コノカ副局長に故人となった幼馴染がいたら 作:YES BOSS!!
ヴァルキューレには他の人の目を一際引く目立った人が居る
「おはございまーす」
それがこの人、コノカ副局長
私たちのいるヴァルキューレ公安局の副局長を務めてる人であり、相当な実力者です。昇格と降格の回数が一番多いとかいう話を聞きましたが、本当かは分かりません
アロハシャツを着て、飄々とした性格で気分屋であり放埓
いつもオフィスの隅で筋トレして、事務仕事はサボりがちで、体育会系でパワハラ気質もあって、オカルトとかジンクスで一喜一憂して、本当に警察学校の副局長かを疑いたくなるかのような人
あのカンナ局長にですら『フィジカルや体力では勝てないし敵わない』
そう言わせられる人物であり、それがコノカ副局長という人だった
...そう、
今のコノカ副局長はもう違います
いえ、正確に言えば言動は然程変わってないように見えますが...それでも私たちからは一目見ただけでもすぐに気が付けるほどの変化です
「この書類全部やっといたから確認しといて、あたしはちょっと外回り行ってくるから。まーた不良共が騒いでるって苦情が何故かここに入って来たからな~..あたしらに言うなっつの」
「あ、それと...あー..あと一時間ぐらいしたら多分注文した砥石が届くから受け取っといて。これハンコ、適当にあたしのデスクの上にでも置いとけばいいから」
副局長のシンボルともいえるアロハシャツ、ここ最近は着ているところを見たことがありません。今はもう白のシャツと黒のネクタイでその上にいつもの上着を羽織って、下もスパッツと黒のタイツを履くようになりました
簡潔に言えば...どうでしょう
肌を見せる面積が減っていると言えば伝わりますか?
今でもジョークや冗談は言いますが、前までとは極端に落ち着いてます。オカルトやジンクス、占いですら気にする素振りはあれど、殆ど触れなくなってしまいました
「ねえ...コノカ先輩、また隈が増えてたよ..」
「大丈夫なのかな...?」
心配する声しか上がりません
そりゃそうです。唐突に水泳200往復とか言い出していた人のあそこまでの変化は誰でも心配してしまいます。カンナ局長も心配して声を何度もかけていましたし、休みを与えることも増えてます
あの人がここまで変わってしまったのはあの日からです
12月24日、クリスマスイブのあの日に起こった、私たち...いえ、副局長にとっての最悪の事件
コノカ副局長の幼馴染が死んでしまった日
その日から、あの人は変わってしまいました
私は現場に居た訳では無いので詳しい事はわかりませんし、本人に聞く勇気もありません。ですがかなり大きな事件でしたし、クロノスに報道されるレベルの騒ぎにはなっていました
誰かが話していたのを聞いた情報によれば
副局長の幼馴染がブラックマーケットでもかなりの規模を誇る違法製薬会社のPMCに誘拐され、その救出に向かった際にどうやら主犯が自爆、研究所のように入り組んだ建物ごと爆発していって
....副局長を突き飛ばして、幼馴染さんは落ちてきた縦長のガラス窓によって両足がギロチン状態になり、出血と炎と煙の中で苦しんで死んでいった...なんて聞きました
副局長も化学薬品の成分を含んだ灰と煙を長時間全身に浴びてしまったせいで髪の毛は白銀から完全な白髪に、治療を終えた今でも肌は白く変色して肌色の部分はほとんど残ってません
そして、副局長の左目
煙と火傷の影響で左目の視力は極端に低下、目の周りも火傷によって赤みのある傷が残っており、紐眼帯を付けてます。光も無くなってしまって、生気を感じません。ここまで聞けば、以前との変わり様を理解してくれましたでしょうか
「おーい、聞こえてたら返事くらいしろっての」
「あっ..は、はい!分かりました!」
「ん、じゃあ行ってくるから姉御にも言っといて。しくよろ~」
扉を閉めて行ってしまった
残された私たち、誰も口を開かない
書類を確認してみる。以前の副局長なら局長の目が無い限り確実に半分もいかずに放り出して私たちに押し付けてくるレベルの量なのに、サインや返事の記入まで一言一句完璧に仕上がってる
局長は三徹目で寝落ちしてた所を防衛室からの呼び出しで駆け出して行ったから、もうしばらくは戻ってこないと思う。局長も局長で胃薬の量増えてたけど大丈夫か心配になる
「コノカ先輩大丈夫かな..」
「大丈夫じゃないでしょ..私なら確実に再起不能になるよ..」
「...仕事は前まで以上にちゃんとするようになったよね」
「これ全部副局長がやったんでしょ?...なんて言うべきなのかなぁ...あまりにも触れ辛いから、なんていうか素直に『こう!』って言えないんだよね..」
「前までだったら確実に筋トレか抜け出して昼寝してたし」
「た、確かに...やってたね」
少しだけ笑いが起きて、またすぐに消えて静かになる
外から聞こえてくるヘリコプターの音がやけに大きく聞こえてくる
...先日の連邦生徒会長失踪で世間は大騒ぎ、私たちヴァルキューレも混乱に生じて脱走した囚人たちの捜索と後始末で大忙し、そして先生?って呼ばれてる大人が新しくシャーレとか..まあ良く分からないけど凄そうな人が来て余計に困惑
私たちは休む暇を与えられてもらえてるけど、お二人はそうもいかない
「...あ」
副局長のデスクの横を通り過ぎる
以前までは散らかってた机の上も、きれいサッパリ片付いてる。パソコンのモニターの横には写真立がぽつんと置いてあり、ちゃんと写真も入ってる
「......」
笑顔の副局長、そこ横に映ってる笑顔の女の子
この人が誰かなんて考えなくても分かる。写真の中の副局長は今よりも背が小さくて可愛らしかった、そして何より幸せそうだった
まだ何も失ってない、普通の心からの笑顔
「....あーだめ、私そういうのに弱いから..」
「はいはい、早く手伝って~」
「変に同情したり気を遣わせたら逆にしんどいでしょ、局長でもなんでもない私たちは普通に接してあげるのが一番だよ。その方が先輩も少しは楽だと思うし」
「今度ラーメン一緒に食べに行かさせてもらおうかな」
「あ、私も行きたい」
「自動的にニンニクと野菜マシマシになるけど大丈夫?」
スマホが震える、副局長からだ
「は、はい!どうしましたか?」
「あー聞こえる~?ちょっとさあ、チンピラたちの量が想像よりも多くてめんどいからそっちから2~3人くらい手伝いに来てほしいー、場所は送るわ」
「承知しました!すぐに向かいますので、その、お怪我とかは大丈夫ですか!?」
「怪我ぁ?あたしのこと誰だと思ってんだ!数多いだけで一人一人は射撃場の的より弱っちいからへーきだっつうの!怪我の心配はいらねーから早く来いよ~!」
「わ、分かりました!」
12月24日の悲劇
あの日に何があったのか、私たちは全部を知らない
たぶん、これからも全部を知ることはない
それでも、今の私たちにできることは多分そんなに難しいことじゃない。あの人が無事に戻ってきたときに、あの人がちゃんと仕事をし終えたときに
いつも通り「お疲れ様です」と言うこと
いつも通りに接すること。それだけでいい
今後どうなるかは分からないけれど、少なくとも今はそれでいい
「オ"ェ"....げほっ"..!!」
そう思っていたけれど、現実は上手く行かなかった
数日後の夜、忘れ物を取って公安局のオフィスから出ようとしたときにトイレの方から聞こえてきた
「ふ、副局長...?」
「っ...!?」
吐いてた
トイレの便器の中に、それはもう派手に
「...あ、いや~..ちょっと食べ過ぎてさぁ?」
「腹八分どころか腹十一分まで食ったせいで限界超えたわ笑」
私の声に反応して、振り返るとすぐにケロッとした表情に戻った
「え...た、食べ過ぎ...じゃないですよね..?」
「まー...さすがにこの言い訳は無理があるか」
「...はいはい、吐いてましたよーだ。なんか文句あるか~?いいだろ別に、あたしだっていやなこと思い出して吐くことの一回や二回あるっての!」
「じゃ、このことは見なかったことに....」
「っ...」
「できなさそうだなぁ...ハァー..めんど」
取り敢えずハンカチを貸して、口の周りを拭いてもらう
きっと見られたくなかった光景、わたしが忘れ物なんてしていなかったら見られることのなかった光景のはずだったのに、私が忘れ物をしたばっかりに
「す、すみませんでした..」
「謝んなって、なんかこっちが申し訳ないじゃん」
「このこと、皆に内緒な。姉御は....まあ姉御には前バレたからいいか」
「分かりました...」
「お、やっぱ持つべき者は話の分かる部下だわ。助かる」
私は何も言わなかった
何を言えばいいのか分からなかったからだ
大丈夫ですか?とか、無理しないでくださいよとか、休んでください
そんな言葉を掛けたところで、たぶん今の副局長には何の意味もない
「あ、言っとくけど毎日こうなってるわけじゃないからな?」
「...そ、そうですか..」
「お前あたしのこと信じてないだろ」
「....ちょっと...というか、心配です」
「いいのいいの、あたしのことは気にすんなって!明日も明後日も、いつも通りに接してくりゃ良いんだって、あたしが『おはよ~』って言ったら、お前らが『おはようございまーす』って返してくれればそれで良い」
「.....変に気を使われると、逆にしんどいから」
「...分かりました」
「ん、分かったらさっさと部屋戻るぞ」
「心配させて悪かったな」
せめて私たちは、その「いつも通り」を壊さないようにしよう
ただ、そこにいるいつもの先輩として
今日も明日もいつも通りに
「...」
でも、今日トイレで一人になっていた副局長の姿を私はたぶん、忘れられない。忘れてはいけない気がした。あの人が笑っているからといって、もう傷ついていないわけじゃない
ただ傷ついたままでもあの人は、ここに来ている
それだけなのだ