前々からよう実の二次小説を書きたいと思って言いたのですが、何を書こうか決まらず先延ばしにしてしまっていました( ;∀;)
おおまかな構想ができたので勇気出して初投稿してみようと思います(^^)/
人には誰しも、この厄介な世の中を生き抜くための「武器」があると思う。
勉強ができる奴は知識を、腕っぷしが強い奴は暴力を、容姿がいい奴は生まれ持った華を。あるいは、親の権力や財力なんていう、生まれつきのチート武器を振り回す奴もいるだろう。
じゃあ、勉強も運動も平均点を少し上回る程度で、これといった特別な才能も背景もない俺――相良縁(さがらえにし)の武器は何かと言えば、それは『愛想笑いとちょっとした口八丁』だった。
「いやあ、すみませんお姉さん! ほら、俺たちみたいな育ち盛りの男子高校生が席を譲らないわけにはいかないでしょう、ってね」
「あら、ありがとう。最近の若い子にしては感心ねぇ」
四月一日の朝。東京都高度育成高等学校へと向かうバスの中は、新入生たちの緊張と、ちょっとしたトラブルで奇妙な熱気を帯びていた。ことの発端は、少し前に乗ってきた金髪の派手な男子生徒――たしか高円寺とかいったか――が、優先席にふんぞり返って老婦人に席を譲るのを拒否したことだった。見かねたOL風の女性が注意し、さらに同じ新入生の真面目そうな女子生徒や、なぜか気弱そうな別の女子生徒までが巻き込まれ、車内の空気は最悪のスタートを切ろうとしていた。
俺は優先席から少し離れた通路側に立っていたのだが、すぐ隣に座っていた体格のいい坊主頭の男子生徒の肩を「なあ、俺たちで譲ろうぜ? 初日から空気悪いの、なんか寝覚め悪いしさ」と小声でつつき、半ば強引に二人分の席を空けさせたのだ。 老婦人が笑顔で腰を下ろし、周囲の乗客たちから「いい子たちね」という温かい視線が注がれる。無理やり立たされた坊主頭の男子も、まんざらでもない様子で鼻の下をこすっていた。
(……ふぅ。とりあえず、これで朝から怒鳴り合いを見ずに済んだな)
俺はつり革を掴みながら、誰にも気づかれないように小さく息を吐いた。 別に、俺が聖人君子だから席を譲らせたわけじゃない。ただ単に、狭いバスの中で誰かが揉めたり、気まずい沈黙が流れたりするあの独特の『ピリついた空気』に耐えられないだけだ。
中学の頃からずっとこうだった。陽気な連中と大人しい連中の間に入り、不良っぽい生徒が凄めば冗談で茶化し、誰も角が立たないように双方の顔を立てて手打ちにする。おかげで「相良はノリがよくていい奴だ」「あいつに任せておけば丸く収まる」と重宝されてきたけれど、実際のところ、俺はただの臆病者のお調子者に過ぎない。
ふと視線を感じて窓際を見ると、少し離れた席に座っていた茶髪の男子生徒と、一瞬だけ目が合った。 感情の読めない、ひどく凪いだ瞳。先ほどの優先席の騒動の時も、興味があるのかないのか分からない様子でじっと成り行きを眺めていた生徒だ。 俺が条件反射で「よっ」と軽く愛想笑いを向けると、そいつは少しだけ目を瞬かせ、すぐに窓の外へと視線を逸らした。
(……なんだあいつ。なんか、妙に印象に残る目をしてたな)
そんな小さな引っかかりは、バスが巨大な校門をくぐり抜け、これから始まる三年間の学園生活の舞台が見えてきたことで、すぐに頭の中から吹き飛んでいった。
「いやー、しかし毎月十万ポイントってすごくない? 実質十万円でしょ? 俺、とりあえず寮の部屋に置く用のデカいテレビ買っちゃおうかな!」
「お、いいね相良! じゃあ俺は最新のゲーム機買うからさ、相良の部屋に持ち込んでみんなでウイイレやろうぜ!」
「おっ、柴田、それ採用! あ、でも負けたら罰ゲームでジュース奢りな?」
「望むところだっての! 俺、ゲームのサッカーでも負けねえからな!」
入学式を終えたあとの、一年Bクラスの教室。 俺たちの担任だと名乗った星之宮知恵先生が、まるで嵐のようにやってきて、そして嵐のように去っていった直後のことだった。
教室の中は、まさに蜂の巣をつついたようなお祭り騒ぎになっていた。 無理もない。この学校は全寮制で、三年間の外部との連絡や外出が制限される代わりに、敷地内にあるあらゆる施設――カフェ、レストラン、カラオケ、映画館、さらにはブランドショップに至るまで――を『プライベートポイント』という電子マネーで利用できるという。 しかも、そのポイントは一ポイント一円換算で、今月すでに全員の学生証端末へ『100,000ポイント』が振り込まれているというのだ。高校生にとって、毎月100,000円の小遣いが無条件で手に入るなど、夢の楽園以外の何物でもない。
俺の目の前で爽やかな笑顔を弾けさせているのは、自己紹介でサッカー部に入ると宣言していた柴田颯。隣では、別府や猪狩といった他の男子たちも「俺も混ぜろよ!」「まずはラーメン食いに行こうぜ!」と肩を組んで盛り上がっている。 俺はそんな男子グループの輪の中心に入り込み、入学からわずか一時間足らずで『Bクラスの陽気なムードメーカー』というポジションを完全に確立していた。
そして、教室のもうひとつの中心――いや、クラス全体の太陽として輝いているのが、教卓の近くで女子たちに囲まれている少女だった。
「柴田君たち、初日から盛り上がるのはいいけど、あんまり無駄遣いしすぎ
ちゃダメだからね? せっかく同じクラスになったんだし、まずは親睦を深めるために、みんなでケヤキモールにお茶しに行かない?」
ピンク色の長い髪を揺らし、パン、と手を叩いて提案したのは一之瀬帆波だ。 さっきの自己紹介でも、彼女は誰よりも明るく、ハキハキと「三年間、クラス全員で仲良く楽しく過ごしたいです!」と宣言して大きな拍手を浴びていた。嫌味がなくて、可愛くて、誰も仲間外れにしない圧倒的な求心力。彼女が声を上げた瞬間、教室の空気が一気に「いいね!」「行こう行こう!」とひとつにまとまったのが分かった。
「さすが一之瀬さん、言うことが違うね! ゲームはいつでもできるけど、初
日の打ち上げは今日しかできないもんな!」
俺がすかさず大きな声で合いの手を入れると、一之瀬は「でしょ?」と嬉しそうに笑った。 だが、四十人もいるクラスだ。全員が全員、そういうノリに諸手を挙げて賛成するわけじゃない。俺は笑顔を保ったまま、さりげなく教室の窓際へと視線を走らせた。 そこでは、先ほどの自己紹介で淡々と名前と目標だけを述べた切れ長の目の男子――神崎隆二が、少し居心地悪そうに腕を組んで座っていた。
「ほら、そこの神崎くんも難しい顔してないで、一緒に行こうぜ? せっかく
のBクラス最初のイベントなんだからさ」
「……俺は別に、無理に参加しなくてもいいんだが。そういう騒がしい場所はあまり得意じゃない」
「まあまあ、そう言わずにさ! 三年間同じ釜の飯を食う仲間なんだし、顔と名前くらいは一致させておいた方が絶対得だって。なんなら最初の一杯、俺が美味しいカフェラテでもご馳走するからさ!」
俺が神崎の机の横に歩み寄り、馴れ馴れしく肩をポンと叩いてウインクして
みせると、近くにいた一之瀬や網倉麻子たちも「そうだよ神崎君、一緒に行こうよ!」「少しだけでいいからさ!」と声を合わせた。 神崎は俺の貼り付けたような笑顔と、一之瀬たちの純粋な善意のプレッシャーを交互に見て、小さく観念したようなため息をついた。
「……分かった。少しだけなら付き合う。だが、奢られる謂れはない。自分の分は自分で出す」
「お、言ったな? じゃあ気が変わったら遠慮なくタカらせてもらうわ!」
俺が冗談めかして笑うと、周囲からドッと笑い声が上がった。神崎も呆れたような顔をしながら、それでも悪くない雰囲気で腰を上げる。 一之瀬が俺に向かって、ぱあっと花が開くような笑顔で「ありがとう、相良君!」と小さく手を振ってきた。俺も「どういたしまして!」と、自分でも惚れ惚れするような百点満点の愛想笑いを返した。
(……よし。これでとりあえず、クラスから孤立しそうな奴は出さずに済んだかな)
俺は胸を撫で下ろした。 神崎みたいなタイプは、最初に輪から外れると、あとから合流するきっかけを失ってそのままクラスの浮いた存在になりやすい。そうなれば、いつか必ずクラス内で意見の対立やギスギスした空気が生まれる。芽は最初に摘んでおくに限るのだ。
――だけど、俺の観察眼はもうひとり、この『全員参加のハッピーな空気』にうまく乗れていない生徒の姿を捉えていた。
廊下側の後ろの方の席。 セミロングの髪をした女子生徒――たしか自己紹介では『姫野ユキ』と名乗っていたはずだ。 彼女は近くの女子から「姫野さんも行こう!」と声をかけられ、「あ、うん……」と曖昧に頷いて立ち上がったものの、その横顔には隠しきれない疲労感と、『ああ、めんどくさいな』という心の声が字幕で見えそうなほどの微妙な表情が浮かんでいたのだ。
(……まあ、気持ちは分かるけどな)
四十人近い大所帯でゾロゾロと移動して、カフェを占拠して、当たり障りのない自己紹介の延長戦をやる。陽キャの連中にとっては天国でも、そうじゃない人間にとっては、笑顔を作って相槌を打ち続けるだけの苦行でしかない。 何を隠そう、この俺自身が、すでにちょっとだけ胃のあたりに重たいものを感じ始めていたからだ。
「あ、ごめんみんな! 俺、ちょっとトイレ寄ってから行くから、先にケヤキモールの入り口に向かってて!」
教室を出て階段を降りたところで、俺は柴田や一之瀬に適当な理由をつけて、集団からスッと距離を取った。「おう、遅れんなよ相良!」「入り口の噴水のところで待ってるねー!」という明るい声にひらひらと手を振り、俺は足早に廊下の角を曲がった。
トイレに行くというのは、半分嘘だ。 ただ単に、これから一時間以上も『ノリのいい相良君』を演じ続ける前に、ほんの一分だけ、誰の目もない場所で深呼吸をしておきたかっただけなのである。
本館の一階、階段裏にある少し薄暗い自販機コーナー。 ここまで来れば、新入生たちの賑やかな話し声も遠くの潮騒のようにしか聞こえない。俺は周囲に誰もいないことを確認すると、朝からずっと顔に貼り付けていた営業スマイルをようやく引っ込め、首をゴキゴキと鳴らしながら自販機の前に立った。
「……はぁーっ。初日から飛ばしすぎたな、俺。あー、頬っぺたの筋肉が痛い……」
素の、少し低くて気怠げな声でボヤきながら、ポケットから学生証を取り出して自販機のセンサーにかざそうとした、まさにその時だった。
「……へえ。あんたでも、そういう顔するんだ」
「――っ、うわあ!?」
背後から突然かけられた冷ややかな声に、俺は文字通りその場で十センチほど飛び上がった。 心臓が口から飛び出るかと思った。危うく学生証を取り落としそうになりながら慌てて振り返ると、自販機の横にある太い柱の陰――ちょうど死角になっていた場所に、ひとりの女子生徒がもたれかかるようにして立っていた。
セミロングの髪に、少し気怠げな、どこか冷めた目つき。 右手には、すでに封を開けたブラックの缶コーヒーが握られている。
「えっと……姫野、さん、だっけ?」
「そうだけど。……何よ、今の間の抜けた声。教室でみんなの輪の中心にいた時と、ずいぶん雰囲気が違うじゃない」
姫野ユキは、缶コーヒーをひと口飲むと、値踏みするようなジト目で俺を見つめてきた。 ヤバい。完全に油断していた。まさかこんな日陰の自販機コーナーに先客がいたなんて思わなかったし、よりによって『頬っぺたの筋肉が痛い』なんて情けない独り言まで、バッチリ聞かれてしまったらしい。
俺は反射的に背筋を伸ばし、いつもの人懐っこい笑みを瞬時に顔へと貼り付け直した。
「いやー、まいったな、恥ずかしいところ見られちゃったよ! ほら、入学初
日ってやっぱり知らず知らずのうちに緊張してるっていうかさ! ……って、
あれ? 姫野さんは、みんなと一緒にモールには行かないの?」
「……行かないわよ、あんなの。お腹が痛いって言って、途中で抜けてきたの」
姫野さんは悪びれる様子もなく、あっさりとサボり宣言をした。そして、俺が貼り付けた笑顔を胡散臭そうに見上げながら、小さく鼻を鳴らす。
「三十人以上でカフェに押しかけて、どうやって全員で話すっていうのよ。どうせ、一之瀬さんや柴田君みたいな声の大きい連中が盛り上がって、残りは愛想笑いして相槌打つだけで終わるに決まってるじゃない。あんなの、お茶会じゃなくてただの体力測定よ」
吐き捨てるような、けれどあまりにも的確すぎる言葉だった。 俺は思わず目を瞬かせ、それから、張り詰めていた肩の力がスッと抜けていくのを感じた。 なんだ。やっぱりこの子も、あの『全員仲良し』のキラキラした空気に、俺と同じでちょっと胃もたれを起こしていたんじゃないか。
そう気づいた瞬間、この相手にはいつものお調子者の仮面は必要ないな、と直感した。俺は貼り付けていた百点満点の笑顔を消し、苦笑いを浮かべてポリポリと自分の頬をかいた。
「……まあ、否定はしないかな。『体力測定』って表現は、ちょっと座布団一枚あげたいくらい的確だけど」
「でしょ? ……で、相良君だっけ。あんた、今の言い方だと、ほんとは行きたくなかったみたいに聞こえるけど。教室じゃ一番ノリノリで、神崎君まで無理やり引っ張り出してたじゃない」
「行きたくないわけじゃないよ。一之瀬さんは本当にいい人そうだし、柴田も裏表がなくていい奴だからね。ただ……まあ、ずっと全力で笑顔を作って場を回していると、たまにこうやってピットインして、顔の筋肉を休めたくなるっていうか」
俺が自嘲気味に白状すると、姫野さんは少しだけ意外そうに目を見開いた。
「変なの。そんなに疲れるなら、最初からあんなに愛想振りまかなきゃいいのに。神崎君みたいに、最初からそういうキャラで行けば楽でしょ」
「それができたら苦労しないっての。性分なんだよ、昔から。誰かが不機嫌になったり、クラスの中で浮いてる奴が出たりして、空気がピリつくのを見るのがどうにも苦手でさ。自分がピエロになって笑わせておけば、とりあえず平和になるなら安いもんだろ?」
誰にも言ったことのない本音が、なぜか初対面の彼女の前ではスラスラと口をついて出た。 言い終えてから、俺は「っと、いけない」と片目を閉じて、唇の前に人差し指を立ててみせた。
「あー、今の話はクラスの連中には内緒にしてくれると助かるんだけどな。初日から『実は裏で疲れてボヤいてました』なんてバレたら、俺の爽やか好青年としてのブランドに傷がつくからさ」
俺がおどけて頼み込むと、姫野さんは呆れたように大きなため息をついた。けれど、その少し不機嫌そうだった口元は、ほんのわずかだけ、面白そうに緩んでいた。
「別に、わざわざ言いふらすような趣味はないわよ。そもそも私、クラスでそんなゴシップを話すような友達もいないし」
「そっか。じゃあ、交渉成立だね。口止め料って言っちゃなんだけど、姫野さん、次になにか飲む時、俺が自販機で一本奢るよ。好きなの選んでいいからさ」
「……なにそれ。100,000ポイントも貰ったばっかりなのに、120円の缶ジュース一本で手を打とうなんて、ずいぶん安上がりな交渉ね」
「いやいや、こういうのは金額じゃなくて気持ちの問題だから! あんまり高いものを奢ると、今度は姫野さんの方が気を遣うでしょ?」
「……ふぅん。口ばっかり達者なんだから」
姫野さんはそう言って視線を逸らしたが、その声にはもう、最初の刺々しさは消えていた。 俺は自販機に学生証をかざし、自分の分の冷たい緑茶のペットボトルを買った。ピピッという電子音とともに、残高が『99,880 Pt』と表示される。
姫野さんは飲み干した空き缶をゴミ箱に放り込むと、俺の横を通り過ぎざまに、ぽつりと言った。
「……ま、あんたもせいぜい頑張りなさいよ、相良君。あの一之瀬さんのキラキラしたペースにずっと付き合うの、たぶん相当体力いるだろうから」
「はは、お手柔らかに願いたいね。姫野さんも、お腹の痛いの、早く治るといいね?」
「おかげさまで、もう治ったわよ。寮に帰ってゆっくり寝るから」
ひらひらと手を振って、寮の方角へと去っていく姫野さんの背中を見送りながら、俺は冷たい緑茶のペットボトルを自分の頬にぴたりと当てた。 少しだけ熱を持っていた顔の筋肉が、ひんやりと冷やされていくのが心地いい。
毎月十万ポイントが貰える、夢みたいな学校。一之瀬帆波を中心とした、誰も傷つかない仲良しこよしのBクラス。 ――だけど。
俺の脳裏には、さっき教室で担任の星之宮先生がポイントの説明をした時、一瞬だけ見せたあの『値踏みするような、どこか底意地の悪い笑み』が、ずっと小さな棘のように引っかかっていた。 『この学校に、本当に実力主義なんてものがあるのかしらね〜?』とでも言いたげな、あの大人の目。
「……ほんとにただの楽園なら、誰も苦労しないんだけどな」
俺はもう一度、誰にも聞かれない低い声で呟くと、ペットボトルの緑茶を一口煽った。 そして、深く息を吸い込んでから、今度こそ完璧な『お調子者の相良縁』の仮面を被り直して、クラスメイトたちが待つケヤキモールへと駆け出した。
とりあえず記念すべき第一話は以上です…"(-""-)"
ゆっくりマイペースで更新したいと思います(^^)/