「……それで?」
誰も口を開けないような重い沈黙を破ったのは、クロキバだった。
私の家の中。
リビングには丸テーブルと、それぞれの席には私、クロキバ、コゲツが座っていた。
クロキバの奥さんと影たちは、いったんベッドで休んでもらっている。怪我もあったし。
……あの後。
意気消沈したコゲツを立たせ、一旦クロキバたちと合流した。
その場で今にも襲い掛かりそうだったクロキバを必死で押しとどめ、改めてロウガを助ける話し合いがしたいという私の提案を半ば無理矢理通したのだ。
その結果がこの地獄のような空間であった。
「とりあえず殺す前にてめぇの言い分を聞いてやる」
「手前にいえることは何もない。殺したいなら殺せばいい」
「上等だこの……!」
「ま、待って待ってストップ!!!」
なんとか制止する。
……流石に話し合いできる感じじゃなかったか、という後悔はもう遅い。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
でも、そんなことは覚悟していた。
「クロキバさん、コゲツくん。お願いだからまず私の話を聞いてください」
「……なぜ手前だけくんづけなのだ」
「そりゃてめえが俺や嬢ちゃんより格下だからだろうが」
「ふん」
「文句あんなら表出な」
「どうでもいい。殴りたいなら殴れ」
「……よーしわかった。キツイのいくからな……」
「やめてってば!!!」
大きな声を出す。
外の時間が止まっているとはいえ、こんなことをしている暇はない。
「次喧嘩しようとしたら、助けた後でロウガにチクるから」
「な……」
「ぬう……」
二人とも黙ってしまった。
暫くはこれで大人しくしてくれそうだ。
「……いい?じゃあまず、最初、一番大事なこと話すね。みんな、ロウガを助けたいって思ってるからこうして話に来てくれたんだと思っていいよね」
「……手前には……」
「方法や手段や可能性の話をしてるんじゃないの。ロウガを――私の友達を助けたいって思ってるか聞いてるの」
二人は頷いた。
よしよし、ここまではいい。
意思の統一は大事だ。
次は、肝心の方法。まあ正直言って私には欠片も見当つかないから、この二人頼みなんだけど。
「けどなあ……助けるって言ってもアイツは病気じゃねえんだろう?」
「毒や呪いでもないと言っていたな」
「うん。こればっかりは私と、ロウガを信じてもらうしかないけど。毒と病気はともかく、呪いに関しては推測にすぎないから……」
むう、と難しい表情で返事をするクロキバ。
それはそうだ。
娘のことを、根拠のない推測で進めるのは躊躇われるのだろう。
毒が回復するのはあの毒キノコの一件で証明されている。
病気に関しては、調査中に熱っぽくなったり具合が悪くなったりしてもベッドで休めば回復したことから確度の高い推測だろう。
しかし、呪いに関しては――
「いや、呪いに関しても信頼性は高いだろう。」
思わぬ助け舟。
そちらの方を見やる。
「影にかけさせていた不幸の呪いが解除されているからな。まず間違いない」
「えっ」
今この人涼しい顔で私を呪ったって言いましたかね。
唐突に協力関係を結ばないほうがよかった気がしてきた。
私の熱烈な視線に気付かないようにコゲツは言葉をつづける。
「だとすれば、あれは……体質ということになるのか」
では、手前はとんだ道化だったな、とコゲツは自嘲した。
気持ちはわかる。
あの薬瓶が毒だったにしろ万能薬だったにしろ、結局その方法ではロウガを救えなかったのだから。
「……代われるもんなら代わってやりてえ」
クロキバも下を向いてしまった。
沈黙が流れる。
やはり、無理なのか……と思いかけたその時。
「一つだけ……手があるかもしれない」
コゲツがそう言った。