ポイントの計算が面倒くさいです…( ;∀;)
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坂柳有栖が予言めいた口調で告げた『無人島』という言葉は、その翌朝、寸分の狂いもなく現実のものとなった。
「――これより一週間、お前たち一年生にはこの無人島で『特別試験』を行ってもらう!」
午前八時。青い海の上にぽっかりと浮かぶ緑の孤島を前に、船の甲板へと集められた一年生全員に向かって、Aクラス担任の真嶋先生が拡声器を通して厳格な声を響かせた。 半袖・短パンの体操服姿で並んでいた生徒たちの間から、「と、特別試験!?」「バカンスじゃなかったのかよ!?」という悲鳴やどよめきが上がる。
俺はBクラスの列の真ん中あたりで、隣に立つ姫野さんと静かに目配せを交わした。 真嶋先生から説明された無人島サバイバル試験のルールは、要約すると以下のようなものだった。
一つ、各クラスには試験期間中のみ使える『300点のSポイント』が支給される。テントや食料、飲料水、仮設トイレなどの生活物資はすべてこのSポイントを消費して購入しなければならず、残ったSポイントは試験終了後にそのまま『クラスポイント』へと加算される。
二つ、各クラスは必ず一名の『リーダー』を選出し、専用カードキーを持たせなければならない。正当な理由なくリーダーの変更はできない。
三つ、島内に点在する『スポット』をリーダーのカードキーで8時間ごとに占有すれば、1ポイントずつSポイントを獲得できる。
そして四つ――試験最終日に、『他クラスのリーダーの名前を言い当てれば、1クラスにつき50ポイントを獲得でき、言い当てられたクラスは50ポイントを失う(かつスポット占有ボーナスも無効になる)』。
(……なるほどな。ただのサバイバルじゃない。『300ポイントをどれだけ節約して残すか』というリソース管理と、『自分たちのリーダーを隠しながら、他クラスのリーダーをどうやって暴くか』という情報戦・スパイ戦が組み合わさってるわけだ)
俺がルールを頭の中で整理していると、上陸の許可が出た。 俺たち一年Bクラス四十人は、一之瀬と神崎を先頭にして船のタラップを降り、白い砂浜からジャングルの入り口へと足を踏み入れた。
「よし、みんな! まずは日陰がある開けた場所を見つけて、私たちのベースキャンプを決めよう!」
一之瀬が明るい声で号令をかける。他クラス――特にDクラスなんかは、初っぱなから「トイレはどうすんだ!」「日焼け止め買おうぜ!」と男女間で言い争っている声が遠くから聞こえてきたが、うちのBクラスは違った。
「まずリーダーだけど、これは全会一致で一之瀬に任せる形でいいな?」
「うん、ありがとう神崎君! 私が責任を持ってカードキーを預かるね。だから、スポットの占有に行く時は、私ひとりで動くのは危ないから、必ず五、六人のグループで一緒に移動して、誰がカードをかざしたか外から分からないようにカモフラージュしよう!」
ジャングルに入ってすぐの川沿いにある、風通しの良い広場。 そこで開かれた最初のクラス会議で、一之瀬と神崎はテキパキと方針を固めていった。
「それから、300ポイントの使い方だけど……女子のみんなには申し訳ないんだけど、できるだけ無駄な出費は抑えて、最低限のテント二張りと、簡易トイレ、それに必要最低限の飲料水と保存食だけで乗り切りたいんだ。目標は、消費を『50ポイント以内』に抑えて、250ポイント以上をそのまま残すこと! ちょっと不便な一週間になるけど、Aクラスに追いつくために、みんなで協力してくれるかな?」
一之瀬が両手を合わせて呼びかけると、柴田や網倉さんたちが「おう、望むところだぜ!」「一週間くらいのキャンプ、みんなでやれば楽しいわよ!」と頼もしく頷いた。 ただ、俺は輪の外側で腕を組みながら、女子グループの後ろの方にいる白波さんや、潔癖症気味な数人の女子が少しだけ不安そうな顔をしているのをしっかり見ていた。
「はーい、一之瀬さん、ちょっと補足いいかな?」
俺が軽い調子で手を挙げると、一之瀬が「うん、どうしたの相良君?」とこちらを向く。
「消費を50ポイント以内に抑えるの、大賛成! たださ、真夏の無人島で一番怖いのは、女の子たちが体調を崩したり、衛生面でストレスが溜まってリタイア者が出ちゃったりすることなんだよね。だから、さらに10ポイントだけ予算を増やして、女子用のシャワーセットとボディシートだけは最初から買っておかない? その10ポイントの分は、俺と柴田たち男子メンバーが、毎日森で果物や川魚を採ってきて食費を浮かせるからさ!」
俺が柴田の肩をバンと叩いて提案すると、柴田も「お、おう! 魚獲りなら任せろって!」と胸を張った。 すると、さっきまで不安そうだった女子たちの顔がパッと明るくなり、「えっ、シャワー借りられるの!?」「ありがとう相良君、柴田君!」と歓声が上がった。
俺のすぐ隣に立っていた姫野さんも、小声で「……あんた、ほんとに女子の扱いというか、どこにお金をかければ不満が出ないかよく分かってるわね」と感心したように呟いた。
「はは、10ポイントをケチって誰かが熱中症やストレスで倒れたら、30ポイント引かれて大赤字だからね。保険料としては安いもんさ」
こうして、Bクラスは初期消費を『60ポイント』に設定し、極めて順調に無人島生活の初日をスタートさせた。 Aクラスは洞窟を拠点にして徹底的な籠城・秘密主義を敷いているらしく、Dクラスは最初からトイレやシャワーの購入を巡って男女間で激しい口論になり、クラスの統率が取れずにギスギスした空気になっているという。
そして一番不気味だったのが――Cクラスの動向だった。
なんと、Cクラスの独裁者である龍園は、初日のうちに『300ポイントすべてを食料や高級テント、レジャー用品で使い果たし、0ポイントにして豪遊した挙げ句、二日目の朝にはクラスメイトを置いてどこかへ姿を消した』というのだ。
「……おいおい、あの龍園が、何の勝算もなしに300ポイントをドブに捨ててバカンスを楽しむわけがないだろ」
試験三日目の午後。 川辺で水汲みをしながら、俺と姫野さんがそんな不気味な噂について話し合っていた、まさにその時だった。
「――お、おい、みんな大変だ! 茂みの向こうに、Cクラスの奴が倒れてるぞ!!」
見回りに出ていた柴田と別府が、誰かに肩を貸しながら慌てた様子でベースキャンプへと
駆け戻ってきた。 クラス全員がザワつきながら集まる。柴田たちに抱えられるようにしてよろめきながら現れたのは、眼鏡をかけた神経質そうなCクラスの男子生徒――『金田悟』だった。 彼の体操服は泥や草で汚れ、唇は乾ききっていて、いかにも「森の中をさまよって遭難しかけていました」と言わんばかりの悲惨な姿をしていた。
「だ、大丈夫!? ちょっと誰か、お水とタオルを持ってきて!」
一之瀬がすぐに駆け寄り、自分の水筒からコップに水を注いで金田に飲ませてやる。 金田はゴクゴクと喉を鳴らして水を飲み干すと、震える声で一之瀬を見上げた。
「あ、ありがとうございます、一之瀬氏……。助かりました……」
「ううん! それより金田君、どうしてひとりでこんなところにいたの? Cクラスのベースキャンプは向こうの海岸のはずだよね?」
「……追い出されたんです、龍園氏に」
金田は悔しそうに唇を噛み締め、地面に拳をついた。
「彼は、初日に僕たちの反対を押し切って300ポイントを全部使い果たしたんです。それで僕が『こんなやり方じゃ試験に負ける』って抗議したら、石崎君たちに囲まれて……『文句があるならひとりで野垂れ死ね』って、水も食料も渡されずにキャンプから追放されたんです……!」
金田の悲痛な告白に、Bクラスの善良な生徒たちから「ひどすぎる……!」「いくらなんでもあんまりよ!」と同情と憤りの声が上がった。 一之瀬も心を痛めたように眉を寄せ、金田の肩にそっと手を置いた。
「そんな……ひどいよ、龍園君。金田君、もしよかったら、試験が終わるまで私たちのベースキャンプにいなよ! 水も食料も、みんなで少しずつ分け合えば全然足りるから!」
「えっ……で、でも、僕はCクラスの人間ですよ? そんなことしたら、Bクラスのみなさんに迷惑が……」
「いいの! 目の前で困ってる人を見捨てるなんて、私には絶対にできないから!」
一之瀬が太陽のような善意で言い切る。 神崎は少しだけ警戒したように「……一之瀬、気持ちは分かるが、他クラスの生徒をキャンプに入れるのはセキュリティ上危険じゃないか?」と苦言を呈したが、一之瀬は「なら、リーダーのカードキーの管理場所には近づかないようにしてもらえば大丈夫だよ! ね、みんな?」と微笑み、クラスの大半も「そうだよ神崎、見捨てたらあいつが脱水症状でリタイアしちゃうって!」と一之瀬を支持した。
――だが。 その美しい救済劇を、少し離れた木陰からじっと眺めていた俺と姫野さんの二人だけは、まったく同じ瞬間に、まったく同じ結論へと辿り着いていた。
(……真っ赤な嘘だな、あの金田って奴)
俺は腕を組み、金田の足元――体操服のズボンの裾と、履いているスニーカーへと視線を落とした。 隣に立つ姫野さんが、俺の肘をツンと突いて、誰にも聞こえないような極小の声で囁いてくる。
「……ねえ、相良君。あいつ、四月にケヤキモールの裏で、龍園の横で大人しく従ってた眼鏡の子だよね?」
「うん、よく覚えてたね。あの時、龍園が石崎たちを殴って『カメラの死角の実験だ』って言った時、隣で冷静に相槌を打ってた龍園の参謀役――金田だよ」
「でしょ? そんなやつが、今さら龍園に逆らって追い出されるなんておかしいわ。しかも、見てよあいつの靴と爪」
姫野さんの観察眼も、俺とまったく同じ箇所を捉えていた。
「体操服の胸元や顔にはわざとらしく泥がついてるのに、靴底の溝には乾いた砂浜の砂しかついてない。森の中を何時間もさまよった人間の汚れ方じゃない。おまけに、脱水症状寸前だったわりには、唇を舐める仕草に余裕があるし、水を飲んでる最中にチラチラと俺たちのテントの数と、一之瀬さんのポケットの位置を確認してやがった」
間違いない。 龍園は300ポイントを全部使い果たしたのではなく、一部の生徒と結託してポイントを隠し持ち、自分は島に潜伏して徹底的な『他クラスのリーダー狩り』に特化する戦略を取ったのだ。そして、お人好しな一之瀬が絶対に困っている人間を見捨てないことを見越して、腹心の金田を『追放された被害者』に仕立て上げ、Bクラスのリーダーを特定するためのスパイとして送り込んできたのである。
ちなみに噂では、Dクラスにも同じようにCクラスから『伊吹』という女子生徒が「龍園と喧嘩して追い出された」と言って保護されているらしい。龍園の奴、BクラスとDクラスの両方にまったく同じ手口でスパイを送り込んでいたわけだ。
「……どうするの、相良君? 今すぐ一之瀬さんと神崎君に、あいつが龍園のスパイだって教えて追い出す?」
姫野さんが真剣な目で俺を見上げてくる。 俺は数秒間だけ頭をフル回転させ――それから、口元にゆっくりと不敵な笑みを浮かべた。
「いや。ここで『金田はスパイだ!』って騒いで追い出したら、二つのマズいことが起きる」
「二つのマズいこと?」
「ひとつは、せっかく一之瀬さんが善意で助けようとした空気を壊して、Bクラスの中に疑心暗鬼を生んじゃうこと。そしてもうひとつは、金田を追い出したら、龍園が今度はもっと分かりにくい直接的な実力行使、例えば夜襲や盗撮に切り替えてくるってことだ」
俺はテントの陰で大人しく座っている金田の背中を見つめながら、声をさらに潜めた。
「スパイが一番役に立つのは、相手が『スパイだと気づいていないフリをして、偽の情報を持ち帰らせる時』だよ。……ねえ姫野さん、ちょっと神崎だけこっそり呼び出してきてくれない? 一之瀬さんの綺麗な手を汚さずに、あの龍園にマイナス50ポイントの猛毒を食わせてやる最高の罠を思いついたからさ」
俺の言葉に、姫野さんは少しだけゾッとしたように目を丸くし、それから「……あんた、ほんとに敵に回したくないタイプね。わかった、神崎君を呼んでくる」と頼もしく頷いて走り出した。
今更ですけどアニメでやってた山内たちの盗撮事件って普通に犯罪だし停学どころじゃ済みませんよね…(^_^)
せっかく助けてもらったのに自分からこんな行為に手を染めるなんて須藤くんは…( ;∀;)