな結局「ふ〜ん」って思って終わりになるだろ?」

 

日本で生きていた頃、幸運にも人の死に面することはなかった

ニュースで見る事件なんて、自分の生活に関わらないから印象にも残らないし、知らない他人が死んだってハジメだってそれで心を痛めたりはしない

どこまで行ったって他人だ

だが、目の前で、知っている所で死なれたら話は変わる

目の前で誰かが死んだらショッキングだろうし、トラウマになる

自分の知り得る出来事で死んだなら、自分が何か出来たんじゃないかと後悔する

 

「結局、知らない誰かでも、自分の前で、自分の見える範囲で死ぬのが許せないんだ。こんな自己中な理由だから見て見ぬふりしたかったけど……」

 

ハジメがこの世界で生きたことで、何処かの誰かの運命が変わったかもしれない

ハジメがいた事で黒ローブの男が殺した人達は死んでしまったかもしれない

今起きないで、暴走している繁殖と豊穣に任せたら、さらに人が死ぬかもしれない

 

「主人公みたいに誰かを助けたい!じゃなくて、自分の人生で、人を死なせたっていう汚点を作りたくないんだ」

 

だから昨日、男から人生を壊した恨みつらみを吐き出されても、今忘れてたんだ

あ〜こう言ってたな…くらいの軽い感覚になってしまう

 

良いんじゃない?それが君なら君のままでいいんだよ

 

「当たり障りのないこと言いやがって…」

 

だが、自分と向き合えた気がする

遠くから、誰かの視線を感じた

周囲が広がるような、遠くにいる誰か……宇宙が人の形を成しているような……アッハと目が合う

 

君に…愉悦の一瞥を…

 

何かが体の中に入り込んでくる

繁殖と豊穣が押さえつけられていくような……馴染んでいくような

 

ちょっと待って!?違う!見る方違うよ!ちょっ!?あの時分前没収したのまだ怒ってるの!?ねぇ!?

 

アッハが何故か慌てたような声音をしている

ハジメの中にある繁殖と豊穣が沈静化していく

 

ちょっと!?一瞥するのは私だよ!ねぇ!?聞いてる!?

 

人影がはっきりと見える

だがそれは、アッハではなく……

 

シペ!

 

調和の星神、シペの視線が、ハジメへと降り注いだ




哲学の胎児➞ハジメは運命を歩む行人ではなく、貪欲の神骸と倏忽の血肉を取り込んだだけ。愉悦が貪欲に食われて新たな運命ができかけてるならワンチャンハジメの中でも起きるのでは?
シペ➞即興芝居PVで貪欲呑み込もうとしてたらアッハに取り上げられてしょんぼりしてるシペから着想を得て一瞥ジャックを画策していた。ようやく成功してドヤ顔
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