響く悲鳴。
その声はスズメではなく、ハニーベアのものだ。
「スズメ!無事か!?」
「あ――」
ロウガの剣が閃くたび、ハニーベアが後ずさっていく。
血を流し、退却の姿勢を見せたその背中に、ロウガは容赦なく剣を振るった。
さっきまで追い詰められていた私が、つい気の毒になるくらいハニーベアが滅多打ちにされていく。
「死ね!死ね!!!私の物に手を出すクズ!!!!」
驚いてロウガを見る。
物凄く怒ってるみたいだ。
私のために怒ってくれている……のだろうか。
しかしその瞳は、どこかで見たような……。
ハニーベアが動かなくなった後も、馬乗りになって剣を振るおうとするロウガをツキネさんが止める。
「や、や、やめてください!も、も、も、もう死んでます……!」
「……!は……!は……あ……」
我に返ったかのように、よろよろと立ちあがるロウガ。
返り血で真っ赤に染まった顔。私の方を見て、にっこりと笑ってこう言った。
「スズメ。どこにも傷はないか?」
ぞくりとする。
普通に心配してくれているだけ。それだけのはずだ。
でも、なんだか、商品価値が下がっていないかを確かめられている家畜のような。
そんな気分になる。そんなわけないのに。
辛うじて頷くので精いっぱいだった。
「うん。」
「そうか、よかった。スズメの叫び声が聴こえてな。急いでやってきたんだ。」
「そうなんだ。ありがとうロウガ。ツキネさんも。」
「い、い、いえ!て、手前はただ、ついてきただけで」
「そうだぞスズメ。お前を助けたのは私だ。感謝するなら私だけでいい」
むっとした様子で吐き捨てるように言うロウガ。
普段の――いや。私が知っているロウガではないが、これも彼女の一面なのかもしれない。
そういうところも知っていこうと決断したばかりではないか。
「あ、えーと、でも……」
「い、い、いいんです!て、手前は何もできませんでしたし」
「そうだ。構うな。さあ、行こう」
血濡れた手を差し出される。
少しためらったが、その手を握って立ち上がった。
ハニーベアを解体したいところだったが、ツキネさんのいる前で家を使うわけにもいかない。
いつものように向こうが襲ってきたなら別だが、今回は私が悪いと思うし、埋葬していくことにした。
その旨をロウガたちに伝えると、ツキネさんは多少驚いたようだったが賛成してくれた。
だが……
「断る。そんな無駄なことをする時間も手間も惜しい」
「で、でも……さっきも言ったけど今回は私が悪いし、このままにしていくのはなんとなく寝覚めが悪いよ」
「ふん……スズメは随分とお人好しなんだな。そういうのは自分で自分の身を護れるようになってから言うべきだと思うが?」
「な……!」
思った以上に辛辣な言葉。
私は向こうの世界でも他人とは距離を置いてきたせいで、こんなふうに自分を否定されることに慣れていなかった。
特に、それが、これから友人関係を築いていこうとしている相手から、なんてことは。
つい口調が強くなる。
「私だって、ロウガには幻滅したよ!そりゃ、私のことを守ろうとしてくれたことには感謝してる。でも、いくらなんでもそんな言い方はないじゃない!大体、そもそもこんなことになったのはロウガが――」
「私がなんだ?そいつは私のスズメを傷ものにしようとした奴だ。無事だったからよかったものの、もし傷一つでもつけていたらこんなものでは済まさん」
「ま、ま、ま、まあ、まあ。」
何となく会話がかみ合わない私とロウガ、それをなんとか仲裁しようとするツキネさん。
本当の友達になろうとした矢先、いきなり喧嘩になってしまった。
お互い不機嫌な顔でツキネさんの方を向く。
「そ、そ、その、ですね。こ、このままにしておくと、他のモンスターが寄ってきて、よ、よ、余計危険が増すかと……」
「……ふん。まあ、確かに」
「だからさっさと埋めちゃえばよかったんじゃない」
「黙れ!」
「黙らない」
「スズメ!!お前は私の物なんだから言うことを聞け!!!!!!」
「私はあなたの物じゃない!!!」
売り言葉に買い言葉という風にそう言い返すと、ロウガはなぜかハッとした顔をした。
顔を背け、小さく、すまない、と言ったきり、黙り込んでしまう。
殆ど初めての口喧嘩。他人とするそれに慣れない私はただオウム返しをしただけだ。
どうしてそれで謝るのだろう。……それじゃまるで、本当に――。
そんな考えを打ち消す。
ちがう。ロウガはきっと、大人だから子供じみた喧嘩を自分からやめてくれただけだ。
なんとなく気まずい時間が流れる中、ツキネさんは、せっせと穴を掘り始めた。
私とロウガもぎこちなく手伝い始める。
結局、作業が終わり、既に設営したというたき火の場所に戻るまで、ロウガは一度も目を合わせてはくれなかった。