仲裁屋が行く‼ 実力至上主義の教室へ   作:みがわりの軍隊

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ポイントが出てくると話を書く上で頭が混乱してきます…
こういうのに矛盾なく話を進められるのはすごいと思います(^^♪


野生の生徒会長が現れた!

ケヤキモールのバーガーショップで石崎たちからボロを引き出したあと、俺たちはその場で二手に分かれることにした。 一之瀬と堀北、櫛田の三人は、事件の唯一の目撃者である可能性が高いDクラスの女子生徒――佐倉愛里の部屋を訪ねて説得を試みるチーム。 そして、残った俺と姫野さん、綾小路の三人は、事件現場となった『特別棟の西側階段』を実際に下見し、来週火曜日の審議までにCクラスを完全に詰ませるための『もうひとつの罠』を仕掛けるチームだ。

 

「……ねえ、相良君。なんで私までこっちの現場検証チームに入ってるわけ? 一之瀬さんたちと一緒に女子寮に戻った方が楽だったんだけど」

 

「まあまあ、そう言わないでよ姫野さん。俺ひとりであの無口な綾小路くんと二人きりになったら、気まずくて会話が持たないだろ? 俺の精神安定剤だと思ってさ」

 

「なにそれ、人を便利なクッションみたいに言わないでよね」

 

夕暮れの迫る渡り廊下を歩きながら、姫野さんがジト目で俺を睨む。 俺たちの二歩ほど前を、背中を少し丸めた綾小路が音もなく歩いていた。彼は俺と姫野さんのそんな軽口を聞いているのかいないのか、特別棟の薄暗い階段へと足を踏み入れると、ふと立ち止まって振り返った。

 

「ここが、須藤と石崎たちが揉めた西側の階段だ」

 

綾小路が指差した踊り場を見回し、俺は思わず「へえ……」と感心の声を漏らした。 たしかに、ここはよくできている。普段は使われていない旧視聴覚室のすぐ横で、階段の隅には壊れた机やパイプ椅子がうず高く積まれていた。そして何より、一階の廊下には防犯カメラがあるのに、この階段の踊り場から上には、カメラのレンズがひとつも設置されていないのだ。

 

「……ほんとね。ここなら、大声で怒鳴り合っても外には聞こえにくいし、カメラにも映らない。龍園って奴、よくこんな場所見つけたわね」

 

「たぶん、四月のうちにCクラスの連中を使って、校内のカメラの死角を徹底的に洗い出していたんだろうね」

 

俺は踊り場の壁に歩み寄り、天井の隅をじっと見上げた。 それから、ポケットから自分の端末を取り出し、綾小路の方を向いてニヤリと笑ってみせた。

「で、綾小路くん。さっきモールで俺が『もうひとつの保険を仕掛ける』って言った時、君、『俺が考えていたこととたぶん同じだ』って言ったよね? 答え合わせといこうか」

 

「……ああ。お前が考えているのは、佐倉の目撃証言だけに頼らず、Cクラスの石崎たちに『自分たちの嘘が物理的な証拠によって暴かれる』と錯覚させて、審議の場で自滅させる方法だな?」

 

「ご名答。さすがだねえ」

 

俺がパチパチと手を叩くと、姫野さんが不思議そうに俺と綾小路の顔を交互に見た。

 

「ちょっと、二人だけで納得しないでよ。ここにはカメラがないんでしょ? 物理的な証拠なんて、どこから出すつもりなの?」

 

「いい質問だね、姫野さん。答えは簡単――『今はカメラがないなら、最初からカメラがあったことにすればいい』んだよ」

 

俺が天井の隅を指差すと、綾小路が静かに言葉を継いだ。

 

「ケヤキモールの雑貨屋の防犯グッズコーナーに、本物そっくりの『ダミーカメラ』が二千ポイントほどで売られている。あれをいくつか買い込んで、この階段の死角に今から取り付けておくんだ。そして審議の前日か当日に、学校側――あるいは俺たちから、『特別棟の不正利用を防ぐために、先月から隠しカメラが増設されていた』という情報を流す」

 

「――あっ!」

 

姫野さんがハッとしたように目を見開いた。

 

「なるほど……! 石崎君たちは、四月の時点でここにカメラがないことを確認して犯行に及んだ。でも、もし『実は最近カメラが設置されていて、映像がバッチリ残ってい

る』って聞かされたら……!」

 

「そう! 『ヤバい、俺たちが先に須藤に殴りかかった映像がバレる!』ってパニックになるわけさ。もちろん、ダミーだから実際の映像なんて存在しないんだけど、後ろめたいことがある人間ほど、そういう『証拠があるぞ』っていうハッタリには面白いように引っかかるもんなんだよね」

 

俺が得意げに胸を張ると、姫野さんは「……あんたたち二人、ほんとに性格がねじ曲がってるわね。敵に回したら絶対ろくな目に遭わないタイプだわ」と、呆れ果てたようにため息をついた。 だが、俺はそこで少しだけ表情を引き締め、綾小路の凪いだ瞳をまっすぐに見つめた。

 

「たださ、綾小路くん。ダミーカメラを仕掛けるだけじゃ、あの石崎はともかく、背後にいる『龍園』までは騙せないんじゃないか? もし石崎たちが審議の前に龍園に相談したら、龍園ならすぐにこの場所を再確認しに来て、カメラが後から付けられたダミーだってことを見破るはずだ」

 

「……ああ。そこが一番のネックだ。だから、石崎たちが龍園に相談する暇を与えず、審議の直前――あるいは審議の密室の中で、一気に揺さぶりをかける必要がある」

 

「だよねえ。だったらさ、ダミーカメラに加えて、俺からもうひとつ『相良流のスパイス』を足してもいいかな?」

 

俺が声を潜めてある提案を口にすると、さすがの綾小路もわずかに目を瞬かせ、「……お前、本当にただのお調子者じゃないな。それなら確実に石崎たちの連携を分断できる」と感心したように頷いた。

――だが、俺たちがそんな密談を終え、特別棟の一階階段を降りようとした、まさにその時だった。

 

「――随分と楽しそうな相談をしているようだな、一年生」

 

凛とした、氷柱のように冷たく通るバリトンボイスが、薄暗い一階のホールに響き渡った。 俺と姫野さんの肩が、同時にビクッと跳ねる。 階段の下を見下ろすと、そこには二人の上級生が立っていた。

ひとりは、黒縁の眼鏡をかけた、神経質そうで几帳面そうな短髪の男子生徒。 そして、その前に立っていたのは、整った顔立ちに銀縁の眼鏡をかけ、全身から刃物のような鋭い威圧感を放っている黒髪の美青年だった。その胸元には、一般の生徒とは違う金色のバッジ――『生徒会』の紋章が光っている。

 

(……おいおい、嘘だろ。入学式の時に新入生歓迎の挨拶をしてた、生徒会長の堀北学じゃないか……!?)

 

しかも『堀北』という苗字に、あのDクラスの堀北鈴音と瓜二つの整った目元。間違いなく、彼女の兄だ。 俺の背中を、今日二度目となる冷たい汗がツーッと伝っていく。Cクラスの龍園が『無法地帯の猛獣』だとするなら、目の前にいるこの生徒会長は『絶対的なルールと権力を司る処刑人』のようなオーラを纏っていた。

 

「……生徒会長。それに、書記の橘先輩ですね。こんな時間に特別棟へ何の御用ですか?」

 

俺の隣で、綾小路がいつもの平坦な声で問いかけた。 だが、堀北会長は綾小路を一瞥しただけで、すぐにその鋭い眼鏡の奥の瞳を、俺へと向けた。

 

「来週火曜日に予定されている、CクラスとDクラスの暴力事件の審議だ。生徒会としても、現場となったこの場所を事前に確認しておく必要があってな。……それより、そこはお前たちのような一年生が放課後に立ち入る場所ではないはずだが。Bクラスの相良縁、だったか?」

 

突然、生徒会長の口から自分のフルネームが出てきて、俺の心臓がドクンと大きく跳ねた。 えっ、なんで三年生の生徒会長が、一介の一年生に過ぎない俺の名前を知ってるんだ!? 隣にいる姫野さんも、「ちょっと、あんた何か悪いことでもしたの……?」と青い顔で俺の袖を引っ張ってくる。

俺は内心でパニックになりかけながらも、長年の習性で瞬時に『人畜無害な好青年スマイル』を顔に貼り付け、恭しく一歩前に出て頭を下げた。

 

「わあ、光栄だなあ! まさか生徒会長に名前を覚えてもらえてるなんて、俺、何か目立つようなことしましたっけ?」

 

「惚けるな。四月からの一ヶ月間、一年Bクラスが異常なまでに減点を抑え、中間テストでも平均点を大きく引き上げた。表向きのリーダーは一之瀬帆波と神崎隆二だが、クラス内の不満分子の調整や、テスト前の過去問の入手ルート開拓に動いていたのがお前だということは、生徒会の耳にも入っている」

 

堀北会長の冷徹な言葉に、俺は思わず頬が引きつりそうになるのを必死で堪えた。 俺がサッカー部の二年生の先輩にジュースを奢っておだて上げ、過去問を安く譲ってもらったことまで、生徒会の情報網には筒抜けだったらしい。この学校のトップ、伊達じゃないぞ。

 

「いやあ、買いかぶりすぎですって、会長! 俺はただ、一之瀬さんや神崎の手伝いをしてただけのパシリですよ。今日も、来週の審議でうちのクラスの一之瀬さんが立会人みたいな形で呼ばれるかもしれないって聞いたから、どんな場所なのかなーって見学に来ただけで……」

 

「……ほう。さっき階段の上から、『ダミーカメラ』だの『ハッタリ』だのという単語が聞こえた気がしたが、それも見学の一環か?」

 

ギクリ、と俺の背筋が凍りついた。 聞かれていた。しかも、一番聞かれちゃいけない核心の部分を! もしここで生徒会長に「不正な偽装工作だ」と判断されれば、来週の審議でその作戦が使えなくなるどころか、俺たちBクラスまでペナルティを食らいかねない。

俺の脳みそが、ここ数年で一番のフル回転を始める。 手汗が滲むのをズボンのポケットの中で強く握りしめ、俺はあえて悪びれずに、少しだけいたずらっぽく笑って堀北会長の目をまっすぐに見返した。

 

「――ええ、見学の一環ですよ。ただ、俺が思うに、生徒会長が一番嫌うのは『ルールを悪用して、暴力や嘘で不当にポイントを奪い取る行為』じゃないですか?」

 

「……なに?」

 

「この特別棟の階段には、たまたま監視カメラがありません。それを利用して、誰かが計画的に喧嘩を仕掛けて被害者ヅラをしたとしたら、証拠がない以上、生徒会としても『怪我をしている側』の言い分を通さざるを得なくなりますよね? でも、それじゃああまりにも生徒会の権威が泣くじゃないですか」

 

俺は一歩だけ階段を降り、声を落として言葉を続けた。

 

「だから俺たちは、生徒会長が『公平で正しい裁き』を下すための、ちょっとしたお手伝いをしようかなって話してただけですよ。ダミーカメラを置くことは、校則のどこにも違反してませんよね? もしそれで嘘つきが勝手にボロを出してくれたら、生徒会にとっても願ったり叶ったりじゃないですか。……どうでしょう、この取引?」

 

しんと静まり返った特別棟のホールに、俺の少し上ずった、しかし必死にハッタリを効かせた声が響く。 後ろで姫野さんが息を呑む気配がした。斜め後ろの綾小路も、無言のままじっと堀北会長の反応を窺っている。

堀北会長は、五秒、十秒と、値踏みするような冷たい視線で俺を射抜き続けた。 眼鏡の奥の瞳が、俺の貼り付けた笑顔の裏にある冷や汗をすべて見透かしているようで、俺は今にも胃がキリキリと痛み出しそうだった。

やがて、堀北会長は小さく鼻を鳴らし、眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。

 

「……減らず口だけは一人前だな、一年Bクラスの相良。だが、お前の言う通り、校内の備品を破損しない範囲で何を置こうが、それを直接取り締まる校則はない。……ただ、覚えておけ。もし審議の場で、生徒会を愚弄するような稚拙な茶番を演じれば、Dクラスだけでなくお前たちBクラスもただでは済まさん」

 

「はいっ、肝に銘じておきます! ありがとうございます、生徒会長!」

 

俺が深々と頭を下げると、堀北会長は俺の横を通り過ぎざまに、後ろにいた綾小路へと冷ややかな一瞥を投げた。

 

「……お前もだ、綾小路。鈴音の後ろで何を企んでいるか知らんが、変な真似はするな」

 

「俺はただ、堀北に頼まれてついてきただけですよ」

綾小路が淡々と答えると、堀北会長はそれ以上何も言わず、書記の橘先輩を連れて階段の上へと消えていった。

コツ、コツ、という二人の足音が完全に遠ざかった瞬間。

 

「……っはぁーーーーーっ!! ビビった……!!」

 

俺はその場の手すりに両手をつき、情けなく膝から崩れ落ちそうになった。 心臓がバクバクと肋骨を叩いている。背中のワイシャツは、もう冷や汗でぐっしょりだ。

 

「ちょっと相良君、大丈夫!? あんた、あんな怖い三年生によくあんな口が利けたわね……! 私、隣で聞いてて足がすくんだわよ……!」

 

姫野さんが慌てて駆け寄り、俺の背中をさすってくれる。その手も少しだけ震えていた。

 

「い、いやあ……あのまま黙ってたら、作戦そのものを禁止されるところだったからさ……必死でハッタリかましたけど、寿命が三年は縮まったよ……」

 

「……助かった、相良。今のは、俺が出てもうまく切り抜けられたか分からない。お前が『生徒会の権威を守るため』という大義名分にすり替えたから、あの生徒会長も黙認せざるを得なかったんだ」

 

綾小路が俺の隣に立ち、いつになく真剣な声でそう言った。 俺は姫野さんに肩を借りてなんとか立ち上がりながら、苦笑いを浮かべた。

 

「はは、綾小路くんに貸しひとつ、ってことでいいかな? ……よし、会長のお墨付きももらったことだし、今のうちにモールに行ってダミーカメラを買ってこようぜ。来週の火曜日、あの石崎たちにたっぷり泡を吹かせてやるためにさ!」

 

俺が拳を握ってみせると、姫野さんは「……ほんと、あんたってタフなんだか虚勢なんだか分からないわね」と呆れながらも、小さく頼もしい笑みを返してくれた。

 




数字の書き方はどちらのほうが見やすいんですかね…?
最初は漢数字で統一しようと思ったのですがポイントは普通に数字のほうが見やすいと思ったので変えときました(^_^)
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