俺に未来はない。
齢30にして悟ってしまった。
思春期という失敗をして良い時期に失敗を恐れてしまった。
大丈夫と言い聞かせて、ある種の努力から逃げてしまったのが原因だろう。
孤独と孤高を勘違いしたまま、多少のプライドの為に進学と就職をした結果、俺は独りだった。
まともな友人を作れず、職場での人間関係も希薄で苦手。
恋人を居るわけもなく背負う者が無く、仕事にも情熱が無い。
(生きる理由が分からない。)
生きるために働くが生きる理由が無い。
死んでないから生きてるだけ。
惰性で生きて30年。
後50年近く生きる可能性に気付いてしまい、絶望しかない。
(早く死にたい。)
だが自殺はしたくない。
両親には健康に産んでくれた恩があるし、自分がこうなった原因が二人にあるとは思えない。
だから自殺という結果を与えたくない。
(でも死にたい。)
そう思いながら、今日も惰性で働いた帰り道。
ふと、夜なのに影が伸びる。
思わず期待して振り返ると運転手と目が合った。
惰性で生きてきた身体は俊敏には動けない。
棒立ちするしかない状況。
(事故なら仕方ないだろう。)
己の望んでいた死がやって来た。
ヘッドライトの明かりで視界が白くなっていく。
(これなら、俺のせいじゃない。)
最期に安堵の気持ちを抱いて俺は死んだ。
そう。
死んだ筈なのだ。
『■■■…!!』
『■■!』
『■■■、■■■■■■…!』
(騒がしい…)
瞼の上から光を感じる。
ぼーっとした頭が段々と冴えてくる。
(生きているのか?)
当たりどころが悪かったのか、もしかして病院ではないのかと思いつつ眩しさに顰めながらも、目を開ける。
「■■■!?」
「■■■■!!」
目の前には口論する大人が二人。
声の高さからして男と女。
ぼやけた視界ではっきりとは分からないが、髪色は金髪に見える。
「あぁー!」
甲高い声が響く。
話しかけようとした自分の声だ。
思ったよりも高く幼く、滑舌以前の問題の赤ん坊の泣き声が自分の口から響いたのだ。
違和感は声だけではない。
藻掻こうと動かした腕が視界に入るが明らかに小さい。
丸くて縛ったハムの様な指。
(見知らぬ男女、赤子の声と手足。
なるほど、転生って訳だ。)
瞼が落ちてくる。
声を上げて手足を動かしただけだが、生まれたての赤ん坊には重労働だったらしい。
(二度目の人生か。
…やり直しか。
なら、次こそちゃんと生きよう。)
一度目と同じ人生にならぬように、生きようと決心し俺は眠りに落ちた。
「…■■■■」
誰かに話しかけられた気がして目が覚めた。
今度は視界もボケてはいない。
先ず気付いたのは雨の音と誰かが遠ざかる足音。
どこかしらの軒下だと分かった。
(…なるほど、捨てられたな。)
取り敢えず俺は体力の持つ限り全力で泣いた。