「……ここ、どこだろう……」
ちょっと散歩するだけのつもりだったのだが、すっかり迷ってしまった。
あたりはすっかり暗くなっている。
石を蹴りながら道なき道を歩く。
思い出すのは、さっきのロウガとツキネさんのこと。
「……すごく、楽しそうだったな」
それまで一緒にやってきた友達が、新しくもっと趣味が合う友達を見つけ、段々自分と疎遠になっていく感じ。それは既に知っていた。
自分の存在が、相手の世界でどんどん薄くなっていくのを傍で見ているしかできない私。
向こうの世界でも、ここでも、それは変わらなかったみたいだ。
「ま、そりゃあそうか」
知っていた。
私の価値は高くない。
相手にすごい価値を提供できるわけじゃない。面白い話ができるわけでも、なにか特別な特技があるわけでもない。
そんな、透明で無価値な存在。
それが私だった。何事もほどほどで済ましてきた。リスクを恐れて挑戦はやめてきた。
目もあてられない失敗がないから、誰も笑わせられない。
目がくらむような成功がないから、誰にも尊敬されない。
ただただ、そこに居ることを続けてきた、ぬるい空気みたいな人生。
自分しか、ここに自分がいることを知らない。
周りに無限に続く森。誰も隣にいない。自分の足跡が規則的に響く。
この状況は、まさにその証明のようだった。
「笑える」
ぽつりとつぶやく。
ヒヒイロカネを倒した時の怒りだってそうだ。
あんなの、ぶっちゃけただの八つ当たり。
……ロウガを失ったから怒っていたと思いたかったけど、実際はただ、思い通りにならない現実が嫌で嫌で仕方なかっただけ。
友情なんて、それっぽいこと言ってただけで、本当に欲しかったのは孤独にならないこと。
――“友人役”を失いたくなかっただけだ。
「っ……」
目から涙がこぼれる。
どうして私ってこうなんだろう。
独りが嫌なくせに、誰かと一緒に居られる才能がない。
それは誰のせいでもない、私がいつの間にか選んでいた生き方だ。
私が私に執着できないのに。誰かが私に執着してくれるわけがない。
「ロウガの悩みも、好きなことも、嫌いなことも。私は知ろうともしなかった」
きっとロウガは私に合わせてくれていただけ。
どれだけ良く見積もっても、せいぜい命の恩人への忠義を果たしてくれてるだけだ。
それを私は、状況に合わせてできた協力関係を友人関係に都合よくすり替えて。
ああ、気付きたくなかった。
でも、もうわかってしまった。
私はただ、孤独感をごまかすために利用していただけだ。
友人がどこかに行ったわけじゃない。初めから私の中で友人じゃなかった。
その役目を果たしてくれなくなったから怒っていたのだ。
「私、最低だ……!」
わがままな自分に腹が立って、思いっきり石を蹴り飛ばした。
まあ、こういう時の石は、大抵当たる。当たっちゃいけないものに。
それは例えばヤのつく人の高級車だったり、酔っぱらいの後頭部だったり……
「あ……あっ」
……気持ちよく寝ていたハニーベアだったりする。
「ひいいいい!ごめんなさああああああい!!!!」
全力で逃げ出す。
弓矢は動きながらでも当てられはするだろうが、急所を狙えるわけでもなし、一撃で倒せるとは思えない。どう考えても当たった♪って思った次の瞬間に食べられちゃった♪になるだろう。
「そんなのやだあああああ!!!」
家に逃げ込めばいいのかもしれないが、こんな状態で落ち着いてドアを開けられる気がしない。ちょっとでもまごついたらお持ち帰り(物理)されてしまう。
逃げ足はだいぶ鍛えられていたけど、それでもずっとは逃げられない。
と、そんなことを思った次の瞬間、木の根に足を取られてすっ転んだ。
「ひうっ!」
急いで立とうとするが、足に力が入らない。
背中を向けたままだとまずい。尻餅をついたままなんとか向き直る。
ハニーベアと視線が合うと、速度を緩めて一歩一歩ゆっくりと近づいてきた。
「や、やだ……!やだ……!」
一歩。
死にたくない。
独りを自覚したまま死にたくない。
こんな死に方はあんまりだ。
でもじゃあ誰が助けに来てくれる?私が私を助けようと思わなかったのに、誰が。
「あ……」
一歩。
冷めていく。
ヒヒイロカネの時は独りじゃなかった、少なくとも私は独りだと思ってなかった。
でも今は独り。
じゃあ別にいいんじゃないか――
「……!!!」
一歩。
わからない。わからない。わからない。
死にたくない、死んでもいい。
独りは嫌だ、独りは仕方ない。
誰か助けて、誰もこない――
それでも目を開けたまま。
祈る先はないから。
しっかり受け入れようと思った。
ハニーベアがうなりをあげる。
大きな爪を振りかぶる。
もう次の瞬間には振り下ろされるだろう。
私はもう死ぬ。
これは死ぬ前に許された一瞬。
でももし。
もし助かったなら、今度こそ、ロウガと、ちゃんと友達になりたい――
「――」
何かが肉を切り裂く音を聞いた。