「はぁ…ようやく…死んだか…」
黒いローブの男は傷だらけの体を引きずりながら壁に寄りかかる
最初の方はカナメを切りつけ、肉塊で圧死させたと思っていた矢先、暴走した繁殖と豊穣によってここまでの苦戦を強いられていた
だが、突如として脚や根が沈静化し、そのまま消えてしまった
死んだのだと決めつけ、黒いローブの男はその場を後にしようと踵を返す
(これでようやく…目的が達成された)
心の中でほくそ笑む
この世界には黒いローブの男が知る限りでは男とハジメ、そして14年前に男に唆され、死告魔に成り果てた愚かな男しかいない
他の星、他の宇宙にはいるだろうが、そんなことを言ったらキリがない
(もうルートは変えられない…ならせめて原作通りに……)
本来なら彼は自分の知識を使って色んなキャラを助けようと意気込んでいたが、転移してから気づいた
自分より先に転生をしていた人がいることを
そして、その男は姫子と仲良くなり、満願と恋仲にまでなっていた
「俺が主人公になるはずだったのに……なんであんな奴が……」
だが、邪魔なやつは殺した
もう干渉は無理だろうが、これで原作通りになるだろう
「悪は滅んだ…」
そう言いかけた時、後ろで何か妙な音がした
黒いローブの男が振り返る前に、伸びてきた木の根で男は縛られる
「なっ!?殺したはずだ!」
先程までのように暴れるのではなく、規則正しく黒いローブの男を縛り付ける木の根
ぐちゅぐちゅと言う音と共に肉塊達が掻き分けられていく
掻き分けていたのは蟲の脚
蟲の脚は地面に突き立てられ、肉塊の中から人影が出てくる
「はぁ……こう見るとキモイな」
体に着いた肉片を払い落としているのはハジメ
彼の背中からは6本の脚が生えており、足元には根が張られている
「お前、繫殖と豊穣があの程度で死ぬわけないだろ」
ハジメの胸の傷がジュクジュクと治り始める
「この…化け物め…」
「まぁ…あながち間違ってないかもな…ああ…そういやお前のおかげでこんなのゲットしたんだった。また化け物染みちまった」
ハジメの黒目が、調和特有の虹色になっている
その目を見ているだけで、頭がおかしくなりそうだ
「それは…調和…なんで…」
「シぺと目が合ってな。そんときにまぁ…便利な力を貰ったよ」
そう言いながらハジメは黒ローブの男に目を合わせる
その瞬間、黒ローブの男の中から何かが奪われる感覚が広がる
「やめろっ!何をする!」
「ちょっと揃えるだけさ。そんなのがあったら不公平だろ?」
ハジメが今しているのは「格」の調和
黒ローブの男の能力は恐らく上位権限のようなものだろう
上位権限があるから誰にも違和感を持たせず事象を捻じ曲げることが出来た
上位権限があるからただの一般人を死告魔に、人を肉塊にように弄べた
男の言っていた「格」とはまさにそのままの意味なのだろう
「なら、お前を引きずりおろせばいい」
その点で言えば、この男はとことん運が無かった
まさか、大昔にアッハに分け前を没収されたシぺが今の今まで一瞥を乗っ取ることを画策し、この大一番で成功させるなど誰にも予想はつかない
「やめろ…やめてくれ…」
「……断る」
黒ローブの男から虹色の光が漏れ出し、段々と消え失せていく
男はうわ言を呟きながら光のない目で何かを呟いている
ハジメはもう廃人同然の黒ローブの男を地面に落とし、背中から蟲の翅を生やす
空へと飛び立ち、向かう先は生研院
「待ってくれ!」
中では不死途の影を解放し、朽葉がアポリを捕食する直前だった
朽葉にはすまないが、影を大剣で断ち切り、すでに瀕死のアポリをキャッチする
「あら…随分また美味しそ…様変わりしたわね」
「おたく!危ないから早く離れろ!」
「いや…もう危険性はないはずです…後は…」
大剣に豊穣の根を絡ませ、根の外側に繫殖の蟲を思わせる顎のような刃物が追加される
その大剣をアポリの体に当てる
大剣が添えられた場所だけが分解され、そこから次々と貪欲が溢れ出てくる
その貪欲はいつの間にか真横にいた朽葉がぱくぱくと食べてくれている
そして、すべての貪欲が抜けたのを確認してから再構築、豊穣で体を癒す
「これなら…大丈夫なはず…」
アポリの胸に手を当てると、ゆっくりだが鼓動していることが分かる
息もしており、死ぬことはなさそうだ
ハジメは胸を撫でおろし、星や不死途たちもそれに気づいたのかハジメの背中を撫で、肩に手を置く
朽葉だけは少し不満そうだが…
「これで一件落着か…」
おめでとう…君の望んだ結末だよ
どこかで